部活の合宿を目前に控えたある日、俺は不運にも足を怪我してしまった。
歩くことはできるが、走るのは無理――医者からは、しばらく部活は禁止と言い渡された。
それでも、合宿にはどうしても参加したかった。
選手としてでなくてもいい、マネージャーとしてでも構わないから行かせてほしいと、顧問に頼み込んだ。
結果的に、他の部員たちの後押しもあって参加が許可された。
「マネージャーって今まで女の子しかいなかったから、男手があると助かるよ。」
そう言ってくれたのは、3年のマネージャー・石井先輩だ。
気遣いだったのかもしれないけれど、その言葉が妙に嬉しかった。
ちなみに今回のマネージャーは、石井先輩と、同級生の阿部さん、そして1年生の植田さんの3人。そこに俺が加わるかたちになる。
「高田君も怪我してるんだから、無理しないでね。」
阿部さんは同じクラスで、気軽に話せる関係だ。
「大丈夫、走れないだけだから。」
そう言いながら、荷物を抱えてバスの荷台に押し込む。
多少の痛みなら、どうということはない。
こうして俺は、“一時マネージャー”として合宿に参加することになった。
合宿が始まってからというもの、マネージャーの仕事を手伝って驚かされた。
雑用という言葉では済まされないほど、やることが多い。
洗濯に買い出し、水分補給の準備に、記録係――どれもチームに欠かせない仕事だった。
「いつもこんなことやってくれてたのか……。」
気づかなかった自分が恥ずかしくなって、申し訳なさが胸にこみ上げてくる。
「気にしちゃダメですよ。私たちは好きでやってるんですから。」
そう言ったのは、横で洗濯物を干していた植田さん。
まだ1年なのに、慣れた手つきで淡々と仕事をこなしている。
「それでもなー。大変でしょ。」
俺が言うと、彼女は小さく笑った。
「だったら、早く怪我を治して、試合で活躍してください。皆さんが勝ってくれたら、マネージャー冥利に尽きるってヤツですよ。」
……天使か。
笑顔がかわいいし、声も落ち着いてて癒される。
それに、あんまり言うのもアレだけど、身長のわりにおっぱいも大きい。
ちなみにバストサイズは石井先輩<阿部さん<植田さんの順らしい。
石井先輩がそれを少し気にしてるという話も聞いたことがあるけど――あんなに美人が、そんなことで悩むもんだろうか。
…いや、女の子ってそういうものなのかもしれない。
昼の練習が終わり、待ちに待った晩御飯の時間がやってきた。
合宿一日目の夜は、毎年恒例でマネージャー特製のカレーが振る舞われることになっている。
「せっかく女子の手料理が食べられると思ったのに、高田も作ったのか〜。」
夕食の準備中、先輩にそんなふうにからかわれた。
だが、俺を甘く見てもらっては困る。
うちの両親は共働きで、小さい頃から兄弟のために料理をしてきた俺にとって、料理は日常の一部だった。
特にカレーには、ちょっとしたこだわりがある。
せっかくだしと、女子マネージャーとは別の鍋を使わせてもらい、俺は俺でカレーを作った。
当然、最初はみんな女子の鍋に群がっていた。
やっぱり「女子の手料理」には、それなりのブランド力があるらしい。
しかし――一人が俺のカレーを試してから、状況が変わった。
「なにこれ、うまっ!」
その一言が火をつけたのか、次々と俺のカレーをよそい始める部員たち。
最初は半信半疑だった面々も、ひと口食べた瞬間、顔を見合わせて驚いていた。
気づけば、俺の鍋の方が先に空になっていた。
俺をからかった先輩なんて、謝りながら誰よりもたくさんおかわりしてたし。
結局、女子マネージャーのカレーは余ってしまったので、ありがたく俺がいただくことに。
こちらも、家庭の味って感じで、とても美味しかった。
……ただ、女子マネたちは少しだけ悔しそうだったけど。
そんな合宿も、ついに最終日の夜を迎えた。
次の日は、朝から借りた合宿場を清掃して帰るのが習わしだ。
長かったようで短かった――そんな思いを抱きながら、慣れないマネージャー業にもようやく終わりが見えてきた。
夕食後、みんなが食べ終えた食器を洗い、片付けをしていると、背後から声をかけられる。
「合宿の間、いろいろ雑用させてすまなかったな。」
振り返ると、部長が立っていた。
「いえ、俺なんかより、いつもこういうことをやってくれているマネージャーたちにこそ、感謝すべきだと思いました。正直、ちょっと反省してます。」
