このところ、どうにも運が悪い。
鳥のフンが肩に落ちてきたのを皮切りに、自転車はパンクし、弁当と共に財布も忘れて昼休みに腹を鳴らす羽目になる。
そんな「ちょっとした不幸」が、一週間ほど途切れなく続いていた。
「財布忘れたんだって?」
にやにやしながら、七恵が声をかけてくる。
「……うるせーな。」
「今日で何回目? 流石に最近ひどくない?」
そう言いつつ、彼女は手にしていたあんぱんを差し出してきた。
「貸しだからね?」
捨てる神あれば拾う神あり、とはこのことだろう。
お礼を言い、ありがたく受け取る。
「でも本当に最近ひどいね。なんかやらかした? 心当たりとかないの?」
そう聞かれても、首をひねるしかない。
これといって思い当たる節など、まるでなかった。
「一度お祓いでも行ってみるかなぁ……。」
しかし、いったい何を払ってもらうのだろうか。
なんだかんだ、けっこうなお金もかかりそうだし……。
「じゃあさ、気分転換もかねて占いとか行ってみたら?」
「占いって、意味あるのかなぁ。」
占いなんて、相手が望む答えを適当に答えてくれるだけの所だろうに。
そんな偏見しかなかった。
「まぁまぁ。私も前行ったけど、前向きにはなれたよ。」
「そんなもんかねぇ。」
すると七恵がスマホをいじりだした。
程なく、自分のスマホが鳴った。
「ほら、そこ。私が行ったお店。気が向いたら行ってみてね。」
そう言いながら去っていった。
どうしようか悩んだけど、バイト代も出たばっかだし……次の休日、行ってみるかな。
送られてきた住所に向かってみたが……。
「わからねぇ……。」
入り組んだ道、そして行く先々に立ち並ぶ“占いの館”。
どうやらこの一帯、占いのメッカらしい。
道行く人々もほとんどが女性で、場違い感がすごかった。
(これなら七恵にお願いして案内してもらえばよかったな。……もしかしたらデートの口実にできたかも。)
そんなことを考えながら歩いていると、どうやら目的の場所にたどり着いたようだった。
「……そもそも店の名前が読めんのよ。でも、多分ここだろうな。」
薄暗い路地の先に建つ、小さなビル。
その一階にある“占いの館”。
「本当に、七恵はこんな怪しい場所に来たのか……?」
そう思わずにはいられなかったが、ここまで来た以上、引き返すのもバカらしい。
意を決して扉を開けると、そこには“いかにも”な占い師の格好をした女性が立っていた。
顔のほとんどがベールで覆われ、目元しか見えない。
だが、雰囲気からして二十代後半くらいの、綺麗そうな女性だった。
「こ、こんにちは。友人に勧められて来たのですが……。」
「そうですか。ではこちらへどうぞ。」
静かな声でそう言うと、彼女は奥のカーテンの先を指し示した。
部屋の中は見えず、薄暗さと静けさが妙に緊張を誘う。
――もう、覚悟を決めるしかないか。
そう思いながら、自分はカーテンの奥へと足を踏み入れた。
「お代は先払いでお願いします。一律一万円になります。」
いちまん……。
そういえば、本格的な占いは高いと聞いたことがあったような気がする。
今がバイト代が出たばかりじゃなければ、すごすごと店から逃げ帰っていただろう。
財布から、なけなしの一万円札を取り出し、差し出す。
「お願いします。本当に。」
「わかりました。」
「あのですね……。」
占いに来た理由を話そうとすると、手で遮られた。
占い師は、目の前の水晶玉にすっと手をかざす。
(なんか……雰囲気あるな。)
そう思いながら、ぼんやりとその様子を眺めていた。
「……なるほど。運が悪く、好転するきっかけを求めて、こちらに来たのですね。」
当たっている。
少し、怖くなった。
「では、まず手を見せてください。」
言われるがままに手を差し出すと、彼女は虫眼鏡でじっくりと手相を見はじめた。
思ったよりも暖かい手をしているな、そんなことをぼんやりと考える。
