【前作はこちら↓】
フィットネス系のゲームにキャスティングされ、少しずつ知名度が上がってきた葵。そんな彼女に、また新しい仕事の依頼が舞い込んだ。
「それでね、葵ちゃん。今回は“秘境の部族”の取材なの。」
秘境。なんだかワクワクする響き。でも、同時に少し不安もよぎる。
「どうもね、裸族らしいのよ。」
「……裸族、ですか?」
裸族って……つまり、裸?
いや、名前からしてそうなんだろうけど。
前回の仕事でも、女性だけとはいえ全裸になる展開があったばかりだし……。
「でも大丈夫、葵ちゃんが裸になるわけじゃないのよ。あくまで“レポーター”として話を聞いたり、生活を体験してもらうだけ。取材対象は現地の人たちなの。」
――前回も、そんな感じで“ちょっとだけ”騙された気がするんですけど。
じとーっとした視線を向けると、慌てた様子で担当者が映像を見せてきた。
画面には、たしかに上半身裸の人々が映っている。
ネックレスのような飾りをジャラジャラと付けている女性は、やっぱりおっぱい丸出し。
男性陣は腰蓑のようなものを身に着けているが、結構ご立派な物がチラチラ見えてしまっていた。
「……これ、普通に無修正じゃないですか。」
こんなもの見せられて、どう安心しろというのか。
「ほらほら、もうちょっと見て。ここ、日本人のレポーターがいるでしょ?」
画面をよく見ると、たしかに見覚えのある男性レポーターが現地に溶け込んでいた。
しかも――普通に服を着たまま、笑顔で現地の人と交流している。
最後まで映像を見たが、彼は終始服を着たまま、二泊三日の取材を終えていた。
「ね? 裸じゃないと受け入れられないってわけじゃないの。だから安心して行ってきて?」
……信じるしかない、か。
「わかりました。お受けします。……そもそも、断れるほど偉くないですしね。」
モヤモヤする気持ちは残るけれど、やるしかない。
そう自分に言い聞かせて、葵は小さく頷いた。
飛行機を何度も乗り継ぎ、長時間の空の旅。
さらにそこから車に揺られて何時間もかけて移動した。
現地に到着したときには、すでに日が暮れかけていた。
「腰が終わりそうです……。」
疲れ切った私がぼやくと、スタッフたちからも同じような声が漏れる。
今回の同行スタッフは、私以外全員男性。
「女性を増やすと、いざってとき守りきれないからね〜」
そんなことを冗談めかして言われたけど、内心では思っていた。
――そんな場所に、なんで私を連れてきたのよ……。
「でも大丈夫。この部族は穏やかで、危ないことはないと思うよ。」
40代くらいのディレクターが、のんびりした口調で笑う。
……その言葉を信じたいところだけど、なにやら前方ではコーディネーターが現地の人と揉めている様子だった。
少しして戻ってきた彼の顔は、あまり明るくない。
「ええと……要約すると、“部族に受け入れてもらいたいなら、同じ格好をしてもらわないと困る”そうです。」
同じ格好……つまり、裸ってこと?
以前、現地の衣装を無視して滞在した日本人がいたらしく、そのときに“悪いこと”が起きたのだという。
「……はぁ。」
思わずため息が漏れる。
――あの時、見せられた動画の男性レポーター。きっと彼のせいで何かあったのだろう。
「葵ちゃん、どうする?」
……え、ここで選択権を私に投げるの?
