「…では、本日の会議は終了いたします。お疲れさまでした。」
ふー、やっと終わった。
今日は初めての、自宅からのオンライン会議だった。
本来なら新入社員の僕は参加しなくてもよかったのだが、「勉強になるし残業代も出るから、参加してみたら?」と先輩に言われて、出てみることにしたのだ。
睡眠時間は十分なはずなのに、どうしてああいう会議って、あんなにも眠くなるんだろうか。
ただ、みんな自宅から参加していたおかげで、先輩の部屋が少しだけ見えたのは正直うれしかった。
その先輩――加藤さん。
僕の教育係についてくれている、美人で仕事のできる人だ。
恋心を抱くなんておこがましい。僕にとっては、尊敬すべき「上司」であり「先輩」だ。
今日の会議でも、司会進行をこなしながら、自分の意見をはきはきと言い、しっかり存在感を出していた。
僕も、いつかはああいう存在になりたいと、心から思う。
……まあ、今回のオンライン会議を引き受けた理由の半分くらいは、明日が休みだという気楽さも大きいのだけれど。
翌日、特にやることもなくネットを彷徨っていた。
「暇だ。」
先輩とデートとかできればいいのに……。
そんなことをぼんやり考えながら、今度は仕事用のパソコンのデータ整理を始めた。
そこで、ふと昨日のオンライン会議のことを思い出す。
「勉強のために、録画しておいて後で議事録とか書くといいよ。」
そんなことを先輩が言っていた気がする。
うちで使っているアプリは会社独自のもので、基本的に普通に録画はできない。
ただし、双方の許可があれば、その間だけ録画できるようになっている。
任意のタイミングでオンオフができるので、大体は会議の本編が始まる前に全員の了承を得て、その部分だけ録画する決まりだ。
その録画データを確認してみることにした。
動画の時間を見ると――。
「え? 六時間?」
会議はぴったり二時間で終わったはずだ。
なのに表示されている時間は、その三倍。
再生してみると、どうやら僕の録画だけが弾かれず、そのまま接続された状態になっていたらしい。
まぁ、どうせ何も映っていないよな。
そう思いながら、会議終了後の部分をそのまま見続ける。
一人、また一人と切断されていく。
なにかあるとまずいので、基本的には男性社員が先に切断し、続いて女性社員が周囲をしっかり確認してから切断する、という暗黙のルールがある。
画面上の僕のアイコンも暗くなり、切断されているように見えた。
参加者のウィンドウが減れば減るほど、残った画面がどんどん大きく映し出されていく。
そして、最後に残ったのは――先輩だった。
画面いっぱいに大きく映る先輩。
「やっと終わったー!」
伸びをしながら、気の抜けた声でそう言う。
心臓が大きく跳ねた。
先輩は、まだつながっていることに気付いていない?
今すぐ再生を止めて削除すべきだと頭では分かっているのに、目が画面から離せなかった。
画面から先輩はいなくなり、しばらくするとラフな格好に着替えて戻ってきた。
そしてパソコンの前に座り、缶のチューハイを片手に晩酌を始める。
「先輩のこんな姿が見られるなんて…。」
それだけで、もう十分すぎるくらい幸せだった。
おそらく先輩は動画配信サイトかなにかで、お笑い系の番組を見ているのだろう。
お酒を飲みながら、ケラケラと楽しそうに笑っている。
その姿もまた、たまらなく可愛かった。
永遠に続いてほしいと思った時間も、やがて終わりを迎える。
「さて、お風呂入るかなー。」
そう言いながら、先輩はまた大きく伸びをして画面の外へ消えていった。
「お風呂か。」
さすがにここで着替えたりはしないよな――そう思いつつ、どこかで少しだけ期待している自分がいて、動画の再生位置を少し先に進めてみる。
だが、どうやら着替えとかは画面の外で済ませてしまったようだ。
その後も動画は、先輩の部屋と、そこに置かれたソファだけを、ただ淡々と映し続けていた。
「さすがにここで終わりか。でも、すごい幸せな時間だったな。」
職場では決して見ることのできない、先輩の気の抜けた姿。
それを覗き見してしまった後ろめたさよりも、胸いっぱいの満足感の方が大きかった。
そのままなんとなく再生を続けていると、画面の端に、ふと人影が映り込んだ。
「先輩、戻ってきたのかな?」
そう思って目を凝らすと、そこに映っていたのは、体と頭にバスタオルを巻いただけの先輩の姿だった。
「え?」
鼓動が一気に早くなる。
頭がくらくらしてくる。
