「おっぱいが揉みたい」
公園のベンチで、思わず心の声が漏れ出していた。
生まれてこの方、女性のおっぱいに触れたことなど一度もなかった。
もちろん、赤ん坊の頃の母親は除外するとして、だ。
おっぱいを揉みたいがために女の子と仲良くしようと試みたことは何度もあった。
しかし、どれだけ努力しても、その崇高な目的が果たされる日は来なかった。
「はぁ……おっぱい……」
脳内はすでに妄想のおっぱいでパンク寸前だった。
もう、おっぱいを揉めるなら悪魔に魂を売ってもいいくらいだった。
そんな俺の前に、すっと影が落ちた。
「あなたの願い、叶えましょうか?」
顔を上げると、この茹だるような暑さの中、仕立ての良いタキシードにシルクハットを被り、綺麗に整えられた髭を蓄えた細身の男が立っていた。
「……あなたは?」
どう見ても不審者以外の何者でもなかったが、今の俺には、その怪しい話に耳を傾けるだけの心の隙間があった。
「失礼いたしました。私は、あなたの願いを叶える者です。」
何の自己紹介にもなっていない。
だが、暇を持て余していた俺は、ついついその奇妙な男の言葉に乗っかることにした。
「願いって……どんな願いでもですか?」
すると、男はわざとらしく、少し申し訳なさそうな表情を作ってみせた。
いかにも芝居がかった仕草だ。
「申し訳ありません。世界を揺るがすような大きな願いは、私の力では及びません。あくまで、ささやかな願いに限られます。」
ささやかな願いか。
詐欺の可能性が頭をよぎるが、仮に騙されたとしても、今の俺から巻き上げられる金などタカが知れている。
ならば、この胡散臭い男の戯言に賭けてみるのも悪くない。
「じゃあ、おっぱいを揉ませてくれ。誰でもいいわけじゃないぞ。俺が選んだ可愛い女の子のだ。」
俺の要求を聞いた男は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、白い手袋をはめた手で口元を隠した。
「承知いたしました。その願い、叶えましょう。……ところで、あなたは今、いくらお金を持っていますか?」
やはり、そこに行き着くわけか。
俺から金をせしめるための口実。
しかし、残念ながら今の俺には大金などない。
「期待外れで悪かったな。今の俺が出せるのは、財布に入っている三千円だけだ。詐欺をしたいなら、他を当たってくれ。」
吐き捨てるように言ってベンチに深く座り直し、空を仰いだ。
やっぱり、世の中に美味い話なんて転がっていないのだ。
「いえいえ、詐欺などいたしませんよ。ちょうど三千円ですか。あなたはやはり、選ばれた御方のようだ。」
男の言葉に、思わず視線を戻す。
「その三千円、拝見しても?」
気がつくと、俺はなぜか誘われるように、素直に財布から三千円を取り出していた。
手元には千円札が三枚。
「はい、確かに三千円ですね。」
男が細い指をパチンと鳴らした。
その瞬間、手元にあったはずの千円札三枚が、金属音を立てて六枚の五百円玉へと姿を変えた。
その硬貨は、どこか鈍い光を放っているように見えた。
「おっぱいを揉んだ後、その硬貨を一枚だけ相手に渡してください。そうすれば、相手はあなたを許すでしょう。」
そんな馬鹿な話があるか。
だが、今しがた手の中で紙幣が硬貨に変わったのは紛れもない事実だった。
手品やトリックの類とは思えない。
「あちらにいらっしゃるお嬢さんなど、いかがですか?」
男がステッキで示した先には、見るからに豊かな胸を携えた女性が歩いていた。
顔を確認すると、息を呑むほどの美人だ。
下手なグラビアアイドルよりも遥かに魅力的だった。
あんな女性の胸に触れられるなら、地獄に落ちても構わない。
「では、硬貨を一枚お手に持ち、彼女のおっぱいを揉んでみましょう。」
冷静になれば、さらっとおかしなことを言っているのがわかる。
しかし、俺の足は一歩、また一歩と彼女の背後へと進んでいた。
背後から抱きしめられる距離まで迫り、ちらりと男の方を振り返る。
男は「どうぞ」と促すように、優雅に手を差し伸べた。
……もう、後戻りはできない。
俺は意を決して、背後から彼女に飛びかかった。
そして、その豊満な双丘を、両手で思いきり揉みしだいた。
彼女の身体が、一瞬何が起こったのか理解できないように硬直する。
そして、数秒遅れて現状を把握した。
「きゃあーーーーーーっ!!!!」
公園中に響き渡るような絶叫。
周囲にいた人々の視線が一斉にこちらに突き刺さる。
彼女は俺の腕を振り払い、振り返ると同時に右手を大きく振り上げた。
(ビンタされる……!)
