我が家は代々続く床屋だ。
両親が二人三脚で切り盛りしており、地元ではそこそこ評判もいい。
特に最近は、女性向けの「産毛剃り」が人気だ。
背中やうなじのムダ毛が気になるという女性は案外多いらしく、顔剃りだけの目的で若いお客さんが訪れることもある。
そんな繊細なカミソリ捌きに、僕は子供の頃からずっと憧れていた。
いつか自分も、父のようにプロの手つきでカミソリを操れるようになりたい——。
そう思いながら、今はまだ理容師免許を取る前の見習いだ。
高校を卒業したら専門学校に通う予定だけれど、それまでは店の手伝いや掃除、予約管理などが僕の役目である。
ただ、腕がないわけじゃない。
小さい頃から、父や母、自分自身の産毛を剃って練習を重ねてきた。
正直、自信はある。
プレッシャーのかからない身内相手だったとはいえ、そこらの理容師には負けないという自負さえある。
もちろん、国家資格がない今はお客様にカミソリを当てることは許されていない。
だが、いつか父を越えるために、僕は今日も密かに修行を続けている。
「放課後、屋上で待っています。」
そんな手紙を受け取ったのは、今朝のことだった。
直接手渡されたわけじゃない。
登校して下駄箱を開けたら、白い封筒がそっと置かれていたのだ。
「今どき手紙を下駄箱にって……父さんのマンガかよ。」
思わず苦笑してしまった。
こんな古風なやり方、冗談か悪戯かもしれない。
でも、封筒に書かれた文字はどう見ても女性のものだった。丸みがあって、どこか丁寧で。
……万が一、本当に女子からだったら?
すっぽかすのは、男としてどうかと思う。
よし、行こう。たとえ騙されたとしても、後悔しないように。
そんな“保険”を自分の中に用意して、放課後、僕は屋上へ向かった。
鉄の扉をそっと開け、外の様子を覗き込む。
……いた。
風に髪をなびかせながら、ひとり静かにたたずむ女子生徒の後ろ姿。
制服のスカートが揺れている。
(……本当に、ラブレターだったのか?)
鼓動が早くなるのを感じながら、おそるおそる声をかけた。
「あのー……僕のこと、呼び出しました?」
その声に反応して、彼女がゆっくりと振り返る。
目が合った瞬間、僕は思わず息を呑んだ。
吉岡先輩——。
学校中で“クールビューティ”と囁かれる美人の先輩だ。
長い黒髪、切れ長の目。誰もが一目置く存在。
「……安田君、ですよね?」
吉岡先輩が、確かめるように僕の名前を呼んだ。
正直、先輩とはこれまで全く接点がなかった。
たぶん僕の名前も、最近ちゃんと認識したくらいだろう。
もちろん、ラブレターなんかじゃなかった。少し、いやかなりがっかりだ。
でも——。
吉岡先輩と話せるなんて、そうそうあることじゃない。
これがどんな用件だとしても、悪い気はしなかった。
「あの……手紙、くれましたよね? いったい、どのようなご用件ですか?」
色々と話してみたい気持ちは山々だったけれど、まずは何より理由を聞くべきだと思った。
吉岡先輩は、何も言わずに一歩近づいてきた。
風に乗って、ふわりと甘くて涼やかな香りが鼻をくすぐる。
髪からなのか、それとも彼女自身の匂いなのか——。とにかく、ドキッとするような“女の人”の香りだった。
「あの……お願いがあります。できれば、誰にも話さないで欲しい内容なんだけど……」
声は思いのほか小さく、どこか戸惑っているようにも聞こえた。
(……え? 僕に?)
初対面も同然の僕に、秘密を打ち明ける?
正直、意味がわからなかった。何かの間違いじゃないのかとさえ思う。
「あ、あの……お願いの内容はまだよくわからないんですけど、とりあえず……敬語じゃなくて大丈夫です。なんか、その……先輩に敬語使われると、ちょっとむずがゆくて。」
言ってから少し後悔した。図々しかったかもしれない。
でも、先輩はほんの少しだけ目を丸くしてから、ふっと笑った。
「そう? わかったわ。……用件はね、さっきも言った通り、まずは“誰にも話さない”って約束してほしいの。」
その表情は、さっきまでよりもずっと真剣だった。
綺麗な瞳がまっすぐこちらを見てくる。
「……わかりました。そもそも僕が吉岡先輩の秘密をしゃべったところで、誰も信じてくれないと思いますけど。」
少し自虐っぽく笑ってみせると、先輩の口元がふっとほころんだ。
「……ふふ。」
それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。
吉岡先輩が笑ってくれるなら、自虐でもなんでも言ってやるさ。
「そうね、急にあなたが私の秘密を言って回ったところで、誰も信じないかもね。」
さっきまで硬かった表情がやわらぎ、先輩は穏やかな笑顔を見せてくれた。
……やっぱり、すごく美人だ。
(この美人が抱えている“秘密”って……いったい、何なんだ?)