あの、キリッとして隙のない先輩が、今は隙だらけの格好でそこにいる。
ますます「見てはいけない」と分かっているのに、視線は画面に釘付けになっていた。
先輩は、PCの前に置かれたソファに腰を下ろし、足を投げ出すようにして座った。
投げ出した脚と脚のあいだ、その暗がり。
見えそうで、まったく見えない。
拡大しても、明るさを上げても、結局何も見えなかった。
それでも、僕には十分すぎる光景だった。
やがて、先輩は何かに気付いたようにソファから立ち上がり、PCの電源を落とす。
そこで映像はぷつりと途切れ、動画は終わった。
ダメだと思いながら、さっきのシーンだけを何度も繰り返し再生し、僕は何度も果ててしまった。
結局、その休日は丸一日、この動画の編集だけで終わってしまった。
見えないその場所を、少しでもはっきりさせようと、明るさやコントラスト、拡大、コマ送り……ありとあらゆる方法を試して。
そして、睡眠不足のまま、翌朝の出社を迎えた。
「おはよう。今日はずいぶん眠そうね。ピシッとしなさい。」
出社早々、先輩に声をかけられる。
そう言いながら、先輩は自販機で買ったコーヒーを一本、何気ない仕草で僕に手渡してくれた。
視界に先輩の顔が入るたび、昨夜見続けたバスタオル姿が鮮明によみがえり、まともに目を合わせることができない。
そんな僕の様子を見ながら、先輩の口元にかすかな笑みが浮かんでいたことに――このときの僕は、まだ気付いていなかった。
そして、また金曜日の夜。
会社のオンライン会議が始まった。
「新人なのに積極的に参加して偉いな。」
「最近の若者はこういうの嫌がるからね。ははは。」
「無理強いすると、それこそパワハラだなんだと言われるからな。」
上司たちの何気ない会話が、スピーカー越しに響く。
――ごめんなさい。僕はそんな殊勝な人間じゃありません。
視線を移すと、画面には会議の準備をする先輩の姿が映っていた。
正直に言えば、僕がこの会議に参加する理由なんて、ただ一つ。
下心しかない“勉強”が、また始まろうとしていた。
睡魔に負けないよう必死に目をこすりながら、議事録を打ち込んでいく。
やがて会議は終盤を迎え――
「本日の会議は、これで終了です。」
……やっと終わった。
ほっとしたような、名残惜しいような複雑な気持ちを抱えつつ、苦行の時間が終わったことに安堵する。
上司たちが次々と切断していくのを見届け、僕もログアウト操作をした。
……はずだったのだが。
「やっぱり、これ……繋がったままだ。」
画面を確認すると、僕のアカウントは一見、オフラインになっているように見える。
だが、なぜか先輩のアプリとは依然として繋がった状態になっていた。
アプリの不具合なのだろうか……。
「本当にどういうことなんだろ……。」
答えの出ないまま、僕はモニターをじっと見つめ続けていた。
一回伸びをして、晩酌を始める――
どうやら、これが先輩の“オンライン会議後のルーチン”らしい。
前回は録画越しだったが、今回はリアルタイム。
そう考えると、胸の鼓動が落ち着かない。
つい僕も、缶ビールを開けてしまっていた。
先輩と同じタイミングで飲んでいるだけで、まるで一緒に晩酌しているように錯覚してしまう。
そして、先輩は缶を二つ飲み終えたあと、どうやらお風呂に入るらしい。
ただ、パソコンの画面に映っているであろう動画が気になるようで、先輩の視線はずっとモニターに向けられていた。
――そのまま、服を脱ぎ始めた。
「え!?」
本当に、目の前でシャツの裾をつまみ、そのまま頭の上へと脱ぎ上げる。
黒いブラジャーが目の前に現れ、僕は慌てて顔をそらした。
……が、本能には勝てなかった。
またすぐに視線が戻ってしまう。
「先輩……結構大きかったんだな。」
普段、意識したことなどなかった。
デスクの前に座っている姿からでは分からなかったが、こうして見ると――おそらくDカップ以上あるのだろう。
まぁ、童貞の僕には本物の基準なんて分からないのだけれど。
先輩はまだ画面を見つめたまま、今度はショートパンツに手をかける。
そのまま、ためらいなく下ろしていく。
上下お揃いの黒い下着。
モニター越しとはいえ、先輩が下着姿で目の前にいる。
もう興奮は限界だった。
右手がどうしようにも止まらなくなる。
「うっ!」
また、先輩で果ててしまった。
気づけば先輩は画面から姿を消しており、戻ってきたときには前回のようなタオル姿ではなく、ゆったりしたパジャマを着ていた。