恐怖に襲われながら、俺は慌ててポケットから五百円玉を一枚取り出し、差し出した。
「す、すいませんでしたぁっ!!」
彼女の叫び声に負けないほどの大声で謝罪する。
すると、振り下ろされそうだった彼女の手が、ピタリと止まった。
彼女は俺の手のひらから五百円玉をそっと受け取ると、何事もなかったかのように、涼しい顔で再び歩き去っていった。
周囲で見守っていた人々も、まるで何事も起きなかったかのように、元の日常へと視線を戻していく。
「いかがでしたか? 嘘ではなかったでしょう。」
完全に常識を逸した魔法だった。
こいつは本当に悪魔なのかもしれない。
だが、俺はすでに、その甘美な魔力に魅了されていた。
「ああ、素晴らしい力だ。最初から信じていたらもっと味わえたのに。そこだけが残念だ。」
俺たちは顔を見合わせて、にやりと笑い合った。
「おっと、一つ言い忘れておりました。その硬貨を使うのは、五回までに留めておいてください。」
「五回だけ?」
「はい、五回だけです。今一回使われましたので、残りはあと四回ですね」
なるほど。
そう思うと、さっきは少しもったいなかったかもしれない。
だが、まだあと四回もおっぱいを揉めるのだ。
今の一回分は実験代として受け入れておこう。
「それと、おっぱいを揉むまでに留めておいてください。」
「と、言うと?」
「はい。例えばですが、あなたが対象を強姦などしてしまっては、私のささやかな力ではどうにもできません。」
なるほど。
あくまで『おっぱいを揉む行為』だけを許容する魔力なわけか。
「ちなみに、キスしたりするのは?」
「もちろんNGでございます。」
そうか。
暴走しないように、気をつけないといけないな。
「では、素晴らしいお時間をお楽しみください。」
男は一礼すると、背を向けて雑踏へと去っていった。
その怪しげな背中を見送りながら、俺の頭の中には、すでに次のターゲットとなる女たちの顔が浮かんでいた。
翌朝、俺は通勤電車に乗り込んだ。
乗客で埋まりつつある、ほぼ満員の車内をぐるりと見渡す。
(……いた)
ターゲットは、少し気の弱そうな女子学生だ。
毎朝見かける彼女は、いつも座席に座るか、その前の吊り革に掴まっている。
今日はおあつらえ向きに、吊り革を掴んで立っていた。
俺は不自然にならないよう、どうにか人をかき分けながら進み、ついに彼女の真後ろというベストポジションを確保した。
そっと息を吸い込んでみる。
鼻腔をくすぐる、女子学生特有のシャンプーのような甘い匂い。
厚めのメガネの奥にある、まだ幼さの残る可愛らしい顔立ち。
そして、彼女はいつも少し前屈みになって立っている。
おそらく、その制服の上からでもはっきりと主張している大きなバストを恥じて、隠そうとしているのだろう。
コンプレックスなのかもしれない。
二枚目のコインを捧げる相手として、これ以上の存在はいなかった。
俺はあらかじめ、腕時計の金属バンドの隙間に五百円玉をしっかりと挟み込んでおいた。
準備は万端だ。
体が密着するほどの満員電車。
俺は意を決して、背後から彼女の体に滑り込むように抱きついた。
そして、制服の上から、その柔らかく豊満なバストを両手で力強く揉みしだいた。
「や、やめてください……」
消え入りそうな声が聞こえる。
やはり、大きな声を上げて強く抵抗できないタイプのようだ。
もしかすると、この極上の果実をこんな風に弄んだのは、俺が初めてなのかもしれない。
そんな歪んだ幸せを噛み締めながら、じっくりとその感触を手のひらに刻み込んだ。
しかし、甘美な時間は不意に終わりを告げる。
「ちょっと! あなた、何やってるんですか!」
車内に鋭い声が響き渡った。
当然の反応だった。彼女が立っているのは座席の目の前だ。
つまり、座っている乗客からは俺たちの不審な動きが丸見えだったのである。
声を上げたのは、彼女の前に座っていた、いかにも気が強そうなOLだった。
一瞬にして周囲がざわざわと騒ぎ出し、不穏な空気が伝播していく。
「ちょっと、君!」
隣にいたサラリーマンが、俺の肩をガシッと掴んだ。
残念だが、ここが潮時のようだ。
俺は名残惜しむように、最後に彼女の胸をギュッとひと揉みしてから、落ち着いて腕時計のバンドから例の硬貨を抜き取った。
