最近少しお腹が出てきてしまっている気がする。
気のせいだと思いたいが、座っているときにお腹が自己主張している。
「運動しなきゃなぁ……」
そう思ったが、こと運動に関しては呆れるほど意志が弱い。
ランニング用に服や靴を一式揃えたが、文字通り三日坊主でやめてしまった。
誰かにある程度強制してもらわないと絶対に続かないことは、自分が一番よく知っていた。
運動しないとなとは思いつつも、今日もまたネットの海に潜る。
すると、一つの広告が目に留まった。
パーソナルジム。
確か、個別で指導してくれるやつだったはずだ。
気になってさっそくサイトを覗いてみる。
しかし、料金表のページを開いた瞬間、目を剥いた。
画面に並ぶ数字は、予想を遥かに超えるなかなかの高額。
「うわ、高っ……!さすがにここまでは出せないわ……」
一瞬で現実を突きつけられ、早々にページを閉じようとした。
――が、その時、画面の隅にある文字が視界に入る。
『今だけ!一日体験入会キャンペーン実施中』
どうやら、お試しなら格安で受けられるらしい。
画面の向こうでは、バキバキにキレたマッチョなお兄さんが眩しい笑顔でポーズを決めている。
別にここまでゴリゴリになりたいわけじゃないけれど、パーソナルという未知の世界には興味があった。
「先着残りわずか」の文字に背中を押され、これなら、と思い切って申し込みフォームを入力し、送信ボタンを押した。
画面に「予約申請完了」の文字が表示される。
まだ何もやっていないはずなのに、妙な達成感が湧いてきた。
「よし!ラーメンでも食べに行こ!」
確か、こういうジムは本格的に始まると厳しい食事制限がつきもののはずだ。
ならば、最後の晩餐といこうじゃないか。
翌日、ジムからメールが届いていた。
どうやら無事に体験入会の枠が確保できたらしい。
決戦は、今週の土曜日。
わくわくとドキドキを胸に、その日までの日々を過ごした。
ついに、当日が来てしまった。
持ち物は、動きやすい服装と水分。そして清潔なタオル。
それらをリュックに詰め込み、指定された場所へと向かった。
しかし、到着した場所は想像していたようなガラス張りのきらびやかな総合ジムではなく、どこか年季の入った雑居ビルだった。
「……ここ、だよな?」
恐る恐る階段で3階まで上り、指定された部屋のチャイムを鳴らす。
間を置かず、ガチャリと扉が開いた。
そこに立っていたのは、はち切れんばかりの筋肉をまとったマッチョな男性だった。
「ようこそ『MIRAGE FIT』へ!さあ、こちらへどうぞ!」
満面の笑みで温かく迎え入れられ、心底ホッとした。
ゴリゴリのコワモテな人が出てきたらどうしようかと、内心ヒヤヒヤしていたのだ。
「今日は暑かったですよね?まずはお茶をどうぞ。」
出されたのは、カランと涼しげな音を立てる氷入りの冷たいお茶だった。
ありがたく喉を潤す。
「本日は体験入会ですね。ぜひ本会員になっていただけるよう、スタッフ一同全力でサポートさせていただきます!」
少々暑苦しいほどの熱量だが、運動へのモチベーションが地を這っている今の自分には、これくらい強引なテンションがちょうどいいのかもしれない。
そのまま、まずはシステムの説明を受けた。
やはり提示された金額は高い。けれど、決して払えない額ではない。
なにより、受付の男性の感じが良く、「ここなら頑張れるかもな」と思わせる絶妙な空気感がそこにはあった。
一通り説明が終わると、男性が何枚かの写真を手元に並べた。
写っているのは、どれもバキバキの肉体で自信満々の表情を浮かべる、選りすぐりのマッチョたちだ。
「こちらが当ジムに在籍するトレーナー陣です。本日は、この中から一人がお客様の専属トレーナーとなります。」
なるほど。
やはり体の仕組みを知り尽くしたマッチョに教わるのが一番手っ取り早いし、理にかなっているのだろう。
ただ、写真の面々があまりにも仕上がりすぎていて、ふと気になったことを口にした。
「あの……、ここまでマッチョになる気はないのですが……」
引き気味にそう告げた瞬間、男性の目がギラリと光った気がした。
「ご安心ください!そう簡単にここまで鍛え上げることはできません!まずは、いわゆる『細マッチョ』を目標に進めていきましょう。もし途中でさらに上を目指したくなったら、その時にゴリマッチョの道へ進めばいいのです!」
……確かに、その通りだ。彼らだって、並々ならぬ努力の積み重ねでその体型を手に入れているのだ。
素人がちょっとやそっとスクワットをしたところで、こうなれるわけがない。
己の不遜な勘違いが恥ずかしくなった。
「すいません、なんだか変なことを言ってしまいました……」
俺が頭を下げると、男性はおむろにシャツのボタンを外して脱ぎ捨て、目の前で思いっきりサイドチェストのポーズを決めた。
「いえ、謝らないでください!多くの初心者様が『体が大きくなりすぎたらどうしよう』と、始める前に立ち止まってしまうのです!ですが!当ジムはお客様一人ひとりのニーズに、完全にお応えしたいと考えております!」
やっぱり、めちゃくちゃ暑苦しい。
けれど、その真っ直ぐすぎる眼差しに、不思議と「この人は信頼できる」という確信が湧いてくる。
そしてなにより、目の前で見せられた筋肉に魅せられていた。
「では、さっそく『筋肉体験』を開始しましょう。本日担当するインストラクターですが、こちらで指定させていただいてもよろしいですか?」
男性が白い歯をキラリと光らせてにっこり笑う。
こちらとしては右も左もわからないド素人だ。
