私は、小さな芸能事務所に所属する鳴かず飛ばずのタレントだ。
そんな私にも、珍しく仕事の話が舞い込んできた。
「葵ちゃんに仕事が入ったんだけど、受ける? 条件がちょっと特殊なんだけどね。」
「どんな条件ですか?」
マネージャーから渡された資料に目を通す。
内容は、どうやらモーションキャプチャーのアクターとしての出演だった。
「なんで私なんでしょうね?」
「今回はプロのアクターを使いたくないみたいよ。」
さらに資料を読み進めると、ストレッチやヨガの動作を収録するダイエットゲームであることがわかった。
登場人物には、誰もが知る人気アイドルの名前もあった。
「そのアイドルの子の代役らしいのよ。」
……アイドルの代わり、か。
「葵ちゃんって、何でもそつなくこなすでしょ? だから白羽の矢が立ったみたいよ。」
“じゃあ、私をゲームに出してよ”とは言えなかった。
「それでね、よく読んでもらうとわかるんだけど……今回のモーションキャプチャーは“全裸”で行うみたいなのよ。」
「……全裸?」
モーションキャプチャーといえば、センサーがびっしりついた全身タイツのような衣装を身につけるものというイメージがある。
「なんで全裸なんですか?」
「直接肌にセンサーを付けて、より精密なデータを取りたいんですって。そりゃあ、あのアイドルの子は断るわよね。葵ちゃんも、もちろん断ってもいいのよ。」
キャプチャーは断る、でもゲームには出る――虫のいい話ですね。
そう思いながらも、私は決意した。
「……わかりました。やります。資料を見たら、スタッフは女性だけで、データもきちんと管理されるようですし。」
「わかったわ。先方に伝えておくからね。」
当日の朝。
私は全裸で鏡の前に立っていた。
毛は処理しておくようにとの指示があったため、ワキも股間もツルツルだ。
もっとも、私は医療脱毛をしているので普段からそこに悩みはない。
それでも、念のため――
鏡に映る自分の身体を少しだけ観察し、ワレメを指で開いて確認する。
「……はぁ、全裸か。やるって言ったのは私だけど、さすがに憂鬱だわ。」
誰に言うでもなく、ひとりごちる。
そして、用意しておいた新品の下着に足を通した。
「下着なんて見られないとは思うけど……一応ね。」
売れていないとはいえ、一応はタレント。
身だしなみと匂いには、やはり気を使いたい。
そのとき、インターホンが鳴った。
ピンポーン。
マネージャーが迎えに来たようだ。
一緒に現場へ行ってくれるのは、何より心強い。
現場に到着すると、ディレクターが笑顔で出迎えてくれた。
「今日はありがとうね。なかなか受けてくれる人がいなくて。」
――それは、そうだろう。
好き好んで人前で裸になりたがるアイドルなんて、そうそういるわけがない。
「本日はよろしくお願いします。」
軽く頭を下げ、そのまま控え室に案内された。
与えられたのは、なんと個室。初めての待遇だった。
部屋のテーブルには、種類豊富なお菓子と、明らかに高そうな焼き肉弁当が並んでいる。
「ありがたいけど、お腹ぽっこりになるのは困りますね。」
「持ち帰ってもいいって言われてるから、ありがたくあとでいただきましょうね。」
そんな話をマネージャーとしながら、衣服を脱いでいく。
トップスを脱ぎ、ボトムスを脱ぎ、下着姿になる。
念のため、マネージャーにチェックしてもらった。
「相変わらず無駄な脂肪がなくて、綺麗な体ね。……もうちょっとおっぱいがあればねぇ。」
……一応、Cカップはある。
けれど胸で勝負するには、どう考えても物足りない。
「葵ちゃんって、平均点は高いのに、飛び抜けたものがないのが惜しいのよね。」
その言葉には、反論できなかった。
自分でも、よくわかっている。
だからこそ、誰もやりたがらない今回の仕事に私は挑もうとしているのだ。
こういった仕事を丁寧にこなして、現場の信頼を積み重ねていく。
誰かの記憶に残るように、コツコツと。
そんな決意を胸に、下着を外してバスローブを羽織る。
そのタイミングで、ドアがノックされた。
「……行ってきます。」
両手で頬をパチンと叩き、気合いを入れてスタジオへと向かう。
スタジオに入ると、そこにいたのは全員女性スタッフだった。
その点だけは、心底ホッとした。
「バスローブ、お預かりしますね。」
深く息を吸い込み、そして静かに吐き出す。
そのあとで、ゆっくりとバスローブを脱いだ。
女性ばかりとはいえ、全裸なのは自分ひとり。
その事実が、想像以上に恥ずかしかった。
スタッフが淡々とセンサーを貼りつけていく。
肩、腕……順番に肌へと器具が貼られていく。
「これって、途中で剥がれたりしませんか?」
「はい、大丈夫ですよ。汗をかいても外れませんし、痕も残りませんから安心してくださいね。」
なるほど、と思った瞬間――
胸元に鋭い感触が走り、思わずビクッと身をすくめてしまった。
「……!」
気づけば乳首にセンサーが貼られていた。
それどころか、乳房の上下左右にも、丁寧にセンサーが添えられていく。
「そんなところにも貼るんですか……?」
「はい、胸の揺れや微細な動きも必要なんです。だから裸でお願いしてるんですよ。」
納得するしかない。
――いや、やっぱりおかしくないか?
