【第四話「究極の芸術」はこちらから↓】
「そもそも、その女性が当店のお客様かどうかもわかりませんし。」
女主人は静かに口を開いたが、その声音にははっきりとした拒絶の色がにじんでいた。
正直、断りたい案件だった。
目の前に座る若い男――二十歳そこそこだろうか。
ブランド物の時計も財布もなく、身なりは安っぽくはないが、決して裕福とは思えない。
お金があるようにも見えないのに、なぜこの“裏の商売”を知っているのか。
どこから情報を得たのかも不明だ。
女主人の中に、探りを入れる時間が欲しいという警戒心が生まれる。
「ここの顧客だと言うことはわかっています!何度も入っているのを見ています!」
…ストーカー気質もあるのか。女主人は内心で吐息を漏らしながらも、表情は崩さない。
もう少し話を聞いてみるか――そう判断した。
「彼女を用意できるとして、いったいどうなさりたいのですか?」
女主人が問いかけると、男は一瞬、目を輝かせた。
「彼女の体の型を取りたいんです!彼女の水着の姿を見て衝撃が走りました!彼女の体こそ僕の理想の体なのです!」
その言葉は、抑えきれない熱情そのものだった。
今までありそうでなかなか無かった案件だ。
眠らせている間に型を取る――不可能ではない。
「それは我々が型を取るのではダメなのですか?」
試すように尋ねると、男は即座に首を振った。
「ダメです!彼女の体に傷1つ付けてはいけません!あの女神のような肉体を僕の手でコピーしたいのです!」
女主人は、ふと息を呑んだ。その青年の異様な情熱に、思わず押されそうになる。
狂っている。しかし、同時に妙な純粋さがあった。
「ご存じの通り彼女は特別な存在です。料金も5倍ほどいただきますがよろしいですか?」
「大丈夫です。」
男の手には一枚の紙が握られていた。
…いや、宝くじか?
「一等は当たりませんでしたが前後賞が当たりました。これをお渡しします。」
なるほど、幸運の代償か――面白い。
「わかりました。宝くじが本物か確認してからご連絡いたします。悪いようには致しません。」
そっと微笑みを浮かべるのであった。
後日。
指定された場所に、男は少し緊張した面持ちで足を踏み入れた。
室内は静かで、まるで高級なホテルの一室のように整えられている。
照明は落とされ、わずかな間接光だけが床をやわらかく照らしていた。
女主人と、彼女の隣に立つ助手と思われる女性が待っていた。
助手は清潔な白衣をまとい、無表情で控えている。
「お待ちしておりました。」
女主人は穏やかな声でそう言い、そっと頭を下げた。
その仕草には上品さがありながら、どこか舞台の幕が上がるような緊張感も伴っていた。
彼女の前には、真っ白なシーツが掛けられた長い台。
その上に、ひとりの女性が静かに横たわっている。
呼吸は落ち着いており、完全に眠っているようだった。
「こちらでお間違えありませんね?」
女主人の手がリモコンを押す。
パッとスポットライトが点き、彼女の顔を明るく照らした。
その瞬間、男の胸が一気に高鳴る。
夢にまで見たその女性――テレビやステージ、雑誌で何度も目にした、完璧な輪郭。
だが、今はそこに確かに“生身”の彼女がいる。
「ありがとうございます。」
そう呟いた声は、震えていた。
手のひらが汗ばんでいるのも気づかないほど、ただ彼女の姿に見入っていた。
「ご存じの通り、彼女はアイドルグループのセンターです。些細な粗相も許されません。」
女主人の声が、静けさの中でやわらかく響く。
それは警告ではなく、あくまで“釘”であり、“儀式”のようでもあった。
それはそうだ、と男は心の中で頷いた。
「ですので今回は、私と助手も作業の手伝いをしたいと思います。」
その申し出に、男は心の底から安堵した。
一人では時間がかかりすぎると思っていた。
細かいラインや凹凸、皮膚の柔らかさの再現――完璧を目指すなら、助力は不可欠だった。
それに、ここの女主人は評判が良い。
いや、良すぎる。
裏で名が通るだけではなく、あらゆる依頼を“美しく”仕上げると噂されている。
彼女の手腕を見てみたいと、心のどこかで思っていた。
「わかりました。よろしくお願いします。」
男は深く頭を下げた。
目の前の彼女は眠っている。まぶたを閉じ、無垢な姿で、そこにいる。
ついに――
ついに、彼女の型どりが始まる。
まずはシーツを外し、彼女の体を確認させてもらう。
助手が無言で近づき、丁寧な手つきでシーツをすべらせた。
現れたのは、まさに理想の体だった。
白く、なめらかで、陶器のように澄んだ肌。