その姿もまた、可愛らしかった。
……また、素晴らしい“コレクション”が増えてしまった。
出社日、先輩と目を合わせることができなかった。
会話の端々で優しくしてくれるその声が、かえって胸に刺さる。
心の奥に、じわじわと罪悪感がのしかかってくる。
それでも――オンライン会議があると、結局参加してしまう。
あの光景がもう一度見られるかもしれない。
そんな期待と後ろめたさが入り混じったまま、自分の行動を制御できなくなっていた。
次の会議、さらにその次の会議。
僕がログアウトすると、映像はきちんと切れた。
先輩のプライベートは、一切見られなかった。
それに少しがっかりした自分がいた。
だが同時に、どこかで安心している自分もいた。
――やっぱり、覗きなんて良くない。
あの動画は、誰の目にも触れないようPCの奥深くへ封印しよう。
そう思いながら迎えた、今回の金曜会議。
「お疲れ様でした。」
先輩のいつもの締めの言葉。
そして、今回――接続はつなぎっぱなしだった。
伸びをして、晩酌を始める――
いつものルーチン、いつもの「秘密の時間」の始まり。
「覗きは良くない」
そんな道徳的な気持ちは、もうどこかに吹っ飛んでいた。
先輩が缶を開けるのを見ながら、僕もそれよりも早いペースで酒をあおる。
どうにでもなれ、という気持ちだった。
前回は下着姿までだった。だったら今回は――もう、胸くらい見せてくれてもいいじゃないか。
酒がどんどん進む。
先輩と同じ空間にいるような錯覚と、高まっていく欲望に身を任せながら、ただただ画面を見つめていた。
そして、泥酔の気配が濃くなってきた頃――先輩が立ち上がった。
また、お風呂に入る時間らしい。
ゆっくりと、目の前でシャツを脱いでいく。
そのまま、ショートパンツにも指をかけ、腰を落としながら下ろしていく。
今日は、白のレースで上下を揃えていた。
淡く光を反射するような繊細な布地。
酔ってぐらつく視界の中でも、目が反らせなかった。
そして――
「星野君、見ているよね?」
先輩が、モニター越しにこちらへ向かって話しかけてきた。
心臓が、一瞬止まったような気がした。
一方的に覗いているだけだと思っていたのに。
まさか――気づかれていたなんて。
なんで、そんな当たり前のことを考えていなかったんだろう。
これまでのすべてが、一気に頭の中で再生される。
「何度も何度も私を覗くなんて、悪い子ね。」
職場で見せるような冷静な笑顔でもなく、晩酌中の無防備な笑顔でもない。
それは、まるでこちらの心を弄ぶような、妖艶な笑みだった。
息が詰まる。
心臓が掴まれているような感覚に陥る。
「いいわ、好きなだけ見なさい。」
そう言って、先輩は背中に手を回し、ブラのホックを指で軽く弾いた。
「プチッ」という音とともに、それは静かに解かれ――
あまりにも綺麗で、完璧なバストが、画面いっぱいにあらわれた。
そこで、意識が途絶えた。
気づいたときには、外がすっかり明るくなっていた。
慌てて起き上がり、録画していた動画ファイルを確認する。
……だが、動画は会議の終了と同時に終わっていた。
あの出来事は――夢だったのだろうか。
酔いがまわって、ついに幻覚を見てしまったのか。
それとも、記録されなかっただけで、現実に起きたことだったのか。
何度見直しても、証拠はどこにも残っていない。
次の出社日。
恐る恐る先輩に挨拶をすると、彼女はいつも通りの笑顔で「おはよう」と返してくれた。
まるで、何事もなかったかのように。
覗くのは、今日で最後にしよう。
会議の録画も、今日限りにさせてもらおう。
会議にはちゃんと参加する。
でも録画はしない。会議が終わったら、すぐにPCを落とす。
そうすれば、このモヤモヤした気持ちも、きっと消えてくれるはずだ。
そう心に決めて、今夜の会議に臨んだ。
「お疲れ様でした。」
無事に会議は終了した。
上司たちが次々とログアウトしていくのに合わせ、僕もアプリを閉じる操作をした。
……だが。
やはりというべきか、先輩との接続は切れていなかった。
いつも通り、缶チューハイを手に晩酌が始まる。
そして、先輩は立ち上がり、風呂に向かう準備を始めた。
モニターの前で、シャツを脱ぎ、下着姿になる。
――ここまでは、何度か見た景色だ。
けれど、今回は少し様子が違った。
先輩が、ほんの少しだけ迷うような仕草を見せたのだ。
なんだろう、と思って見ていると――
おもむろに、ブラジャーのホックに手をかけた。