「なるほど。手相だけでは、靄がかかっていますね。次は……顔を。」
顔を、虫眼鏡のようなものでじろじろと見られるのは、正直緊張する。
彼女の目が近づき、やけに大きく見える。
すべてを見透かされているような感覚。
そして──
「……はぁ……」
大きなため息をつかれた。
「申し訳ありません。一万円はお返しいたします。」
唐突な言葉に、思わず戸惑った。
「え? なんでですか?」
胸の奥に、ひやりとした不安が広がっていく。
「ここから先は、あなたへの負担が大きくなります。正直、少し運が悪いくらいなら……諦めていただいたほうが。」
不安を煽るだけ煽って、それはないだろう。
「あの、運の悪さは……いつまで続くんですか?」
「そうですね。おそらく──一生。」
そんな……。
「……あの、本当に……どうにもならないんですか?」
占い師は少しのあいだ黙り、考える素振りを見せた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「どうしても、というのでしたら。……可能です。」
もう逃げ道はない気がした。
この占い師を信じるべきか、疑うべきか──いや、ここまで来たら突き進もう。
「お願いします。」
その言葉を聞いた占い師は、ゆっくりと立ち上がり、部屋の扉へ向かった。
カチリと鍵が閉められる。
「ここから先、他言は無用です。」
その瞬間、ふわりと甘く、お香のようないい香りが立ち込めた。
「では、まず上着をお脱ぎください。」
上着……か。
まぁ、それくらいなら。
「あの、一つ聞きたいのですが、こちらには俺くらいの年齢の女性も来ますか?」
「はい、若い女性からご年配まで。」
やはり、七恵はここに来たのだろうか。
そう思いながらシャツを脱ぎ、上半身をあらわにする。
外は暑かったが、部屋の中はひんやりとしていて、肌に当たる空気がやけに冷たい。
「では──」
そう言うなり、占い師は体を隅々まで撫でながら観察しはじめた。
その手つきはやさしく、くすぐったくて……そして、どこか心地よかった。
気がつけば、下半身が反応していた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
慌てて声を上げるが、彼女の動きは止まらない。
まるで、その声が聞こえていないかのようだった。
「なるほど。とても良くないですね。」
そう言いながら、さらに手が滑らかに動き、体はどんどん敏感になっていく。
「あの……本当に、どうにかなりそうですか?」
再び問いかけるが、返事はなかった。
その代わりに、さっきよりもしっかりと触れられ始める。
爪を軽く立てて、羽のようなタッチで肌を撫でていく。
その爪が、乳首の上をカリッと通り過ぎた瞬間──
ビクン、と体が反応してしまった。
自分の息子は、すでに痛いほどに自己主張している。
そんな中で続いていた“占い”という名の甘美な時間は、唐突に終わりを告げた。
「少々お待ちください。」
占い師は机の引き出しから、一枚の紙を取り出す。
「これをしっかり読み、サインをお願いします。いま、お茶をお持ちいたします。」
そう言い残し、彼女は紙一枚と、自分だけを部屋に残して去っていった。
紙にはさまざまな文言が並んでいたが、要するにこれから性器を見ること、触れること。
そしてそれに対する同意の署名を求める内容だった。
要点を読んでいくうちに、胸の奥にざらついた不安が残る。
一通り目を通したころ、占い師がお茶を持って戻ってきた。
「あの……この“性器に触れる”というのは……?」
「はい。そのままの意味です。あなたの“おちんちん”に直接触れて、瘴気を確認します。もちろん、医療行為でも風俗でもありません。ですので、ご同意いただけなければ、このままお帰りください。」
差し出されたお茶を口に含む。
