今、部室には僕と部長の二人きりだ。
今年限りで廃部が決まっている科学部。
とはいえ、活動の内容は“科学”というより、簡単な実験をしたり、化学と称してお菓子を作ったりする程度の、ゆるい部活だった。
元々は5人いた部員も、1人は途中で転部し、2人は受験勉強のため夏頃に引退していった。
残っているのは、進路が早々に決まった三年生の部長と、僕――まだ二年生のただの部員だけ。
一年生が入らなかったこともあり、同好会への移行という選択肢もあったが、潔く廃部という道を選んだ。
部長も、推薦が決まったとはいえ、きっと大学進学の準備で忙しいはずだ。
それでも、最後までちょくちょく顔を出してくれていた。
そして今日、二学期の終業式の日。
クリスマスのこの日が、部活動としての最後の日に決まった。
二人でケーキを食べて、談笑し、ささやかなクリスマスパーティーを楽しんだ。
終わりが近づいていることを、どこかぼんやりと感じながら。
パーティーが終わったころ、部長が立ち上がって言った。
「さて、では化学部として最後の実験をしますか。」
その言葉を聞いた瞬間、本当にこれで終わってしまうんだなと、胸の奥が少しだけ寂しくなった。
最後の実験は、ミョウバンを使った結晶づくりだった。
簡単で、それでいて美しい。
これ以上、ふさわしいものは思いつかなかった。
ビーカーに水を入れ、アルコールランプに火を灯す。
「よくアルコールランプなんてありましたね。」
僕が感心したように言うと、部長はふふっと笑った。
「ふふ、顧問の先生がね、特別に貸してくれたの。こっちのほうが科学部っぽいだろって。」
普段はほとんど顔を見せない先生なのに、こういうところで気を利かせてくれるとは――。
意外でもあり、少しだけ嬉しくなった。
少しずつ温まっていくビーカーの水。
ぽつ、ぽつ、と小さな気泡が立ちのぼりはじめていた。
「そろそろミョウバン、用意しとこうか。」
部長がそう言って立ち上がった、その時だった。
――ガタン。
体がテーブルに引っかかり、ビーカーがぐらりと揺れる。
そして、湯の入ったビーカーが、部長の方へと倒れてきた。
「危ない!」
咄嗟に僕は、部長を押し退けるようにしてかばった。
パシャッ!
熱い湯が僕のズボンにかかる。
「……あつっ!」
思わず声が漏れた。
「ご、ごめんなさい! 大丈夫!?」
先輩が慌てて、万が一のために用意していた水をかけてくれた。
けれど、ビーカーのお湯はズボンにしっかりと染み込んでいて、少し水をかけた程度では焼け石に水だった。
「ズボン脱いで! 早く!」
部長が叫ぶように言った。
僕も焦って、ズボンに手をかけた。
濡れた布は肌に張り付き、思うように脱げない。もどかしさを感じながら、どうにか引きずり下ろす。
けれど、すでにパンツまで濡れてしまっていた。
「パンツも脱いで! やけどしちゃう!」
言い終わるが早いか、部長が僕のパンツに手をかけ、下ろしてしまった。
……部長の目の前で、自分の“それ”を晒してしまった。
恥ずかしさに顔が熱くなる。けれど部長は、一切気にしている様子を見せなかった。
すぐに僕を椅子に座らせ、ポケットから取り出したタオルを僕の股間の上にそっと乗せる。
「ちょっと待っててね! すぐ戻るから!」
慌ただしく部室を出ていった。
落ち着いて太ももを見てみると、赤くはなっていたが、ひどく腫れているわけではなかった。
冬用の厚手のズボンと、まだ沸騰していなかったお湯のおかげで、どうやら軽傷で済んだようだ。
間もなく部長が戻ってきた。手には氷嚢がふたつ。
「これで冷やして。」
そう言って、タオルの上に氷嚢をそっと置いた。
続けて、泣き出しそうな声で言う。
「ごめんなさい……私の不注意で……。」
その顔を見て、胸が締めつけられる。
――そんな顔、見たかったわけじゃないのに。
「大丈夫です。やけどしたわけじゃなさそうだし。冷やせばすぐ治りますよ。」
できるだけ明るく返した。少しでも、安心させたくて。
でもそれが、かえって彼女の気持ちを決壊させてしまったのかもしれない。
「本当に……ごめんなさい……。」
こぼれる涙が、頬を伝って落ちていく。
タオルの上に置かれた氷嚢は、とても冷たかった。
しばらくのあいだ、無言の時間が流れた。
やがて、部長が静かに口を開く。
「……お湯がかかったところ、見せて。」
えっと……まあ、太ももだし問題ないか。
「どうぞ。」