そして、そのまま外してしまった。
あの夜に見た光景は、やはり夢なんかじゃなかったのだ。
脳裏に焼き付いていた、形の整った綺麗な乳首――それが、画面に映し出されていた。
「先輩……綺麗です。」
届くはずもない言葉が、無意識に口をついて出た。
そして先輩は、くるりと背を向ける。
そのまま、ショーツに指をかけ、すっと下ろした。
画面に映ったのは、丸く、柔らかそうで、思わず見とれてしまうような尻だった。
そのまま振り返り、モニターの方を向く。
一糸まとわぬ、先輩の姿。
柔らかそうで美しいバスト。
丁寧に整えられた陰毛。
その全てが、あまりにも完璧で――息を呑んだ。
そして先輩は、何も言わず、ゆっくりと浴室の方へと歩いていった。
呆然としていた。
“これで最後”と決めた夜に――
僕は、とんでもないものを見てしまったようだった。
本来なら一生見ることなどないはずの、先輩の全裸。
画面の向こうで、それはあまりにも自然に、あまりにも堂々と映っていた。
股間は、痛いほどに膨らんでいる。
だが、不思議なことに――今回は、どうしても“それ”ができなかった。
何度も、先輩で果ててきたはずなのに。
今この瞬間だけは、まるで違う。
時間がしばらく経ち、先輩がバスタオルを巻いて戻ってきた。
そのまま、どかっとソファに腰を下ろす。
手には、アルコール度数の高そうな缶チューハイ。
それを、口をつけては躊躇なく、グビグビと飲み干していく。
そして――
左手に缶チューハイ。
そして、右手が――股間の方へと動いていった。
「え? まさか先輩……。」
以前、どれだけ明るさを調整しても見えなかった“その部分”が、今日ははっきりと見えた。
右手でクパッと割られ、ピンク色の粘膜が映し出される。
そして――中指が、ゆっくりと、妖艶に動き始めた。
「あの先輩が……オナニー?」
信じられなかった。
けれど、それは間違いなく現実だった。
さっきまで迷っていた僕の右手も、もう止められなかった。
やや距離があるため、音など聞こえるはずもないのに、クチュクチュという濡れた音が耳に響く気がする。
先輩の、感じている顔が、たまらなく可愛い。
いつのまにかバスタオルは外れ、左手は乳首をいじっていた。
先輩の全裸での自慰行為。
まさか、こんな下品な姿を――あの完璧な先輩で見てしまうなんて。
先輩の指の動きがだんだんと早くなっていく。
それに合わせて、僕の手の動きも自然と加速する。
「先輩……一緒に……。」
ラストスパートに入り、先輩が大きくビクッと身体を跳ねさせた。
その直後、僕の先端からも白いものが勢いよく飛び出す。
はぁ、はぁ……。
呼吸が乱れる。
こんな激しい絶頂は、生まれて初めてだった。
息が少しずつ整い、ふとモニターに視線を戻すと――
そこには、先輩の顔がドアップで映っていた。
そして、その口元がゆっくりと、ニヤリと笑う。
「星野君、落ち着いた?」
翌日、先輩の家に招かれた。
部屋に入ると、モニター越しに何度も見た、あの部屋とソファがそこにあった。
「ここで先輩が……」と考えるだけで、下半身に血が集まっていくのがわかる。
そんな僕の頭を、先輩が軽く叩いた。
「変なこと考えないの。」
片手には、コーヒーの入ったカップが二つ、お盆に載せられていた。
二人でクッションに座り、ローテーブルを挟んで向かい合う。
この後、覗いていたことを咎められるのだろうか――
通報なんてされたら、性犯罪者として人生が終わってしまう。
「あのね。」
先輩が口を開いた、その瞬間――
「申し訳ありませんでした!」
思わず、完璧な土下座を決めていた。
許されるとは思っていない。せめて、誠意だけでも伝えようと。
最悪の場合は、示談でも……。
「星野君、顔を上げて。」
先輩の、いつもの優しい声が聞こえた。
恐る恐る顔を上げると、そこには困ったような表情の先輩がいた。
「星野君、話をちゃんと聞いてね。何かおかしいとは思わなかった?」
――確かに。
オフラインにしたはずなのに、毎回接続が続いていた。
それが、すべての始まりだった。
「あなたに渡した仕事用のパソコン、セットアップしたのは私よ?」
「……どういうことですか?」
話の筋が見えない。
「あなたのパソコンは、私が自由に操作できるようになってるの。」
……つまり。
「つまり、あなたが私の部屋を覗けたのは、私の意思なの。」
「は……?」
変な声が出てしまった。
まさか、先輩が――わざと見せていた?