でも今さら逃げるわけにもいかない。
「……下着までなら。」
しぶしぶそう答えると、コーディネーターは頷きながら言った。
「じゃあ一度、その格好になってみてください。みんな一緒にね。でないと話が進まないそうです。」
仕方ない……そう思って服を脱ごうとしたとき、ふと視線を感じて顔を上げる。
……全員の男性スタッフがこっちを見ていた。
「何やってるんですか!皆さんが先に脱がないなら、私、脱ぎませんから!」
私の一喝に慌てて、スタッフたちは服を脱ぎ始めた。
シャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、そして――なぜかみんな、こちらを向いたままパンツを下ろした。
ぷるん、と飛び出す複数の……ちんちん。
大小さまざま。剥けている人もいれば、包まれたままの人も。
直視するのは気が引けて、つい視線をそらしてしまった。
「さ、葵ちゃんの番だよ。」
ディレクターがぶらぶらさせながら近づいてくる。
「……脱ぎますから、近づかないでください。」
私はシャツと短パンを脱ぎ捨てる。
スポーツに最適な、スポブラとボクサーパンツ――動きやすさ重視の装いだ。
「……仕方ないじゃないですか。」
秘境じゃなきゃ、もうちょっと可愛い下着を着てきたのに。
そんな格好を見て、スタッフたちは明らかにがっかりした顔をしていた。
その後、再びコーディネーターが現地の女性たちと交渉を始めた。
しかし、戻ってきたときの表情はさっきよりも重かった。
「ええと……お嬢さんが脱がないのが気に入らないそうです。村長よりも、むしろ“女性陣”の方が怒ってるみたいで……。」
「……帰りますか。」
正直、女性に嫌われてしまってはこの手の取材は無理だ。
でも、裸になるなんて契約には書いてなかった。下着姿までで十分譲歩した。帰る権利はあるはず。
車に向かおうとすると、その前に――
「待ってくれ!」
ディレクターが立ちはだかる。
そして、男性スタッフ全員が、地面に頭をつけて土下座を始めた。
「頼む、俺たちのためと思って脱いでくれないか?もちろん、放送時は完全に修正する!お願いだ……!」
……私はいつも思う。
土下座って、暴力じゃないかって。
ここで断れば、私の方が悪者になる。
「……はぁ。」
深く、重いため息をついた。
――この仕事を受けた時点で、こうなる予感はしていた。
そう、どこかで覚悟はしていたのだ。
「……わかりました。脱ぎます。その代わり、放送時の修正は絶対にしてください。それと……私の裸を見るときは、顔を背けてください。あと……ギャラのアップ、要求します。」
これくらいは、言わせてもらってもいいはずだ。
「ありがとう!ありがとう……!この取材には、本当に多額の費用がかかってて……失敗したら……!」
ディレクターが顔を上げながら、涙目で頭を下げる。
「今から脱ぎます。全員、頭を下げてください。」
私はそう宣言して、最後の衣服に手をかけた。
「それと……私の裸にがっかりしないでくださいね。」
精一杯の強がりだった。
これから私は、裸のまま二泊する。
そっとスポブラを外し、パンツを脱ぎ――
それらを丁寧にたたみ、カバンの中へしまった。
胸と股間を手でかくしながら、声をかけた。
「顔を上げてください。」
男性たちの視線が、私の裸に突き刺さる。
あまりの視線の強さに、思わず体をすくめてしまった。
……流石に、これは恥ずかしい。
その様子を見ていたコーディネーターが、慌てて村長のもとへと走り出していく。
残された私は、できるだけ正面をさらさぬよう、スタッフたちに背を向けた。
見られるなら、せめてお尻のほうがマシ――そう思って。
時間にすれば、ほんの数分だっただろう。
けれど、裸でその場に立ち尽くすには十分すぎる時間だった。
やがて、コーディネーターが戻ってきた。
彼の後ろには、部族の“おばちゃん”のような女性たちが数人ついてきていた。
「こっちへいらっしゃい。」そんなジェスチャーをしている
そう言うと、彼女たちは私の腰に丁寧に腰蓑を巻きつけ、胸元にネックレスを掛けてくれた。
装飾とはいえ、何かを“身につける”だけで、少しだけ心が落ち着く。
どうやら、これで“受け入れられた”らしい。
ここまで来たら、もう手で隠しているのが馬鹿らしくなってきた。
私は静かに、胸を覆っていた手をスッと下ろした。
途端に、スタッフたちの間から「おお……」という小さな歓声が漏れた。