素直な気持ちだった。実際にやってみて、初めてわかることも多かった。
「それも、そうだな。」
部長はそう言って、冷えたスポーツドリンクを一本差し出してくれた。
「俺たちはもう風呂に入ったから、お前は最後に入ってくれ。貸し切りだぞ。」
そう言い残して、彼は仲間の待つ部屋へと戻っていった。
「最後の風呂くらい、のんびりしてもバチは当たらないよな。」
スポーツドリンクを口に含みながら、残った食器をひとつずつ丁寧に洗っていく。
その時――そんな俺の様子を、静かに見つめる“影”があった。
ただ、その視線に、俺は気づくことができなかった。
風呂場へ向かう。
ここは合宿所らしく、浴場は男女兼用。ただし、時間帯で厳密に使い分けている。
このご時世、覗きなんて馬鹿なことをする奴もおらず、女子も比較的安心して使っているようだった。
浴室に入ると、湯船にはちょうどいい温度のお湯が張られていた。
どうやら、誰かが張り直してくれたらしい。ありがたい気遣いだ。
「はー……生き返る。」
体を洗い終え、湯に浸かる。広い風呂にじっくり入れる幸せを噛み締めながら、思わず声が漏れる。
やっぱり、風呂は魂の洗浄だ。たまにはこういう贅沢も必要だな……なんて、ぼんやりと考えていた。
そのときだった。
湯船と脱衣所を隔てるすりガラスの扉に、人影が映った。
誰か入り足りなかった部員がいたのかと思った矢先、影は三つに増えた。
「あの、本当に大丈夫ですか?」
「あとで問題になりませんよね?」
「大丈夫大丈夫。お姉さんに任せなさい。」
聞き覚えのある女性たちの声――マネージャー!?
流石にこれはまずい。 今は女子の時間だったのだろうか……。
こんなところで変態のレッテルなんて貼られたら部活はおろか、全ての学生生活が終わる。
「あ、ちょ、俺入ってます!高田です!入ってますから!!」
かち合うことだけは避けたい。
だが、その叫び声に対して、返ってきたのは――
「……知ってるよ?」
笑いを噛み殺したような、石井先輩の声だった。
ガラッ――と、すりガラスの扉が勢いよく開いた。
現れたのは、バスタオル一枚を巻いただけのマネージャー三人。
石井先輩が、なぜか堂々とした口調で宣言した。
「合宿の間、高田君はよく頑張ってくれたからな。美女三人が背中を流してあげよう言うのだ。」
なんかセリフチックに変なことを言っている。
正直言って――嬉しくないわけではない。
でもこれはこれで、とんでもなくヤバい。
俺の手元にあるのは、さっき体を洗ったときの小さなタオル一枚。
武器にも盾にもならないサイズだ。
「か、からかわないでください早く出てってくださいよ!」
慌てて叫ぶ俺を、石井先輩は面白そうにニヤニヤと見つめる。
その後ろでは、阿部さんと植田さんが少し目を反らしながら立ち尽くしていた。
……絶対これ、先輩が強引に連れてきたやつだろ。
「そ、そもそも……タオル一枚で恥ずかしくないんですか?」
とりあえず、正論で攻めてみる。
いや、攻められてるのはこっちなんだけど。
「たしかに、うら若き乙女が男子の前に出る格好ではないかもしれない。だが――これも感謝の気持ちだ。」
どこからそんなテンションを持ってきたんだ。
いや、楽しめるかって言われたら……楽しめる、けど。そうじゃない。
この状況は、どう考えても色々アウトだ。
「阿部さんとか、今後絶対気まずくるよ!?大丈夫!」
先輩に訴えても無駄そうなので、比較的良識のありそうな阿部さんに助けを求める。
「わ、私はやめようって言ったからね!?でも先輩が無理矢理……!」
必死に弁解しようとする阿部さん。
しかしその瞬間――石井先輩がなぜか阿部さんのタオルをスルリと外した。
「え……?」
その場の空気が、一瞬にして静止する。
時間すら止まったかのような、妙な静寂。
そして――タオルの下から現れたのは全裸…ではなく水着姿だった。
「期待しちゃった?残念!ちゃんと水着を着ているのだー!」
あっはっはと、高らかに笑う石井先輩。
お祭り騒ぎの中心で、ひとり楽しそうにしている。
一方で、急にタオルを剥がされて固まっている阿部さん。
そして、顔を真っ赤にしてうつむいている植田さん。
――どうやら、この異常な状況はまだ始まったばかりのようだ。
その流れのまま、石井先輩は植田さんのタオルにも手を伸ばした。
そして、無情にも――スルリ。
……スク水?
