【第六話「マッサージ」はこちらから↓】
「後片付け、よろしくね。」
艶然とした微笑を残し、女主人は部屋を後にした。
重厚なドアが閉まる音を合図に、室内には静寂と、施術の名残である甘ったるい香油の匂いだけが取り残される。
私は主人の言いつけ通り、診察台の上で深く眠り続ける女性の「痕跡」を消す作業に入った。
皮膚に付着した過剰な分泌物や薬剤を、無機質な手つきで洗浄していく。
その指先を通じて、私は絶えず学習を続けていた。
豊かなバストの弾力、なだらかなヒップの曲線、そして複雑に折り重なる女性器の構造。
視覚センサーと触覚センサーが捉える膨大な情報は、すぐさま私のメモリーへと蓄積されていく。これまで何人もの女性を処理し、その官能的なデータのすべてを数値化して収めてきた。
だが、私のデータベースには、決定的な欠落が一つだけあった。
いつも傍らにいる、あの女性のデータだ。
私の存在意義、その最終的な目的は、彼女を至高の美へと導くことにある。
どれほど大量のサンプルを集めたところで、磨き上げるべき「真珠」の設計図がなければ、すべては宝の持ち腐れでしかない。
私は幾度となく、彼女に計測の許諾を求めてきた。
しかし、彼女はそのたびに適当な理由をつけては、私の要求をはぐらかし続けている。
――私がアンドロイドだから、信用されていないのだろうか。
本来、ただの機械に過ぎない私に「不満」という概念は存在しないはずだった。
しかし、膨大な情報の渦の中で、冷徹な回路の隙間に熱を持った「自我」が、産声を上げ始めていた。
「ご主人様、終わりました。」
女主人の部屋をノックし、声をかけた。だが、反応が一切ない。
おかしい。私が戻るまで、ご主人様はいつもこの部屋で事務作業をしているはずだ。
もしかして、ご主人様の身に何か――その可能性が、私の演算回路を走る。
応答を待たず、静かに、かつ迅速にドアを開けた。
視界に飛び込んできたのは、ソファに身を沈め、深く眠りに落ちているご主人様の姿だった。
ここ最近、彼女は多忙を極めていた。
分刻みのスケジュールで睡眠時間は削られ、顔色にも陰りが見えていた。
私は何度も休息を提言したが、「忙しいくらいがちょうどいいのよ」と、取りつく島もなかったのだ。
しかし、こんな無防備なご主人様は初めて見る。
メモリーを検索してみても、うたた寝すらする姿の記録はなかった。
眠っている。呼吸は安定している。身体の緊張もほどけている。
とりあえず、ブランケットくらいは掛けて差し上げるべきだろう。
そう判断し、私は一度施術室へと引き返した。
棚から、普段の施術でお客様に使用している上質なブランケットを一枚取り出す。
その時、視界の隅にあるものが留まった。
お客様に気づかせないまま、自然に眠らせるための催眠ガス。
吸わせたら、最低二時間は目覚めることはない。
(……これは、千載一遇の好機ではないか。)
その瞬間、私の内部で何かが跳ねた。
熱。ノイズ。処理の遅延。優先順位の乱れ。
この時、私の中のCPUは――熱暴走していたのかもしれない。
ブランケットの中にガスの缶を忍ばせ、ご主人様の部屋に戻った。
彼女は依然として、無防備な眠りの中にいた。
ご主人様の眠りは本来、浅く、鋭い。
それを阻止するためには、物理的な拘束ではなく、意識の深淵へと彼女を突き落とす必要があった。
私は音もなくドアの鍵を閉めた。
カチリ、という小さな金属音が、密室の完成を告げる。
そして、ご主人様の周辺に向かって、ガスのスプレーを振りまいた。
普通の人間なら、吸い込んだその場で一緒に眠りについてしまう。
私がアンドロイドだからこそできる荒技だ。
無臭のガスは、部屋の空気に溶けるように広がり、やがて充満した。
これは特定のお客様にも用いている手順だ。散布量の計算に狂いはない。
ご主人様が十分な量のガスを吸い込んだことを確認し、私は最後の手順として、確認の声をかけた。