ひんやりとした冷たさが、熱くなっていた頭を少し冷ましてくれた。
「これって、他の人も受けたりするんですか?」
当然の疑問だった。
「いいえ。普通の方でしたら手と顔を見れば大抵の解決方法はわかります。ですが、時折あなたのように強い“瘴気”を背負った方がいらっしゃるのです。その場合のみ、特別な手順を用います。」
自分はそんなにまずい状態なのだろうか。
……いや、落ち着け。これはきっと高額請求の手口かもしれない。
そう思いながらも、運が悪いのは事実で、それを言い当てられたこともまた事実だった。
「悩んでおられますね。当然だと思います。ですが、これ以上の費用はいただきません。もし疑われるなら、その足で警察に行ってくださって結構です。」
静かな声でそう言われ、ふと七恵の顔が浮かぶ。
――せっかくだし、最後までやってみるか。
騙されたら、それはそれで笑い話だ。
「……わかりました。サインします。」
ペンを握り、震える手で署名欄に名前を書いた。
「その前に、トイレに行かせてください。」
さっきからずっと、パンツが冷たいのが気になっていた。
どこか集中できない原因は、それだった気もする。
個室に入り、扉を閉め、そっとパンツを下ろす──
そこでようやく、自分がとんでもないことになっていたと気づいた。
「うわ……こんながまん汁、出てたのか……。」
あの占い師の、あの妙に優しいフェザータッチ。
思っていた以上に、体が勝手に反応していたらしい。
そして、今──その証は、すっかり萎えてしまっていた。
「これから……これを、見せるのか……。」
未だ童貞。
女性に“そこ”を見せたことなんて、もちろん一度もない。
ましてや、こんな状態で──。
小さく、皮の先端がしっかりと閉じてしまっているその形は、長年のコンプレックスだった。
「……大きいか、せめて剥けていたらなぁ……。」
今さら嘆いたって仕方ない。
だけど、せめて──せめてもの抵抗として、そっと指を添えた。
そして、ひと息つきながら“見栄剥き”だけはしておく。
それが、自分に残された、最後のプライドだった。
「では、ズボンとパンツを脱いで、こちらのカゴへ。」
そう言って差し出されたカゴに、震える手で服を脱ぎ入れていく。
占い師に背を向けたまま、ズボン、そしてパンツを──脱ぐ。
膝まで下ろしたところで、ふっと冷たい空気が肌を撫でてきた。
今、自分は──下半身だけ、裸だ。
手で前を隠しながら、勇気を振り絞って、ゆっくりと占い師のほうを振り向いた。
その瞬間──思わず息をのんだ。
彼女は、ヴェールを外していた。
素顔を、露わにしていたのだ。
しかも──とんでもない美人だった。
思わず二度見してしまうほどの整った顔立ち。
肌は白く、凛とした雰囲気を纏っているのに、どこか柔らかくて優しげな眼差し。
「ごめんなさい。本来は顔を隠しているのですが、あなたのような強い瘴気相手だとどうしても……。あまり気になさらないでください。」
静かにそう言った彼女は、さっきまで羽織っていた上着すら脱ぎ捨て、
おへそや胸の谷間が見えるような、きわどい薄着になっていた。
まるで──踊り子のような装い。
「い、いえ……。」
声がうまく出なかった。
言葉が喉でつっかえたまま、上ずった返事しか出てこない。
こんな美人に……よりによって、今の自分の、こんな情けないものを見せなければならないのか。
先ほどまでの覚悟が、音を立てて崩れていく。
理屈じゃなく、体が、気持ちが──逃げ出したくなっていた。
占い師は、すっとひざまずいた。
そして、小さなお盆のような、あるいはトレイのようなものを差し出してくる。
「では、こちらにあなたの性器をお乗せください。」
ついに──始まるのか。
ここまで来たら、もう引き返すことなんてできない。
……だけど。
美人にひざまずかれ、上目遣いでちんこを出せなんて言われるシチュエーションある?