阿部さんは可愛らしいビキニスタイルだったのに対し、植田さんはなぜかスクール水着を着ていた。
「今年はプールとか海に行かなかったので、新しい水着を買わなかっただけです。去年のは、胸がきつくて……」
“去年の”あたりから声が小さくなって聞き取れなかったが、恐らくサイズ的に着られなくなったのだろう。
その豊かすぎるバストは、この一年でぐんぐんと育てられた結果なのかもしれない。
さすがにじっくり見るのは失礼だと思い、控えめに――ちらちらと見ることにした。
……眼福。
そんな俺を、ジト目で見る石井先輩と阿部さん。
「男子って、やっぱり大きい方が好きなのかな……」
いや、別にそんなことはない。
でも立派に育ったものを見ないのも、それはそれで失礼だと思う。
自分の立場は良くないが、楽しめる部分は楽しんでおこう。
「先輩は、タオル外さないんですか?」
挑発するように言ってみると――
「くっ……」
先輩がわずかにひるんだ。
やはり後輩の“凶器”を見せられたあとでは、晒しにくいのかもしれない。
「先輩の水着姿も見たかったなー。でも仕方ないかー。タオル外せないなら、お帰りください。」
頼む、出て行ってくれ……!
正直、先輩の水着姿も気になるけど、それ以上にこの場を切り抜ける方が大事だ。
何せこっちは湯船の中で丸出しなんだから。 なんなら…半分くらい反応してしまっている。
これはさすがにアウトだ。
「……仕方ない。エッチな後輩くんのために、一肌脱ぐか。でも……私がタオル外したら、覚悟しておけよ?」
あれ? なんか流れが良くない方向に……。
助けを求めて阿部さんと植田さんに視線を送るが、ふたりとも目を逸らしてしまう。
「高田君……先輩を煽っちゃダメだよ。こうなったら、何するかわからないよ?」
阿部さんが、小声で怖いことを言ってきた。
そして――
石井先輩は、マントでも脱ぐかのようにタオルをスッと外した。
スレンダーという言葉がこれほど似合う人もいないだろう。
確かにバストは控えめだが、引き締まった体にはシンプルなワンピース水着がよく映えていた。
「……乳比べしたら、許さないからね?」
軽口のようでいて、目は全然笑っていなかった。
「はい……」
ここ最近でいちばん素直な返事をした気がした。
三人は背を向け、肩紐を腕に通す動作をしていた。
どうやら、バスタオル一枚に見せかけるために、わざわざ水着の肩紐を外していたらしい。
……たぶん、先輩の指示だ。
でも、それに付き合った阿部さんと植田さんも、どうかしてる。
「さてさて、お待ちどうさま。こちらの椅子へどうぞ~。」
石井先輩が、洗体用の風呂椅子を指さしながら満面の笑みを浮かべる。
完全に仕切る気満々の顔だった。
……逃げられないか。
とにかく股間だけ、ここの秘密だけはバレないように背中を流して貰って帰って貰おう。
先輩はともかく、同級生や後輩の女の子にこのコンプレックスがばれるのはまずい。
手と小さなタオルでしっかり股間をガードし、立ち上がった。
「「キャッ!」」
阿部さんと植田さんの声が、見事にハモる。
……先輩に無理やり連れてこられたのはわかるけど、そんな反応するなら最初から来なければいいのに。
チラリと石井先輩を見ると、案の定、ニヤニヤ顔でこちらを観察していた。
「マネージャーなのに鍛えてるねぇ。腹筋、綺麗に割れてるじゃん。」
「そりゃ、一時マネージャーですからね。怪我が治ったら、ちゃんと選手に戻りますよ。」
とはいえ、ずっと股間を押さえて歩くのも、さすがに情けない。
仕方なく後ろを向いてタオルを腰にまいた。
「おー、可愛いお尻だね。」
……石井先輩のセクハラはまだ終わらないらしい。
ちらっと横目で確認すると、阿部さんと植田さんは、どちらもそっと目を逸らしていた。
