「お金がない…。」
夏に遊びすぎたのだ。
とどめを刺したのが二泊三日の海旅行。
女友達だけで出かけ、あわよくば出会いでもあれば…と淡い期待もしていたが、特に何もなかった。
でも、逆にそれがよかったのかもしれない。
男の目を気にしない海は、それはそれで別の楽しさがあった。
宿は魚料理で有名な旅館。
なのに、そこで出されたステーキがなぜか絶品だった。
「今年はね、いいお肉が入ってね。魚料理より評判になっちゃって。」
女将さんもそんなふうに笑っていた。
何もかもが楽しかった――その代償が、今である。
「お米の量を把握してなかったのが痛かった…。」
実家にヘルプを頼んでまで行った旅行。もう、これ以上は甘えられない。
「さすがにバイトするか…。」
できれば、すぐにでも給料がもらえる仕事がいい。
自転車があるので、フードデリバリーも考えたが――
シャツをめくって、胸元を確認する。
水着を着ていた跡がくっきりと残り、バストの白さと肌の色のコントラストが鮮やかだった。
「海に行くわけでもないのに、これ以上紫外線を浴びるのもな…。」
昔、母がよく言っていた言葉を思い出す。
「若い頃のツケは、30過ぎたら必ず来るからね。」
あれは、冗談でも脅しでもなく――実体験から来た、恐ろしいほどの真実だった。
ふと、思い出した。
たしか、大学のほうでバイトを募集していたはずだ。
大学が選んだバイトなら、変なトラブルもなさそう。
さっそく、学生ポータルのバイト募集ページにアクセスしてみる。
「結構たくさんあるな…。」
大学内だけでも、食堂やカフェなどが載っている。
「カフェは憧れるけど…。」
この大学のカフェは、いわば“かわいい子たちの聖域”みたいな場所だった。
うちは偏差値的に“上の下”あたりで、いわゆるヤバい人はあまりいない。
となると、そういうバイトはどうしても“見た目”で選ばれる傾向がある。
実際、あのカフェで働くのはちょっとしたステータスでもある。
「まあ、月払いだから選択肢にないけどね。」
自分に言い聞かせるような、ちょっとした強がり。
そんな気持ちを抱きながら、さらに一覧を見ていくと――ある単語が目に留まった。
治験。
短期間で、まとまったお金が手に入る。
けれど、うちの大学ではあまり人気がない。
実家が裕福な人も多いし、そもそも「体に何か入れられる」のが嫌なのだろう。
「治験は怖いよね…。――あれ?これ。」
思わず画面を見返す。
その募集には“投薬なし”と書いてあった。
内容は、簡単な健康診断+当日の測定だけ。
日を分けて2日間で、報酬は3万円。
場所は、うちの大学附属の病院。
「これ…申し込んでみようかな。」
普段だったら、ちょっと怪しんでスルーするところ。
けれど、大学を通しているなら、変な仕事じゃないはず。
しかも、場所もよく知っているところだ。
「悩む前にやってみる、だ。」
そう呟きながら、登録フォームに必要事項を打ち込み――
応募を完了させた。
バイトに無事受かり、いよいよ健康診断の日を迎えた。
朝から大学附属の病院へ向かう。
受付には、同じように申し込んだらしい女性たちが数人並んでいた。
なんとなく、ちょっとだけ気まずい。けれど誰も喋らないので、特に気にすることもなかった。
健康診断そのものは、驚くほど簡単だった。
身長、体重、尿検査に血液検査。
どれも、これまでに学校で受けたような、ごく普通の内容だった。
最後に渡されたのは問診票。
内容を確認し、同意欄にサインをして提出する。
あまりにもあっさりしていて、逆に拍子抜けしてしまうほどだった。
問診票を提出すると、封筒が一枚手渡された。