そして、それを彼女の制服の胸ポケットへとそっと落とし、彼女から腕を解いた。
すると、立ち上がって俺を鬼の形相で睨みつけていたはずのOLは、何事もなかったかのように、すっと自分の席に座り直した。
今まさに犯されていたはずの彼女も、テスト勉強だろうか、小さな参考書を読み出した。
俺の肩を掴んでいたサラリーマンの手も緩み、彼は何食わぬ顔でスマートフォンに視線を戻した。
ずっと揉みたくてたまらなかったおっぱいを、逃げ場のない密室で、しかも衆人環視の中で揉みしだいた。
その圧倒的な背徳感と事実の重みに、脳みそが壊れそうだった。
心地よい浮遊感と夢見心地のまま、電車は会社の最寄り駅へと滑り込んだ。
夢見心地のままふらふらと歩いているうちに、どうにか会社に到着した。
こんな俺でも、それなりに規模の大きい企業に勤めている。
今日の目的はすでに決まっていた。
今の時間帯なら、間違いなくあの場所に「彼女」がいるはずだ。
確信を胸に、俺は目当ての部屋の前に辿り着いた。
そこは、本来なら絶対に立ち入ることの許されない聖域――女子更衣室。
俺は躊躇することなく、堂々と扉を開けて中へと侵入した。
目の前に広がったのは、色とりどりの下着姿で着替えの最中だった女性社員たちの姿。
突然の闖入者に対し、更衣室内の空気が一瞬にして凍りつき、全員が石のように固まった。
それもそうだろう。
まさか男性社員が女子更衣室に堂々と入ってくるなど、思ってもいなかったはずだ。
だが、俺は他の有象無象には目もくれず、更衣室の最奥へとまっすぐに突き進んだ。
(……いた)
そこに佇んでいたのは、我が社で不動のナンバーワン美貌を誇り、かつ、誰が見ても大変素晴らしいプロポーションを持つ受付嬢だった。
俺のような冴えない平社員では、一生かかってもお近づきにすらなれない高嶺の花。
そんな完璧な美女が、いま、脱いだシャツを必死に胸元に当てがいながら、怯えた目で俺を見上げている。
その視線を浴びて、俺の股間は破裂しそうなほどパンパンに張り詰めていた。
俺は彼女のシャツを乱暴に奪い取った。
露わになったのは、純白のブラジャーと、それに包まれながらも溢れんばかりに自己主張する豊満なバスト。
胸を隠そうとする彼女の両腕を力尽くで引き剥がし、俺は白いブラジャーに手をかけた。
そして、無惨にもそれを一気に剥ぎ取る。
「ぶるん」と効果音が響きそうなほどの勢いで、極上のバストが放たれた。
これほどの質量がありながら、重力に逆らうように美しい弧を描く双丘。
それはまさに、天が授けた完璧な芸術品だった。
俺は、その至高のお宝へゆっくりと両手を伸ばし、深く揉みしだいた。
手の中で、その柔らかい肉体がグニグニと形を変えていく。
あまりの圧倒的な肉感と吸い付くような肌の感触に、目頭が熱くなるほどの感動を覚えていた。
少し大きめで淡い色をした乳輪の真ん中で、慎ましく尖っている乳首を、指先でギュッとつまみ上げた。
「いやっ……!」
彼女の身体がビクンと小さく跳ね、ようやく拒絶の悲鳴がその唇から零れ落ちた。
その声を合図にしたかのように、周囲の女性社員たちもようやく悪夢のような現実を理解したらしい。
更衣室内は一気にパニックに陥り、黄色い悲鳴が飛び交う。
なんなら、外へ他の男性社員を呼びに走った者までいた。
残念だが、タイムアップだ。
俺はあらかじめ用意していた三枚目の硬貨を取り出すと、彼女の豊かな胸と胸の谷間の間に、そっと挟み込んだ。
その瞬間、荒れ狂っていた怒号と悲鳴が、潮が引くように静まり返った。
女性社員たちは何事もなかったかのように静かになり、俺は誰に咎められることもなく、優雅に女子更衣室を後にした。
「……あと二枚、か。」
ポケットの中で、残った二枚の硬貨を指先で弄びながら、次の獲物は誰にしようかと考えていた。
ちなみに、その日は興奮の余韻で全く仕事にならなかったのは言うまでもない。
後から通報されたりバレたりしていないかと、流石に心臓がドキドキしていたが、結局「更衣室に男が侵入した」という物騒なニュースが社内を流れることはなかった。
ただ、着替えの最中になぜか受付嬢ちゃんのブラジャーが勝手に外れ、とんでもない凶器を見てしまったと女子社員の間で話題になっていた。