そりゃ、そうだ。こんな場面、まともに見られるわけがない。
「……よし。」
小さく気合を入れて、正面を向く。
変な反応が出ないよう祈りながら、洗体用の椅子へと向かう。
腕を組み、仁王立ちして待ち構える石井先輩のもとへ――腹を括って歩き出した。
「いらっしゃいませ〜。」
石井先輩の妙に楽しげな声に促され、俺は洗体用の椅子に腰を下ろした。
さっさと背中を流してもらって、この場から退散する。それが最優先だ。
……とはいえ、こんな機会、二度とないかもしれない――なんて、ほんの少し思ってしまったのも事実。
「では、洗っていきますね。」
先輩がそう言った瞬間、泡立てたその手が、直接俺の背中に触れた。
「うひゃあっ!?えっ、素手!?」
てっきりタオル越しかと思っていたのに、想像を裏切る柔らかな手の感触。
そのまま滑るように背中を撫で回され、くすぐったさで体が跳ねそうになる。
「お客さま、動かないでくださーい。ほら、二人とも、捕まえて!」
「えっ!?――わっ!」
両腕が後ろからガシッと掴まれた。
阿部さんと植田さん、それぞれが片腕をしっかりホールドしていた。
「ご、ごめんなさい……!」
「謝るくらいなら、解放してくれ!!」
訴えは虚しく、お構いなしにくすぐり攻撃は続く。
「うひゃひゃひゃひゃひゃっ!」
浴室に俺の情けない笑い声が響き渡った。
まさか、自分の背中がこんなに弱点だったとは……。
ようやく、先輩の手が離れ、お湯がかけられる。
「……やっと終わった……」
安心しきったそのとき――
「では、前を洗いますね。」
その一言が、安堵を打ち砕いた。
地獄のような天国、いや、天国のような地獄は――まだ終わっていなかった。
「さすがに前はまずいでしょ!」
慌てて声を上げると、石井先輩がこちらを一瞥した。
「でもさ、正直者は隠せないみたいだよ?」
その言葉に釣られるように、3人の視線が一斉に俺の股間へ向けられた。
自分でも確認する。……いつの間にか、そこは完全に自己主張していた。
「……最低。」
阿部さんがぽつりと呟いた。
その一言が、胸にズンと響いた。まるで、心にひびが入ったような痛み。
「まあまあ、これは生理現象だから。むしろ、こんな状況で何も起きない方が、男としてどうかって話よ?」
石井先輩が明るくフォローを入れてくれる。
……この状況を作ったのはあなたなんですがね。
さすがに声には出さなかったが、内心では全力でツッコんでいた。
ふと視線を向けると、植田さんが手で口を抑えながら、じーっと見つめている。
興味津々、という表情だった。
「……植田さん、ちょっと見過ぎ。」
思わず指摘すると、彼女はハッとしたように顔を逸らした。
まるで「見てませんよ〜」とでも言いたげな仕草で。
その姿が、小動物のようでちょっとだけ可愛かった。
とはいえ、そんな和やかさも束の間。
阿部さんは相変わらずジト目でこちらを見ていた。
無言の圧力が全身に刺さる。
……いろんな意味で、いたたまれない状況だった。
「では、全身キレイキレイしていきましょう。植田ちゃんは右手、阿部ちゃんは左手を洗ってあげてね。」
石井先輩が当然のように指示を出す。
阿部さんは渋々といった様子で泡立てた手を俺の左腕に当て、申し訳程度に洗い始めた。
その表情からは、今すぐこの場を離れたいという思いが伝わってくる。
一方で――植田さんは妙に積極的だった。
「はいっ」と素直に返事をして、楽しげに右腕を手際よく撫でるように洗ってくる。
……なんでこの人たち、こんなに先輩の命令を素直に聞いてるんだろう。
もしかして、弱みでも握られてるんじゃないかと疑いたくなるほどだ。
そして次の瞬間――
石井先輩の手が、前から俺のワキの下に差し込まれた。
「うわっ、ちょっ……!」