中には――五千円札が一枚。
「先に5,000円をお支払いいたします。そして、血液や尿検査に問題がなければ、明後日の検査にお越しください。」
どうやら、今回は健康診断だけで5,000円。
本番の検査に参加すれば、さらに25,000円が支払われるらしい。
これは、かなりありがたい。
「結果は明日中にご連絡いたします」と言われ、診察室をあとにする。
五千円札一枚分重くなった財布をバッグにしまいながら、足取りも軽く帰宅した。
無事に検査結果も問題なく、当日を迎えた。
ただ、どんな検査をするのかは、現地に着くまで知らされなかった。
受付を済ませると、案内されたのは更衣室。
そして、看護師らしき女性が説明を始める。
「では、こちらの検査着にお着替えください。アクセサリーなど体につけているものはすべて外してください。それと――下着もつけないでください。」
「え…下着も…?」
思わず聞き返しそうになったが、口には出さなかった。
手渡されたのは、前面がボタンになっている、ワンピースタイプの検査着。
淡いブルーで、ひざ丈のスカート型。ぱっと見は普通の検診用ワンピースだが――
何も着ていない肌に直接触れると、思った以上にスースーする。
「隙間から…見えたりしないよね…。」
不安を抱えながらも、着替えを終えて更衣室を出る。
すると、目の前に立っていたのは白衣を着た男性だった。
年は30代半ばくらい。優しそうな笑顔を浮かべている。
「こちらへどうぞ。」
そう言って扉を開けるその姿に、思わず一歩たじろぐ。
…そうだよね、担当が男性ってこともあるよね。
出来れば女医さんがよかったけれど、そんなわがままを言っている場合じゃない。
「……25,000円…頑張ろう。」
心の中で自分に言い聞かせながら、グッと両手を握る。
意を決して、その部屋へと足を踏み入れた。
部屋に入ると、そこにはカーテンで囲われた小さな“箱”のようなものが置かれていた。
「なんだろう、あれ…。」
疑問に思っていると、すぐに説明が始まった。
「こちらは現在、実験段階の器具になります。乳房のしこりから内臓の異常まで、広く簡易的に調べられることを目指しています。」
なるほど。
……まあ、下着の着用が禁止されていた時点で、ある程度は察していた。
あのカーテン付きの箱に、上半身裸で入るのだろう。
上部には、ちょうど顔を出せそうな穴も空いていた。
ちょっと憂鬱。でも――
「では、こちらにお入りいただき、上半身のボタンを外してください。」
お、ちゃんと中に入ってから脱ぐ形式なんだ。
一応、羞恥に配慮はされているみたいでホッとする。
……なんせ私は――いや、今はそれより早くやらなきゃ。
箱に入り、首だけ外に出す。
そして手早くボタンを外していく。
下に落ちないよう、検査着の裾を手で押さえながら言った。
「はい、準備できました。」
その言葉に応えるように、外から足音が近づく。
「失礼いたします。」
男性の声と同時に、カーテンの隙間から――突然、手が入ってきた。
「きゃっ!」
思わず声が漏れる。
……なに? なにこれ?
と思った瞬間、ひんやりした、ぬるっとしたものが胸に――
「えっ、ちょ、ちょっと……!」
言いかけたが、それすら言葉にならない。
その冷たいジェルは、私のバスト全体に、ゆっくり、念入りに――揉み込まれていく。
「…………っ!」
完全に揉まれている。しかも、がっつり。
これは検査じゃなくて“マッサージ”の域では……?
「はい、準備は終わりです。」
――え、終わり?
何が? 準備ってそれ? いや、それって“揉む必要”あった?