当の受付嬢が、一日中ずっと恥ずかしそうに俯いていたのが、何よりも印象的だった。
さて、硬貨も残すところあと二枚か。
受付嬢ちゃんをあと二回揉みに行っても良いんだが、せっかくだし違う人のおっぱいも揉んでみたい。
そんなことを考えながらスマホでスケジュールを確認していると、今日が歯医者の予約日だったことを思い出した。
「危ない危ない、忘れるところだった。……そう言えば、あそこには。」
通っている歯科医院には、いつも小柄で愛らしい歯科助手がいる。
彼女は小柄な体躯に似合わず、制服の上からでもはっきりと主張する豊満なバストの持ち主だった。
ネットの書き込みなどで「歯科助手が胸を押し当ててくる」といった話を目にすることがあるが、彼女はかなり気をつけているのか、これまでにそんなハプニングは一切なかった。
普段なら「まあ、そんなものだよな」と気にしていなかったが、手元にはあの魔法の硬貨がある。
無性に彼女の胸を揉みたくてたまらなくなってしまっていた。
ポケットの中で硬貨の冷たい感触を確かめ、俺は意気揚々と歯医者へと向かった。
この歯科医院は、院長をはじめスタッフが全員女性だった。
だから男性客ばかりかと思いきや、むしろ女性客の方が多い。
あまり口の中を男性に見せたくないって女性が多いのかもしれない。
治療スペースには診察台が三席ほど並んでいるが、今回はみんな女性のようだった。
「こんにちは。まずはこちらでうがいをしてくださいね。」
いつものように、彼女がかわいい笑顔で紙コップを差し出してくる。
自然と視線を落とすと、チュニック丈の制服の下で、やはり立派な双丘が自己主張していた。
どのタイミングで仕掛けるべきか、頭の中で邪なシミュレーションを重ねながら、俺は静かにうがいを済ませた。
「こんにちは。では、まずは歯の状態を順番に見ていきますね。」
そう言いながら、女性の院長先生が現れた。
この先生もかなりの美人ではあるのだが、残念ながら非情に慎ましい体型をなされている。
揉ませてもらえるなら揉みたいが、やはり無条件で揉める権利を使うには惜しいと言わざるを得ない。
そんな俺の不届き極まりない思考を知る由もなく、先生はいつも通り俺の右側に腰掛けた。
そして左側には、クリップボードを抱えた歯科助手ちゃんが静かに座る。
いつものお決まりのスタイルだ。
「はい、お口を大きく開けてくださいね。」
先生がデンタルミラーを差し入れ、俺の虫歯の進行具合を確認し始めた。
口を開けたまま身動きの取れない状況の中、俺は左手をそっと、歯科助手ちゃんが抱えるクリップボードの影へと滑り込ませた。
そして、服の上から、彼女の胸に軽くタッチした。
その突然の愛撫に、歯科助手ちゃんの身体がピクッと小さく跳ねた。
動揺を無視して、俺は彼女の豊満なおっぱいを掌でしっかりと包み込み、ゆっくりと揉みほぐし始める。
(……柔らかい)
服やブラジャー越しからでもはっきりと伝わる、とんでもない柔らかさだった。
昨日の受付嬢ちゃんのおっぱいは若々しい張りがあり、少し弾力のある硬さを感じさせたが、彼女のそれはまるでマシュマロのようだ。
人によってこれほど個体差があるものなのかと、深い感心すら覚えながらその感触を堪能した。
だが、やはり人間の欲望は底が知れない。
これだけでは、どうしても物足りなくなってしまった。
今、彼女が着ている制服はセンタージッパー仕様のチュニックだ。
俺は、右側にいる先生の死角になるよう慎重に手を伸ばし、そのジッパーをスッと下ろした。
そのまま、白いブラジャーの下から手を突っ込んだ。
指先が蕩けてしまいそうなほど、極上に柔らかく温かい肉の塊。
視線をそっと左に向けると、彼女は目を見開いたまま、完全に硬直していた。
おそらく、マスクの下ではぽかんと口を開けているに違いない。
普段は明るくハキハキしている彼女だが、想像もしない異常事態に直面すると、どうしていいか分からず固まってしまうタイプなのだろう。
甘美な幸せを噛み締めていた、その時だった。
口の中を凝視していた先生から、いつもと違う怪訝な声が漏れた。
「……吉田さん? 返事がないようですが、大丈夫ですか?」
歯科助手ちゃんが診察結果に返事をしていないことに気づき、先生が不意に顔を上げた。
そこで初めて、目の前で繰り広げられている狂った光景に気付いたようだった。
