今、僕はボーナスを握りしめて――とあるオーダースーツの店の前に立っている。
実際に握っているわけじゃないが、清水の舞台から飛び降りるみたいな気持ちではある。
ここに来た理由はひとつ。先輩に勧められたからだ。
「小田君、初めてのボーナスは何か買うの?」
部署の先輩にそう話しかけられた。
「あまり決まっていないんですよね。両親を食事に連れて行くくらいですかね。」
すると、そこにもう一人の先輩が口を挟んできた。
「もし何も予定ないなら、スーツでも買ったらどうだ?」
「スーツですか?」
正直、スーツにこだわりなんてなかった。
就職する前に買った吊るしのスーツを、ただ着回しているだけだ。
「そうね。一着くらいは、自分の体に合ったスーツを持っていてもいいわね。」
そんなものか。
確かに、これからお客さんの会社に行く機会も増えると言われている。
買っておいて損はないかもしれない。
「でも、どこで買えばいいんですかね。量販店しか知らないですよ。」
「じゃ、俺のおすすめの店、教えてやるよ。変にこだわらなければ、そこまで高くない店だから安心しろ。」
それは大いに助かる。
何かあったら先輩に泣きつけばいいし。
「まあ、無理して買う必要はないけどな。気が向いたら行ってくるといいぞ。」
そう言って、先輩はURLの書かれたチャットを送ってきた。
勇気を出して扉を開ける。
中を覗くと、壁際にもラックにも、たくさんのスーツがずらりと並んでいた。
想像していた以上の数に、思わず息をのむ。
オーダースーツなんて初めてだ。期待より先に緊張が来る。
「いらっしゃいませ。」
声をかけてきたのは自分より少しだけ年上であろう女性の店員だった。
こういう店は男性が対応するもの、という勝手なイメージがあったせいで少し戸惑ってしまう。
「あの、スーツのオーダーをお願いしたいのですが…。」
恐る恐る伝えると、店員の女性はにこやかに頷いた。
「はい。では、こちらへどうぞ。」
まずはテーブル席へ案内された。
初めての来店であることと、先輩に紹介されて来たことを伝える。
すると、予算、用途、生地、デザイン――順番にヒアリングが始まった。
「なるほど。おおよその形はイメージできましたね。」
自分の好みとビジネスの用途に合わせて、いい塩梅の選択肢を提示してくれる。
自分一人なら、きっとここまでスムーズに決められなかっただろう。
「では、採寸いたしますね。こちらへどうぞ。」
オーダースーツだから、採寸はしっかりやるらしい。
店員に促され、扉の先にある個室へ案内された。
試着室のような簡易的なスペースを想像していたので、少し驚いた。
部屋の中は小さな会議室のようで、壁一面に大きな鏡が貼られている。
「では荷物はこちらへ。それから、着ているお洋服はこちらに入れてください。」
「……あ、服脱ぐんですね。」
言ってから、当たり前だと気づく。
実際には当たり前ではないのだが、はじめて故にこれが当たり前だと思ってしまった。
「はい。下着だけになってください。」
そう言いながら、店員はメジャーやら何かの道具やらを手早く準備している。
……脱ぐしかないか。
店員さんがこちらを見ていないことを確認して、さっと服を脱ぐ。
何となく、脱いでいるところを見られるのは気まずい。
「あの、脱ぎました。」
シャツとパンツだけという、なんとも情けない姿になる。
「はい。では鏡の前へどうぞ。」
店員さんがメジャーを取り出し、すっと伸ばした。
「では首回りから測りますね。」
僕の正面に立ち、首にメジャーを回していく。
……正直、かなり顔が近い。ドキドキしてしまう。
目がぱっちり大きくて、美人だ。しかも、ふわっといい匂いがする。
店員さんが、くすりと笑った。
「お客様、採寸は初めてでしたね。あまり動かないようにしていただけると助かります。」
……笑われてしまった。
完全に女性慣れしていないことがバレたのだろう。顔が熱くなる。
「す、すいません……。」
