俺には、有栖(ありす)という幼なじみがいる。
実家は隣のケーキ屋『アリスのお茶会』。
不思議の国のアリスを敬愛する彼女の母親が、店名も娘の名前もそれにあやかって名付けた、地元で愛される店だ。
ケーキと紅茶の味は確かだが、最近の経営状況は芳しくない。
原材料の高騰に加え、近所にできた大手チェーン店に客を奪われているのが現状だった。
「はー……」
なぜか俺の部屋に転がり込み、有栖が深い溜息をつく。
「あのさぁ、人の部屋に来て早々溜息付くのはどうなんだろうな?」
少し呆れながらそう言った。
「だってさぁ、お小遣いダウンだよ?お店が大変なのはわかるけどさ……」
有栖は看板娘で、暇があれば店の手伝いをしている。
そのお手伝いがそのまんまお小遣いに直結していたようだ。
「最近暇だからお店出ないでも良いって。」
確かに最近は有栖よりおばさんの方がショーケースの前に立っているような気がする。
有栖が暇になることは俺にとってはプラスだが、やはり年頃の女の子にとって、軍資金のカットは死活問題なのだろう。
「あ、これお母さんが持って行けって。」
差し出された小さな箱には、馴染みのケーキが二つ入っていた。
昔から好きだったそのケーキをただでありつけるのはありがたい。
早速口に運ぶ。
……やはり美味い。美味いが……。
「私、このケーキ大好きなんだけど、良くも悪くも『古き良き』って感じよね。」
有栖の言う通りだった。
洗練された都会的なスイーツが並ぶ新店舗に比べると、どうしても見劣りしてしまう。
「あーあ、もうすぐゴールデンウィークなのに、どうしようかな……」
有栖は大きく伸びをしながら、俺のベッドに後ろ向きに倒れ込んだ。
その瞬間、俺の目は一点に釘付けになる。
(有栖のやつ、いつの間にこんなに……)
服越しでもわかる、豊満な膨らみ。
無防備に反らされた肢体によって強調されたそのバストは、横たわってもなお、確かな存在感を主張していた。
その遠慮ない視線に気づいた有栖が、慌てて胸を隠しながら起き上がる。
「どこ見てんのよ、エッチ!」
有栖にエッチと言われたのは、小学生の頃のスカートめくり以来な気がする。
俺は軽くパニックになりながら苦し紛れの言い訳を口にした。
「ち、ちがうって!起死回生の新商品を思いついたんだよ!」
「新商品……?」
有栖はジトーッとした目で見ている。
その顔もかわいかった。
「えーと、その……本物のおっぱいで型を取った『おっぱいプリン』とか……なんて、な。ハハ。……ないよな。うん。」
しまった、と思った。
今まであまり有栖にこの手の下ネタはぶつけたことはなかった。
ところが、有栖は不機嫌になるどころか、何かに真剣な表情で考え込んでいる。
「……それ、ありかも。」
そういえばこいつ、時折バカになるんだった。
それも、とてつもなく行動力のあるバカに……。
翌日、有栖は大きな紙袋を抱えて、我が家へ押し掛けてきた。
「今日ってさ、結人くんしかいないよね?」
頬を上気させた有栖の問いかけに、俺の心臓は嫌な高鳴りを上げ始めていた。
どうやら有栖は本気だった。
工程を聞けば、まずシリコンや印象材で胸の型を取り、そこに石膏を流して原型を作成。さらにそれを整えてから、食品衛生法に適合したプリン用の型を自作するのだという。
素人考えでも手間のかかる作業だが、有栖の瞳には「店を救う」という大義名分が燃え盛っていた。
「でさ……肝心の『おっぱい』はどうするんだよ。まさか、有栖がやるのか?」
平静を装って聞いたものの、喉の奥がカラカラに乾いていた。
幼なじみとしてずっと隣にいた有栖。
いつの間にか恋心を抱き、秘かに想い続けてきた相手だ。
そんな彼女のおっぱい……。
俺の問いかけに対し、有栖はニヤリと笑みを浮かべ、躊躇なくシャツの裾に手をかけた。
「ちょっ、おまっ!」
制止の声も虚しく、彼女はシャツをガバッと脱ぎ捨てた。
眼前に広がったのは、白い肌と……鮮やかな水色のビキニ姿だった。
「ふふーん。ちゃんと水着を着てきたから大丈夫だもーん!」
自信満々に胸を張る有栖。
だが、その「どや顔」とは裏腹に、ビキニの布地から溢れんばかりに主張する双球の迫力に、俺は言葉を失った。
高校ではプールの授業は男女別だし、ここ数年、彼女と海や川へ遊びに行った記憶もない。
つまり、今の俺にとってこれは、あまりにも刺激が強すぎる「目の毒」だった。
「…………」
「……ねぇ、もう!見すぎ!結人くんって、そんなにエッチだったっけ?」
俺のあまりの凝視っぷりに、有栖は昨日と同じように腕で胸を隠し、呆れたような声を出す。
だが、不可抗力だ。男なら誰だってこうなる。
(俺は悪くない……!)