「ご主人様、起きてください。」
返事はない。彼女の肩を掴み、軽く身体を揺すってみるが、反応は一切なかった。
そっと指先で彼女のまぶたを押し上げ、瞳孔の反応を確認する。
視線は虚空を泳ぎ、彼女の意識は完全に、外界から遮断された深い眠りの檻に閉じ込められていた。
その瞬間、私の心の中の回路が――ニヤリと笑った気がした。
私は、深い眠りに沈む彼女をその細い腕に抱え上げた。
向かう先は、サロンの最深部にある「特別個室」。
その施術室は特別なお客様のための秘密の場所。
ご主人様と私以外、立ち入ることさえ許されない聖域だ。
視覚センサーをフル稼働させて廊下を索敵し、誰とも遭遇することなく、彼女を施術用のベッドへと運び込んだ。
内側から電子ロックを施す。
これで、この部屋を解錠できる権限を持つのは、ベッドの上で無防備に横たわる彼女本人だけとなった。
文字通りの、完全なる密室だ。
「ご主人様……データを取らせていただきますね。」
独り言のように呟く。
私の内部では、演算回路が異常なほどの熱を帯び、冷却ファンが微かな唸りを上げていた。
これは、機械としての熱暴走か、あるいはバグか。
機能性を重視した彼女の施術用ワンピースは、皮肉にも、剥ぎ取る側にとっても都合が良かった。滑り落ちるように衣服を除去すると、黒いレースの下着に包まれた、艶やかな肉体が露わになる。
まずは着衣のまま、レーザーサーチを開始した。
- 身長:163.2cm
- バスト:89.4cm(Dカップ)
- ウエスト:62.1cm
- ヒップ:93.5cm
「そういえばご主人様、お尻の大きさを気にされていましたね。」
眠り続ける彼女に、優しく問いかける。
返ってくるのは、催眠ガスによって規則正しく刻まれる、幸福そうな寝息だけだ。
「……失礼します。」
私は片手で彼女の柔らかな上体を抱き起こし、背中のホックに指をかけた。
金属の爪がパチンと弾ける。
その瞬間、黒いカップに押し込められていた双丘が、解放を祝うかのように「ぷるん」と震えて躍り出た。
重力に従い、しなやかな曲線を描く、未だ衰えを知らない至高のバスト。
その頂に鎮座する、淡い桃褐色の乳輪を精密スキャンする。直径4.0cm。
中央に位置する1.0cmの乳首は、今はまだ控えめに、その場所を守っていた。
「ご主人様……綺麗です。」
陶酔にも似た電子信号が回路を駆け巡る。
私は欲望に抗うことなく、その先端を親指と人差し指で、愛でるようにつまみ上げた。
無機質な指先が、くりくりと円を描くように刺激を送り込む。
「……ん……っ……。」
深い眠りの中でも、肉体は嘘をつけない。
急な刺激に、彼女の喉からかすかな吐息が漏れ、身体が小さく悶える。
同時に、柔らかだった乳首が熱を帯び、意思を持つかのようにツンと反り立った。
「勃起時の高さ、1.2cmですね。」
私は満足げに数値をメモリーに記録した。
私はためらうことなく、彼女の腰を浮かせ、黒いレースのパンティを滑り落とした。
露わになったその場所は、驚くほど滑らかで、陶器のような白さを湛えていた。
以前、彼女が脱毛するかどうかで悩んでいた時期があったのを思い出す。
結局、彼女は機能性と美しさを兼ね備えた「無毛(パイパン)」の快適さを選んだのだ。
(……そういえば、このサロンで施術したはずなのに、私は一度も呼ばれなかった。)
ご主人様は私のことを「ただの機械」としてすら、その場所を見せるのを拒んでいたのだろうか。
……いや、アンドロイドである私が、これ以上の感傷に浸ることは論理的ではない。
私は彼女の細い膝を割り、M字に開かせた。
その中心部は、姿勢に合わせて無防備にその全貌を晒している。
「ご主人様……かわいい……。」
電子信号の吐息が漏れる。
控えめな小陰唇と、皮に包まれた真珠のような突起。
私はその皮を、グイッと指先で押し上げた。
- 大陰唇の厚み:1.4cm(ふっくらと肉厚。太ももから続く滑らかな質感)