そう言って、こちらも軽く笑ってごまかすしかなかった。
「次は肩幅ですね。」
彼女は背後に回り、肩のあたりにメジャーを当て始めた。
正直、助かった。
あれだけ顔が近いと、心臓に悪い。
「では、胸囲を測りますね。」
そう言って、彼女は再び僕の正面へ。すると、何を思ったのか、前からそっと腕を回してきた。
ふいに身体を包まれるような感覚。
思わず息を呑む。
彼女の比較的大きな胸が、シャツ越しにむにっと当たっている。
「あ、え?ちょっと近いですね……。」
つい、言葉が口をついて出た。
「すみません、ちょっとメジャーがつかめなくて……。もう少しだけ、がまんしてください。」
申し訳なさそうに眉を下げて謝る彼女。その表情も、どこか愛らしい。
そんなふうに言われてしまっては、何も言えなくなる。
再び彼女の腕が回され、数回、ぎゅっ、ぎゅっと優しく身体が包まれる。
そのたびに、心臓の鼓動がひとつ跳ね上がるような気がした。
やがて彼女の指先がメジャーの端をしっかりと掴み、胸の位置で数字を確認していく。
「はい、ありがとうございます。では次はウエストですね。」
彼女は目の前にしゃがみ込み、そっと手を下腹部に回してきた。
その構図――明らかに危うい。
さすがに股間があるので、ギュッと抱きしめてくることはなかった。
そのことに少し安心し、つい彼女の方を見てしまった。
……その瞬間、目に飛び込んできたのは、大きく開いたシャツの隙間。
たぶん、さっき抱きついたときにボタンが外れたのだろう。
胸元から、谷間が覗いている。黒いレースのブラジャーも、はっきりと見えた。
目を逸らさなきゃ、と思うのに、動けない。完全に釘付けになっていた。
さっき押しつけられたのが、あの胸……。
そんなことを考えてはいけないのに、頭の中から離れない。
そして、自分の意思とは裏腹に――下半身が反応し始めていた。
彼女の目の前にある“それ”が、大きくなっていく。
当然、気づかれてしまう。
店員さんは困ったような表情で、ちらりと僕を見上げた。
「お客様……さすがに今大きくされてしまうのは、困ります……。」
それは、当然だ。完全にこちらの落ち度である。
小さくなれ、小さくなれ、と心の中で必死に念じれば念じるほど、逆に反応は強まっていく。
気持ちとは裏腹に、ついにはカチカチになってしまった。
「す、すいません!そんなつもりじゃなくて!勝手に……!」
誤解されたくない、この状況を意図的に引き起こしたと思われてはまずい。
痴漢?わいせつ物陳列罪?何に当たるかは分からないが、犯罪じみた空気が脳裏をよぎる。
慌てて股間を手で隠し、後ろを向いた。
(谷間くらいで勃起するなんて……どうかしてる……)
再び、心の中で「小さくなれ、小さくなれ」と唱える。
だが、まったく収まる気配はない。鼓動ばかりが速くなる。
焦る僕に、店員さんが優しく声をかけてきた。
「大丈夫ですので、こちらを向いてください。」
振り返ると、彼女はまだしゃがんだまま、しかし穏やかな笑みを浮かべていた。
少なくとも、通報はされなさそうだ。
おずおずと彼女の方に身体を向ける。
「仕方ないので……先にこちらの計測をしますか。」
そう言ったかと思うと、彼女の手が一気にボクサーパンツを下ろしてきた。
ピンッと音がしそうな勢いで、反り返ったそれが顔を出す。
「ちょ、ちょっと!まずいですって!」
よりにもよって、こんな形で――初めて女性に“それ”を見られてしまった。
「では、サイズ測らせていただきますね。今回のような不意の勃起にも対応できるよう、サイズ調整いたします。」
彼女はごく淡々とした声でそう告げた。
……この人、本当に恥ずかしくないのだろうか。
「うーん、勃起して7センチですか……。少々、いえ、大分小さめですね。」
……そんなにはっきり言わなくても。
「小さい……ですか?」
思わず確認してしまう。
「そうですね。男性の平常時が、大体これくらいのサイズです。」
心に包丁を突き立てられたような感覚が走った。