心のなかで必死に自分を正当化しながら、必死に理性のブレーキを踏み込んだ。
結局、有栖は再びシャツを頭から被ってしまった。
準備が整うまではお預け、というわけだ。
……正直に言おう、残念である。
「エッチな結人くんは、こっち混ぜてて。」
どうやら俺の好感度は、今の短時間で垂直落下してしまったらしい。
とはいえ、言葉の端々に険がないところを見ると、怒っているわけではなさそうだ。
俺は大人しくボウルを受け取り、中に張った水へ専用の粉末を投入した。
円を描くように混ぜていくと、液体は次第に粘り気を帯び、重厚なペースト状へと姿を変えていく。
これを胸に塗布して型を取るのだ。
「……そろそろ、いいかな。」
有栖が呟き、再びシャツに手をかける。
脱ぎ捨てる際、布地が豊かな膨らみの下側に一瞬引っかかり、解放された双球がフルンと震えたのを、俺の動体視力は見逃さなかった。
……間違いなく、今日は寝不足になる。
「じゃあ、その出来たやつ……は、私が自分で塗るわね。」
有栖の手がボウルへと伸びる。
……どこかで選択肢を間違えたのだろうか。
もし最初から紳士的に振る舞い、彼女の全幅の信頼を勝ち取っていれば、俺がその手で塗るという展開もあり得たのではないか。
叶わぬ妄想を振り払い、俺は大人しくボウルを渡した。
有栖はペーストを掬い上げると、水着の上からそれを塗り広げていく。
水着越しとはいえ、自らの胸を弄るようなその手つきは、直視するにはあまりに毒気が強すぎた。
「…………」
有栖がギロリと睨んできた。
はいはい、向こう向いていますよ。
……というかわざわざ俺の家でやらなければ良いのに。
しばらくして「こっち向いていいよ」と許可が下りた。
振り返ると、彼女のバストラインは先ほどのペーストに覆われ、石膏像のような無機質な塊へと変わり始めていた。
「どれくらいで固まる予定なんだ?」
「うーん、二十分くらいかな。……ねぇ結人くん、お水飲みたい。」
両手は普通に空いているから自分で飲めるだろうに。
反論するのも野暮なので、俺は彼女が持参したペットボトルにストローを差し、その口元へと運んだ。
「ふぅ……。これ、固まる時に少し熱くなるみたい。結構大変だね。」
有栖は少し上気した顔で、ニコニコと微笑んでいる。
どうやら結構楽しんでやっているようだ。
「結人くん、ケーキ。」
今度は雛鳥のようにあーんと口を開けて催促してくる。
さっきまで「エッチ」だなんだと罵っていたはずなのに、この切り替えの早さは反則だ。
結局、俺は彼女のペースに翻弄され、甘えてくる幼なじみを甲斐甲斐しく世話し続けた。
そうして、密度の濃い二十分が経過した。
「そろそろ、いいかな」
有栖は自分の胸をポンポンと叩き、石膏状に固まった感触を確かめている。
すると、何を思ったのか彼女は俺の手を取り、あろうことかその「塊」の上に置いた。
「ね?しっかり固まっているでしょ?」
有栖に悪気はないのだろう。
これだけ厚みのある物体が間にあるのだから、触られても問題ないと考えたに違いない。
だが、それは思春期の男という生き物をこれっぽっちも理解していない証拠だ。
胸があるべき位置に手を置かされている。
その事実だけで、俺の心拍数は法定速度を遥かにオーバーしていた。
「じゃー、外しますか!」
楽しげな掛け声とともに、有栖が塊を剥がそうとする。
だが、肌に密着しているせいか、自分一人の力ではなかなか上手くいかないようだ。
「うーん、結人くん。悪いんだけど、これ引っ張ってくれる?優しくね?」
断れるはずもなかった。
有栖の肌を傷つけないよう、俺は彼女の正面に立ち、固まった型をゆっくりと、慎重に引き剥がしていく。
ペリペリ……と、肌から離れていく独特の感触。順調に剥がれかけた、その時だった。