仕事熱心で優秀な先生なのだろう。
しかし、そのプロ意識の高さゆえに、目と鼻の先で自分の助手が生身の胸を凌辱されている異常事態への気づきが、致命的に遅れてしまったのだ。
「な、な、何をやっているの!?」
診察室に響き渡る、先生の鋭い悲鳴。
どうやら、潮時のようだった。
俺はガバッと上半身を起こすと、もう片方の手も彼女のブラジャーの中に強引に押し込んだ。
これでもかとその柔らかな感触をふた揉み、み揉みと味わい尽くしてから、右手に握りしめていたあの硬貨をブラジャーのカップの中に残して素早く両手を引いた。
瞬間、張り詰めた空気が一気に霧散した。
歯科助手ちゃんは何事もなかったかのように素早くジッパーを上げ、再びクリップボードに目を落とした。
そして、ひどく申し訳なさそうな表情で先生に向き直る。
「す、すいません……。ちょっと、途中から記録が抜けてしまっていたみたいで……」
その言葉に、先生は「はぁ」と小さくため息をついた。
「もう、しっかりしてください。……申し訳ありません。もう一度、最初から見直させてもらってもよろしいですか?」
先生も、何事もなかったかのように俺に微笑みかけてくる。
「あ、はい。大丈夫ですよ。」
再度の診察中、歯科助手ちゃんは恐縮しきりで小さくなっていた。
ただ、時折もじもじと自分の胸元を気にするような素振りを見せていた。
やはりブラジャーの中に硬貨があるのは違和感があるのだろう。
治療が終わり、会計を済ませて歯科医院を出ようとしたら、自動ドアの前まで、あの歯科助手ちゃんが追いかけてきた。
そして、深く頭を下げながら謝罪の言葉を口にした。
「先ほどは私の不手際で、治療を長引かせてしまって本当に申し訳ありませんでした……!」
本当は俺が悪いのになと思いつつ、「いえ、あれくらい全然問題ないですよ」と優しく微笑み返した。
彼女の胸元にチラリと視線を送り、衣服の下にあるあの極上の柔らかさを脳裏に焼き付けながら、俺は満足感に包まれて帰路についた。
手元に残された、最後の一枚の硬貨。これをどう使うべきか。
一晩中ベッドの中で悶々と考えを巡らせたが、これといった名案は浮かんでこなかった。
「仕方ない。せっかくの休日だし、頭を冷やしがてら散歩でもするか。」
あてもなくふらふらと歩いているうちに、やがて重厚な市営体育館が目の前に見えてきた。
ここは市民なら誰でも自由に出入りができる施設で、建物の周りにある広場では子供たちが元気に遊んでいる。
涼を求めて何気なく館内へと足を踏み入れると、どこからか気合の入った、威勢の良い掛け声が響いてきた。
声のする方へ歩みを進めると、そこには『武道場』と書かれた重い扉があった。
そっと入り口の隙間から中を覗き込む。
冷房が効いているとはいえ、熱気のこもる道場内で、柔道着を着た一団が激しく汗を流していた。
暑い中よくやるものだと感心しかけたが、すぐに俺はある奇妙な違和感に気がついた。
(……中にいるの、全員女じゃないか?)
入り口の横に掲げられた利用状況のホワイトボードを確認すると、そこには『女子柔道会』の文字があった。
なるほど、女性だけの柔道サークルか。
納得はいったが、男の俺がこの場を覗き見しているのは流石にバツが悪い。
早々に退散しようと踵を返しかけた瞬間、一人の少女の姿が網膜に焼き付いた。
黒髪を後ろで一本に結び、まだあどけなさの残る可憐な顔立ちをした彼女は、道場の隅で一人、黙々と受け身の練習に励んでいた。
そして何より、柔道着では隠しきれないご立派なおっぱいを持っていた。
頑張って汗を流す彼女が、あまりにも美しく見えてしまった。
最後の一枚を捧げるべき相手は決まった。
だが、今回はあまりにもリスクが大きすぎる。
ターゲットを取り囲むのは、全員が一端の武道家なのだ。
もし失敗すれば、ただでは済まない。
しかし幸いなことに、彼女は今、誰とも組まずに一人で練習している。
これは、最初で最後の千載一遇のチャンスだった。
どうするべきか――。
脳が葛藤を終えるより先に、俺の身体はすでに道場へと踏み込んでいた。
一目散に、彼女の元へと駆け寄る。
突然現れた私服の男に、周囲の門下生も、そして標的の彼女自身も呆気にとられて身動きが取れずにいる。
(今だ!)