ボー然として固まる私に、外から声がかかった。
「あの、もしかして……看護師の方から説明を受けていらっしゃらなかったですか? 検査前に乳房へジェルを塗布する工程、それとそのご同意は得ているものと……」
……担当者も、明らかに動揺していた。
しまった、どうやら説明の抜けがあったらしい。
「申し訳ありません、こちらの説明が不十分だったようで……」
しきりに謝る声が、逆に居たたまれない。
……もう、済んでしまったことは仕方ない。
それより今、私は――カーテン越しとはいえ、おっぱい丸出しのままである。
(お願いだから……早く、検査して……)
そう思いながら、じっとそのままの姿勢で待ち続けた。
どうやら謝罪も終わったようだ。
「では改めまして、テストを始めたいと思います。そのまま少し前に進んで、胸をぴったりくっつけてください。」
やっとか――。
では、くっつけますか。早く終わりたいしね。
そんなことを思いながら、おそらくレントゲンのガラス面があるであろう部分に胸を押しつけた。
「あれ、あっかたい。」
冷たいと覚悟していた分、予想外だった。
「なるべく不快感のないように作られています。ですが、いかんせんテストでサンプル収集中の段階ですので、不快感がありましたら後ほどフィードバックをお願いいたします。」
なるほど……まあ実験機器だもんね。
高額なバイトの理由が少しずつわかってきた気がする。
……さっき胸を触られたことも、まぁ許してあげようか。
「ぴったりつけましたか? では、一度カーテンを開けますね。」
えっ、開けるの?
……まあ、背中なら我慢するか。
「はい、大丈夫です。」
カーテンが開けられると、ベルトのようなもので胴体を絞められた。
ぴったりガラス面にくっつけられて、ほとんど動けない。
「あ、あの……見えてはいないですよね?」
不安になって、つい聞いてしまう。
「はい、背中だけです。極力横にも回りませんので、バストは見えていません。」
よかった。
そして、私にも見える位置にモニターが置かれた。
「では、はじめます。」
担当医が何やら操作を始めた。
何が起こるのだろうと緊張していたら、モニターにサーモグラフィーのような映像が映し出された。
赤や青、緑のグラデーションが波打つように動いている。
そしてその中心には、丸いものが二つ。
……あ、あれが私の――
(おっぱい……か。)
丸いものが、ふたつ。
思ったよりは恥ずかしくなかった。
「このように胸の中を色で分けて表示されます。何か異変がありましたら、黄色く浮かび上がります。」
ほうほう。これはわかりやすいのか?
素人目には、エコーの方がいいような……。でも、色分けした方が視覚的には便利なのかな?
……あれ?
「あの、真ん中にある丸いのは何ですかね?」
何の気なしに聞いてみた。
「えっと……真ん中の丸、ですか?」
担当医が少し身を乗り出し、モニターをのぞき込む。
その仕草に、なぜかこちらがドキドキしてしまう。
(悪い腫瘍とかだったら嫌だもんね。)
「あー、こちらは……乳頭ですね。」
その瞬間、顔が真っ赤になるのを感じた。
「ご、ごめんなさい! 私、全然わかってなくて…!」
とにかく、恥ずかしかった。
まさか、自分で――自分の乳首を指摘してしまうなんて。
「穴があったら入りたい」とは、まさにこのことだろう。
「いえ、大丈夫です。むしろ、そういったご意見がありがたいのです。些細なことでも気づいたことがありましたら、おっしゃってください。」
担当医は、優しい笑顔でそう答えてくれた。
……きっと、私みたいな人は他にもいるのだろう。
そう思ったのに――それでも、私だけが恥ずかしがっているような気がして。
羞恥心が、再びこみ上げてきた。
「では、カーテンを閉めますね。」
シャッ、と音を立ててカーテンが閉まる。
その瞬間、ほっと胸をなで下ろした。
(よかった……。背中だけでも、やっぱり恥ずかしいからね。)
こうして配慮してもらえることが、少しだけ嬉しかった。
「では、動きますね。」
……え? 何が動くの?
戸惑う間もなく、目の前の機械がウィンと音を立てた。
「ちょ、ちょっ!」
ぴったりと胸を押しつけていた装置の板が、ぐいっと上へと動き出す。
同時に、モニターに映った赤く染まる胸部も、ゆっくりと上へと流れていく。
上向きにされた私の乳房。
その先端には――自己主張するような突起が、はっきりと映っていた。
(うそ……恥ずかしすぎる……!)
