「この通りにやれば良いのですね?」
手渡されたメモには、細かい手順がいくつも記されていた。
「はい、その通りにしていただければ、即金で五万円お支払いいたします。」
新しくオープンするスーパー銭湯の、モニターアルバイトだった。
決められた場所で着替え、決められた場所で体を洗い、決められた場所で湯船につかる──
それだけの流れを順に体験し、感想を伝えるというもの。
最後にはバスタオル姿での記録用写真撮影があり、透け防止のために下着を着用するよう指示されている。
スタッフは全員女性とのことで、安心して臨めそうだった。
写真はパンフレットに使われるらしい。
けれど、広いお風呂は大好きだし、これで五万円も貰えるのなら文句はない。
「湯船にも、しっかり浸かってきてくださいね」とスタッフは微笑んだ。
女湯の暖簾をくぐると、すぐに壁をぐるりと回り込む構造になっていて、更衣室の中が外から見えないように配慮されていた。
「なるほど、こういうところはちゃんとしてるのね。」
当たり前のことではあるが、こうした安心感はやはり大事だ。
更衣室は清潔で、ロッカーも広め。
指定されたのは15番──上段が奇数、下段が偶数の配置になっているらしい。
すぐ下の14番は開いたままだったが、「気にせずご利用ください。タオルが入ってます。」と説明されていた通り、中にはバスタオルと数枚のハンドタオルが整然と収められていた。
ハンドタオルは中に持ち込みOKとのこと。
さっそく着替えを始める。今は夏、服装はシャツとスカート程度で済むのがありがたい。
シャツを脱ぎ、スカートを脱ぐ。
どちらも丁寧にたたんでロッカーの中へ。
続けてブラジャーを外し、ショーツも脱ぎ、同じように整えて仕舞い込む。
裸になったまま、しゃがみ込んでタオルを選ぶ。
数種類あったが、その中から比較的大きめのハンドタオルを選んだ。
こういうところの気配りもありがたい。
髪をまとめ、さてお風呂へ──と歩きかけたところで、ふと体重計に気づいた。
この日のために、少しだけダイエットしてきたのだ。
試しに乗ってみると、やはりほんの少しだけ体重が減っていた。
すぐそばの大きな鏡に目をやる。
映る自分の姿を見つめ、「……結構いけてるんじゃない?」と、思わずポーズを取ってみた。
誰もいない今なら、ちょっとくらいふざけても平気だ。
両手で胸をそっと包み込み、「もう少し大きくなってくれたら嬉しいんだけどな。」と、鏡越しの自分に向かってつぶやいた。
お風呂の扉を開けて、思わず息を呑んだ。
広くて、想像以上に綺麗だった。
洗い場は仕切り付きの個別ブースと、恐らく家族や友人と来たときのための、仕切りのないエリアに分かれている。
湯船も大きく、これだけの広さがあれば、かなりの人数が来てもゆったり浸かれそうだ。
まずは体を洗わなければ。
指定された場所は、ロッカーと同じく15番だった。
もしかして、わかりやすいように番号を合わせてくれたのだろうか。
その洗い場に着いて、思わず立ち止まる。
なんと、目の前には全身が映る大きな鏡があった。
どうやらこのゾーンは、自分の体をしっかり映しながら体を洗うための場所らしい。
シャワーも、通常の上部ではなく、横から出るタイプが設置されていて、体の前面には何も遮るものがない。
少しだけ、恥ずかしさがこみ上げてきた。
椅子にお湯をかけ、そっと腰を下ろす。
目の前には、自分の全裸の姿がくっきりと映っている。
どうしても視線が、股間に向かってしまう。
考えてみれば、こんなふうに自分の体をじっくり見る機会なんて、これまでなかった。
「ここまで来たんだから、しっかり体験しなきゃ。」
そう自分に言い聞かせて、頭から丁寧に洗い始めた。
頭を洗い終えると、全身を丁寧に洗いはじめた。
「綺麗なお風呂に入るんだから、自分の体で汚してしまうわけにはいかない。」
そんな思いが少し強くなりすぎて、どこか強迫的な気持ちに近くなっているのを自覚していた。