「ですが、小さい方が調整しやすいので、ありがたいです。」
にこやかに、刺してくる。
確かに勃起した僕が悪いのだが、それでもあまりに容赦がなかった。
僕の表情から何かを察したのか、彼女は少しだけ気まずそうな顔をした。
「あ……と、確かに小さいですけれど、異常というわけではありません。時折、いらっしゃいますよ、このくらいの大きさの男性。」
……それはフォローになっているのだろうか。
彼女は、勃起した“それ”に軽く触れながら、淡々と話を続ける。
それだけで、なぜかじわじわと気持ちよさが込み上げてくる。
「どちらかと言えば……気になるとしたら、サイズより包皮ですね。勃起しても剥けていないので、真性か嵌頓の可能性もありますね。」
……この人、本当に容赦がない。
観察眼も鋭すぎるし、オブラートという概念がどうやら辞書にないらしい。
「剥けるようでしたら問題ないのですが、真性や嵌頓は保険が適用されます。つまり“異常”ということですね。」
「……はぁ。」
生返事が漏れた。
少しずつ、不安になってきた。
確かに、今まで剥けたことはなかった。
いや、正確には剥こうとしたことがなかった。
成長すれば勝手にそうなるものだと思っていたし、無理に触れることもなかった。
「もしよろしければ、私が剥けるか確認してみてもよろしいでしょうか?」
ここまで来て、触られ、観察されたのなら、もう任せるしかないのかもしれない。
「ご安心ください。仕事柄、多くのペニスを見ております。大船に乗ったつもりでお願いします。」
……仕事柄? 仕事柄見る事なんて無いような気がしないでもないが。
疑問は浮かんだが、もう流れに抗う気力もない。
「……よろしくお願いします。」
恥ずかしさは消えない。
けれど、これは――ある意味で、良い機会なのかもしれなかった。
「では、失礼します。」
そう言って彼女は、横に置いてあったウェットティッシュを準備し、両手で僕の大きくなったそれをそっと包み込んだ。
直立している僕。その目の前でしゃがみ込む、美人の店員。
見下ろせば、すぐそこに彼女の整った顔がある。なんとも言えない――いや、明らかに倒錯的な気分になってくる。
「痛かったら言ってくださいね。」
柔らかな声と共に、ゆっくりと皮を剥き始めた。
思ったよりも引っかかることはなく、すんなりと――ツルッと剥けてしまう。
「うっ……。」
皮が亀頭を通り抜ける瞬間、その感触に思わず声が漏れた。
「剥けましたね。仮性包茎です。」
にこやかに僕の顔を見上げてそう言う。
嬉しさと恥ずかしさがないまぜになる。不思議な気持ちだった。
そのとき、ツンとした匂いが鼻をかすめる。
視線を落とすと、剥けた先には、やはり汚れのような白いカスが付着していた。
「ふふ、汚れているところ、拭きますのでちょっと待ってくださいね。」
そう言って、彼女はウェットティッシュでやさしく先端を拭いてくれた。
――しかし。
今まで一度も外に出たことのなかった亀頭は、想像以上に敏感だった。
ずっと女性に触れられ続け、剥けたときの快感とウェットティッシュでの清拭。
童貞の僕が耐えきれるわけがなかった。
「あっ、だめです! 出ます!」
あまりの刺激に、思わず声を張り上げてしまう。
「え? えっ?」
戸惑う彼女の声。その瞬間――
びゅっ、びゅびゅっ……。
自分の意思に反し、彼女の柔らかな手の中に――漏らしてしまった。
一気に力が抜け、足元がぐらりと揺れる。危うく彼女の方に倒れかけてしまった。
「あはは、出ちゃいましたね。もしかして童貞さんでしたか?」
笑いながら言われてしまった。
本当にこの人は、ズバズバと言ってくる。
「すいませんです……。」
情けない気持ちが、じわじわと込み上げてくる。
彼女は手を丁寧に拭いたあと、再び小さくなったそれを優しく拭いてくれた。
そして、剥けたままだった包皮を元の位置に戻す。
「はい。ではこのまま、小さいときのサイズも測りますね。」
今度はメジャーを持ち出し、淡々と計測を続けていく。