僕はタオルで股間を隠しながら、赤みの引いた太ももを見せた。
「……赤みは、だいぶおさまったみたいね。」
部長の声は沈んだままだった。
きっと、本気で後悔しているのだろう。自分の不注意で、僕をやけどさせてしまったことを。
……そういう優しさも含めて、僕は部長のことが好きだった。
「部長の応急処置が早かったからですよ。ありがとうございます。」
感謝を伝えると、部長は小さく首を横に振る。
「ううん。お礼なんて言われる筋合いはないよ。私のせいで、大けがするところだったんだから……。」
このまま落ち込んだまま終わってしまうのは嫌だった。
せっかくの、最後の部活の日なのに。
太ももを覗き込んだままの部長の前で、僕は立ち上がって言った。
「全然大丈夫です! 部長がやけどする方が、僕はよっぽど辛いです! だから、元気出してください!」
その言葉に、部長はハッとして顔を上げた。
一瞬、目が合い――そして、彼女は頬を赤らめて目をそらした。
「あ、あの……ありがとうね。……でも、前は隠してほしいかなーって……。」
立ち上がった瞬間、股間に置いていたタオルが床に落ちていた。
慌てて手で前を隠す。
「ご、ごめんなさいっ!」
完全に見られてしまった。
……まあ、少し場が和んだ気もするし、いいか。
「あの……」
部長が、慎重に言葉を選ぶようにして口を開いた。
「そこも、お湯かかったんだよね?……ちょっと、見せて。」
……え?
何を言っているのだろうか。
「あのね、今ちょっとチラッと見ちゃったんだけど……なんか、小さい気がしたの。もしかして、それって……やけどのせい?」
――ぐっ!
小さいのは……いや違う、違う。
これは氷嚢で冷やしていたからであって、決して元々がそうなわけでは……!
「あの、部長……! ここは、冷やすと縮こまるんです。だから、大丈夫です!」
必死に説明すると、部長はうつむきながらぽつりと呟いた。
「……そうよね。松岡くんは、優しいから。私のことかばってくれるんだよね……。」
また少し、空気が沈んでしまった。
このままじゃ、終われない。
ああもう、どうにでもなれ……!
「わかりました! やけどのせいかもしれません! 是非、見てください!」
……何を言っているんだ、僕は。
頭がクラクラしてきた。
前を手で隠したまま、椅子に腰を下ろす。
そして、そっと足を開いた。
「本当に……見るんですか? やめるなら今ですよ?」
念を押すように言うと、部長は真剣な目で答えた。
「いいから。もし大事に至ってたら、責任取らないといけないから。」
責任――取ってくれるの?
一瞬、そんな言葉に妙な意味を感じてしまう自分がいた。
けれど、それを振り払うように、手を外した。
「どうぞ。」
氷嚢で冷やされて、小さくなった“それ”が、部長の目の前に晒される。
彼女はじっと見つめていた。
「……やっぱり、小さいよね? 本当に大丈夫?」
その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられる。
好きな人に、まさか“そこ”を見られ、小さいと指摘される日が来るなんて――。
なのに、どこかでドキドキしている自分がいた。
「あのですね、さっきも言いましたけど、男のそれは冷やすと小さくなるんですよ。」
必死に弁明する。だが、部長はなおも問いかけてきた。
「じゃあ……やけどは関係ないの? ただ小さいだけ……?」
そう言った瞬間、彼女はハッとしたように目を見開いた。
「ち、違うの! ごめんなさい! バカにしたわけじゃないの!」
慌てて言い訳を重ねる部長。その姿を見て、僕は気づいた。
自分の中で、何かが変化していることに――。
冷たさが消え、じんわりと熱が戻ってきていた。
もう、止められなかった。
「……わあ、さっきより大きくなった。」
部長の瞳が、それを見つめたまま、わずかに揺れていた。
「あ、あのね……触ってみても、いいかな?」
おずおずと、部長が尋ねてきた。
べつに、断る理由はない――というか、むしろ触れてほしいという気持ちすらある。
だが、だからこそ、あえて真面目な顔で答えた。
「部長、別に……触らなくても大きくなるなら、問題ないと思いますけど。」
できる限りキリッとした表情で言ってみせた。
すると部長は、少し困ったように笑って言った。
「やけどは問題なさそうだけど……もし赤ちゃんができなくなったら困るでしょ?」
――赤ちゃん?