ひととおり洗い終えたとき、ふとスタッフから渡された袋の中身を思い出した。
中には数種類の石けんと、SNSなどで話題になっていた人気のシェーバーが入っていた。
「このシェーバー、使ってみたかったんだよね。」
せっかくの機会なので、ありがたく使わせてもらうことにした。
腕や脇は前日にしっかり処理していたおかげで、すでにツルツル。
だが、鏡越しに映る自分の股間は、思っていた以上にふさふさしていた。
泡立て用の石けんを取り、陰毛でしっかり泡立てながら、慎重にIラインの処理を始める。
思った以上にスムーズに剃れていき、人気の理由を実感した。
「そりゃ、これだけ綺麗に剃れるなら入手困難になるわけだよね。」
夢中になって処理を進めているうちに、気づけばIゾーンはつるんとした肌になっていた。
鏡の中にツルツルになった股間を映し、角度を変えながら確認する。
陰唇を指でそっとつまみ、そり残しがないかを入念にチェックした。
「ここまでツルツルになるなんて思わなかった…これ、もらえないかな。買い取りでもいいから。」
思わずそんなことを呟きながら、鏡に映った自分の股間にそっと手を添え、やさしく撫でた。
石けんも一応チェックしてみた。
中に入っていたのは──同じくSNSなどでも話題になっていた、用途別の石けんだった。
バスト用、デリケートゾーン用、そして……肛門用。
「肛門用て……。」
思わず声が漏れる。
デリケートゾーンって、そういう部分も含むのでは?と疑問に思いながらも、せっかくなので試してみることにした。
まずはバスト用。
血行を促進し、ハリを与え、色素沈着を抑える効果があるらしい。
「要するに……乳首がピンクになるってこと?」
あまり意識したことはなかったが、鏡越しに自分の乳首を見ると、少し茶色がかっている気がした。
実際にはそうでもないのだろうが、比較対象がないため、妙に気になってしまう。
使用方法を読むと、泡立てて胸全体に馴染ませ、乳首には泡立てずに直にすり込むようにとのこと。
同じ石けんなのに、場所によって使い方が違うらしい。
まずはCカップの胸に泡を乗せ、指先で優しく揉み込む。
私は、自分の胸がけっこう好きだ。
だから、愛おしむように、ゆっくりと丁寧に洗った。
「……次は、乳首か。」
石けんを指にとり、乳首を摘むようにすり込む。
すると、不意に「……ん」と小さな声が漏れてしまい、思わず顔が熱くなる。
いつの間にか、両方の先端はしっかりと立っていた。
泡を洗い流すと、なんとなく肌が明るくなったように感じた。
手の中の石けんを見つめながら、小さくつぶやく。
「……お前、なかなかやるな。」
続いては、デリケートゾーンのケア。
恥ずかしながら、私はまだ処女だ。
以前、友人から「処女の子って、ケアが甘いから匂いが強くなりやすいんだって」と聞かされたことがある。
その言葉がずっと頭に残っていて、こういう機会にこそ、ちゃんとしたケアを覚えておこうと思った。
「……みんな、こういうの使ってるのかな。」
説明書を手に取り、目を通す。
驚くほど細かく丁寧に手順が書かれていた。
「えーと、大陰唇は指でつまんで、揉むように洗う……か。」
まずは片側をそっと開き、石けんを泡立てて優しく撫でるように洗っていく。
ふと鏡を見ると、自分のちょっと情けない姿が映っていて、思わず苦笑してしまう。
続けてもう片方も同じように洗い、次のステップへ。
「……小陰唇を開いて、優しく洗う。」
クパッと開いて、慎重に指を滑らせていく。
ぬるりとした感触に緊張が走るが、説明通り丁寧に進めていく。
「次は……陰核……。」
正直、触れたことがない。
いや、正確には昔少し触れたことがあったけれど、それ以降は“触ってはいけない場所”のように思えて、避けてきた。
「……でも、せっかくだし。ちゃんとやっておこう。匂いが残ってたらイヤだし……。」