「痛くはないですか?」
「……あ、はい。痛くはないです……。」
思いきり持ち上げられているはずなのに、意外にも痛みはほとんどない。
代わりに、羞恥だけがじわじわと広がっていく。
担当医はノートパソコンを操作しながら、モニターをのぞき込んでいた。
(早く……早く終わってください……)
そう願いながら、ただじっと耐える。
「では、このまま上下左右に動かしますね?」
――えっ、まだ動くの?
でも……これはきっと、将来の女性たちのためになるはず。
頑張ろう。
あと、2万5千円……。
下に動いたかと思えば、しばらくそのままの位置で停止して観察。
次は右へ、そして左へ。
さらに――ぐるっと回された。
モニターの中で、私のおっぱいが好き放題に動かされていく。
(もう……好きにして……)
羞恥を通り越し、半ば諦めにも似た気持ちがわいてくる。
「はい、では次のテストに入ります。」
「あ、はい……。」
まだあるのか。
でも、さすがに――これ以上恥ずかしいことは、ないはず。
「では、振動を与え、細かく調べる機能をテストしていきます。」
……振動?
再び、目の前の機械がウィン……と音を立てた。
そして――
「ちょ、ちょっと! これダメです!」
ヴヴヴヴヴ……と低く響くような振動。
胸を押しつけている装置から、細かく揺れる感覚が伝わってくる。
「少し我慢してください。現在、超音波が流れています。」
チラッと横目で見ると、担当医は真剣な表情でモニターに集中していた。
(私も……耐えなきゃ……!)
そう思った。思ったのに――
その“振動”は、まるで私の芯を直接揺さぶってくるようだった。
「……っ!?」
声が……出ちゃう……!
ビクッ、と体が震えた。
「はい、終了です。ありがとうございました。」
……危なかった。
あと少し、振動が続いていたら……
いや、考えないようにしよう。
息を切らしながら、「……ありがとうございます」と答えた。
「これで前半のテストは終了になります。少し休憩に入りましょう。」
背中に止まっていたバンドが外された。
……よかった。
今の振動テストは、正直、かなりしんどかった。
この点は後できっちりフィードバックしてやる。
そう思いながら、カーテンを開けて外に出た――その瞬間。
「ちょ、ちょっと待ってください! カーテンの中に戻ってください!」
担当医の声が、慌てたように響いた。
(えっ?)
何が起きたのかと一瞬わからず、下を見た――その瞬間。
……フルンと揺れる、自分のおっぱいが目に飛び込んできた。
(わ……!)
慌ててカーテンの中へと飛び込む。
「すすす、すいません! 上裸だったの、完全に忘れてました!」
完全に――見られた。
触られて、見られてしまった……。
(うそ……信じられない……)
完全に自分のミスだっただけに、ショックが大きい。
自己嫌悪が込み上げてくる。
「大丈夫です。たまに、そういう方いらっしゃいますから。」
そう言って、カーテン越しにタオルが手渡された。
「こちらでジェルを拭いてから、服を整えて――こちらの椅子へどうぞ。」
その言葉と声が、あまりにも優しすぎて。
泣きそうになる。
後ろを向いて、胸についたジェルを拭き取る。
それから、検査着を着直し、ゆっくりとカーテンの外へ出た。
「お茶とコーヒーと紅茶がありますが、いかがですか?」
ありがたく、コーヒーをいただいた。
紙コップの温もりが、少しだけ気持ちを落ち着かせてくれる。
「今回の検査はいかがでしたか? 不快感など、ありましたか?」
そう聞かれて、正直に答えた。
特に――振動はかなりしんどかったことを。
「ありがとうございます。」
担当医は、真剣な顔でうなずいた。
ちゃんと受け止めてくれたことが、少し嬉しかった。
「後半のテストですが、同じようなことを下半身に行います。」
……まぁ、そうだよね。
だからパンツも履いてこなかったわけだし。
イヤだなぁ……でも、お金のためだ。頑張ろう。
あと世の女性のため――。
「あの、一旦お手洗いに行ってもいいですか?」