次々と、お腹、お尻、脚……全身にセンサーが貼られていく。
ようやく終わったかと思った、そのとき。
「すみません、足を開いてもらえますか?」
「……え?」
何を言われたのか一瞬理解できず、間抜けな返事をしてしまう。
足を開く? なぜ?
「性器の動きもデータとして記録しますので。」
意味がわからなかった。
性器の動き? そんなもの、記録してどうするというのか。
困惑してマネージャーの方を見ると、彼女は申し訳なさそうに両手を合わせて、まるで“お願い”とでも言うかのようにしていた。
――資料には、そんなこと書いてなかったのに。
裏切られたような気がした。
けれど今さら後には引けない。
「……仕方ないか。」
観念して、足を肩幅ほどに開いた。
「綺麗に処理されていますね。貼りやすくて助かります。」
女性スタッフの言葉に対し、思わず気まずい笑みが浮かぶ。
大陰唇にひとつずつ、そしてワレメの上あたりにさらにひとつ。
「うっ……!」
思わず、声が漏れた。
そのあと、肛門にも冷たいセンサーが貼り付けられた。
――もう、どうにでもなれ。
羞恥も抵抗も、どこか遠くに吹き飛んでいた。
まずは、ストレッチから始まった。
これは事前に動きの見本動画をもらっていたので、特に問題ないと思っていた。
――思っていた、のだが。
「……しまった。裸で練習しておくべきだった。」
服の有無で、こうも感覚が違うとは思わなかった。
肌が空気に触れるだけでも妙に意識してしまい、動きが縮こまってしまっているのが自分でもわかる。
「もうちょっと、のびのびやってねー。」
ディレクターの明るい声がスタジオに響いた。
深く、深く息を吸い込む。
羞恥心を押し込め、意識を“表現”に集中させる。
――プロなんだから。
そう自分に言い聞かせ、堂々と動くことにした。
それでも、足を大きく開くストレッチのときは、やはり顔が熱くなるのを感じる。
誰も責めてこないのに、まるで自分だけが異物のような気がして、胸の奥がざわついた。
いろいろな動作を一通り収録し、いよいよ最後のパート――ヨガへと入った。
これは特別に、プライバシーを尊重して囲いの中で行われることになった。
誰にも見られていない。
スタッフは全員、囲いの外でモニター越しに確認するだけ。
……それなのに、私は囲いの中で、たった一人、妙に緊張していた。
「では、最初はハッピーベイビーポーズからお願いします。」
仰向けになり、脚を高く持ち上げて両手で足裏を掴む。
その瞬間、股が大胆に開かれ、自分でもワレメが真正面にさらされているのがわかった。
空気に触れるそこがヒヤリとして、羞恥で喉が詰まる。
「……っ、やば……。」
誰もいないのに、見られている気がしてならない。
空間そのものが、自分の恥ずかしい部分を凝視しているような錯覚すらあった。
「次はダウンドッグ・スプリットです。」
四つん這いになり、お尻を突き出した状態から片脚を真上に伸ばす。
片脚が開かれたことで、臀部がさらに引き裂かれ、性器も肛門も全開になる。
自分でもはっきりと“晒している”とわかってしまい、うめき声のような吐息が漏れた。
「ブリッジポーズ、お願いします。」
背中を反らし、お尻を持ち上げ、胸を張る。
この体勢では前からも、下からも、隠すものなど何もない。
ただでさえ緊張しているのに、羞恥が高まり、太ももが震えた。
「チャイルドポーズです。」
正座から上体を倒し、額を床に付ける。
自然とお尻が突き出され、開かれた股の奥まで空気が入り込むような感覚にゾッとする。
誰も見ていない。――そのはずなのに、肌がじんじんと熱い。
「最後に、プラウポーズをお願いします。」
仰向けになり、脚を頭の向こう側に倒す。
背中が丸まり、腰が持ち上がる。
その姿勢で、何気なく自分の足の間から覗いた。
「……っ!?」
――そこには、自分の性器があった。
閉じたはずのワレメは、うっすら濡れて光っていた。
開かれた脚の間から、それが無防備に見えてしまっている。
誰にも言われていないのに、自分で自分を見てしまった。
濡れていることが、よりにもよって自分の目でわかってしまった。
羞恥心が一気に膨れ上がり、呼吸が乱れる。
「……やだ……なんで……。」
恥ずかしさに押し潰されそうになりながらも、体勢を崩すわけにはいかなかった。