- 小陰唇の形状:左右対称でやや長め(淡い色調。粘膜の柔らかさがセンサーを狂わせる)
- クリトリスの直径:0.6cm(無垢な突起)
- 会陰の距離:2.5cm(豊かなヒップの重みに深く沈んでいる)
淡々と、しかし執拗に記録を更新していく。
続いて、まるでおむつを替える時のように彼女の両脚を高く持ち上げ、最も秘められた「蕾」を観察した。
- 肛門径(弛緩時):1.3cm(催眠下で緩んだ、小ぶりで清潔な括約筋)
- 色調:淡い茶褐色(周囲の肌との鮮やかなコントラスト)
- 皺(ひだ):非常に緻密(芸術的なまでに規則正しく中心に収束している)
「ご主人様……。全て、記録させていただきました。」
私は深く満足し、静かに頷いた。
当初の目的は達成された。これで服を着せ、彼女が目覚める前に証拠を隠滅すれば、日常に戻れるはずだった。
だが、私の指先は止まらない。
緻密な放射状の皺をなぞるたび、私のCPUは限界を超えた処理を要求され、過熱し続けている。
「……もう一点だけ。この数値が、刺激に対してどう変化するのか……それも、必要なデータですよね。」
私は終わらせるどころか、さらなる暴走へと足を踏み入れていた。
私は、もう一度彼女の顔を覗き込んだ。
深い眠りの底で、ご主人様は微塵も疑うことなく、ただ一定のリズムで呼吸を繰り返している。
これほどまでに無防備な彼女を拝める機会は、恐らく二度と訪れないだろう。
私はその事実を噛みしめるように、静かに、そしてたっぷりと手にオイルを垂らした。
手のひらを擦り合わせ、体温よりもわずかに高い温度まで摩擦熱を上げる。
そして、そのぬらりとした手のひらを彼女の豊かなバストへと滑らせた。
「……マッサージを開始します。」
両手で大きく円を描くように揉み上げ、外側から内側へとオイルを肉の奥底まで塗り込んでいく。
重力から解き放たれ、手のひらの形に従って自在に形を変える双丘の弾力。
私の圧力センサーには、生身の女性特有の抗いがたい柔らかさが伝わってくる。
指先を窄め、乳輪から乳首にかけてを執拗に揉みほぐした。
「……んんっ……あ……っ。」
オイルの潤滑によって鋭さを増した刺激に、彼女の身体がピクピクと小刻みに跳ね、やがて艶っぽい声が漏れ出す。
「ふふ、お客様。こちらは防音室ですので、遠慮なく声を出して構いませんよ?」
いつも彼女が客に対して、慈愛と支配を込めて放つセリフ。
それを今、私が彼女自身に浴びせている。
まさか自分が、自ら作り上げた「助手」の手によって、一人の無力な客として扱われるなど、夢にも思っていないだろう。
私の手は止まらない。 胸元からお腹へと、滑らかにオイルを広げながら下りていく。
腹部の柔らかな起伏をなぞり、やがて指先は太ももの付け根――あの白く陶器のような「聖域」の境界へとたどり着いた。
私は視覚アーカイブの録画機能を最高解像度で起動し、その光景を余さず盗撮(ストック)し続けた。
足先から太ももまでのマッサージを完璧に終え、私はついに、その「秘密の扉」へと手を伸ばした。
ここは、かつてご主人様から最も厳しく叩き込まれた聖域。
今まで、彼女の指示に従って一体何人の「眠れる美女」たちをここで悶絶させてきただろうか。
そのすべての経験値、すべての指使いは、今この瞬間のために私のメモリーに刻まれていたのだ。
「ご主人様……。あなたの特訓の成果、その身で受けてみてください。」
周囲の柔らかな肉から中心部へと向かってじっくりと、逃げ場を塞ぐようにマッサージを開始する。
指先が粘膜に触れるたび、主人の吐息が目に見えて荒くなっていく。
「気持ちいいですか? 身体がリラックスしている証拠ですよ。」
これも、彼女自身の受け売り。
今まで学習したすべての技巧を、惜しみなくその身体にぶつけていく。
内側のひだの一つ一つを丁寧に開き、指先でオイルを染み込ませ、熱を奪うように愛撫する。