そんな非現実的すぎる現実に、頭の中が真っ白になりそうだった。
まごまごしている自分を見て、彼女はふっと優しく微笑んだ。
「恥ずかしがらないでください。これを乗り切れば、きっと未来は明るいです。」
さっきまでヴェールに包まれていたときの、どこか冷たさを感じる雰囲気は消えていた。
いま目の前にいるのは、暖かさすら感じる女性だ。
──これも、作戦なのだろうか。
まだ、ほんのわずかに半信半疑の自分が心の中にいた。
「わかりました。あの……俺、小さいのがコンプレックスで……。」
恐る恐る漏らした言葉に、占い師はクスリと笑う。
「大きさなんて人それぞれです。私も胸はそんなに大きくないですが、バカにされますか?」
──できるわけがない。
というか、**あれで小さいの?**ってくらい、しっかり谷間はあった。
「胸は……盛れます。」
冗談めかしたその一言に、つい笑ってしまいそうになる。
なんだろう──この人、意外と楽しい人かもしれない。
よし、もう迷うのはやめよう。
1万円分、しっかり“信じよう”。
「……わかりました。よろしくお願いします。」
トレイの上に、そっと、自分のちんちんを乗せる。
まるで供物のように。
あるいは──罰の儀式のように。
その状態のまま、じっと見つめてくる占い師。
その視線に、全身がこわばる。
「……失礼しますね。」
そう言って、彼女は、こちらが見栄で剥いていた皮をスッと戻した。
──そうだよな。
包茎くらい、お見通しだよな……。
だったら、ありのままを見せておけばよかった。
せめて、取り繕うなんてしなければよかった。
でも、もう──後の祭りだった。
また、占い師さんからあの独特な、神秘的な空気が漂い始めた。
視線は、ずっと一点──自分の股間に注がれている。
真剣そのものの表情で、こちらの“小さなそれ”をじっと見つめている。
「そうですね。確かに小さいですね。皮もしっかり被っています。短小包茎というやつですね。」
──グサッ!
心にナイフを突き立てられたような衝撃だった。
「……そうですけど、そんなにはっきり言わなくても……。」
美人にそんなことを言われるなんて。
もし今、一人にされていたら──たぶん、本当に泣いていた。
「お気になさらずに。」
いや、気にするだろ……。
それはさすがに、気にするだろ……。
っていうか、なんか様子がおかしい。
どこか“心ここにあらず”な感じがする。
「あの……占い師さん?」
「そうですね。」
返事はあるが、内容が合っていない。
まるで、こちらの言葉が聞こえていないみたいだ。
……もしかして、さっきの発言も“無意識”だったのか?
だとしたら、なおさらキツい。
本心でそう思われてるってことになるわけで──
ショックがじわじわと胸を締めつけていく。
そんなふうに、うじうじと考えこんでいたとき──
占い師さんが、静かに口を開いた。
「あの、そろそろ大きくできますか?」
……え? なんて?
脳が処理を拒否した。
「小さくて……すいません……。」
喉の奥から絞り出した声は、情けなく震えていた。
本当に、泣きそうだった。
占い師さんが、突然目を見開いて言った。
「すいません!違います!このおちんちんが小さいのではなく、勃起させて欲しかっただけです!」
……え?
自分の失言に慌てているらしく、顔がほんのり赤くなっていた。
慌てる美人──それはそれで、正直かなり良いものだった。
「あ、はい。でも、なんか……大きくなる気配がありませんで……。」
変な言葉遣いになってしまった。
緊張してるのか、それとも気持ちが抜けたのか──全く反応しない。
さっきまでの感覚が、まるで嘘みたいだった。
「そうですか。」
その瞬間、ゾワリとする刺激が走った。
占い師の爪が、スーッと撫でてきたのだ。
「うおっ!」
思わず変な声が出た。
爪がこんなに気持ちいいなんて、知らなかった。
たったそれだけの刺激で、急激に血が集まり、先が持ち上がっていく。
「あら、大きくなりましたね。……これで精一杯ですか?」
限界だった。
もうこれ以上はどうにもならない。
「すいません……これで限界です……。」
やっぱり、小さいんだろうな──
そう思ったら、自然と肩が落ちていた。
「あまり大きさを気にしない方がいいですよ。十分、SEXできる大きさですし。たぶん。」
「たぶんて……。」
慰められてるのか、やっぱり小さいと言われてるのか。
判断がつかない。
「もう!集中できないから、うじうじしないでください!」
怒られてしまった。
いや、怒られるようなこと……なのか……?