誰の……赤ちゃん?
頭が少し混乱する。
もしかして、僕と部長の赤ちゃん……?
「何か勘違いしてない? 将来、松岡くんが赤ちゃん作れなくなったら、困るでしょ?」
顔を真っ赤にしながら、まっすぐにそう言ってきた。
……それは、たしかに、そうかもしれない。
「それで部長の気が済むなら、いくらでも触ってください。」
覚悟を決めてそう告げると、部長は「ありがと」と小さく返し、おそるおそる手を伸ばしてきた。
そして――
キュッ、と握られた。
「……っ!?」
まるで電気が走ったような衝撃。
自分で触るのとは、まったく違う感覚。
声が漏れそうになるのを、必死で堪えた。
「私の手と、同じくらいだね。これって……大きいの?」
そんな無垢な目で、とんでもない質問を投げかけてくる。
「あーっとですね……正直に言いますと、小さいです。……すみません。」
正直に、そして少しだけ情けなく答える。
「なんで謝るのよ。」
部長は笑いながらそう言い、そして――
なでなでと優しく撫でながら、突然こう言った。
「かわいいでちゅね〜。ちゃんとあかちゃん、つくれまちゅか〜?」
……ッ!!
部長の柔らかな手の感触と、唐突な赤ちゃん言葉。
その両方が、限界を超えてきた。
「あ、あ、だめ――!」
そして――
気がついた時には、先端から白濁とした液体が飛び出していた。
「きゃっ!」
部長が、小さくかわいらしい声をあげて身を引く。
だが、手は握ったままだった。
あふれ出す熱に反して、部長の手は驚いたように少しだけ強く締められていて――
「ちょっ……ダメですっ!」
もう、自分では到底たどり着けない領域に達していた。
「あっ、ご、ごめんなさいっ!」
ようやく、彼女の手が離れた。
僕のそれと、部長の細い手のひらが、白く濁った液で染まっていた。
部室に静寂が戻る――かと思ったその瞬間だった。
部長の手が、そっと再び伸びてくる。
「あの……まだ、残ってるかも。」
そう言って、ためらいがちに指先が触れ、そして……優しく包み込まれる。
そして、まるで中に残ったものを確かめるみたいに、
ゆっくりと、でも確かに――絞り出そうとするような動きが伝わってきた。
その感触に、抗えるはずもなかった。
思考すら、掌の中に握られているようだった。
「ちょ、ちょっと待って……っ!」
けれど、もう遅かった。
「あっ……!」
こらえきれず、再び熱い情熱が溢れ出す。
さっきよりも深く、勢いよく。
「……うそ、まだ出るの……?」
部長が目を見開いて、小さく呟いた。
そして、また二人の間に、白く霞んだ沈黙が落ちた。
部長は、自分の手のひらをそっと顔に近づけ、くんくんと匂いを嗅いでいた。
「あの……あまり嗅がない方が……。ちょっと、生臭いでしょ? 汚いから、手を洗ってきた方がいいですよ。」
そう言うと、部長はにっこりと笑った。
「ちょっと変な匂いだけど、汚くなんてないよ。これがなかったら、人類は繁栄しないんだからね。」
――天使か、この人は。
そのまま感動してしまいそうだったが、やっぱり汚いことに変わりはないので、ちゃんと手を洗いに行ってもらった。
部長が部室を出ていったあと、僕は少し放心していた。
けれど、我に返ると、自分の股間がそのままなのに気づく。
とりあえず、汚れを拭くことにした。
「そういえば、被ったまんまだったな……。」
そう呟きながら、皮を剥いて、先端を出して拭こうとした――そのとき。
「へえ〜。おちんちんって、本当はそんな形してたんだ。」
え?