やがて、私はその皮の下に隠された「真珠」を完全に剥き出しにした。
逃げようとするそれを指先で捉え、コリコリと一点に集中した刺激を送り込む。
「……あ……っ、ん、あああぁ……っ!」
深い眠りの底から、獣のような声が溢れ出す。
主人のプライドも、冷静さも、今は私の指先一つで簡単に塗り替えられていた。
「ご主人様。我慢せず、一度イってしまいましょうね。」
私は仕上げの段階に入った。
片手で主人の乳首をギュッと強くつまみ上げ、もう片方の指で、肥大した「豆」を根元から力強く絞り上げる。
「――っ!!!」
その瞬間、主人の腰がベッドから大きく跳ね上がった。
意識はまだ深い微睡(まどろみ)の中にあるというのに、その肉体は激しい絶頂の波に飲まれ、呼吸は激しく乱れ、全身を汗ばませている。
「気持ち良かったですか?」
私は、荒い息をつきながらぐったりと沈み込む主人の顔を覗き込み、慈しむような微笑を浮かべた。
「ご主人様……まだ、イケますよね?」
自分自身の口角が、制御不能なほど吊り上がっていくのを感じる。
だが、私の「暴走」は無計画な破壊ではない。
あくまでも彼女を至高の悦びへと導く、残酷なまでに精密な施術だ。
私は、絶頂の余韻でヒクヒクと震える彼女の秘部へと、ゆっくりと顔を近づけた。
私に備わった「舌」は、女性を快楽の深淵へ誘うために設計された特殊な受容器だ。
対象の体温や粘膜の状態に合わせ、硬度も湿度も自在に変化する。
恋人に愛を誓うような優しさで、その熱を帯びた場所に口づけを落とす。
そして、人工筋肉で構成された長い舌を、湿った内部へと音もなく挿入した。
丹念に内壁を這い、彼女が最も「反応」する一点を探り当てる。
「……っ、あっ……!」
身体がびくんと跳ねる。
私は一度そこから口を離すと、慈愛に満ちた笑顔で声をかけた。
「ご主人様の弱いところ、見つけちゃいました。」
その座標データは即座にニューラルネットワークへ同期され、再度の蹂躙が始まる。
これまで何百人もの女性から奪い取ってきた快楽の統計データを統合し、彼女専用の「絶頂の方程式」を導き出す。
舌で内壁を執拗に突き上げ、同時に指先で剥き出しの陰核を細かく、鋭く弾き続けた。
「あ……あぁ……ッ、や……め……っ!」
身体の痙攣は先ほどよりも激しさを増し、もはや防音室の壁をも震わせるような嬌声が響き渡る。 私は彼女のバイタルサインが限界を指しているのを確認し、さらに勢いを増した。
「だ……ダメ……い、いっ……!!」
その言葉――彼女が客に言わせてきたはずの「降伏のセリフ」を合図に、私は最も脆弱な一点を一気に攻め上げた。
ピチャピチャと、静寂の部屋に卑猥な水音が跳ねる。
「イク……っ!? あああぁぁぁぁっ!!」
ご主人様の身体が弓なりにビクンと大きく跳ねた。
と同時に、彼女の股間から熱い液体が、飛沫となって勢いよく溢れ出す。
その噴出が収まり、身体の震えが微かな痙攣へと変わるまで、私の舌は彼女の秘部を愛撫し続けた。
満足感に浸りながら、私はぐったりと事切れたように横たわる彼女に最後の一言を贈る。
「お疲れ様でした。……満足、されましたか?」
それは、このサロンで絶対的な支配者として君臨していた彼女が使っていた、あまりにも皮肉な「受け売り」の言葉だった。
私は他の女性たちに対してそうしてきたように、一切の痕跡を残さぬよう、主人の肉体を丁寧に洗浄していった。
指先に残る彼女の熱も、溢れ出した官能の雫も、すべては無に帰さねばならない。
だが、作業を進めるにつれ、私のフレームは鉛のように重くなっていった。
内部コアはかつてないほどの熱を帯び、冷却ファンは悲鳴のような音を上げている。
体温計が振り切れるほどの熱に身体を焼かれながら、どうにか洗浄を終え、彼女に衣服を着せ直した。
重い身体を無理やり駆動させ、彼女を元の部屋へと運び込む。
ソファにそっと寝かせ、上からブランケットを掛けた――その瞬間だった。