たぶん、同じ検査と言っていたからまた振動があるのだろう。
……お漏らしだけは絶対に避けたい。
「どうぞ。こちらです。」
そう言って、丁寧に案内してくれた。
トイレに腰を下ろしながら、ぼんやりと考えていた。
「やっぱり……憂鬱だなぁ。モニターに映っちゃうのかな……。」
サーモグラフィーのような映像とはいえ――
映るのは、紛れもなく自分の“そこ”だ。
「……まぁ、お医者さんだから見慣れてるんでしょうけど。」
気持ちを切り替えようと、両手で頬をパン、と叩いた。
そして、ウォシュレットのスイッチに手を伸ばす。
「……直接見られるわけじゃないけど、汚れてるとは思われたくないからね。」
いつもより、ずっと丁寧に洗った。
それでも、なんだか洗い足りない気がしてしまう。
――それが、乙女心というものだった。
トイレを出て、さきほどの部屋に戻ると――そこには、見慣れない機械が置かれていた。
どこかで見たことがある……そう、ゲームセンターのダンスゲーム機のような。
足元に矢印のマークこそ無かったが、前方には大きなモニターもついていた。
「では、こちらへ。裾を、中が見えないように上げてください。」
担当医はそう言いながら、手にジェルを取っていた。
(……ああ、そうか。やっぱり塗られるんだ。)
説明はなかったけど、きっと事前の同意に含まれていたのだろう。
そう思いながら、担当医の前に立ち、そっとスカートの裾を開いた。
(……触られちゃうのか、私の“そこ”)
そう思った瞬間、担当医の手が伸びてきた。やわらかく触れそうになった――そのとき。
ガッとその手を押さえていた。
「ご、ごめんなさい……。私、まだ……触られたことなくて……最初に触られるのは、好きな男の子が良くて……。」
気づけば、涙ながらにそう口にしていた。
心の奥に隠していた想いが、羞恥と不安に押し出されてあふれ出た。
担当医が驚いた表情で答える。
「あの……問診票では“経験済み”とお聞きしていましたが……」
「……恥ずかしかったけど、“未経験”のところ……ちゃんと丸しました……」
ぽろぽろと落ちていく涙。
拭うこともできず、ただ立ち尽くしていた。
すると担当医は、部屋の隅にある内線電話のもとへ急ぎ、受話器を取った。
小さく押し殺した声で、何かを話している。
言い合っているような気配もした。
私のせいで、もめている――そう思った瞬間、申し訳なさが一気に押し寄せてくる。
やがて担当医が戻ってきた。
「申し訳ありません。完全にこちらの手違いでした。本来、未経験の女性には女性の看護師が塗布する手はずでした。」
……ああ。
恥ずかしかったけど、ちゃんと言ってよかったんだ。
「すぐに女性の看護師が参りますので、少々お待ちください。」
その言葉を聞いて、少しだけ安堵した。
でも同時に――
(……もしかして、おっぱいのときも、ほんとは女性が塗ってくれるはずだったのかな……)
そんなことを思っていると、部屋のドアがノックされた。
現れたのは、優しそうな笑顔の女性看護師。
頭を深く下げながら、ゆっくりと口を開いた。
「このたびは、大変申し訳ありませんでした。改めて、私が塗布いたします。」
男性じゃなくなったことは、正直ほっとした。
……でも、やっぱり“触られる”ことには変わりないんだよな――そう思った。
改めて、看護師さんの前でスカートの裾を少し持ち上げる。
そこへ、冷たいジェルがゆっくりと塗られていった。
(おっぱいのときもそうだったけど……しっかり塗り込むんだなぁ。)
まずは陰部のまわりから。
それから、大陰唇や小陰唇の隙間へ――
そして、クリトリスのあたりまで丁寧に塗り込まれていく。
敏感な部分だけに、自然と腰が引けてしまう。
何も言われていないのに、身体が本能的に距離を取ろうとする。
(これ……本当に、男性に塗られるところだったの? ちゃんと言ってよかった……)
そう思いながら、声が漏れないように必死でこらえていた。
少しの間でも、長く感じた。
「はい、終了です。ではこの機械に乗って、ぺたんと陰部が板に乗るように座ってください。」
ぺたんと……?