そう自分に言い聞かせ、説明にあったとおり、皮の部分を指で摘んでそっと持ち上げた。
鏡越しに、その部分をはっきり見るのは、これが初めてだった。
「とんでもなく……恥ずかしいわ、これ……。」
そうつぶやきながら、石けんを指に取り、そっと触れてみる。
「……んぁっ!?」
あまりにも鋭い刺激に、反射的に声が漏れた。
一瞬で顔が熱くなる。
「……きょ、今日はここまでっ!」
慌ててそう言い訳しながら、すぐにシャワーで流すことにした。
本当は、指で中まで洗う工程も記載されていたが、それは到底無理だった。
シャワーを敏感な部分に当てていると、なかなか泡が落ちず、くすぐったさと妙な気持ちよさが交互に押し寄せてくる。
でも、これはあくまで仕事。
そのことを思い出し、何事もなかったかのように、表情を整えながら、しっかり洗い流した。
最後に、肛門用の石けん。
「うーん……。」
少しだけ、迷った。
説明書には、肛門のまわりを洗ったあと、指に石けんを付けて“少し内部も洗う”と書かれている。
「……指、突っ込めってこと……?」
座薬すら使ったことのない私には、かなりハードルが高い内容だった。
とはいえ、性に奔放な友人が「おしりも気持ちいいよ」なんて冗談めかして言っていたのを思い出す。
……ちょっとだけ、試してみようか。
鏡にお尻を向け、片手でお尻を開いた。
こんなふうに、自分の肛門をまじまじと見るのは、生まれて初めてだった。
「……意外と、綺麗なんじゃないかな。」
独り言のように呟きながら、まずは周辺を優しく洗っていく。
続いて、人差し指に石けんをつけ、ゆっくりと肛門にあてがってみた。
そして、ほんの少しだけ、挿入してみる。
「う……ぅっ。」
不意に、妙な声が漏れた。
鏡を見ると、人差し指の第一関節がちょうど埋まっていた。
「けっこう入れたつもりだったけど……これだけ?」
これ以上は無理だと思い、すぐに指を抜いた。
何事もなかったかのように、すぐにシャワーで肛門を洗い流す。
「お尻なんて……まだまだ先の話だよ。いや、私には一生縁のない世界かも。」
そんなことを思いながら、丁寧に人差し指を洗い流していった。
ようやく、湯船に浸かることができた。
指定されたのは、大きなお風呂のちょうど真ん中──一番心地よい場所だった。
誰もいないのをいいことに、両手も両足も投げ出して、ゆったりと身体を伸ばす。
湯気に包まれながら、ふと思い出すのは、先ほどの石けんたちのことだった。
「……みんな、あんなふうに洗ってるのかな。」
少し恥ずかしさが残る思い出に頬を赤らめつつも、
「念のために、あの石けん、もし貰えるなら……」
そんなことを考えながら、身体を芯から温めていった。
のぼせかけた頃、そろそろかなと更衣室へ戻る。
そこには女性のスタッフがいて、何やら準備をしていた。
「あ、しっかり温まられましたか?」
「はい、最高に気持ちよかったです!」
「それはよかったです。」
短いやりとりのあと、撮影の準備に入る。
「では、こちらの下着を着けて、鏡の前に座ってください。」
渡されたのは、ベージュ色の厚手の下着。
透け防止用らしく、身に着けてみると、安心感のあるしっかりしたつくりだった。
軽くメイクを施され、撮影が始まる。
バスタオルを巻き、湯船、洗い場、サウナ室など、施設のさまざまな場所でカメラに収められた。
なぜかトイレでのカットだけは少し恥ずかしかったが、それ以外はスムーズに進んだ。
「はい、撮影は終了です。」
無事に終わり、ホッと息をつく。
使用される写真は、後日確認させてくれるらしい。
「そこまでしてくれるんだ」と思わず嬉しくなった。
着替えを終え、受付でバイト代を受け取る。
「シェーバーと石けん、よければお持ち帰りください。」
正直、それが一番嬉しかったかもしれない。
バスタオル姿の撮影がすべて終わり、スタッフから「お疲れさまでした」と声をかけられた。
軽く会釈をして、更衣室へと戻る。