「それにしても、勃起しても剥けませんね。さっき剥いていたから、剥けるんでしょうけど。あれって“見栄剥き”ってやつですか?」
ぐ……。
まさにその通りだ。
「あの……そろそろ泣きますよ? 男のメンタルって、ちんこに関してはかなり脆いんですよ……?」
「ごめんなさい。基本的に女性がお客さんなので、こんな瘴気を纏った男性は珍しいんです。」
そういえば、確かにここは女性客ばかりの占い屋だった。
……七恵も、こんなことやったのかな。
ふと、七恵の痴態を想像してしまう。
「あら、先からお顔が出てきましたね。なるほどなるほど。」
限界だと思っていたのに、まだ先があったようだ。
「全部、剥かせていただきますね。」
半分ほど顔を出していた亀頭が、いま、すべて露わになる。
ついに──女性の前で、自分の全てをさらけ出してしまった。
「おちんちんに自信、持ってもいいと思いますよ。そこさえ乗り越えれば、脱童貞も近いです。」
……童貞だってことも、バレてるのか?
いや、ここまでの俺の反応を見てれば、そりゃわかるか……。
それとも──この占い師、本当に“視えてる”のか?
混乱で思考がまとまらないまま、再びゾクリと刺激が走った。
占い師の爪が、再びそこをやさしく撫でてくる。
ゾクリと震える感覚が、さっきよりも強くなっていた。
「では──これで最後です。瘴気の一部を、吐き出してもらいます。」
……?
今、なんて言った……?
「簡単に言えば、射精してください。この器の上に。」
思考が止まった。
その言葉が意味することを、理解するまでに数秒かかった。
「えっと……射精、ですか?」
さすがに躊躇した。
だって、そんなこと……この状況で?
「はい。ご自分で行いますか?それとも、私が手で出しますか?」
いったい、何を言ってるんだこの人は。
正気か……?
──そういえば、あの誓約書の中に「体液の採取」って言葉があったような……。
まさか、それって精液のことだったのか……?
いや、でも──だったら最初に言ってくれ。
……っていうか、手で?
この、目の前のこの美人さんが……手でやってくれるってこと……?
脳みそが急激に熱を帯びる。
回転音が聞こえるような勢いで、欲望が理性を追い抜いていく。
「占い師さんの手でお願いします!」
自分でも驚くほどの勢いだった。
その勢いに、占い師さんもちょっと引いていた。
「わ、わかりました。」
そう言って、彼女の手が──サワサワと動き始める。
「ふふ、かわいいですね。小ささも、個性ですよ?」
占い師さんがやさしく微笑みながら、言葉を紡いだ。
──と思ったら、次の一言が突き刺さる。
「オナニーしすぎじゃないですか? 皮、のびのびですよ?」
一瞬、脳が真っ白になった。
屈辱的なはずの発言なのに、なぜか──身体の奥がざわついていた。
「どうしてそんなにびくびくするんですか?触ってほしくて仕方ないんでしょう?」
その声すら、くすぐったくて、逃げ場がなかった。
「それだけ擦ってて、このサイズ……なるほど、包茎のままっていうのも納得です。」
……言い返せなかった。
反論すればするほど、惨めになる気がした。
「こんなに小さいのに……頑張って精子、溜めてたんですね?かわいい。」
言葉が、妙に熱を帯びて身体の内側を焦がしていく。
そんな中、占い師の手の動きは止まらず、意識は少しずつ尖っていく。
「で、出ちゃいます!」
思わず声が漏れた。
「いいわよ? 小さいちんちんから出る瘴気──私に、見せなさい?」
もう止められなかった。
魂の奥底から何かがせり上がるような、妙に澄んだ瞬間。
視界が揺れて、息が止まり──そして、すべてが静かになった。
しばらく沈黙が続いたあと、占い師がぽつりと呟く。
「……いっぱい、出ましたね。」
声は、静かで、やさしかった。
「お疲れ様でした。」
静かな声が、脱力した身体に響いた。