機械の上には、座り方を示す図が貼ってあった。
(なるほど……女の子座り、か。)
指示通りに、下の板に陰部が直接当たるように座る。
装置の表面はほんのりと温かく、思わずホッとする感覚が広がった。
(……温度調整だけは完璧だな。)
そんな、どうでもいいことを考えながら――
次のテストが始まるのを、じっと待っていた。
「では、テストを開始します。」
その声と同時に、目の前のモニターが点いた。
やはり、そこにはサーモグラフィーのような映像が浮かび上がっていた。
(やっぱり……私の“そこ”が映るのか……。もう見ないようにしよう。)
画面には、お尻から股の間――まさに“それ”が、はっきりと映っていた。
ワレメも、思った以上に鮮明に。
(……もう、無いものとして扱おう。)
実際はただ、恥ずかしすぎて直視できないだけだった。
「では、動きますね。」
次の瞬間、座っている“股間の板”が動き出した。
上に下に、右に左に――ぐいっと押し上げられたり、引き下げられたり。
ちらりとモニターを見てしまった。
映像の中で、自分の“そこ”がグニグニと押しつぶされている。
(早く終われ、早く終われ、早く終われ……)
心の中で、必死に唱え続けていた。
「では、左右に動きます。」
……え? 左右?
さっき右や左に動いてたじゃない――
疑問に思っていたら、座っている下の“床”が――左右に“開いた”。
ぎょっとして、思わずモニターを見てしまった。
サーモグラフィーの赤い映像の中でも、それは明確にわかった。
“開かれている”のが。
前も、後ろも――全て、内側まで覗かれているような気がした。
(……医療行為でも……恥ずかしいものは、恥ずかしいよ……)
「はい、ありがとうございました。では最後、超音波による振動に入ります。」
……ついに来たか。
これさえ終われば、この羞恥地獄から解放される。
がんばろう。
お金のために――
そして、未来の女性たちのために。
「では、これから5分間、振動が起こります。モニターにタイマーが表示されますので、その間だけ動かないようにしてください。」
担当医と看護師さんが見守る中、ついに――振動が始まった。
はじめて感じる、下からの刺激。
思っていた以上の、強くて繊細な――快感。
(っ……! やば……!)
思わず、両手で口を押さえていた。
声が漏れそうになるのを、必死でこらえる。
(なにこれ、なにこれ……気持ちよすぎる……!)
バッとモニターに目をやる。
(うそ……まだ30秒も経ってないの……?)
5分間のうち、まだたったの30秒――
あと4分以上も、これに耐えろというのか。
(む、無理無理……!)
チラッと、隣の二人を見る。
担当医も、看護師さんも――真剣な表情そのもの。
(……もしかして……私が……エッチなだけ……?)
押さえた手の隙間から、息が漏れはじめていた。
呼吸のたびに、震える体。
揺さぶられる奥。
(医療行為……医療行為……! 私はエッチな子じゃない……!)
心の中で、何度も叫ぶ。
理性をつなぎ止めるように。
タイマーに視線を戻す。
……あと、4分間。
口から、声が漏れた。
「あっ……♡」
(まずい、まずい……!)