ネックレスに覆われたとはいえ、小ぶりな胸と乳首はほとんど隠れきっていない。
風が肌をなぞるたびに、自分の裸が“現実のもの”として意識にのしかかってくる。
――あ、胸にも日焼け止め、ちゃんと塗らないと。
そんなことをふと思いついてしまった自分に、少しだけ苦笑いが漏れた。
どうやら、この部族では男性と女性がしっかりと生活の場を分けているらしい。
食事の時間と、家族で寝るとき、その時だけ一緒のようだ。
それ以外の時間は男女それぞれに与えられた役割があるようだった。
私は取材用に、首からかけるタイプのボディカメラを渡された。
私が近距離での記録を担当し、スタッフは少し距離を取って遠巻きに撮影をするという段取り。
最初に任されたのは、若い女性たちと一緒に小麦のような穀物をこねる作業だった。
どうやら晩ごはんの準備らしい。
裸に腰蓑という同じ格好の彼女たちに混じって、私も手を粉まみれにしながら生地をこねていると、ふと視線を感じた。
一人の女性が、興味深そうに私のそばに寄ってくる。
じっと私の体を見つめている――特に、肌の色に注目しているようだった。
私の肌は、彼女たちよりも明らかに白い。
それが珍しいのか、別の女性も近づいてきて、じっと見つめたかと思うと――
ためらいもなく、私のおっぱいを、手のひらでむにゅっと揉んできた。
「……っ!」
不意を突かれた私は、声にならない声を漏らしそうになる。
けれど彼女たちは悪びれた様子もなく、むしろにこにこと笑っていた。
何かを言っているようだったが、もちろん言葉はわからない。
けれど、その表情と仕草から、だいたいの意味は伝わってくる。
彼女たちは、自分たちの胸元を誇らしげに両手で持ち上げて見せた。
そのあと、私の胸を見て、首をかしげる。
――どうやら、“小さい”と言いたいらしい。
確かに、みんな胸が豊かだった。
体格もいいし、何より堂々としている。
さらに、こねた生地を指さし、食べるジェスチャーをしながら、再び胸をぐっと持ち上げる仕草を見せる。
……あれを食べたら、胸が大きくなるってこと?
私は小さくため息をついてから、思った。
――よし、いっぱい食べてやる。
異文化の圧と羞恥の中で、私は妙な闘志を燃やしていた。
こねた生地を、大きな平たい石の上に一枚ずつ貼り付けていく。
じゅわっという音とともに、香ばしい香りが立ち上った。
(……なるほど、ナンみたいなものなのかな。)
そう思いながら、焼き上がりをじっと見つめていた。
すると、先ほども案内してくれた村の“おばちゃん”が、数人の子供を引き連れてやってきた。
(え?何?料理の手伝いでもさせるのかな?)
そう思ったのも束の間。
彼らはためらいなく、周囲の若い女性たちの胸に手を伸ばして、揉み始めた。
「え、ええっ!?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
だが、揉まれている女性たちは誰一人嫌がる様子もなく、むしろ微笑みながら受け入れている。
おばちゃんが、そんな私を見て、得意げな表情で身振り手振りを交えながら説明を始めた。
両手をやわらかく胸元で動かしながら、子供の方を指差す。
そして再び胸を強調するような仕草を加える――
どうやら、「触れることで母性を感じさせる」儀式のようなものらしい。
(……よくこれで理解できたな、私も。)
自分の理解力にちょっとだけ感心しつつも、内心は動揺していた。
そんな中、一人の子供が私の目の前に立った。
(まさか……私も!?)
戸惑いで体が固まっていると、おばちゃんがにっこりと笑って、サムズアップしてくる。
どこで覚えたんだそのジェスチャー。
ツッコミたい気持ちを飲み込みながら、私は深く息を吐いた。
郷に入っては郷に従え。
私はネックレスをそっと横にずらし、自分の胸を前に差し出した。
私の白い肌に、彼は最初少したじろいだ様子だった。
だが、やがてその手は確かに私の胸へと伸び、そっと触れてきた。
……その手は、次第に慣れてきたのか、どんどん大胆になっていった。
まるで揉み慣れているかのように、リズムよく、まんべんなく。
揉み揉み――
そして、先端をキュッとつままれた瞬間、
「……っ!」
声を出すわけにもいかず、私は唇を噛み締めながら小さく体を震わせた。
ようやく一人目が終わった……と思ったその瞬間。
私の前には、まだ何人もの子供たちが、列を作って並んでいた。
(……まさか、全員?)