光の加減で淡く反射するその表面には、無駄なものが一切なく、筋肉と脂肪が完璧なバランスで共存していた。
「ホクロもあまりないのか。すごいな……」
自然にこぼれた言葉だった。
まるで天から与えられた肉体。整いすぎていて、どこか現実感が薄い。
だが、確かに“今”ここに横たわっている。
視線をゆっくりと下へ送る。
そこは、どこまでも滑らかで、まったくの陰りがなかった。
処理の跡すら見えないほど、整えられている。
「よかった……毛が生えていたらどうしようかと……」
つぶやきは誰にも届かないような微かな声だったが、隣にいた女主人がかすかに笑った気がした。
型取りには支障となる要素があってはならない。
その意味で、この準備はすでに“芸術の域”に達していた。
女主人が手を伸ばし、そっと彼女の足を開いた。
抵抗などあるはずもなく、ただ静かに、その奥が露わになっていく。
空調のわずかな風にさえ神経が触れるほどの静寂が室内に満ちていた。
「ここまでも美しいなんて……」
わずかに閉じられたその奥――神聖なものを覗いてしまった罪悪感に、呼吸が浅くなる。
自分が見てはいけないもの。触れてはならないもの。
まるで美術館の奥に封印された一点物の芸術作品を、誰よりも近くで覗き込んでいるような背徳感。
助手が小さな器具を手に取り、ためらいもなくその柔らかな隙間を開いていく。
その動きには職人のような迷いのなさがあった。
わずかに覗いた、まだ隠れていたもの。
花がそっと顔を出すように、うっすらと、その内側が明かされていく。
女主人の指が、その一部に触れたかと思うと、ごく自然な動作でわずかな皮膜を押し上げた。
淡く光る小さな粒が、控えめに、その存在を主張していた。
それは、決していやらしさではなく――美しかった。
圧倒されるような純粋さと、信じがたいほどの完成度。
自分の存在が、ただの観察者に過ぎないことを思い知らされる。
(……もう、死んでもいい)
そんな感覚に、全身が包まれた。
ついに、型どりが始まる。
「こちらを使ってみませんか?」
女主人が静かに声をかけた。
その手には、どろっとした半透明の液体が入った小さな容器。光の加減で、ねっとりと糸を引いているようにも見える。
「これは?」
「我が社で開発した型どり用のシリコンです。肌に優しく、精密な転写が可能でして。……手を出していただけますか?」
言われるがまま、右手を差し出す。
女主人は指先で静かに液体をすくい取り、男の手のひらにそっと流し落とした。
生ぬるい感触。
しかしすぐにひんやりと冷たくなり、肌にぴたりと吸い付いた。
液体は自然と広がり、皮膚の細部まで覆ったかと思うと――すっと固まった。
そっと剥がすと、まるでゼラチンの膜を剥ぐようにすんなりと剥がれ、そこには男の指紋や皺までも克明に写し取られていた。
「すごいな……」
思わずこぼれた賞賛に、女主人はわずかに唇を歪めた。
「ただし、時間との勝負になります。お使いになられますか?」
その言い方には、どこか挑発的な響きがあった。
“あなたに使いこなせるのかしら?”――そんな目で見ている気がした。
だが、男も黙って引き下がるわけにはいかない。
子供の頃から父親の影響で特殊メイクを学んできた。こうした作業に対しては、それなりの誇りと覚悟がある。
「よろしくお願いします。」
覚悟を込めて答えると、助手が無言のまま彼女の体をヒョイッと持ち上げ、専用の器具へと運び始めた。
その一連の動きの滑らかさに、思わず目を見張る。
いくら軽いとはいえ、眠った状態の人間を持ち上げるのは至難の業のはずだ。
だが、助手は機械のような正確さで固定具へと彼女を繋げ、わずかなぐらつきもないように体勢を整えた。
それはまるで――
彼女自身が、型取りに自ら協力しているような完璧な立ち姿だった。
「それはなんですか?」
女主人と助手が彼女の手に何かを被せているのに気づき、尋ねた。
「指紋を取れないようにですね。申し訳ありませんが、こちらはご了承ください。」
確かに、先ほどのシリコンの性能を思い出せば納得だった。
指紋の個人情報はあまりにも大きすぎる。
逆に言えば――手のひら以外は、完璧にコピーできる。
問題ない。十分すぎる。
「では、はじめましょうか。私は腕と足を担当します。お客様は体をお願いします。」
女主人の提案に、男は軽く頷いた。ありがたい。
一人ではとても間に合わない。完璧な仕事を目指すには、手分けが必要だ。
女主人は無駄のない手つきで、彼女の腕にシリコンを塗り始める。
その手際にはまるで舞を思わせるような美しさがあった。
見惚れている場合ではない――そう自らを奮い立たせる。