突然の接触に体がビクッと反応する。
その指先は容赦なく、俺の脇腹を滑りはじめた。
「高田君、ワキ処理してるの?」
石井先輩の何気ない一言が、グサリと胸に突き刺さる。
さっきまでとは違う種類の羞恥が押し寄せてきた。
「……まだ、生えないんです。」
返す声が、思った以上に小さくなった。
先輩の手が一瞬止まり、数秒の沈黙――だが、すぐにまた何事もなかったように洗い続ける。
「私としては、生えない方が羨ましいけどね。」
そんなことをさらりと言ってのける先輩。
すると、すぐ隣で植田さんが首をブンブンと振り出した。
そして俺と目が合った瞬間、ハッとした表情をした。
「わ、私は毛深くないですよ!?変な妄想しないでくださいね!」
いや、何も言ってないんだけど……。
勝手に自爆して、勝手にヒートアップしている。
そんな騒がしさの中、俺の左腕を撫でるように洗っていた阿部さんが、ふと呟いた。
「確かに、腕とか全然毛がなくてツルツルね……羨ましいわ。」
少しだけ柔らかな表情になっていて、さっきまでのジト目とは違う雰囲気だった。
――少しだけ、救われたような気がした。
「どうでもいいですけど、女子のムダ毛事情を思春期の男子の前で話すのやめてください……」
俺だって、まだ女性に幻想を抱いていたい年頃なのだ。
「大丈夫大丈夫。本当はムダ毛なんて生えないし、トイレも行かないわよ?」
石井先輩の、あまりにも雑なフォローが飛んできた。
じゃあ女子トイレはなんのために存在しているんだ……と思いかけて、考えるのをやめた。
――なぜなら、先輩の手が、いつの間にか俺の胸に伸びていたからだ。
「さすがに、いい加減まずいですって!」
必死に制止を試みるも、先輩はニコニコと聞く耳を持たず、ついには乳首あたりをくるくると洗い始める。
「うふふ、お客さん、こってますねぇ〜」
……そのセリフは完全にアウトだろ。
さすがに阿部さんと植田さんも、明らかに引いた表情をしていた。
でも、楽しそうにしている先輩を止められる空気ではなかった。
そんな中、ふと視線を下げると――目の前に、先輩の胸部があった。
ワンピース水着越しに、身体のラインがはっきりとわかる。
……よし、こうなったらもう開き直ってガン見してやろう。
目の前にある先輩の胸元を、改めてしっかり観察する。
ワンピースタイプの水着越しで、身体のラインがくっきりとわかる。
うん、やっぱり――
(先輩のおっぱいは小ぶりだ!)
心の中でそう叫んだ、その直後――
スパーンッ!
「痛っ!? 何するんですか!」
頭に響く鋭い衝撃。思わず振り返ると、先輩がじとっとした目で睨んでいた。
「良くないこと考えてたでしょ?」
……完全に、バレていた。
いや、でもさ……それくらい、いいじゃんか。
目の前にあったんだし。
「今、私のおっぱいが小さいって思ったでしょ?」
低く、静かな声だった。
けれどその一言で、空気がピンと張り詰める。
やばい――これは本当に、まずい。
「いえいえ、滅相もございません!先輩はいつでも美しいです!」
思わず背筋を伸ばし、反射的に必死のフォローを口にした。
……本音も、半分くらいは入っていた。が、今はそんなことより命が大事だ。
しかし、先輩はじっと目を細めたまま、追撃の一言を放ってきた。
「じゃあ……私のおっぱいは“大きい”?」
「……」
言葉が、出ない。
肯定しても地雷、否定すれば即死。
沈黙もまた、許されない。
完全に詰んでいる――そんな感覚だった。
先輩の全身から、じわじわと圧があふれ出ている。
とても冗談で済まされる雰囲気じゃない。
助けを求めるように視線を横に向けるが、阿部さんも植田さんも、顔を引きつらせたまま一切動かない。
……もしかして、先輩の命令に逆らえない理由の一部、これなのか?