この収録を無事に終えること――それだけを考えて、私は震える脚でそのポーズを保ち続けた。
「OKです、お疲れさまでしたー!」
スタッフの声と同時に、囲いが取り外される。
一気に解放された空間に出た私は、立ったままぼうっとしていた。
頭が熱いのか冷たいのか、自分でもよくわからなかった。
そのままの私に、スタッフが近づいてくる。
手早く体に貼られていたセンサーを外していく。
その作業をぼんやり眺めていたら、スタッフの手が股間のセンサーにかかったところでピタッと止まった。
――あ。
(……そうだ、濡れてたんだった。)
その瞬間、スタッフは何を思ったのか、ワレメを軽く開くようにしてティッシュで拭きはじめた。
「え!? ちょ、ちょっと待って!自分で拭きます!!」
思わず叫んで、ティッシュを奪い取る。
あわてて背中を向けて、自分で拭いた。
――なんて、情けない姿だろう。
羞恥と混乱が頭をかき乱す中、マネージャーが急いでローブを持ってきてくれた。
くるまるように羽織ると、ようやく自分を取り戻した気がした。
そのとき、ディレクターが満足そうに言った。
「すごく良かったわ。ね、ちょっとこれ見てくれる?」
見せられたモニターには、3Dモデルになった“私”の姿が映っていた。
自分の動きを完全に再現しているアバターが、リアルに体を動かしている。
胸が揺れ、肌が伸び、体勢に合わせて筋肉のラインが浮き出て見えた。
「ここがすごいのよ。」
そう言いながらディレクターはアングルを下にして、モデルの脚を思いっきり開いた。
性器が、まるで生きているかのように“クパッ”と開いているのがわかる。
質感すら伝わってくる映像に、私は思わず目を覆った。
「わ、やめてください……っ!」
「ごめんなさいね。こんな完璧なデータなかなか取れないから、ちょっとはしゃいじゃって。」
悪びれる様子もなく、ディレクターは軽く笑った。
「……あの、このデータ……外部には出ないですよね?」
「出すわけないでしょ。私以外、触れられないように管理しておくから安心して。」
信じるしかなかった。
私は黙ってうなずき、再びモニターに目を向けた。
そこでは、ヨガの恥ずかしいポーズを次々ととる“裸の私”が、当たり前のように動いていた。
完璧に、正確に――そして、容赦なく。
エピローグ
私がモーションキャプチャーの代役を務めた、あの有名アイドルがスキャンダルで活動休止になったらしい。
あんなに恥ずかしい思いまでして協力したのに、ゲーム自体がお蔵入りになるかもしれない――そう聞かされて、さすがに少し落ち込んでいた。
そんな中、マネージャーから思いがけない話が舞い込んできた。
「あのアイドルの代わりに、葵ちゃんをゲームのキャラクターにしたいって話が出てるの。」
……えっ?
最初は、耳を疑った。
どうやら例のディレクターが、私の頑張りをしっかり評価してくれていたらしい。
社内では当然反対意見もあったそうだ。
“売れてない無名タレントをゲームの顔に?”と。
でもディレクターは、堂々と言い切ったそうだ。
「このボディのデータは、彼女のものです!」
その場で、私のモーションデータを堂々と披露してみせたらしい。
結果として、代わりを立てるくらいなら、このまま“葵”で行ってみよう、という流れになったそうだ。
……あくまで「らしい」話ばかりだけど、マネージャーからの報告はそんな感じだった。
「イヤなら、断ることもできるけど……」
そう言われた瞬間、その言葉を遮るように返していた。
「やります!」
私の口からはっきりと、そう言っていた。
私にとって、これが初めての“ちゃんとした”仕事だった。
後日、顔のモーションも撮影する予定らしい。
それはもう、すごく嬉しかった。
ただ――
ひとつ、気がかりなことがある。
私のモーションデータを「みんなの前で見せた」らしい、という点だ。
“みんな”って、当然、男性もいたよね……?
……いったい、どこまで見せたんだろう。
そんな不安を胸に抱えながら迎えた顔の撮影当日。
なぜか、やたらと男性社員の数が多かったのは――また別の話。
END
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