まず、肩と鎖骨の辺りに塗布していく。
肩のラインは柔らかく、しかし中にはきちんと筋肉が通っている。
鎖骨はくっきりと浮かび、まるで器のように窪んでいた。
(ここに酒を注いで、飲んでみたい……)
ふと、そんな邪な想像がよぎる。だが、すぐにそれを振り払い、集中する。
次は――バスト。
その瞬間、助手が口を開いた。
「そのままでよろしいですか?」
「え?」
聞き返す間もなく、助手はそっと、彼女の胸の先端に触れた。
わずかな刺激に反応するように、それはすぐに形を変えて立ち上がる。
「こちらの方が、美しいかと。」
その言葉に、思わず見惚れてしまう。
確かに、彼女のバストはこれで完成形なのだと納得せざるを得なかった。
「ありがとう。あなたのおかげで、完璧に出来そうです。」
無表情だと思っていた助手が、ほんのわずかに――ほんの一瞬だけ、口角を緩めたように見えた。
急がなければ。
最高の状態が、今ここにある。
男はシリコンをたっぷりとすくい、彼女の胸を丹念に覆っていく。
滑らかな曲線、均整のとれた厚み。触れる指先に、精密な芸術品を扱うような緊張感が宿る。
そのままおへそへと下り、さらに視線を下げる。
足が肩幅に開かれていたこともあり、その奥までも自然と露わになっていた。
(完璧な角度だ……)
照明の加減も、固定の角度も、すべてが計算され尽くしているように思えた。
――この女主人、恐ろしい。
美を再現するためなら、一切の妥協を許さない。
背中、臀部へと進み、流れるように塗布を終える。
同時に、女主人も作業を終えていた。
お互いに塗った箇所を確認し合い、自然と目が合う。
その視線の中にあったのは、ライバル心でも、驚きでもない。
ただ、ひとつの確かな“敬意”。
お互いに、「やるな」と無言で認め合った。
職人同士のシンパシーが、確かにそこにあった。
少し時間が経ち、シリコンはすっかり硬化した。
光沢を帯びた外殻は、まるで彫刻のように冷たく、完璧に彼女の形を封じ込めている。
「彼女の体に傷が付いてはいけませんので、こちらで作業いたします。」
女主人が小さな器具を手に取る。
金属の刃先は極細で、角度を間違えれば肌に触れてしまいそうなほど繊細だった。
その刃を慎重に、横からそっと差し込み、シリコンにだけ切れ目を入れていく。
助手も息を詰めるようにしてサポートし、ついに――
前後にパカリと分かれる型が完成した。
男はすぐに駆け寄って確認する。
驚くほど精密だった。
肌理の細かさ、胸の先に浮かぶごく小さな凹凸、そして最も秘められた部分の入り組んだ形状までも……完璧に再現されていた。
「ありがとうございます……完璧です!これで……彼女の像が造れます……!」
思わず涙が出そうだった。
ここまでの精度を得られるとは思っていなかった。
満たされた。そう思った。
だが。
安堵と興奮が落ち着き始めたところで、女主人と助手が彼女の体をゆっくりと起こし、ソファに座らせ始めた。
柔らかなクッションに体を沈め、脚を――開いていく。
膝は立てられ、股は大きくM字を描いた。
助手の手で、その柔らかく閉じた扉が、そっと開かれた。
「な、なにをしているんですか……!?」
思わず声が出た。
だが、女主人はあくまで落ち着いた口調で言う。
「高いお金を払ったのです。……苦しそうですから、これくらいは。」
微笑すら浮かべながら、女主人は男の方へと歩いてきた。
そして、彼の腰元に手を伸ばし、ズボンのホックを外す。
(まさか……)
言葉にならないまま、解かれた布地の中から露わになったそれは、すでに限界に近かった。
抑え込んできた感情と欲望が、皮膚の表面から噴き出しそうに波打っている。
女主人はためらいもなく、指を絡め、ゆっくりとその表面を撫でるように扱きはじめた。
技巧などという言葉では表現できない。
まるで、彼の心を読んでいるかのような手の動き。
焦らし、解放し、また抑える。
「う、うお……っ!」
思わず、情けない声がこぼれた。
だが、それすらも彼女の掌の中で溶かされていく。
視線の先――
ソファに座らされた彼女は、まるで人形のように静かで、しかしその脚の奥には、夢に見たすべてが詰まっている。
女主人の手が速さを増す。
助手は彼女の身体に向かって、なにかを――まるで合図のように、動かした。
どれだけの時間が流れたのかは分からない。
ただ、気づけば息が荒くなり、額に汗が浮いていた。
そして――
意識が、真っ白になった。
自分の目の前、彼女の体に白濁とした液をぶちまけていた。
特殊技術に賭けてきた青春、その全てを吐き出すように彼女の体を汚していった。