「私って、自分で言うのもなんだけど、ちょっと変態なの。……幻滅した?」
「変態って……別に幻滅はしませんけども。」
むしろ、遠くに感じていた先輩が、ぐっと身近に感じられた気がした。
「それでね、ここからが本題なのだけど。」
「本題……ですか?」
「定期的に、私の部屋を“覗いて”ほしいの。」
……また突拍子もないお願いが来た。
「なんでそんなことを……?」
先輩は少し恥ずかしそうに言う。
「私ね、覗かれることで興奮するの。でもこのご時世、不特定多数に見せたら危険でしょ? すぐ拡散されたり、個人情報が特定されたり……」
それは確かに、リスクが大きい。
「あなたには何回か“流出してもいい”範囲で見せたけど、誰かに言うこともなかったよね?」
……言えるわけがなかった。
録画だって、手元に残していたとはいえ、どこかに公開する気なんてさらさらなかった。
「だから、あなたは信用できる。もちろん、お礼はする。お金が欲しければ渡すし、私の体が欲しければ、叶えるわ。」
……なんだか、頭が痛くなってきた。
童貞の僕にとって、それは確かに“チャンス”だった。
だけど――。
「わかりました。でも、お金も体もいりません。」
少し驚いた顔をする先輩。
「……もしかして、私のこと興味ない? 顔も身体もそんなに悪くないと思うんだけどな。」
そう言いながら、自分の胸をフニフニと揉んでみせる。
……先輩ってこんな人だったのか。
「あのですね、僕は先輩のこと尊敬してます。だからこそ、お金や身体をもらってしまったら、仕事に支障をきたしそうなので受け取れません。」
――まぁ、そもそも覗いてた時点でどうなのかという話ではあるが。
「そっか。良かった。イヤイヤ私の裸を見てたのかと思っちゃったわ。」
……それは絶対にない。
どれだけ先輩の身体で抜いたと思ってるんですか。
「じゃ、契約成立ね。それでね、覗くときはこのパソコンを使ってちょうだい。」
ノートパソコンを一台、手渡された。
「さすがに、仕事用のPCじゃ続けるの難しいからね。あと――私を見るとき、あなたのことも録画するから、忘れないでね?」
……深層を覗くとき、ってか。
「私ね、私の恥ずかしい姿を見てオナニーしてる男の子の姿を見るのも好きなの。」
先輩は自分で「ちょっと変態」と言っていたけど、たぶん「かなり」変態だと思う。
先輩は、僕の隣に座って、パソコンの使い方を丁寧に教えてくれた。
覗いていい場所は――今いるこのリビング、そして浴室とトイレ。
「わかりました。暇なとき、先輩を見るようにします。」
「ありがとう。それでね……星野君、ちょっとこっち向いて?」
言われるままに顔を向けると――
先輩の唇が、僕の唇にそっと触れた。
「ふふ。これくらいは、受け取りなさい。」
はにかんだように笑う先輩が、あまりにも可愛くて、心臓が止まりそうだった。
エピローグ
それからというもの、暇さえあれば、僕は先輩を覗いている。
リビングで普段通りの生活をしている先輩。
お風呂に入って、鼻歌を歌っている先輩。
……トイレは、ちょっと罪悪感が強くて、あまり見ていない。
それに、まだ“女性に幻想”を持っている自分としては、トイレで踏ん張っている先輩の姿は、正直見たくなかった。
その話をすると、先輩はあっけらかんと笑って言った。
「私、快便だから踏ん張ったりしないよ?」
――羞恥心って、どこに置いてきたんだろう。
そんな僕に、先輩は「お礼だから」と言って、食事に連れて行ってくれたり、水族館に誘ってくれたりもした。
デートのようで、内心すごく嬉しかった。
「この遊びも、私が彼氏できるまでね。」
先輩は、たびたびそう言う。
私生活を覗いていればわかるけど、男の影はまったく見えない。
もしかしたら、外で会っているのかもしれないけど……それは、分からない。
だからこそ、先輩の“彼氏”に立候補するために、今、僕は仕事をがんばっている。
早く先輩という教育係の手を離れ、自分の足で仕事を任せてもらえるように。
そのときに、ちゃんと告白しよう。
この、ちょっと倒錯した“遊び”を続けられる彼氏になるために。
END


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