俺は躊躇なく彼女の腰へとタックルを仕掛け、そのまま体ごと押し倒してテイクダウンを奪った。
格闘技未経験の俺が、現役の柔道家を完璧に押し倒せたのは、奇跡としか言いようがない。
おっぱいへの果てしない執念が、人間の潜在能力を限界突破させたのだ。
彼女が冷静になる前に素早く行動しなければ、逆にやられてしまう。
俺は彼女の上に跨がり、マウントポジションをがっちりとキープした。
そして、戸惑う彼女の柔道着の襟元を、左右へバッと強引に押し開く。
下に着ていたインナーのシャツを、ブラジャーごと一気に胸の上まで捲り上げた。
ぶるん、と弾むような音を立てて、汗ばんだ生のおっぱいが白日の下に晒された。
仰向けに倒れているというのに、鍛え上げられた大胸筋に支えられ、重力に抗うように豊かにそそり立つ双丘。
これほどの巨乳でありながら、その中央に佇む乳輪と乳首は驚くほど小さく、愛らしいピンク色をしていた。
その色素の薄さが、彼女の秘められた純潔さを物語っているようで、さらに俺の理性を狂わせる。
俺は、その至高の果実を、両手で思う存分に揉みしだいた。
呆気に取られていた彼女も、一気に現状を理解したのだろう。
「いやあああああああああっ!」
悲鳴を上げながら、彼女は必死に身体をくねらせ、腰を浮かせて俺を跳ね除けようとする。
だが、この奇跡の感触を、はいそうですかと手放せるわけがない。
俺は彼女の豊かな胸を両手で鷲掴みにしたまま、その身体にぴったりと覆い被さった。
手のひらに伝わる熱と、揉むたびに形を変える極上の弾力。
さらに鼻腔をくすぐるのは、甘い女性の体臭と、運動したての清々しい汗の匂い。
その混ざり合ったフェロモンが、俺の脳を極限まで麻痺させた。
「いや!いや!助けてっ!」
彼女の悲鳴に、静まり返っていた道場がようやく一気に沸騰した。
「おい! お前、何をやってんだ!」
「てめぇ殺すぞ!」
周囲から、およそ女性とは思えないほどの野太い怒号と殺気が押し寄せてくる。
流石にこれまでか。
俺は慌ててポケットに手を突っ込み、最後の一枚となったあの五百円玉を取り出した。
そして、それを必死にもがく彼女の掌の中に、ぎゅっと握り込ませた。
そのまま、俺は静かに彼女の身体から退いた。
すると、嵐のようだった周囲の殺気が、嘘のように一瞬で霧散した。
彼女はゆっくりと起き上がると、乱れた道着を丁寧に整え、俺の顔を見てひどく申し訳なさそうな、困り顔を浮かべた。
「すいません……。あの、今日は女性限定の練習日なんですよ。あ、もしよろしければ、ちょっとこちらへ来ていただけますか?」
促されるまま、俺は彼女の後について道場の入り口へと移動した。
彼女は机から一枚のパンフレットを手渡してくれた。
「私たちは男女混合のクラスもやっていますので、もし興味がおありでしたら、ぜひその時に体験にいらしてください。」
手渡されたチラシに目を落とすと、そこには今まさに俺が胸を揉みしだいた彼女が、大きくセンターに写っていた。
よく見ると、全国大会で優勝経験のある、このクラブの看板選手らしい。
後からじわじわと込み上げてくる自分の無謀さに、背中に冷たい汗が伝った。
「……もし予定が合えば、覗かせていただきますね。」
俺がそう答えると、彼女はとても嬉しそうに俺の手を優しく握りしめた。
「はい! お待ちしていますね。」
差し向けられた笑顔は、眩しいほどに輝いていた。
それにしても、よくもまあ、あんな実績のある選手を押し倒してマウントポジションを取れたものだ。
おっぱいに対する己の異常なまでの情熱に、我ながら呆れると同時に、深い感銘すら覚えていた。
おっぱいへの執念は、時として人間の限界を超えた力を引き出す。
ポケットの中の、空っぽになった温もりを指先で確かめながら、俺は心地よい疲労感と共に、体育館を後にした。
五枚の硬貨を使い切り、五人の美女のおっぱいを揉み尽くした。
もう我が人生に一片の悔いなし。
そう自分に言い聞かせながら、どこか充足感と虚無感の混ざり合った複雑な気持ちで家路を歩いていた。
すると、見覚えのない大きな敷地と、立派な校舎が目の前に現れた。
周囲を見渡すと、心なしか歩いているのは若い女性ばかりだ。
怪訝に思いながら、建物の銘板を目にしてようやく合点がいった。
「そういえばここ……女子大があったな。」
気づけば、家からかなりの距離を歩いてきていたらしい。
女子大の周囲をニヤニヤしながら徘徊している男など、どう言い訳しても不審者そのものだ。
余計なトラブルに巻き込まれる前に、急いで引き返そう。
そう思って踵を返そうとした、その時だった。
視界の端を通り過ぎていく一人の女性の姿に、俺の全身の血が凍りついた。
(……え?)