「ちょ、ちょちょちょ!ちょっと待って!」
有栖が悲鳴に近い声を上げた。
何事かと覗き込んだ瞬間、俺の思考は真っ白に染まった。
ペーストの一部がビキニの布地に食い込んで固まっており、型と一緒に水着まで持っていこうとしていたのだ。
そして――露わになったのは、透き通るような肌の先に鎮座する、鮮やかなピンク色の先端。
まずいと本能が警鐘を鳴らし、俺は慌てて視線を逸らした。
「結人くん、目をつぶったまま引っ張って!早く!」
言われるがままに目を閉じ、手探りで残りの型を外す。
ベリッ、という手応えとともに型が外れた感触がした。
「絶対、こっち見ないでよ!」
暗闇の中、俺は型を持ったまま立ち尽くしていた。
瞼の裏には、さっき一瞬だけ視界に焼きついたあのピンク色の残像が、今もゆらゆらと揺れているようだ。
どれくらいの時間が経っただろうか。
「……もういいよ。」
恐る恐る目を開けると、有栖はすでにシャツを着ていた。
だが、俺の手元にある型には、無惨にも彼女のビキニがくっついたまま。
そして、目の前の彼女の胸元に目を向けると、薄いシャツの膨らみの先に、小さな突起が浮き出ているような気がした。
(もしかして……ノーブラなのか……?)
すると、頬を膨らませ、両腕で胸を隠しながら有栖が抗議する。
「もう!結人くん、おっぱい好きすぎじゃない?」
男はみんなおっぱいが好きなんだ。
……そんな当たり前の事実を口に出す余裕すら、今の俺には残っていなかった。
手元に残された「塊」を確認してみると、やはり石膏状のペーストは無情にもビキニを深々とくわえ込んでいた。
そっと引き剥がそうと試みたが、そこに残ったのは、本来の美しさとは程遠い、歪で無惨な「型」の成れの果てだった。
「うーん、やっぱり水着をつけたままじゃダメなのかなぁ……」
有栖の声には、明らかな落胆が混じっていた。
だが、俺はそれ以上何も言えなかった。理想的な型を取るためには、布地という障害物を排除し、肌から直接形を写し取るしかない。
それはつまり、彼女が完全に裸になることを意味していた。
さすがに、そこまで踏み込むことはできない。
大切な幼なじみを、これ以上辱めるわけにはいかなかった。
「……やっぱり難しいんだな。おっぱいプリンは諦めて、別のメニューを考えようぜ。」
努めて明るいトーンでそう言った。
だが、有栖の瞳に宿る光は、まだ死んではいなかった。
「ううん、ありがとう。でも、まだやれることがあるなら、私は最後までやりたい。」
そう言うと、彼女は俺の手をぎゅっと握りしめた。
「結人くんも、最後まで協力してくれるよね?」
じっと見つめてくるその真っ直ぐな瞳。
そこに「NO」を突きつけられる男など、この世にいるはずがない。
なぜ彼女は、これほどまでに俺を信頼してくれるのだろうか。その理由は分からないが、彼女が望むなら行けるところまで行こう。
そんな、覚悟を決めた気持ちになった。
結局、二人の話し合いは「水着を使わずに型を取る」という結論に至った。
「でもさ……水着をつけないってことは、その、俺に見えちゃうんだぞ?」
当然の懸念を口にする。
すると有栖は、顎に指を当てて少し考える素振りを見せてから、あっけらかんと答えた。
「結人くんならいいかな。昔は一緒にお風呂にも入ってたしね。」
それは、記憶の彼方にある幼少期の話だろう。
あれから一体何年が経ち、お互いの身体がどれほど変わってしまったのか、彼女は分かっているのだろうか。
だが、当の本人がいいと言い張る以上、俺に断る理由など万に一つもなかった。
期待と凄まじい緊張感が入り混じる中、型取りの第二ラウンドが幕を開けようとしていた。
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