その予想は見事に的中し、結局30分ほど――揉まれ続けることになった。
母性を与えるためとはいえ、これは完全に重労働だ。
後からコーディネーター経由で聞いた話によると、普段はせいぜい2〜3人の儀式らしい。
でも今回は、私の存在が珍しすぎたせいで、村中の子供たちが集まってしまったのだとか。
(……先に言え。)
心の中でそうツッコみながら、私はまた一つ、この村の文化を身をもって学んだのだった。
どんな状況でも、人間にはどうしようもないものがある。
――そう、尿意である。
羞恥や緊張、異文化への戸惑い。それらすべてを上書きしてくる、強烈な生理的欲求。
私はそっと、隣にいた若い女性に身振り手振りで“トイレに行きたい”と伝えた。
すると彼女はすぐに頷き、私の手を取って案内してくれた。
男性たちの就業エリアと女性たちの就業エリア、そのちょうど中間地点に、小さな木造の小屋がぽつんと建っていた。
私の目線くらいの高さの台座の上に建っていて、近づくとそれなりに独特な匂いがする。
彼女はにこにこと笑いながら、再び身振りで説明してくれた。
どうやら――ここは、排泄物を肥料として再利用しているらしく、「遠慮なく出していい」とのこと。
さらに、手のひらに収まるくらいの器に入った水を差し出してくれた。
(……出したあと、これで洗えってことね。)
思った以上に衛生観念がしっかりしていることに、少し驚いた。
案内を受けて、備え付けのはしごを軽く登り、小屋の中へ入る。
中は質素で、小さな明かり窓と、床にぽっかり開いた丸い穴がひとつ。
どうやら、ここにしゃがんで用を足すらしい。
水の器をそっと脇に置き、私は周囲を汚さないように注意しながら、腰蓑を外す。
ネックレスだけを残した裸のまま、しゃがみ込んだ。
「……和式スタイルなんて、久しぶりだな。」
ぽつりとつぶやきながら、足を開いて体勢を整える。
自然と、さっきまでの“儀式”のことを思い出してしまう。
両手の指でそっと開いて確認してみると――
「……やっぱり、少し濡れてる。お恥ずかしい……。」
誰に聞かせるでもない独り言が、静かな空間に吸い込まれていく。
そして、ためていたものを一気に放出した。
じょろろろろ……という音が小屋に響く。
野外にあるはずなのに、妙に反響する気がして、余計に恥ずかしい。
排尿が終わると、さきほどの器に手を伸ばし、水をすくって、そっと自分のあそこを洗い流す。
少し冷たかったけど、妙に気持ちよく感じてしまった。
「……なんか、こう……自分で自分を慰めている感あるな……。」
小さく苦笑してから、腰蓑を身につけ直す。
深呼吸を一つして、扉を開けて外へ出た。
再び太陽の光を浴びながら、私は思った。
(異文化って、本当にすごい……)
視点は、葵の撮影に同行している男性スタッフ――その中の一人に切り替わる。
「……あ〜あ。せっかく葵ちゃんと仕事できると思って楽しみにしてたのになぁ。男女で別エリアって、そりゃないよ。」
そうぼやきながら、彼はカメラのファインダーを覗いていた。
もともとこの仕事に志願した理由も、例のフィットネスゲームで葵を見かけてからだった。
爽やかな笑顔と、ちょっと恥ずかしそうな表情――それに、しなやかな身体。
画面越しに惚れた。
だからこそ、本物の彼女を撮れるこの仕事に、胸を高鳴らせて参加した。
「……まぁ、でも。あの姿、見れただけで来た価値はあったな……。」
ナチュラルメイクのまま、腰蓑とネックレスだけの姿。
その中に収まっていた、小ぶりなおっぱいと引き締まったお尻。
撮影クルーとしての責任感と、男としての本音の間で葛藤しながらも、思わずつぶやいてしまう。
「……もう一生、おかずには困らないな。」
冗談めかして呟いたその言葉が、カメラの録音に入っていないことを、彼はちゃんと確認していた。
そんな彼のもとに、一人の中年の男が近づいてきた。
浅黒い肌に、口元だけがやたらとニヤついているような表情。
何かを喋っているが、もちろん言葉はまったくわからない。
だが、身振りや雰囲気から察するに――「こっちに来い」と言っているようだった。
「ディレクター、なんか、こっちに来いって言われてるんですけど……行ってもいいですか?」
無線で確認すると、ディレクターは軽く笑いながら答えた。
「ん? ああ、面白い絵が撮れそうなら行ってこい。」
軽い、いつも通りの現場感覚。
それならと、彼は中年男の後を追った。
連れてこられたのは――トイレ小屋だった。
「……えぇ……? トイレ……?」
立ち止まりながら、思わず顔をしかめる。
鼻をつく独特の臭い。どう考えても“撮れ高”なんて出てきそうもない。
しかし中年男は構わず進み、ぐるりとトイレ小屋の裏手に回っていった。
(……まさか、こっちが本番?)