「うーん、4センチですね。小さいですが、勃起もしますし、ちゃんと剥けるので問題なさそうですね。」
……問題ないのはありがたい。ありがたいんだけど。
「ちなみに私は医療従事者ではありませんので、本当に気になる場合は病院に行ってくださいね。」
――やっぱり、そうだよな。
うすうす感づいてはいたけれど、あくまでこれは「ズボンに収めるための採寸」だった。
たまたま、そこに医学的な知識が添えられていただけで。
「あ、はい……。」
それしか言えなかった。
「えーと、左曲がりですね。ポジションもこちら側ですか?」
そう言って、彼女は再びそれを軽く掴み、左側へと整える。
「そう……ですね。」
なんだか、自分の“個人情報”をすべて把握されてしまった気がして、妙な恥ずかしさが残る。
「では、一応こちら側にスペースは空けておきますね。……大きさ的には、必要なさそうですが。」
タブレットに情報を入力しながら、またしても失礼なひと言がさらりと飛び出した。
……なのに、不思議と腹が立たない。
この人は、何を言っても許されるタイプなのだろう。
たぶん、学生時代から、誰に咎められることもなく、天性の空気で周囲を黙らせてきたような――そんな人生を送ってきたんじゃないか。
そんな気がしてしまった。
採寸も、どうにか終わりそうだった。
最後に股下を測る段階で、パンツ越しに玉のあたりをさわさわと触れられてしまい――案の定、また大きくなってしまった。
「さっき出したばかりなのに、元気ですね。」
店員のお姉さんは、少し呆れたような顔で笑った。
「早く彼女さん作って、女性に慣れた方がいいですよ?」
そんなアドバイスまでいただいてしまった。
「……はい。」
返せる言葉は、それくらいしかなかった。
その後は、裏地やボタンなどの細かい仕様を一緒に決め、ようやく全ての工程が終了した。
前金を支払い、スーツが完成したら連絡をくれるという。
緊張と恥ずかしさと、わずかな達成感を抱えながら、僕は店をあとにした。
ひと月半ほどして、お店から連絡があった。
「スーツが完成しました。ぜひご来店ください」とのことだった。
次の休みの日。あの日と同じように、少し緊張しながら店へ足を運んだ。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
前回と同じ女性の店員さんが、変わらぬ笑顔で迎えてくれた。
布をかけられていたテーブルの上に、丁寧にスーツが並べられていく。
イメージ通り――いや、それ以上にかっこいい。
でも、果たして自分に似合うのだろうか……そんな不安が胸をよぎる。
「では、一度試着をお願いします。」
案内された試着室には、また彼女とふたりきり。
ドキドキしながら服を脱いでいき、シャツとパンツだけの姿になる。
すると彼女は、まずワイシャツを手渡してくれた。
袖を通すと、驚くほど身体にフィットする。
今まで適当に選んでいたシャツとは、まるで別物だった。
続いてズボン。こちらもぴったり――なのに、動きやすい。
最後にジャケットを着て、鏡に映る自分を見てみる。
……少しかっこよくなった気がした。
「大変お似合いですよ。」
店員さんがそう褒めてくれるのも、まんざらお世辞ではないのかもしれない。
「……ちょっと失礼いたしますね?」
そう言ったかと思うと、彼女が突然ズボンの中に手を差し入れてきた。
「え、ええっ!?」
驚く間もなく、彼女の手はパンツの中へ――そして、慣れた様子でそれを左へと寄せた。
……この人、もう僕のちんちんに触れることに、何の躊躇もないらしい。
「はい、これで完璧ですね。」
ズボンの上からぽんぽんと、軽く叩いて整える。
「やはり、小さくてもスペースを作っておいて正解でしたね。ぴったりです。」
またもや、にこやかに“小さい”と断言された。
少しモヤモヤした気持ちになっていると、さらなる言葉が飛んできた。
「では、勃起させてみてください。それで違和感がなければ完成です。」
――勃起?