慌ててその姿を凝視する。
見間違えるはずがない。
かつて俺が人生を捧げ、推しに推し抜いていたあの人気アイドルだった。
握り締めてちぎれるほど握手会に通い詰め、その笑顔を脳裏に焼き付けてきたのだ。
学業に専念するために一時活動休止中だと聞いていたが、まさかこの大学に通っていたとは。
そして同時に、俺は底知れない絶望の淵に突き落とされた。
なぜだ。
なぜ、さっきの柔道場で最後のコインを使い切ってしまったのか。
当然、彼女もまた豊満なバストの持ち主として有名だった。
これまでの五人とは比較にならない。どう考えても、俺が人生で一番揉みたかったのは、彼女のおっぱいだった。
運命の悪戯を呪いながら、目の前を通り過ぎていく彼女を、ただ指をくわえて見送るしかないのか……。
その時、脳裏にふと、ある数字がよぎった。
(待てよ。俺はあのによって三千円を、五百円玉に変えられた。なら、五百円玉は全部で何枚ある?)
――六枚。
「五回だけにしておいてください。」とあの髭の男は言った。
だが、物理的に残っている硬貨は、あと一枚あるはずだ。
心臓を爆鐘のように打ち鳴らしながら、震える手で財布の小銭入れをこじ開けた。
「……あった。」
それは、小銭入れの奥底で、他の硬貨とは明らかに異なる鈍い輝きを放ちながら鎮座していた。
紛れもない、あの魔法の硬貨だ。
俺は、コインを強く握りしめ、大学の敷地内へと足を踏み入れる彼女の背中を追った。
周りの女子大生たちの怪訝な視線など、もうどうでもよかった。
むしろ、堂々と関係者を装って歩いた方が怪しまれない。
そう自分に都合の良い言い訳をしながら、大股で距離を詰めていく。
正門と校舎の間。
多くの学生たちが談笑する、憩いのスペースらしき芝生の広場に差し掛かった。
そこで、俺は背後から彼女に思いきり抱きついた。
「きゃっ……!?」
不意の衝撃に、彼女が怯えた顔で振り返る。
その瞬間、握手会のブース越しに見ていたあの美貌が、恐怖に歪んだ。
俺はそのまま、彼女の華奢な身体を芝生の上へと押し倒した。
うつ伏せに倒れた彼女は必死にもがいて逃げようとしたが、俺は力任せにその身体を仰向けへとひっくり返す。
やはり、ずっと推し続けていた彼女だ。
ずっと夢に見続け、何度その姿を妄想してオナったか分からない、最推しの存在が今、俺の下にいる。
俺は、抑えきれない欲望のまま、彼女の胸元に両手を押し当てた。
「いや!」
悲鳴が上がるが、俺の腕の力を振りほどくことはできない。
周囲の女子学生たちも、白昼堂々の女子大のど真ん中で起きたあまりにも異常な暴挙に、声も出せずにただ呆然と立ち尽くしている。
俺は容赦なく彼女のシャツに手をかけ、一気にそれを脱がした。
露わになった、豊かなふくらみと、それを包み込むベージュの下着。
その光景だけで眩暈がするほどの興奮を覚えたが、まだ目的は果たせていない。
俺は衆人環視の前で、彼女のブラジャーを無惨にも剥ぎ取った。
「やめて、お願い……っ!」
必死に胸を隠そうとする彼女の細い両腕を掴み、左右に思いきり引き開いた。
現れたのは、国宝級と呼ぶにふさわしい、芸術的な美乳だった。
ただ大きいだけではなく、形の良さ、肌のきめ細かさ、そしてその頂点に美しくそびえる乳首。
過去の五人のおっぱいがすべて色褪せてしまうほどの、至高の果実がそこにあった。
ゴクリと喉を鳴らし、俺はその柔肌を、生乳の感触を、両手でこれでもかと揉みしだいた。
「痛い……痛いよ……っ!」
最初は激しく抵抗し、大声を上げていた彼女だったが、じっくりと、執拗に揉みしだかれているうちに、だんだんとその声が小さくなっていった。
手のひらの中心で、彼女の乳首がキュッと硬くなり、自己主張を始めるのが伝わる。
「もう……やめてよ……」
消え入りそうな声が聞こえた。
その瞬間、頭に冷水を浴びせられたように、急激に冷めていく自分があった。