着替えようとロッカーを開けたとき、ふと違和感を覚えた。
──パンツのたたみ方が、少し違う気がした。
まじまじと手に取って見る。
履いてきたものと同じ、最近買ったばかりの新しい下着。
数回しか履いていないけど、今朝よりも少し綺麗な気がする。
……いや、きっと気のせいだよね。
スタッフさんが掃除ついでにちょっと触っただけかもしれないし──
無理やり自分を納得させ、そのまま着替えて荷物をまとめる。
帰ろうとしたところで、銭湯のオーナーさんに声をかけられた。
いかにも「番台の主人」という雰囲気の、穏やかな中年男性だった。
まぁ番台なんて無いんだけど。
「今日はありがとうございました。オープンしたら、ぜひお友達とご一緒にどうぞ。」
そう言って渡されたのは、回数券だった。
「えっ、いいんですか?バイト代までいただいてるのに……」
「いえいえ、最初に若い方が来てくださると、それだけでもありがたいんですよ。」
なるほど、宣伝も兼ねた施策だったのか。
「わかりました。じゃあ、友達と来ますね。」
笑顔で返して、その日のバイトは終わった。
エピローグ
銭湯の裏手、スタッフ専用通路。
オーナーは静かに、隣に立つ女性スタッフに声をかけた。
「……どうだった?」
「はい。完璧に撮れています。全てのカメラ、正常に動作していました。」
「そうか……!ついに、私の長年の夢が叶ったか。」
その銭湯には──
ロッカー、更衣室、洗い場、湯船、サウナ室、トイレ──
あらゆる場所に隠しカメラが仕込まれていた。
今回のモニター企画は、その“最終テスト”だった。
「編集が終わったら、すぐに上映会だ。」
その夜。
銭湯の大広間に設置されたモニターの前に、数人の男たちと女性スタッフの姿があった。
「では──上映会を始めます。」
映し出されたのは、ロッカーを開ける彼女の姿。
カメラはロッカーの内側から、真正面を捉えていた。
カメラの存在など露知らず、シャツを脱ぎ、スカートを脱ぎ、ブラとショーツまで一枚ずつ、丁寧にたたんでいく。
そのタイミングで、女性スタッフが小さく声をかけた。
「……こちらが、その下着になります。」
テーブルの上に置かれたビニール袋の中には、さきほど彼女が脱いだ下着が丁寧に詰められていた。
やはり──すり替えられていたのだ。
袋は男たちの手に渡り、まるで品評会のように順番に回されていく。
生地を広げてじっくり眺め、匂いを嗅ぎ、「誰が買うか」で少し揉める場面もあった。
「……続きを再生しますよ。」
女性スタッフの一言でざわつきは収まり、再びモニターに視線が戻る。
ちょうど、彼女がしゃがみこんでタオルを取ったシーン──
カメラはそのタイミングを狙ったかのように、秘部を真正面から、鮮明に捉えていた。
「うおお……!」
歓声が上がる。
画面は切り替わり、洗い場へ。
鏡に映る裸体を自分で観察しながら、石けんで入念に剃毛する姿。
乳首を撫で、性器を開き、肛門に指を差し入れる。
その一部始終が、正面のマジックミラー型カメラに克明に収められていた。
「まだ処女なのに……あんなに……」
彼女がぽつりと漏らした言葉に、男たちの歓声が最高潮に達する。
その横で、女性スタッフが苦笑しながら呟いた。
「……かわいそうに。」
彼女は──
まさか自分が、あられもない姿を撮られていたとは思っていない。
契約書には「撮影あり」の文言が明記され、
自筆の署名と、証明書を手にした“本人確認用写真”まで添えられていた。
つまり、彼女が何かに気づいて抗議しても、法的に“すべて了承済み”という扱いになる。
彼女は気づかぬまま、友人を誘ってまた銭湯を訪れるだろう。
今度は──
彼女の友達が、“同じように撮られる”ことになる。
すべては、彼女が「信用して連れてきた」せいで。
END


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