「さすがに、それは……。」
困惑して答えると、彼女は少しきょとんとした表情を浮かべた。
「前回、すぐに勃起されましたよね?」
いや、あれは状況が状況だったからで……。
今日は普通に縮こまっている。
「うーん、困りましたね。少し触ってもよろしいですか?」
さっき、思いっきり触られた気もするが……まあ、いい。
むしろ、こんな美人にまた触ってもらえるなんて、ある意味幸運だ。
その気持ちをなるべく顔に出さないよう、慎重に答えた。
「あ、はい。大丈夫です……。」
……うまく言えただろうか。
何を思ったのか、彼女は僕をギュッと抱きしめてきた。
「……え?」
思わず声が漏れる。
柔らかな体温と、ふわりと漂う上品な香り。
戸惑っていると、彼女はそっと顎を僕の肩に乗せ、右手を股間へと伸ばしてきた。
そして――耳元で囁かれる。
「大きくなーれ♡ 大きくなーれ♡」
そんなの、抗えるわけがない。
ぐぐぐっと、抑えきれずに膨らんでしまった。
「……大きくなりました。」
情けないような、恥ずかしいような気持ちで、そう答える。
「あらあら、童貞さんはチョロいわね。」
くすくすと笑いながら、彼女はしゃがみ込み、ズボン越しに僕の股間を確認する。
「ほら、大きくなっても目立たないですよ。完璧ですね。」
確かに、しっかり勃起しているのに、ズボンにはっきりとは浮き出ていない。
「これは勃起しても小さいからではないですよ? ちゃんと採寸して、計算の上で作られたものですから。」
誇らしげに胸を張る彼女の笑顔。
でも、ほんの少しだけ胸の奥がチクリとした。
「あの……僕も、少し気にしてるんで……あまり“小さい”って言わないでください。」
せっかくかっこいいスーツを着ているというのに、少しだけ気持ちが沈んでしまった。
彼女は目を丸くし、すぐに顔色を変えた。
「も、申し訳ありません! 傷つけるつもりは全然なくて……!」
急に慌てだす彼女。その姿も、なんだかかわいい。
そんな姿を見て少し冷静になった。
――きっと僕は、ちょっとしたことで悩みすぎていたんだ。
そう思い始めた頃、彼女が口を開いた。
「お詫びではないですが……私に、その勃起した物を“納めさせて”いただけませんか?」
“納める”…?
また抜いてくれる、ということなのだろうか――
そんな期待が、全身を駆け巡る。
言葉に詰まっていると、彼女は少しだけ視線を伏せて言った。
「そう……ですよね。私なんかじゃイヤですよね。」
しょんぼりと落ち込んだ表情。
「いえ! そんなことありません! 店員さんがいいです!」
自分でも驚くほどの大声が出た。
彼女もびっくりしたように目を瞬かせる。
「本当ですか? 気を遣っていませんか?」
そんなはずがない。
むしろ、こんな美人に――なんて、光栄すぎるくらいだ。
「……わかりました。では汚れてしまってはいけないので、スーツを脱いでください。あと、パンツも。」
脱いだスーツは、彼女が丁寧にハンガーに掛けてくれた。
シャツだけで下半身は全て丸出しという情けない姿になる。
「では、こちらに座ってください。」
指示された椅子に座ると、彼女は僕の前にしゃがみ込んだ。
そして――
ぱくっ、と、それをくわえ込んだ。
「ちょっと汚いですよ!」
僕の声を無視するように彼女は口に含み続ける。
そして、器用に舌で皮を剥いていく。
「う、うう…。」
その気持ちよさについ声が出てしまう。
暖かい彼女の口の中、そしてうねうねと動く舌。
その全てがはじめて感じる感覚で、つい腰を引いてしまう。
そんな僕の腰を両手で押さえ、逃げないように舐め上げていく。
「まずいまずい、出ちゃいます!」
そんな声を無視するようにちゅっちゅと音が響く。