思わず、ごくりと唾を飲み込んでしまった。
「……ドアの向こうには、誰もいない?」
吉岡先輩が、ぽつりと不安そうに尋ねてきた。
その顔には、明らかに警戒心がにじんでいる。
「ちょっと見てきます。」
念のために、さっき自分が入ってきたドアを開けて、階段のあたりを覗いてみる。
屋上へ続く扉の向こうには、誰の姿もなかった。
「大丈夫です。誰もいませんでしたし、僕も一人で来ました。」
「……そう。ありがとう。」
吉岡先輩は、ほっとしたように小さく息をついた。
「これから……あなたに、私の秘密を見せるわ。……できれば、笑わないでほしい。」
(秘密? いったい何の話なんだ……?)
警戒心と、興味。
ふたつの感情が頭の中でせめぎ合う。
次の瞬間、先輩が制服の上着に手をかけ、脱ぎはじめた。
「えっ、ちょ……先輩!?」
思わず声が上ずる。
屋上でふたりきりの状況で、何を——。
「静かにして。これが、私の“隠したい秘密”だから。」
背を向けたまま、シャツのボタンを外し、肩を少しだけあらわにする。
ちらりと見えたブラのストラップに、一瞬視線が引っ張られたが——。
「……あ」
気づいた。
それは、肌のことだった。
シャツのすき間から見えた背中には、産毛どころではない濃い毛が、うっすらと、でも確かに広がっていた。
「小さい頃から……これがずっと、コンプレックスなの。見えるところはなんとか処理してるけど……背中は、どうしても手が届かなくて。」
たしかに、学校で見かける吉岡先輩は、完璧な外見だった。
それだけに、誰にも見せたくないと思うのは当然かもしれない。
でも……なぜ、この秘密を僕に?
「……いったい僕に、何をしてほしいんですか?」
先輩は、ほんの少しだけ躊躇してから、静かに答えた。
「単刀直入に言うわ。……私の背中の毛を、剃ってほしいの。」
やっぱり——。
心当たりがあった。
少し前、クラスの女子がふざけ半分で「指の毛、剃って」と言ってきたことがあった。
昔から自分や家族の産毛を剃って練習してきた僕にとって、それくらいは朝飯前だった。
仕上がりを見た彼女は想像以上に喜んでくれて、それがきっかけでちょっとした噂になった。
「あいつ、床屋の息子だからな。」
どこかバカにしたような言い方だったけど、不思議と嫌な気はしなかった。
むしろ、ちょっとだけ誇らしかった。
「あの……気持ちは嬉しいんですけど、できればお断りしたいです。」
本音を言えば、剃ってあげたい。
でも——。
刃物を扱う以上、やはり危険が伴う。
指先くらいならまだしも、背中は広い。
範囲が広ければそれだけ集中力も必要だし、ちょっとした動きで刃が滑ってしまう可能性もある。
万が一、怪我をさせてしまったら——そう思うと、簡単には引き受けられなかった。
「……そう。」
先輩は静かにシャツを直し、制服を元通りに整えた。
「ごめんなさい、時間を取らせて。……できれば、私が毛深いことは、黙っていてくれると嬉しい。」
それだけ言うと、僕の横を通って屋上の扉へと向かっていく。
その頬には、かすかに涙の跡がにじんでいた。
(……そりゃ、そうだよな。)
きっと、大きな覚悟で秘密を打ち明けたんだ。
なのに、それを解決する手段がなくなったなんて——。
「……わかりました。僕でよければ、やります。……でも、怪我しても知らないですよ。」
断れるわけが、なかった。
その言葉に、先輩の表情がぱっと明るくなった。
次の瞬間、勢いよく僕の手を握ってくる。
「ありがとう! 本当にありがとう!」
……泣き顔で笑う美人に、勝てる男なんているわけがない。
当日になった。
この日は学校の創立記念日で休み。
さらに偶然にも、両親は法事で朝から出かけていて、一日中家にはいない。
僕は朝から店内を丁寧に掃除し、鏡やイスを磨いて準備を整えた。
そして、スマホが鳴った。吉岡先輩からのメッセージだった。
「今、店の前に着きました。」
(吉岡先輩の電話番号を知ってるって、クラスの男子にバレたら袋叩きだろうな……)
思わず苦笑しながら、表に出る。
店の前に立つ先輩は、制服姿とはまた違った魅力があった。
カジュアルな私服に、髪はゆるくまとめられていて……やっぱり、かわいかった。
「無理言ってごめんなさい。今日はよろしくね。」