仕方なく彼も後を追う。
すると、裏側の茂みに隠れるようにして、小さな木の扉があった。
おそらく関係者しか知らない秘密の入口。
中年の男はそこで立ち止まり、ニヤリと笑いながら“ここに入れ”とジェスチャーを送ってきた。
(……えぇ……マジで?)
まったく気が進まない。
匂いはますます強くなっているし、小屋自体も古びていて、中から何が出てくるか想像もつかない。
それでも――彼は決断した。
(……取れ高、欲しいしな。)
覚悟を決めて、小屋の中へと身をかがめて入る。
想像以上に低く、軽く腰を折りたたまないと通れなかった。
中に入った瞬間、背後で――
ギィ……バタン。
重たい木製の扉が閉じられた。
(……うわ、閉めたよ。)
暗く、湿った空間。
不安が、じわじわと広がっていった。
天井に開いていた小さな穴から、トイレの内部が覗けた。
こんなアングルは滅多にない。
正直、臭いし居心地は最悪だけど、記録としては悪くない。
「……仕方ないな。撮影しておくか。」
そう思いながら、カメラをそっと構えた。
すると――誰かが入ってきた。
足音と気配に、ファインダー越しに目を凝らすと、その姿が映った。
……葵ちゃんだった。
「……まさか、葵ちゃんが?」
少しだけ周囲を警戒するように、トイレの前で立ち止まってあたりを見回している。
(そんなに警戒してるなら、やめればいいのに……)
そう思いながらも、目はファインダーから離せなかった。
腰蓑の隙間から、あれだけ隠されていた下半身が、今やほとんど無防備に近い。
穴の真上にしゃがむようにして腰を落とした瞬間、
閉じていたはずのその場所が、自然とわずかに開いた。
その奥にある、小さなビラビラや、クリトリスを覆うようなヒダが、しっかりと見えてしまっている。
(う、嘘だろ……これ……鼻血出そう……)
さらに、彼女は突然――自らの指で、そこをクパッと開いた。
「……少し濡れてる……」
はっきりと、そう呟く声が聞こえた。
(濡れてる? 葵ちゃんが?)
カメラのズームを少しだけ調整すると、光を反射している粘膜の部分が見えた。
確かに、湿っている。潤っている。
(な、なんで……)
頭の中が混乱しそうになりながらも、目は逸らせなかった。
そのとき、ワレメから勢いよく水が流れ始めた。
シャーーーーッ……という音とともに、溜めていた尿が溢れてくる。
(やべっ!)
飛沫がこっちに飛びそうになり、あわててカメラをよけた。
あのまま構えていたら、間違いなく機材が犠牲になっていただろう。
結構な時間、流れていた。
溜め込んでいたのだろう、勢いも量もかなりのものだった。
やがて流れが止まり、彼女は再び自らの指でワレメをそっと開いた。
器に入った水で、そこを洗っている。
誰かに見られているわけでもないのに、妙に丁寧に。
「……ちょっと、自分を慰めてる感じあるな……」
そう呟く彼女の声が、またもはっきり聞こえてしまった。
(葵ちゃんが……そんな……)
もはや興奮はピークに達していた。
しかし、音を立てるわけにも、動くわけにもいかず、ひたすら見届けるしかなかった。
葵ちゃんは何事もなかったように腰蓑を整えると、小屋から出ていった。
彼はそれからしばらく時間を置き、バレていないことを祈りつつ、静かに扉を開けた。
外に出ると、あの中年の男がこちらを見て、にっこり笑いながらサムズアップしていた。
(おいおい……いったいどこで覚えたんだよ、それ……)
そしてその夜。
彼が撮影した映像は、スタッフ数名の間でひそかに回された。
部族の地で、外界と隔絶された環境。
緊張とストレス、そして目の前で繰り広げられる異文化の光景。
誰もが、何かしら“たまっていた”のだろう。
モニターに映し出された葵の姿に、場の空気が一気に熱を帯びていった。
そして、やがて始まる――じゃんけん。
勝った者から順に、撮影に使ったカメラを手にトイレの小屋へと向かう。
言い訳も、躊躇もなかった。
これは“必要な発散”――誰もが、そう自分に言い聞かせていた。
だが翌朝、彼らは全員、葵の顔をまっすぐに見ることができなかった。