その瞬間、助手が中に入らないように陰部をぱっと閉じたのが見えた。
その動きすら、完璧だった。
(……この助手、家に来てくれないかな……)
快楽の中、そんなことを思うのであった。
「ありがとうございました!」
すっきりとした顔をした青年は、完成した型をまるで聖遺物のように大切そうに布に包み、両腕に抱えて出口へ向かっていた。
その足取りには、達成感と高揚感とが入り混じり、妙に軽やかだった。
「ちょっと待ちなさい。」
女主人の静かな声が背後からかかる。
青年が振り返ると、女主人は何かを手にしていた。
「例の宝くじ、1億当たっていたわ。おつりよ。これで芸術に励みなさい。」
手渡されたのは、小切手。
数字の並びに一瞬目を奪われ、すぐに青年の目が潤む。
夢の続きを現実に変えるための、完璧な燃料だった。
「ありがとうございます!正直、どうやって像を造るか悩んでいたんです!」
言葉には素直な感謝と、どこか少年のような無邪気さが滲んでいた。
女主人は小さく笑みを浮かべると、少し肩をすくめて言った。
「……私が言うのもなんだけど、お金は計画的に使った方が良いわよ?」
二人で笑い合う。
奇妙で、でもどこか微笑ましい光景だった。
青年が帰っていく。
音もなくドアが閉まり、静寂が戻った。
残されたのは、ひとりの女性。
ソファの上、まだ無垢な眠りの中で、ゆっくりと胸が上下している。
女主人はその姿をしばらく見つめていた。
「……さて、後処理ね。」
声に感情はなかった。
ただ粛々と、“次の工程”に移るだけの口調だった。
「これから一切証拠が残らないように洗浄をしないと。」
ゆっくりと彼女の脚へと歩み寄り、M字に開かれたその中心を覗き込む。
「しかし……嫉妬するくらい、綺麗ね。」
その呟きには、若干の吐息が混じっていた。
女として、職人として、そして――観察者としての本音だった。
「助手、例の柔らかい方のシリコンを持ってきて。」
呼びかけに、助手がすぐに返す。
「はい、こちらに。」
返事と同時に、助手の手にはすでに目的の容器が握られていた。
女主人はそれを受け取りながら、わずかに口元を緩める。
「……このアンドロイド、開発して良かったわ。」
誰にも聞こえない独り言。
それは満足と、自らへの賞賛と、ほんの少しの――孤独。
静かな空間に、液体のフタが開く音だけが響いた。
エピローグ
女主人の机の上には、ひとつの置物が置かれている。
それは淡い光を受けて、静かに佇んでいた。
女性器から肛門にかけて――繊細に、滑らかにかたどられた像。
あの日。
彼女が深い眠りの中にある間に、密かに型どりされたものだった。
テレビに映る彼女を目にするたび、女主人はその像にそっと指を這わせる。
まるで慰めるように、あるいは、讃えるように。
そして自分をも慰めるのであった。
そこにこもっているのは執着か、羨望か、それとも…。
さらに。
より柔らかく、伸縮に優れたシリコン素材を使って、彼女の内部――深部の構造までもが、完全に再現されていた。
そのデータを元にして、オナホールが開発された。
市販されることのない、特注品として企画されるはずだったが、試作品を市場に出すと――爆発的な人気となった。
あまりの生々しさと快感に、噂は瞬く間に広がった。
「触れた瞬間、誰でも恋に落ちる」
「身体が勝手に覚える」
そう評され、若者たちはこぞって手に入れた。
そして、内部には“処女膜”と呼ばれるごく薄いヒダが存在していた。
それは使用のたびに破れるように設計されており、ある者はその膜を破る快感に魅了され、毎回新品を購入した。
またある者は、逆に繰り返し使用することで自分の形に馴染ませ、唯一無二の所有感に酔っていた。
だが――
この製品の“元”が、あの大人気アイドルの身体だと、女主人以外誰一人知らない。
誰にも気づかれず、誰にも疑われることなく、彼女は今日もテレビの中で笑っている。
処女膜は、実際に存在した。
そう、彼女は――処女のままだ。
無意識のまま。
気づかれず、気づくこともなく。
多くの男たちに、思いのままに、陵辱され続けている。
それは――
もしかすると、女主人の嫉妬だったのかもしれない。
誰にも手の届かない“偶像”に、唯一触れられる立場にあった者の、
どうしようもない憧れと、どうしようもない怒り。
そして、それらを全て内包した冷たい美。
静かに、幕が下りる。
END
【第六話「マッサージ」はこちらから↓】




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