どうやら俺は――とんでもない虎の尾を踏んでしまったらしい。
「お、俺もう出ますね! 背中流してくれてありがとうございました!」
そう言いながら、勢いよく立ち上がり、脱衣所へと逃げるように向かおうとした――が。
「逃がすか!」
石井先輩の声が響いた瞬間、背後から勢いよく抱きつかれた。
「先輩ダメです!おっぱいが!柔らかいものが背中にっ!」
水着一枚越しとはいえ、ダイレクトに伝わるその柔らかさ。
背中越しではあるものの――これが、人生初の女性の胸との接触だった。
「まずいまずいまずい!」
「何がまずいのよ!? 言ってみなさい!」
先輩の問い詰めに叫び返しながら、ギャーギャーと騒ぎになる二人。
さすがに見かねたのか、阿部さんと植田さんが前に回り込んできた。
「先輩、さすがにこれは良くないですよ……?」
阿部さんが、できるだけ穏やかに諫めようとする。
そのときだった――
はらり、と。
俺の腰に巻いていたタオルが、重力に従って床に落ちた。
……一瞬、場の空気が凍りつく。
目の前に立つ阿部さんと植田さんの視線が、俺の下半身に吸い寄せられる。
そこには――毛も生えず、剥けてもいないそれ。
けれど、先輩の柔らかさに触れてしまったせいで、完全に天を向いていた。
三人の時が止まった。
後ろにいるはずの先輩も、何かを察したのか戸惑っているようだ。
「……みんなどうしたの?」
先輩の声が、静寂を破った瞬間――
「「きゃあああああっ!!」」
「うわああああああっ!!」
三つの叫び声が、浴室いっぱいに響き渡った。
……さすがに、へこんだ。
よりにもよって、可愛い女の子三人に、俺の“秘密”がすべてバレてしまったのだ。
まったく生えてこない陰毛。
剥けてもおらず、サイズも控えめなそれ。
羞恥のフルコンボだ。
風呂椅子に腰を下ろし、うなだれて動けなくなっていた。
「先輩が悪いですよ。謝ってあげてください。」
「ええ、どう考えても100%先輩が悪いです。早く謝ってください。」
ひそひそと聞こえる声。
それが余計に情けなさを募らせる。
……たかだかちんこ見られたくらいで、ここまで落ち込むなんて。
男として、情けないにもほどがある。
いや、良くない。こんなんじゃダメだ。
開き直ろう。何事もなかったかのように振る舞って――それで笑い話にでもできれば。
そう思っていたときだった。
「……わかった。私が悪かった。ちゃんとお詫びするから、顔を上げてくれ。」
石井先輩が、静かな声でそう言った。
促されるまま、おずおずと顔を上げると――
目に飛び込んできたのは、上半身の水着を脱いだ先輩の姿だった。
初めて見る、生のおっぱい。
やはり小ぶりではあったが、形は整っていて、肌は白くて滑らかで――
何より、乳首が驚くほど綺麗な薄いピンク色をしていた。
思わず息を呑んだ。
それは、ただの謝罪とは思えないほどに――美しかった。
「そういうことじゃないでしょ!」
あっという間に、後輩ふたりに前を隠されてしまった。
……正直、ちょっと残念だと思ってしまった自分が情けない。
「ふふ、ちょっとは元気出たか?」
そう言って笑いかけてくる先輩に、こちらも思わず笑ってしまう。
「はい……ありがとうございます。」
素直に、そう返した。
すると先輩は、今度は真顔でじっとこちらを見つめてきた。
「……そっちも元気になったか。」
目線の先にあるのは――うなだれていたはずの“息子”。
……いや、さっきのあれを見せられて元気にならない方が無理がある。
「もう、当たり前のように見ないでくださいよ……」
情けなくなるやら恥ずかしいやらで、顔が熱くなる。
「よし、最後のお詫びだ。後輩1号、浴室の鍵をかけてこい。」
――また、変なことを言い出した。
「1号ってどっちよ……」
呟きながらも、渋々動いたのは阿部さんだった。
迷いながらもちゃんと言うことを聞いて鍵を閉めるあたり、本当にいい子だと思う。
その間に、先輩は手にハンドソープをたっぷり垂らしていた。
「一回だけだからな?」
……一回だけ?
一体、何が? なんて思うまでもなく、言わんとすることは明らかだった。
まさか……先輩?