目の前で涙をボロボロとこぼし、怯えきっている彼女の姿を見て、胸をえぐられるような恐ろしい罪悪感に襲われたのだ。
俺は弾かれたように彼女を解放し、シャツを拾って手渡した。
そして、その上に、あの鈍く光る六枚目の硬貨をそっと添えた。
(これで、なかったことになる。すべて、元通りになるはずだ……)
そんな、あまりにも身勝手で最低な自己弁護を胸の内で唱えながら。
硬貨を受け取った彼女は、魔法にかけられたかのように、何事もなかったかのようにブラジャーを直し、シャツを身にまとった。
そして、じっと俺の顔を見つめてきた。
心臓が潰れそうな沈黙の後、彼女の表情がパッと華やぎ、かつて何度も見たあの輝くような笑顔が溢れ出た。
「あれ、昔よく握手会に来てくださっていた方ですよね!」
覚えていてくれた。
俺の顔を、彼女は確かに覚えていてくれたのだ。
満面の笑みを向けてくれる彼女を、俺はもう、まともに直視することすらできなかった。
「わたし、大学を卒業したらまた活動を再帰するので、その時は絶対に握手会に来てくださいね!」
そう言って、彼女は俺の両手をぎゅっと握りしめてくれた。
俺は、こんないい子を裏切ってしまったのか。
コインの魔力で彼女の記憶は改変された。
だが、俺自身の記憶には、彼女を凌辱したという事実が消えることなく刻まれている。
底なしの罪悪感が、容赦なく俺の精神を押し潰していく。
「あの、ここは女子大だから、男の人は早く出た方がいいですよ。」
彼女は小さく手を振りながら、心配そうに微笑んでくれた。
俺はたまらなくなって、背を向けて正門へと全力で走り出した。
逃げるように、この場から、彼女の視線から消えたかった。
そして、正門を飛び出し、一歩を踏み出した、その瞬間。
目の前が、真っ白な光に包まれた。
エピローグ
気がつけば、俺はあの公園のベンチに座っていた。
一体、何が起きたというのだ。
頭が全く回らない。
呆然と周囲を見渡そうとしたその時、目の前に、すっと影が落ちた。
気がつけばそこに、一人の男が立っていた。
茹だるような暑さの中のタキシードにシルクハット。
紛れもない、あの悪魔の硬貨を俺に手渡した男だった。
男は俺の顔を見るなり、深いため息をついた。
「……使って良いのは五枚までと、申し上げましたよね?」
確かに、そう言われた。
だが、あの時、俺の手元には確かに六枚の五百円玉があったのだ。
目の前のごちそうを前にして、我慢できるはずがなかった。
「……確かに約束は破った。だけど、六枚目だってちゃんと使えたじゃないか。何事もなかったように、全部うまくいったぞ。」
必死に言い訳を口にする俺を見て、男は「やれやれ」と呆れたように首を振った。
「確かに、硬貨の効力自体は発揮されたでしょう。ですが……ルールを破られたあなたには、相応の罰を与えねばなりません。」
罰……?
背筋に冷たいものが走る。
やはりこいつは悪魔の類で、約束を破った代償として、俺の魂を奪い去るつもりなのだろうか。
「いえいえ、あなたの魂はまだ必要ありません。それよりも、もっと大きなエネルギーを代わりにいただこうと思っているだけです。」
こいつ、俺の思考を読んでいる。
本能的な恐怖に襲われ、今すぐこの場から逃げ出そうと腰を浮かせかけた。
しかし――身体が、ビクリとも動かない。
指先一つ動かすことすらできなかった。
唯一動かせたのは視線だけだった。
「あなたがその『罰』を受け終えるまで、その身体を自由に動かすことは叶いません。……それでは、またいつの日か、お会いできることを祈っております。」
男はそう言って優雅に一礼すると、今度こそ、かき消えるように煙となってその場から消え去った。
絶望に支配され、動かない瞳でただ前方の景色を見つめることしかできない俺の視野に、一人の女性の姿が映り込んだ。
――『罰編』へ続く。



💬 ご意見・ご感想はこちらへ。