二泊三日の滞在が終わる頃には、葵もすっかりこの地の生活に馴染んでいた。
最初はあんなに恥ずかしかった裸での生活も、気づけば自然なことのように感じていた。
裸でいることが普通になり、むしろ服の方が不自然にすら思えた。
別れの時。
村人たちは、みんな涙を浮かべながら葵を見送ってくれた。
言葉は最後まで通じなかったけれど、伝わるものはたくさんあった。
優しさ、感謝、そして――名残惜しさ。
車に乗る前、葵は身につけていた腰蓑とネックレスを返そうとした。
部族の一員として過ごした証であり、借り物だと思っていたから。
けれど、村人たちはそれを優しく制してきた。
返さなくていい――これはあなたへの贈り物。
そんな想いが、言葉はなくても伝わってきた。
葵は静かに頷いて、それを受け取った。
「ありがとう。」
そう口にした声は、きっと通じなかったかもしれない。
でも、心でのやりとりは、確かにそこにあった。
そうして彼女は、再び服を着て文明世界へ戻っていく。
車に乗り込んだ瞬間、ふと鼻をついたのは――自分たちの体臭。
(……みんな、臭い。きっと私も……)
山と土と汗と煙と――裸で過ごした数日間の匂いが、しっかり染みついていた。
「早くお風呂に入りたいな……」
ぽつりと呟いた言葉に、スタッフ全員が無言で深く頷いた。
それが、彼らの小さな旅の終わりだった。
エピローグ
今回の取材は、放送開始と同時に大きな反響を呼んだ。
これまで男性側の文化はある程度知られていたものの、女性の暮らしに関しては情報がほとんどなかった。
葵が体を張って取材したことで、彼女たちの生活がようやく明らかとなり、その地の文化理解にも一石を投じたのだという。
もちろん放送はしっかりと修正が施されており、決してセンシティブな部分は映っていなかった。
それでも、体当たりの姿勢と真摯な対応は大きく評価され、視聴者からも称賛の声が多く寄せられた。
そして、番組スタッフも口を揃えて言った。
「今回の取材でみんな昇進だってよ。」
とりわけ、例の中年ディレクターは上機嫌だった。
収録後、彼は満面の笑みで葵の背中をバンバン叩きながらこう言った。
「葵ちゃん、本当にありがとう。おかげで大成功だったよ。次、俺がディレクションする番組にも絶対呼ぶから、そのときもよろしくね!」
「……ありがとうございます。」
背中が痛いと思いつつも、葵は微笑みながら頭を下げた。
恥ずかしかった。限界も超えた。
それでも――「やって良かった」。心からそう思えた。
そんなある日。事務所に一本の小包が届いた。
中には、1本のテープと一枚のカード。
「マスターテープです。コピーはしていません。」
とだけ書かれている。
何のことかと首を傾げつつ、再生可能なカメラを引っ張り出し、事務所のテレビに繋いで映してみた。
すると、画面に映ったのは――
例の、狭くて臭い、あのトイレ小屋の内部。
(……まさか……)
そして次の瞬間、画面に映ったのは紛れもない“自分”の姿。
「ちょ、ちょっと!? なにこれ!」
思わず叫び、慌ててテレビ画面の前に立って両手で隠す。
けれど、すでに遅かった。
ちらりと横目で見た画面には、ちょうど“あの瞬間”――
自分がワレメをクパッと開いた、あまりにも決定的な映像が映し出されていた。
(いったい誰が……)
怒りと羞恥と驚きが交錯する中、思い出されたのは、あのトイレの裏。
そして、不自然に低い小屋の天井の構造。
――間違いない。あのとき同行していた誰かが、撮っていた。
(こんなもの送りつけてくるなんて……でも……)
ふと、葵は不敵な笑みを浮かべた。
(きっと、これで“大きな仕事”を入れてくれるつもりなのね。ええ、ええ……期待してるわ。)
その瞬間、彼女は静かにデスクに向かった。
ノートPCを開き、同行したスタッフ全員の名前を一人ずつ――丁寧に検索し始めた。
口元に笑みを浮かべてはいるが…目は笑っていない。
「さて……誰から話を聞こうかしら。」
葵の静かな復讐劇が、ここから幕を開けるのだった。
END



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