感覚が一点に集まり、身体の奥から熱が込み上げてくる。
もう、抗う術はなかった。
「あ、あ、イキます!」
次の瞬間、視界が白く弾けた。
彼女の口の中に、彼女の口の中よりも熱いモノをビュビュ…ビュと三度ほど吐き出した。
だが、彼女の口はまだ離れなかった。
「な、なんで!?」
彼女と目が合った。
ニヤリと笑ったような気がする。
まだ小さくなっていないよね?そう語っているような気がする。
今度は上下に激しく動き出した。
舌が、そして唇が先端を出入りするように刺激していく。
もしかすると、これが挿入したような感覚なのかもしれない。
何度も口を出入りし、舌が舐め上げ、二度目の射精に導かれた。
「また…出ます!」
その声と共に、再度彼女の口に精液を放出してしまった。
そして、射精しながらも急激な吸引が始まった。
いつも以上の速度で尿道を通る精液に、身体の中身が吸い出されるような感覚に陥った。
ぢゅぢゅぢゅっと下品な音が響く。
「も、もう無理です…」
そう懇願したとき、やっと動きが止まってくれた。
それでもなお、口の中で舌がチロチロ動いていた。
「…これが…お掃除フェラ…。」
ようやく絞り出した声に、少し遅れて、動きが止まった。
しばらくの沈黙。
残っていた余韻が、ゆっくりと引いていく。
ふっと、距離が離れたのが分かった。
視界の下で、彼女が顔を上げる。
口と先端をつなぐ線を断ち切るような仕草があり、次いでゴクンと小さく喉が鳴った。
「ふふ……お疲れ様でした。」
そう言って、彼女は柔らかく微笑んだ。
身体から力が抜け、椅子に深く沈み込む。
息が整わないまま、ただ天井を見上げるしかなかった。
そのまま、彼女は横に置いてあったウェットティッシュを手に取ると、優しく僕のそれを拭いてくれた。
慣れた手つきで、丁寧に。
最後の仕上げのように、何も言わずに静かに整えていく。
「気持ち良かったですか?」
にこりと微笑む彼女の顔が、まぶしすぎて――正面からは見られなかった。
何を言えばいいのか分からない。
ただ、うなずくことしかできなかった。
彼女のあの“失言”なんて、もう記憶の中から綺麗さっぱり消えていた。
今はただ、乱れた呼吸を整えることだけに必死だった。
エピローグ
はじめてオーダースーツを着て出社したその日。
先輩たちに「似合ってる」「かっこいいじゃん」と、口々に褒めてもらった。
お世辞だとは思う。けれど、気分は悪くなかった。
「でもさ、今日って特に外出の予定なかったよね。お披露目のために着てきたの?」
そんなツッコミもあった。
「それもありますが、一応……着慣れておいた方が良いかなと思いまして。」
「確かに。スーツに“着られる”より、“着こなす”ことが大事だからな。」
そう言って、先輩も笑った。
汚さないように細心の注意を払いながら、その日の業務は終わった。
「お先に失礼します。」
定時と同時に退社した。誰よりも早く。
そして急いで駅前へ向かう。
確率は――半々だろう。
けれど、もし会えたなら。
「……いた。」
噴水の前に、彼女は立っていた。
あのオーダースーツの店員さん。
あの後、どうにかお願いしてチャットアプリのIDを交換した。
何度かやりとりをして、そして――ようやく、今日の約束を取り付けた。
もちろん、すっぽかされる可能性だってあった。
でも彼女は、そこにいた。
僕の顔を見つけると、彼女は笑顔で小さく手を振ってくれた。
「お待たせしました……。」
息を整えながら、彼女の前に立つ。
すると彼女は、あの日と同じように微笑んで、こう言った。
「スーツ、お似合いですよ。」
END


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