「二人は、無理して見なくていいぞ。そして……これは、ここにいる人間だけの秘密だ。」
石井先輩が静かにそう言い放つと、そのままおもむろに手を伸ばしてきた。
「ちょ、先輩……!」
次の瞬間、ぬるり、とした感触とともに、下腹部に柔らかい手が絡んだ。
ゾクリと背筋を走る感覚。思わず声が漏れた。
ヌチャ、クチュ……くちゅっ。
浴室内に、控えめだけど確かにいやらしい音が広がっていく。
これは――まずい。
なのに身体の方は、完全に逆の反応を見せていた。
先輩の手はぬるりと滑り、時折きゅっと指先が締める。
自分の意思とは無関係に、奥から込み上げてくるものがどんどん膨れ上がっていく。
ふと前を見れば、阿部さんと植田さんが真っ赤な顔で固まっていた。
目を逸らすこともできず、ただじっと、俺の股間と先輩の手元を見つめている。
先輩の手にほとんど隠れてしまう俺のそれ。
くちゅ、ぬちゅ、じゅぷっ……と、明らかに湿った音が響くたび、羞恥心と快感がせめぎ合う。
「……もう、出そう?」
先輩の優しい声が、耳元に落ちた。
何も考えられない。ただ、熱と痺れに全てを支配されていた。
「あ……出ますっ!」
言葉と同時に、ビクッと身体が跳ねる。
その瞬間、びゅくっ、びゅるるっ、と先輩の手の中に溢れ出す感触があった。
ぬちゃ……ぬるり……。
自分でも信じられないくらいの量を出してしまったことを、熱い感覚が教えてくれた。
「うわー……ちんちんの大きさの割に、すごく出たね。気持ちよかった?」
石井先輩が笑いながら言った。
けれど、息が上がって声を出すこともできなかった。
「悪いんだけど、二人は洗ってあげて。このまま放っといたら可哀想だし。」
そう言って、先輩は手を洗いはじめる。
阿部さんと植田さんは、顔を見合わせてからおずおずと俺の前に立ち、優しくシャワーを当ててくれた。
そのとき――
「あの……先輩って、剥けないんですか?」
植田さんの素朴すぎる質問が、グサリと突き刺さる。
年下女子からの“観察”は、想像以上の破壊力だった。
またうなだれそうになった俺に、今度は阿部さんが静かに声をかけてくる。
「はあ……ここ、剥けたら落ち込まなくなるわけ?」
「まぁ……ダメージは減るとは思うけどな。」
それが精一杯の答えだった。
「私がこんなことしたって、みんなには内緒よ? わかった?」
そう囁きながら、阿部さんの指がそっと下腹部に触れる。
驚いて視線を向けたときには、すでに彼女の手が静かに包み込んでいた。
「これ、下げればいいの?」
「……そうなんだけど、優しく、頼むよ?」
もう――覚悟はできていた。
「わかってるって。」
そう言った直後、少し強めの動きが伝わってきた。
「っ、い、痛っ!」
鈍い衝撃が走る。
思わず身体をよじると、阿部さんが慌てて声をかけてくる。
「あ、ごめんなさい!大丈夫!」
「優しくしてくれって…あれ?剥けてる…。」
阿部さんと植田さんが、そっと覗き込んでくる。
初めて――ほんとうに初めて、顔を出した自分の“そこ”。
だが、そこは……思っていた以上に、汚れていた。
「剥けたのは、嬉しいんだけど……なんか、ごめん。」
もう、この異常な状況に慣れたのだろうか。
「いいですよ。先輩の“かわいいの”、ちゃんと洗ってあげます。」
植田さんが、そっとボディソープを手に取る。
泡立てたその手が、慎重に触れながら、やさしくなぞる。
ぬるっ……ぬちゅ……。
指先のぬめる音が、また浴室に響き始めた。
年下の女の子に“そこ”を洗われるという異常な光景。
だが、快感は止めようがなかった。
再び――俺の中で、熱が立ち上っていく。
「このまま……もう一回出しちゃいましょう、ごしごし。」
植田さんの口から、そんな言葉がこぼれた瞬間、背筋がゾワリとした。
何かが外れてしまったのか――彼女はそのまま、手の動きを止めることなく続けてくる。
その滑るような感触と、くちゅ、ぬる、と響く音が再び浴室に広がっていく。
「後輩はまずいって……!うっ……!」
声を押し殺したつもりだったが、喉の奥から勝手に漏れてしまった。
初めて触れられたばかりのその部分は、強い刺激にまだ慣れていない。
それに、後輩の細くてやわらかな指先が――そんなふうに動くものだから。
耐えきれなかった。
再び、あふれるような熱がこみ上げて、意識が白く染まる。
びくっ、と身体が大きく跳ねた。
その瞬間、何かが抜けるような感覚と共に、熱が弾けていった。
「……出たときの、先輩の顔……かわいかったですよ?」
植田さんが、いたずらっぽく笑って見せる。
――完全に、弱みを握られた気がした。
そんなふたりを、呆れたような目で見つめる阿部さん。
「また出しちゃったの?……そーろーってヤツ?」
言い方がずいぶん容赦ない。
それでも、否定はできなかった。
「……仕方ないだろ。女の子に触られたのなんて、今日が初めてなんだから……」
ぽつりとそう呟いた俺に、背後から聞き慣れた声が割って入る。
「つまり、高田君は――童貞ってことだな。」
いつの間にか戻ってきた石井先輩が、手を拭きながら、さらっと爆弾を落としてきた。
「そうですけど……みんな、経験済みなんですか?」
本来なら完全にアウトな質問だが、今の空気なら不思議と聞けてしまった。
「私は、バージンですよ?」
植田さんが、あっけらかんと答える。
羞恥心のネジがどこか緩んでいるのかもしれない。ちょっとだけ心配になる。
「……変態。」
阿部さんが小さく呟く。
その反応は、恐らく――未経験。
なぜか、心の奥で“やった”という気分になった自分がいた。
「私は……秘密だ。」
一番あっさり答えそうな石井先輩が、逆に濁す。
あんなに堂々と振る舞っていたのに、これだけは明言しないあたり……おそらく、そういうことなのだろう。
彼氏がいたって話は聞いたことがないけど、それだけで判断できるような人でもない。
そのとき、先輩がふいに俺に視線を向けてきた。
「さて、高田君。もう一回だけ……がんばれるかい?」
言いながら、指で“そこ”を軽く弾いてくる。
「……二回出したんですから、しばらくは無理ですよ。」
力なく答えると、先輩はわざとらしく残念そうにため息をついた。
「そうかぁ、残念だな。せっかく、後輩1号が“すごいこと”してくれる予定だったのに。」
後輩1号……って、まさか阿部さん?