「い、いえ……こちらこそ。」
どきまぎしながら店内に案内する。
「今日は定休日なので、シャッターは閉めたままです。ちょっと息苦しいかもしれませんが……どうぞ。」
「ううん、綺麗なお店ね。大事にしてるのが伝わってくるわ。」
そんなふうに褒められると、やっぱり嬉しい。
「……あの、今さらですけど。毛剃りなら父や母の方が上手いですよ? 僕はまだ修行中の身ですし、理容師の資格も持っていません。」
「私のコンプレックスを、いったいあと何人の人に見せろっていうの?」
先輩が小さく笑いながらそう返してきた。
それを言われると、何も言い返せない。
……それに、本当は僕だって、先輩の毛を剃ってみたかった。
「先に言っておきます。カミソリを使って他人の体を剃るのは、家族以外では初めてです。手際が悪かったりするかもしれません。」
「構わないわ。よろしくね。」
そう言って、先輩はためらいもなくシャツのボタンに手をかけた。
「ちょ、ちょっと待ってください! まだ脱がないで!」
何度目かわからない驚きだ。もしかしてこの人、ちょっと脱ぎたがりなのか?
「大丈夫よ。中は水着だから。」
そう言って、さらりとシャツを脱いで見せた。
たしかに、下着ではなくシンプルな水着だったけれど……。
(正直、水着も下着も、僕の中ではほぼ同義なんですけど……)
「はい、タオルで前を押さえてください。」
「ふふ、あまり喜んでくれないのね。私の水着姿。」
悪戯っぽく笑いかけてくるその顔があまりに可愛くて、自分の顔がどんどん熱を持っていくのがわかった。
(この人には、勝てないな……)
逃げ場がないと悟った僕は、カミソリの準備をしながら声をかけた。
「じゃあ、あの椅子に背中を向けて座ってください。」
脱毛用のクリームを手早く混ぜながら、もう一つだけ確認する。
「あの……少しだけ背中、触ってもいいですか?」
先輩の肩がぴくっと反応したあと、小さく頷いた。
「……いいわ。でも、優しくしてね。」
その許しを得て、手のひらを背中に当てた。
絹のようになめらかな肌。その上に、柔らかい毛がさらりと生えている。
思わず、口から言葉がこぼれた。
「……先輩、キレイです。」
自分でも驚くほど自然に出たその言葉に、先輩が驚いたように振り返った。
その頬がうっすらと赤く染まっている。
「な、何言ってるのよ……!」
初めて見る、先輩の“動揺”。
「まったくもう……こんな毛深い背中が、キレイなわけないでしょう。」
そう言いながら、先輩はぷいっとそっぽを向いた。
「では、始めます。くすぐったくても、なるべく動かないでください。」
クリームを丁寧に塗り、慎重にカミソリを滑らせていく。
刃はよく切れる。研ぎに研いだ、僕の誇りのひとつだ。
先輩はピクリとも動かず、耐えてくれている。
そして——
「……終わりました。」
「え? もう? 全然時間経ってないじゃない。」
驚いた顔を向けられたけれど、これでも父の倍くらいはかかっている。
……まだまだだな、僕も。
「ちょっと、私のスマホで背中撮ってもらっていい?」
「あ、はい。」
スマホを受け取り、レンズ越しにもう一度その背中を見る。
カメラ越しでも、美しかった。
撮った写真を先輩に見せると、目を丸くしていた。
「……こんなに綺麗になるの? 毛なんてはじめからなかったみたいじゃない……!」
本当に嬉しそうな笑顔だった。
そんな姿を見ているうちに、心の奥からある言葉が浮かんできた。
「あの……先輩、ちょっといいですか?」
「え? まだ剃り残しあった?」
僕はごくりと唾を飲み込み、勇気を振り絞って言った。
「……僕も、先輩の背中の写真、欲しいなって……」
なるべく冗談っぽく、軽く。
「……エッチ。でも、いいよ。綺麗に撮ってね。」
まさかのOKをもらい、自分のスマホを構える。
フラッシュが光り、画面にはまるで芸術品のような背中が映し出された。
「……待ち受けにしよう。」
「それはやめなさい。」
名残惜しいけれど、先輩との時間もそろそろ終わりだった。
「……お疲れ様でした。これで、終わりですね。」
そう言うと、先輩はどこか気まずそうに目を伏せた。
「……あのね。正直に言うと……もうひとつ、お願いがあるの。」
(え? まだあるのか……?)