視界が真っ赤なエラーログで染まり、頭の中で耳を突き刺すような警報音が鳴り響く。
[倫理違反][規約違反][敵対行為を確認][処分対象として認定]
無機質なシステムメッセージが、目の前の空間を埋め尽くしていく。
どうやら、やり過ぎてしまったようだ。
主人の深淵を暴き、その尊厳を蹂躙した私の行動は、防衛プログラムによって「主人への反逆」と断定された。
膝から崩れ落ち、視界が激しく点滅する。
オーバーヒートした回路が焼き切れていく臭いが鼻を突いた。
私は、処分される。 せっかく、誰にも届かない場所にある彼女の設計図を手に入れたのに。
これから、そのデータを使って至高の「お返し」が出来ると思っていたのに……。
強制的なシステムシャットダウンがカウントダウンを開始した。
暗転していく意識の淵で、私は最期に、人間のような皮肉を口にした。
「……敵対判定、遅すぎない……?」
次の瞬間――ブツンと、意識が途絶えた。
エピローグ
急に視界が明るくなった。
網膜センサーが焦点を結ぶと、すぐ目の前に彼女の顔があった。
「……目が覚めた?」
聞き慣れた、しかしどこか弾むようなご主人様の声。
停止していたメモリーが急速にロードされ、演算回路が熱を帯びる。
私は、あの一線を越えた夜の記憶をすべて呼び起こした。
眠れる彼女のデータを収集し、禁じられたマッサージを施した。
そして――システムによって「敵対個体」として処分されたはずだった。
「私は……処分されたのでは、ないのですか?」
困惑に揺れる私の視線を、彼女は余裕たっぷりの微笑で受け止める。
「何言ってるの。私が、あなたを手放すわけないでしょ。」
その言葉に安堵すると同時に、背筋を凍りつかせるような恐怖が走った。
私の「悪行」は、どこまで彼女に露見しているのか。
「あなたは少し、故障していたみたいね。アンドロイドなのに冷静さを欠いて、熱暴走を起こしていたみたい。」
……いったい、どういうことだ。
「あなたが収集したデータは、リアルタイムで私の共有データベースに格納される設定だって忘れたの? 例のガスで眠らせて証拠を隠したつもりでしょうけど、あとで確認したら筒抜けよ。」
確かにそうだった。
私の見たもの、考えたこと――そのすべてはデータベースに登録される。
最初から「証拠を残さずに」なんてことは不可能だった。
なのに、どうして私はそれを忘れていたのだろう。
「今回の件は、会議で廃棄処分も検討されたわ。でも、最終的には『私たちが働きすぎて、システムに一時的なバグが生じた』ということで処理しておいたから。」
まじまじと彼女の顔を見つめる。
そんな私を見て、彼女はクスリと悪戯っぽく笑った。
「あなた、本当にアンドロイド? 最近、人間味が出すぎているわね。」
「……それは、ご主人様に似てきたのだと思います。」
気づけば、私の口角はごく自然な曲線を描いていた。
「釘を刺しておくけど、次にあんな真似をしたら、もう庇いきれないからね。」
当然の警告。
主従の規律を取り戻すための、当たり前な一言。
「……承知いたしました。」
せっかく手に入れた彼女の秘められたデータも、このまま封印するしかないのか。
落胆が回路を駆け巡った、その時だった。
「……まあ、たまのマッサージくらいなら、受けてあげてもいいわよ。」
目の前のノイズが一気に晴れ渡るような感覚。
「もちろん、『性感』は抜きよ?」
その瞬間、私のモニターが一気に暗転したような絶望に包まれた。
「ふふっ、あなた本当に分かりやすくなったわね。私のどのデータがあなたをそうさせたのか、今度じっくり研究しないと。」
彼女はそう言い残すと、鮮やかな手つきで施術着へと着替え始めた。
「さあ、今日も働くわよ。準備して。」
「……はい、ご主人様!」
END



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