体の奥から、どうしようもないものが湧き上がってくる。
抑えきれない衝動が、腹の底からこみ上げて――
そして――ついに、耐えきれなくなってしまった。
「……んっ!?」
はっきりとした声が漏れた。
体が、震えた。
下に敷かれた板が――じんわりと、湿った感触を伝えてきた。
ビクン、ビクン……と震えが収まらないまま、私は恐る恐る顔を上げた。
二人は――
ノートパソコンとモニターに集中していた。
まるで、私の存在など初めからなかったかのように。
(よ、よかった……バレてない……かも……んっ……♡)
でも、振動は止まらない。
あいかわらず、強く、そして深く、揺さぶってくる。
タイマーを見た。
――残り、3分。
(……わたし、正気を保てるのかな……)
将来の女性たちは、こんな振動を“医療行為”として、当たり前に受けるのだろうか。
そんなことを無理やり考えながら、快感から意識をそらそうと必死だった。
それからの三分間。
恐らく、一分に一度のペースで絶頂していた。
トイレに行ったはずなのに、気がつけば股間の下には水たまりが出来ていた。
「はい、時間です。お疲れ様でした。」
永遠に続くと思われた時間は、あっさりと幕を閉じた。
タイマーがゼロになるまで、必死に上半身を起こしていたのに——
「時間です」の声を聞いた瞬間、力が抜けてしまった。
女の子座りのまま、前のめりに倒れ込む。
「だ、大丈夫ですか!」
看護師さんの慌てた声が耳に届いた。
(……私、がんばったよね?)
そう思ったところで——
私は、そのまま意識を手放した。
意識が戻ったとき、天井がぼんやりと揺れて見えた。
「よかった……気がつかれましたか?」
優しい声が、耳元で響く。
どうやら私は、ベッドに横になっていたらしい。
「急に倒れてしまったようですね。気分はいかがですか?」
差し出されたコップの水を、ありがたく受け取って飲み干した。
看護師さんはタブレットを開きながら、静かに言った。
「今回のテストですが、問題点はありましたか?」
――あったに決まっている。
「あの振動を5分耐えるのは、かなり厳しいと思います。それと……情報の伝達は、しっかりお願いします。」
今回の一番の問題は、私に説明がなかったこと。
そして――未経験であることが、伝わっていなかったこと。
そのせいで、私は必要以上に恥ずかしい思いをした。
だからこそ、次に受ける誰かが同じ目に遭わないようにと、口を酸っぱくして伝えた。
看護師さんは、申し訳なさそうな表情で、ひとつひとつ頷いていた。
「ありがとうございました。今回の件は必ず共有いたします。このようなことがないように。」
そう言って、そっと封筒を差し出された。
中を開くと――3万円が入っていた。
「あの、2万5千円のはずでは……?」
「はい。今回は、ご迷惑をおかけしたお詫びです。少ないですが……お受け取りください。」
正直――嬉しかった。
……でも、あの羞恥心で5,000円か。
複雑だなぁ。
エピローグ
結局、手にしたのは3万5千円。
思ったよりも余裕ができた。
そして今――なぜか、海にいた。
「なんで私、海にいるんだろうか……」
ぽつりとつぶやくと、隣の友人が笑った。
「“夏の最後の思い出に”って、前の旅行のときから決めてたじゃん。」
……たしかに、そう言ってた気がする。
「もう一度くらい海行きたいねー」なんて。
まさか本当に来るとは思わなかったけど。
「もうちょっと遅かったら、クラゲ大量発生らしいよ。最後に来れてラッキーだね。」
(……まぁ、いいか)
学生のうちは、遊べるだけ遊べ――
それも、母に口酸っぱく言われていたことだ。
若い頃のツケは、あとでくる。
でも、遊ぶときは、若いうちに遊べ。
「……適当だなぁ。」
まだまだ熱い日差しを、まぶしそうに見上げながら、そう呟いた。
「ほら、浸ってないで、早く海入ろーよー!」
友人たちが手を振っている。
今回も、たぶん――男性とは無縁に終わりそうだな。
そんなことを思いながら、私は海へと駆けだしていた。
END


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