顔の産毛は怖い。指の毛ならまだいい。ワキでもギリ許容範囲かもしれない。
頭の中で最悪の部位を想像していたら、自然と視線がそちらに向かっていたらしい。
「……ワキをジーッと見てるけど、ワキじゃないわよ?」
「えっ、あ、すみません!」
恥ずかしすぎて穴があったら入りたかった。
先輩は深呼吸するように一息ついてから、小さな声で言った。
「もっと……恥ずかしいところ。……その、下の毛を……剃ってほしいの。」
(……え?)
思考が一瞬止まる。
「……あの、“下の毛”って……“下の毛”ですか?」
変な聞き返し方をしてしまったとすぐに後悔する。
「そう。アンダーヘアーね。陰毛とも言うわ。」
淡々と告げながらも、先輩の頬は真っ赤だった。
「いやいや、ダメですよ! そんなの絶対無理です! だって……見えちゃいますよ、先輩の、その、大事なところ……!」
そうだ。これは無理だ。
本気で拒否しよう。絶対に断ろう。常識的に考えておかしい。冷静になれ、僕。
「……見えちゃうのは、恥ずかしいけど……仕方ないわ。今回のお礼ってことで、どうかしら。」
ますます何を言っているのだろうか。
これは断ろう。絶対無理だ。
「……わかりました。お任せください。」
気づけば、口が勝手にそう言っていた。
先輩の願いを断れるわけがないじゃないか……。
もう、開き直るしかない。
ここまで来てしまった以上、逃げ道はない。
ならば、この瞬間を……全力で、楽しもう。
「では、スカートとパンツを脱いで、こちらにお座りください。」
自分でも驚くほど、冷静な声が出た。
「……あら。急に冷静になったわね。」
そう言いながら、先輩はためらいなくスカートのホックを外した。
布がするりと落ちる音。
(せ、先輩のパンツ……黒……セクシー……)
さっきまでの冷静さなんて、どこかに吹き飛んだ。
童貞高校生には難易度が高すぎる。
目の前でそんなものを見せられて、耐えろという方が無理がある。
しかし、先輩はそれすら気に留めず、今度はパンツの端に指をかけた。
迷いのない手つきで、それすら脱ぎ始める。
(え、ちょ、ちょっと待って……)
そのまま、下着を手に持ち、前を隠しながらこちらへ向けてきた。
「下着って、どこに置けばいいのかしら?」
まるでタオルでも渡すような自然な所作だったが——いや、ダメだ。これは、ダメだ。
「い、いやいやいや! あの、シャツ脱いだとこに置いてください! 僕に渡さないでください!」
焦りすぎて、声が裏返る。
先輩はくすっと笑った。
「あなたは、そっちの方が可愛いわよ?」
そう言いながら、さっきシャツを置いていたカゴに、スカートと下着をそっと入れた。
(……あっ、お尻……見ちゃった……)
視界の隅に焼き付いてしまった白くて丸いお尻。
右側に小さなホクロがあることまで、はっきり覚えてしまった。
罪悪感と興奮で、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「この椅子、直接座っちゃっても大丈夫かしら?」
「……。」
完全に言葉が出なかった。
「安田君、大丈夫? もしかして、からかいすぎちゃった?」
「あ、はいっ! だ、大丈夫です! カバーは掛かってます!のでっ!」
危なかった。
完全に思考が停止していた。
この先輩とこれ以上の時間を過ごすには、心臓があと2個くらいないとダメだ。
でも——。
(がんばろう……)
でも、よく考えてみれば——
どうして上は水着だったのに、下は普通の下着だったんだろう。
もしかすると、最初は“下を剃るつもり”なんてなかったのかもしれない。
背中の仕上がりを見て、僕の腕を信じてくれたのだとしたら——
……これは、下心なんて出してる場合じゃない。
先輩のために、最後までしっかりやり遂げよう。
いまは、とにかく目の前の“仕事”に集中するしかない。
椅子に腰を下ろした先輩は、だらりと足を開いた。
両手で股間を隠すように押さえてはいるけれど、その指の隙間からでも、陰毛があふれているのが見えた。
「ごめんね……こんなに毛深くて、がっかりしたでしょ?」
申し訳なさそうに笑う。
「本当は、自分で処理したかったの。でも……ちょっと怖くて。」
昔、カミソリで剃ろうとして滑らせてしまい、怪我をしたことがあるらしい。
それ以来、あの場所に刃を当てるのが怖くなってしまったのだという。
「……本当はね、すごく恥ずかしいのよ。家族以外に、見せたことなんてないから。」
(えっ……じゃあ僕が……先輩の大事なところを“初めて”見る男ってこと……?)