驚いて顔を上げると、いつの間にか戻ってきた部長が、興味深げに覗き込んでいた。
「ちょっ……何、当たり前のように見てるんですかっ!?」
もう、遠慮も何もないらしい。
そして突然、部長がスマホを取り出したかと思うと――
カシャッ。
小さなシャッター音が部室に響いた。
あまりに不意打ちすぎて、身体がまったく動かなかった。
「いやいやいや! ダメでしょ、勝手に撮っちゃ!!」
僕が慌てて声を上げると、部長はスマホを抱えるようにして言った。
「ごめんなさいっ! ちゃんと消すからっ!」
……この人、とんでもないことをするな。
白濁とした液に汚れた男性器なんて、普通、自分のスマホに残したくなんてないはずなのに。
なのに、何のためらいもなく――。
まさか、もしかして、部長って……。
ジトッとした目で見つめる僕に、部長は頬を膨らませながら言った。
「私だって、男の子に興味あるもん! いいじゃない、少しくらい! みんな私のこと、清純だとか真面目だとかって……勝手に決めつけてさ。」
頬をぷくっと膨らませ、拗ねたように言うその姿は――なんとも可愛らしい。
しかし、欲求不満をこじらせたようにも見えて、内心少しだけ戸惑った。
……もはや、やけどのことなど、頭からすっかり抜け落ちているらしかった。
「そろそろ、おちんちんしまわないと風邪引いちゃうわね。……よし、私がきれいにしてあげる。それをお詫びってことにしてね。」
……どうやら、やけどの件は忘れていなかったらしい。
「いや、自分でやるので大丈夫ですよ。いい加減、恥ずかしいですし……。」
そう返したものの、部長は僕の言葉など一切聞いていないようだった。
すでに黙々と準備を始めている。
まあ……きれいにしてもらえるなら、それはそれで……。
部長はポットからお湯を注ぎ、水で温度を調整しながら洗面器にぬるま湯をつくっていた。
そこにハンドタオルを沈め、しっかりと温めてから持ってくる。
「あのね、きれいにしてるところ見られるのって、ちょっと恥ずかしいから……目隠ししてもいい?」
何を今さら、とは思った。
でも、もう部長の好きにさせることにした。
「好きにしてください。」
そう答えると、彼女はカバンから小さな布を取り出した。
「これ、私がいつも使ってるアイマスクなんだけど……いいかな?」
「はい。むしろ……」
“むしろ興奮します”と言いかけたが、ギリギリで言葉を飲み込んだ。
この流れで引かれるのは、絶対に避けたい。
アイマスクをそっとつけられ、視界が暗くなる。
しばらくして、準備が整ったらしい気配がした。
「じゃあ……きれいにしていくね。」
部長の優しい声と、タオルを絞る柔らかな音だけが、耳に届いていた。
ぞわっと、温かいものが触れた。
最初はタオルかと思った。けれど、それにしては明らかに感触が違う。
「あ、あの……これ、タオルですよね?」
そう問いかけると、すぐに返事が返ってきた。
「当たり前でしょ? タオル以外に、何があるっていうの?」
言われてみればその通りだ。
洗面器の中には、ハンドタオルしか入っていなかったはずだ。
「じゃ、続けるよ?」
そう言ったあと、再びぬるりとした感触が触れた。
……正直、気持ちいい。
けれど、この感触は一体何なのだろう。
ピチャ、ピチャ……と小さな音がする。
洗ってもらっているだけのはずなのに、体が妙に反応していく。
さっきまで、何度か出してしぼんでいたはずのそれが、みるみるうちに元気を取り戻していく。
「先端、剥いて洗うけど……いいよね?」
もはや、遠慮という言葉はどこかへ消え去っていた。
そして次の瞬間、先端がふわりと、何か柔らかくて温かいものに包まれた。
それは、明らかにタオルの感触ではなかった。
……これ、もしかして。
部長の、口……?
そんな考えがよぎった途端、半分ほどだったはずのそれが、一気に120%の本気を出し始めた。
「おお……今日いちばん大きいね。」
くすっと笑うような声が聞こえる。
次の瞬間、またあの“何か”に包まれる。
亀頭から裏筋まで、丁寧に。
そして、竿の上から下まで、ゆっくりと。
……これは、たぶん。
たぶんだけど――フェラなのかもしれない。
確信は、ない。経験も、ない。
でも、そうとしか思えなかった。
あの部長が。あの、いつも凛として優しい彼女が――
その可愛らしい口で、今……。
そう思った瞬間、もう何も我慢できなかった。
本日三回目の、放出。
身体の奥から湧き上がるような感覚に、思考が真っ白になった。
視界のないまま、僕はただ、音と温度と想像に身を委ねていた。
あまりの気持ちよさに、しばらく放心していた。
呼吸が落ち着き、ようやく体が自分のものに戻ってくる。
「あの……目隠し、取ってもいいですか?」
声をかけても返事がない。
妙な静けさに、少しだけ不安を覚えながら、そっとアイマスクを外した。
そこにあったのは――
洗面器と、濡れたタオルだけ。
「……あれ? 部長?」
呼びかけようとした時、部室の扉が開いた。
「いやいや、ごめんね。口の中に虫が入っちゃってさ。ちょっとうがいしてきたよ。」
虫……?