占い師は手元の器をじっと見つめている。
器の中には──俺の、瘴気。
……俺はと言えば、人生で初めて他人の手で“出された”直後。
腰が砕けるような感覚に、まだ立て直せずにいた。
ぼうっとしたまま、器を覗き込む彼女を見ていた。
すると占い師は、器に顔を近づけてくんくんと匂いを嗅いで──
そして、指ですくった瘴気を、ぺろりと舐めた。
「ちょっと! 汚いですよ!」
思わず叫んでしまった。
「ごめんなさい。瘴気の浄化方法を考えていて……つい。」
そう言って、器を机の上に静かに置いた。
そして、こちらに目を向け──さらりと言い放つ。
「あら、まだおちんちん出してるんですか? 風邪引いちゃいますよ?」
そう言いながら、また平然と触れてきた。
もう、遠慮なんて存在しないらしい。
「お湯、持ってきますね。そんなドロドロじゃパンツもはけないでしょうし。
もうちょっと、おちんちん出したまま待っててください。」
言ってることは至って親切。
けれど、童貞の俺には、刺激が強すぎた。
しばらくして、洗面器にお湯を入れて戻ってきた彼女は、
まるで何事もなかったように言った。
「はい、じゃあ──キレイキレイしましょうね。」
……今度は子供扱いか。
「先っぽムキムキして、恥ずかしいでちゅね〜。」
楽しそうな声だった。
──そして。
その“赤ちゃん言葉”に、身体が反応してしまった。
「も〜、またおっきくして。悪い子。」
そう言いながら、彼女はもう一度、躊躇なく手を動かし──
俺は、再び“瘴気”を排出させられた。
「本当は、こんなことしませんからね? 勘違いはしないでくださいね。」
口ではそう言いながら、後片付けは手慣れた様子で、迷いがなかった。
器と洗面器を片付け、手を拭き、上着を羽織り、ヴェールを被る。
──すると、空気が一変した。
目の前の彼女から、再び神秘的な気配が立ち上る。
さっきまでの“かわいいお姉さん”はどこかへ消えたようだった。
「結論をお答えします。」
その声は澄みきっていて、妙に静かだった。
エピローグ
「占い、行ったんだっけ? どうだった?」
七恵が、いつもの調子で声をかけてきた。
話すべきか、迷った。
全部を話すには……刺激が強すぎる。
だから俺は、射精に関わる部分をなんとかオブラートに包みながら、経緯を説明した。
話すにつれ、七恵の表情がじわじわと赤くなっていく。
「あ、あんた……どこ行ったの!? そんな占いじゃないよ!? タロットだったもん!」
……は?
「え? だって教えられた住所に行ったんだけど……。」
そう言って、スマホのマップを開き、彼女に見せる。
じーっと画面をのぞき込む七恵。
「ここじゃないよ! こんな裏通りじゃない。表の、もっと明るい場所だもん!」
……どうやら、俺は根本的に行き先を間違えていたらしい。
「だって……七恵もそんな占いやったのかと思って、頑張ったのに……。」
「やるわけないでしょ! 裸になる占いって何!? 意味わかんないし!」
──それは、まぁ……確かにそうだ。
じゃあ、俺が行ったあの場所は……いったい何だったんだろうか。
そして──
あの占い師の言葉が、不意に脳裏をよぎる。
「灯る気配が、あなたの近くにあります。消えてしまわぬよう、大切にしてください。」
俺は、じっと七恵の顔を見つめた。
「……なによ。ちょっとだけ、悪かったとは思ってるわよ?」
「そうか。じゃあ──今度の休みに、一緒に七恵の行った占い、案内してくれないか?」
七恵は一瞬きょとんとして、それからふっと笑った。
「その近くにね、美味しいカフェがあるんだけど……そこにも、行ってくれる?」
「……もちろん。」
なんとなく、運が少しだけ、こちらに傾きはじめた気がした。
END


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