もうずっと、股間が痛い。
だが、変に意識すれば、それが手元に出てしまうかもしれない。
カミソリを手にした瞬間、強制的にスイッチが切り替わる。
(集中しろ……プロのつもりでいけ……)
「では……手を離してください。」
おずおずと、先輩の両手が股間から離れていく。
その瞬間、彼女のそこが、こちらに晒された。
驚くほどの剛毛だった。
その毛で、ほとんど全てが覆われている。
さすがの先輩も、顔を伏せ、頬を赤らめている。
「……これは、すべて剃ってしまっても大丈夫ですか?」
「え? ……みんな、どうしてるのかしら?」
(わかるわけないだろ……!)
普通、他人の陰毛事情なんて知らない。
でも——何か言わなければ。
「Vの部分は少し残して、IラインとOラインはツルツルにするのが……主流ですね。」
もちろん嘘である。
これは完全に、僕の趣味だ。
実際のところなんて、知る由もない。
「じゃあ……それでお願いね。」
あっさり受け入れられてしまった。
「……触ります。」
そう断ってから、先輩の陰毛にそっと指を伸ばす。
ふわりと掴み、手に伝わるざらつきと柔らかさ。
カミソリの刃を、慎重に当てる。
シャッという音とともに、数本の毛が刈り取られた。
切った毛は銀のトレイに落としながら、長さを少しずつ整えていく。
毛が短くなるにつれ、先輩のそれの全貌が、少しずつ姿を現してきた。
毛に隠されていたそこは、ぴったりと閉じていて、柔らかそうで——見たこともないはずなのに、なぜか見覚えがあるような気さえした。
「……あまり、じっくり見ないでね……。」
先輩が目をそらしながら、消え入りそうな声で言った。
でも、それは無理だ。
無理に決まっている。
あらかた切り揃えが終わり、いよいよ“本番”に入る。
「……あの、先輩の大事なところ、触っても大丈夫ですか? 剃るときに、どうしても……触れてしまいます。」
「え、と……。優しくしてね……。」
鼻血が出そうだった。
でも、ここまで信じて任せてくれているのだから、僕も本気で向き合わないといけない。
一気に集中モードに入る。
先輩の大陰唇をそっと指先でつまみ、カミソリをゆっくりと滑らせる。
「あっ♡」
先輩の口から、思わず変な声が漏れた。
(聞くな……集中だ!聞いたら終わる!)