真冬の校舎に虫なんて、本当にいるのか。
違和感が、心のどこかに残った。
「また汚れちゃったね。きれいにしよっか。」
今度はタオルを使って、丁寧に拭いてくれる。
目隠しなしで。
「……目隠しは、もういいんですか?」
そう尋ねると、部長はタオルを手早くたたみながら言った。
「うん、さすがに面倒になっちゃった。はい、もうしまって。」
言われるまま、小さなハンドタオルで前を隠す。
そのタオルは、いつも部長が部活で使っていた柄だった。
「すみません……洗って返します。」
そう言うと、部長は優しく笑った。
「ふふ。いいよ、それ。私のお気に入りだけど……あげる。クリスマスプレゼントってことで。」
……嬉しい。
ただ、できれば最初から清潔な状態で受け取りたかったところだ。
やがて、ヒーターの前で乾かしていたズボンと下着も無事乾いた。
着替え終わると――
部室に、終わりを告げるような静けさが満ちていった。
最後の時間が、ゆっくりと近づいている。
再び、ミョウバンの結晶を作ることにした。
今度こそ失敗しないように、二人で慎重に進めていく。
お互いの動きを確認しながら、そっと瓶の中に結晶を沈めていく。
部長はハートの形、僕は星型のパーツを入れて、最後にふたを閉めた。
「これで、科学部の活動は……終わりです。今までありがとうございました。」
部長の声が、少しだけ震えていた。
目元も、わずかに潤んでいるように見える。
「松岡くんも、ありがとう。君がいなかったら、もっと早くこの部はなくなっていたよ。」
心の奥が、じわっと熱くなる。
やっぱり、寂しい。
今日を最後に、もう部長と会うことも、きっとほとんどなくなる。
……そんなの、嫌だ。
「部長。」
「ん? どうしたの?」
笑顔で振り返るその顔に、思わず言葉が詰まりそうになる。
けれど――今ここで言わなければ、もう一生言う機会はない気がした。
深く息を吸い、思い切って言葉を放つ。
「先輩……ずっと、好きでした。付き合ってください。」
エピローグ
結論から言えば、告白は――半分、失敗だった。
「ありがとう。でも松岡くん、これから受験でしょ? 私なんかにうつつ抜かしてる時間はないはずよ。」
それはまぎれもない正論だった。
「だからね、一年間だけ待ってあげる。私と同じ大学に受かったら……そのとき、また告白してほしいの。」
部長と同じ大学。
今からどれだけ頑張っても、届くかどうかは正直わからない。
でも、彼女はまっすぐな目で続けた。
「上からみたいでごめんね。でもね、私の行く大学の方が、松岡くんのやりたい研究にも向いてると思うの。将来のことを考えても、悪くない選択だと思うのよ。」
たしかに、そうだった。
僕が興味を持っている分野は、今の志望校よりも、彼女の進学先のほうが充実している。
「ほんとに……一年、待ってくれるんですか?」
そう尋ねた僕に、部長は少しだけはにかみながら、いたずらっぽく笑った。
「一年だけよ? 私が二年生になったら、彼氏作っちゃうんだから。」
――あれから、勉強漬けの日々が続いている。
机の上には、ハートの形のパーツが入った小さな瓶が置かれている。
あの日、部長が最後に作った結晶だ。
「これをあげるから、勉強がんばって。私が見守ってると思ってね。」
そう言って、そっと僕に手渡してくれたものだった。
その代わりに、僕もひとつの瓶を差し出した。
「では代わりに、これを渡します。……僕だと思えなんて大層なことは言いません。でも、大事にしてもらえたら、嬉しいです。」
――お互いに交換した、ミョウバンの結晶。
水の中に沈む小さなハートに、白く光る結晶が少しずつ育っていく。
そのひとつひとつを見るたびに、自分の学力も少しずつ積み重なっていると、そう思うようにしている。
一年後。
この瓶の中に綺麗な結晶が咲いたとき、もう一度、彼女に告白しよう。
その時は、もう「部長」なんて呼ばずに――
ちゃんと、名前で呼べるように。
END


💬 ご意見・ご感想はこちらへ。