三人の視線が一斉に阿部さんへと向く。
「えっ、私……?」
完全に面食らった様子で目を丸くしていた。
「私と後輩2号は、すでに“してあげた”わけだし。1号だけ何もしないのは、不公平だろ?」
先輩がそう言うと、阿部さんの表情が固まったまま、微妙に引きつった笑みを浮かべた。
阿部さんに“すごいこと”をしてもらえる――
その言葉だけで、身体は勝手に反応してしまった。
先輩が、その様子を見て喉の奥で笑う。
「こんなに期待されてるんだぞ? どうする、後輩1号。」
半ば意地悪そうに、でも楽しんでいる声だった。
阿部さんは顔を真っ赤にしながら、こちらを睨むように見つめてくる。
「……私なんかに、してもらいたくないでしょ?」
その小さな声には、照れと戸惑いが混じっていた。
「いや……できれば一番してもらいたい、というか……」
言葉にした瞬間、胸の奥が熱くなる。
その反応に、植田さんが口元を押さえて笑った。
「先輩、私たち……フラれちゃいましたね。」
「そうだな。仕方ない、合宿中ずっと後輩1号ばっかり見てたからな、高田君は。」
二人がニヤニヤしながら言う。
どうやら、すべてバレていたらしい。
阿部さんは、しばらく俯いていたが――
ぱっと顔を上げ、決意したように言った。
「……わかりました! 私もやります!」
エピローグ
阿部さんにも“してもらい”、結局、三回出したことになる。
あれよあれよという間に流されて、気がつけば――四人で湯船に浸かっていた。
「美女三人と混浴なんて、幸せだな、高田君。」
石井先輩が肩までお湯に浸かりながら、冗談めかして言う。
確かに、その通りだ。
こんな状況、今後の人生で二度とないだろう。
怪我をして、マネージャーをやる羽目になった合宿。
けれど、最後には……悪くない“ご褒美”があった気がする。
「それで、お二人はお付き合いするのですか?」
不意に、植田さんが爆弾を投下してきた。
「ちょっ……!」
阿部さんが、顔を真っ赤にしてあわあわと動揺する。
「おいおい、あまり阿部さんを困らせちゃダメだぞ。」
思わず口を挟んで、植田さんを軽くたしなめる。
「……出来ればもうちょっと、ムードの良いところで告白させてくれ。」
今のところ、俺から言える限界はそのくらいだった。
当の阿部さんは、顔を半分お湯に沈めて、ぶくぶくと泡を立てている。
ごまかし方が、なんともかわいらしい。
「なんか、のぼせそうだな、後輩2号。」
「そうですね、そろそろ上がりますか、先輩。」
二人はそう言いながら、ゆっくりと湯船から上がっていく。
「ちょっと待ってよ! 私も――」
阿部さんも立ち上がろうとするが、先輩の手元にある“ある物”に気づき、慌てて湯船に沈む。
水着のブラ――それを、石井先輩が何気なく手に持っていたのだ。
「君らは、もう少し浸かっていなさい。」
そう言い残し、先輩は脱衣所へと消えていった。
その去り際、ちらりと振り返って――
「でも脱衣所にはいるから、エロいことはしちゃダメだぞ?」
余計な一言を添えて、消えていく先輩。
お湯の中で、阿部さんと視線が合った。
そして、二人で――ふっと笑い合う。
「……それで、どこで告白してくれるの?」
阿部さんの頬がほんのり赤く染まったまま、小さな声でそう尋ねてきた。
END


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