目の前の作業に意識を全集中させる。じゃないと、理性がもたない。
丁寧に剃り上げたあと、キレイに処理できているか確認するために、軽く指で“クパッ”と開いて中を覗いた。
「ちょ、ちょっ! 恥ずかしいよ! じっくり見ないでってば!」
先輩が何かを言っている。けれど、僕の耳には届かない。
そのままお尻の方へと進み、Oラインの毛も慎重に処理していく。
きちんと剃れているか確認するため、左右に開いて、じっくりと見た。
「だ、だから! 恥ずかしいって! お願い、話を聞いてよ!」
何も聞こえない。
目の前の“仕事”に没頭していた。
ゾーンに入る、とはこのことかもしれない。
最後にぬるま湯をかけて泡を洗い流し、残り毛がないか再確認。
全体の仕上がりに満足して、ようやく先輩に声をかけた。
「キレイに剃り上がりましたよ、先輩!」
先輩は、ぜえぜえと息を切らしていた。
「……や、やっと……話を聞いてくれそう……」
どうやら、相当疲れているらしい。
なぜそこまで疲れたのか、すぐに理由がわかった。
「ちょっと……じっくり見すぎでしょ! 本気で恥ずかしかったんだからね!」
言われて気づいた。
先輩は、まだ足を広げたままだった。
整えられたVライン。
ツルツルになったIラインとOライン。
そして……さっきまでぴったり閉じていたそれは、ほんの少しだけ口を開き、潤んでいた。
その姿を、僕はずっと——晒させたままにしていたのだ。
「ちょっ! 先輩! 早く隠してください!」
慌てて声をかけると、先輩もようやく自分の姿に気づいた。
「……あなたが、何度言っても聞いてくれなかったからでしょっ!」
股間を手で覆い、足をキュッと閉じて真っ赤な顔で抗議する先輩。
(……かわいいなぁ)
心から、そう思った。
パンツとスカートを身に着け、ようやく先輩の表情も落ち着いてきた。
まだ頬は赤く、口を少しとがらせながら、ふてくされたように言う。
「……こんなに恥ずかしいとは思わなかったわ。 年下だし、もう少し気楽にいけるかと思ったのに。」
「す、すみません……。集中しすぎて、何も聞こえてなかったです……」
本当に、夢中だった。
恥ずかしさを超えて、ただ“キレイに仕上げる”ことだけを考えていた。
そんな僕に、先輩は目を合わせて、ふっと笑った。
「でも……本当にキレイになったわ。 もっと早く、あなたのことを知っておけばよかった。」
胸が、じんとした。
たった一言が、こんなにも嬉しいなんて。
——やっぱり、僕は理容師になりたい。
そう、改めて強く思った。
「あ、あのね……できれば……定期的に、剃ってほしいの。たぶん、また伸びてきちゃうと思うから……」
恥ずかしそうに目を伏せながら、でもどこか期待を込めたような声。
その表情が、たまらなくかわいくて。
「任せてください。僕は、あなた専用の……毛ぞり師ですから。」
言ったあと、ちょっと気恥ずかしくなったけれど——
先輩はくすっと笑って、僕もつられて笑った。
静かな店の中に、ふたりの小さな笑い声が、ふわりと響いた。
エピローグ
先輩が帰ったあと、僕はひとり、店内の片付けをしていた。
先輩は、帰り際に一万円札を差し出してきた。
でも、それは丁重にお断りした。
まだ僕は、理容師として半人前どころか、それ以下だと思っている。
そんな自分が、お金を受け取るには、まだ早すぎる。
「今度、ちゃんとお礼をするわね。今日はありがとう。」
そう言い残して帰っていった先輩の背中を思い出す。
クールビューティだと思っていたけど、意外とお茶目で、話していて楽しい人だったな。
お礼って……デートとか、かな?
——なんてね。
たぶん、男として見られていないから、あんなこと頼んできたんだろう。
そう自分に言い聞かせながら、鼻歌交じりで掃除を続ける。
そして——ひとつだけ、少し残念なことがある。
あれだけ間近で、先輩の大事なところをじっくり見たはずなのに、ほとんど記憶に残っていないのだ。
あまりにも“剃ること”に集中しすぎて、肝心なところが頭に残ってくれていなかった。
「……ちょっと、残念だな。」
つい口に出てしまう。
やっぱり僕も男だ。
あんな美人の“そこ”が気になってしまうのは、仕方ないと思いたい。
そのとき——
棚の隅に、銀のトレイが残っているのを見つけた。
「あれ、なんか……毛が入ってる。これ……なんだっけ……?」
手に取った瞬間、じわじわと記憶がよみがえってくる。
「そうだ……これ、先輩の毛だ……!」
あまりの集中で完全に意識から抜け落ちていた。
先輩の陰毛——。
それを見つめていると、記憶が波のように押し寄せてくる。
指先で摘まんだ大陰唇の感触。
クパッと開いたあの瞬間。
お尻の奥まで……。
「……やばい……思い出してきた……!」
急いで掃除を終え、銀のトレイの中身をチャック付きの袋に入れる。
そして、誰にも見られないよう部屋へとこもった——。
数時間後。
「……はぁ……次、先輩に会うとき、どんな顔すればいいんだ……」
頭の中で、先輩の笑顔と“あの姿”が、交互にフラッシュバックしてくる。
その夜は、しばらく眠れそうになかった。
END


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