お任せできるなら、その方が圧倒的にありがたい。
「はい、よろしくお願いします。」
「かしこまりました。では、こちらを。」
手渡されたのは、一つの鍵だった。
キーホルダーには『305』と刻印されている。
「当ジムはこのフロアを丸ごと借り切っておりまして、各部屋にそれぞれ独立したトレーナーが待機しております。お客様の現状のレベルには、305号室のトレーナーが最適だと判断いたしました。」
なるほど、完全個室制というわけか。
扉を開けてみるまで、どんなトレーナーが待っているのかはわからない。
緊張と、それを上回るほどの大きな期待感。
手の中の鍵をギュッと握りしめ、305号室へと歩き出した。
マッチョな受付男性に威勢よく見送られ、俺はロビーを後にした。
303号室を出ると、タイミングよく隣の部屋の扉が開いた。
中から出てきたのは、俺と似たような少しお腹の出た体型の男性。
そして、それに付き添うこれまた見事なマッチョだ。
(なるほど、彼も俺と同じように頑張っている仲間なんだな)
自分と似た境遇の存在に勝手な親近感を覚え、モチベーションがふつふつと湧いてくる。
すれ違いざま、トレーナーらしきマッチョと目が合うと、彼はニカッと眩しい笑顔を向けてくれた。
(ここの人たち、みんなホワイトニングしてるのかな……)
そんな些細な疑問を抱きつつ、軽く会釈をしてその部屋の前を通り過ぎる。
今の部屋が304だから、隣か。
305と書かれている重厚なドアの前に立ち、手渡された鍵を差し込む。
ふーっ、と深く一息吐いてから、ゆっくりと鍵を回した。
カチャリ、という硬質な音が響く。
なんだか、自分の意志で新しい世界の扉をこじ開けたような、妙な高揚感と緊張感が胸を支配していた。
意を決して、ゆっくりと扉を押し開ける。
「こんにちは!待ってたよ!」
弾けるような明るい声に迎えられた。
しかし、視界に飛び込んできたのは、予想していた「バキバキのお兄さん」ではなかった。
そこに立っていたのは、すっきりとジャージを着こなした一人の女性だった。
(え……?あの写真の中に、女性のトレーナーなんていたっけ?)
そもそも、ぱっと見はそこまで筋肉隆々というわけでもない。
完全に想定外の事態に思考がフリーズし、ドアノブを握ったまま、ただただ面食らって立ち尽くしてしまった。
すると、彼女は俺の様子を見て、悪戯っぽく口元を緩めた。
「おやおや?挨拶をされても返さないタイプの人かな?」
からかうような、けれどどこか圧のあるその言葉で、俺はどうにか現実へと引き戻された。
「あ、あぁ……すいません。こんにちは……」
「うーん、元気がないなぁ!挨拶は腹から声を出す!」
腰に手を当て、ビシッと指を差してくる。
その迷いのない堂々とした態度に察した。
なるほど、見た目はしなやかな女性でも、その根底に流れているのはあの受付の男性と同じ、紛れもない「マッチョイズム」なのだと。
「こ、こんにちはっ!」
圧倒されながらも、慌ててお腹に力を入れて声を張り上げた。
「よし!」彼女は満足そうに満面の笑みを浮かべる。
最初の一歩から、完全にすべてのペースを握られてしまっている。
けれど、不思議と嫌な気はしなかった。
むしろ、その強引なまでの快活さが、今の自分にはどこか心地よくすら感じられたのだ。
「では、まず最初にお兄さんの体を詳しく調べましょう。そちらの部屋で動きやすい服に着替えてくださいね。一応、有料ですけどレンタルもできますよ?」
にこやかに促され、俺は隣の更衣室へと誘導された。
室内には大きな姿見と、荷物用のかごがぽつんと置かれている。
リュックを下ろし、身につけていた服を脱ぐ。
そして、改めて鏡の前に立って自分の姿を直視した。
「……やっぱり、お腹出てるなぁ……」
ぽっこりと突き出た、締まりのない下腹部。
客観的に見る自分の体型は、想像以上にだらしなかった。
この体験入会が良いきっかけになればいい、という前向きな気持ち。
その一方で、あの小柄な女性トレーナーで本当に効果があるのだろうかという、一抹の不安が胸の中でせめぎ合っていた。
持参したTシャツとハーフパンツに着替え、タオルとペットボトルの水を手に、彼女の待つトレーニングルームへと戻る。
「お待たせし、ま――」
声をかけようとして、言葉が喉に詰まった。
彼女はちょうど、上に羽織っていたジャージを脱いだところだった。
その下から現れたのは、背中が大きく開いたトレーニングウェア。
その背中に、目を奪われてしまった。
そこには無駄な脂肪など一切なく、しなやかに、かつ強固に鍛え上げられた美しい筋肉のラインが刻まれていたのだ。
相手は女性。
しかし、その圧倒的な肉体美を前にして、本能的に「自分の目指すべき理想はこれかもしれない」と圧倒されていた。
気配に気づいた彼女が、満面の笑顔で振り返る。
「あ、着替え終わりましたね!では、まずは身長、体重、体脂肪率を測っていきましょう!」
体重はともかく、身長も?怪訝に思いながら部屋の隅を見渡すと、そこには昔の保健室に置いてあったようなアナログな身長計が佇んでいた。
デジタル全盛のこの時代に、目盛りを直接読み取るタイプの少々レトロな代物だ。
「ふふ、古くて驚いたでしょ?でも、身長を測るならこれで十分なんだよ。」
彼女はそう言いながら、愛おしそうに身長計の柱をなでる。
もしかすると、彼女はこういうアナログな器具に愛着を持つタイプなのかもしれない。
促されるまま台に乗り、ガチャンと頭の上にバーが乗せられる。
当然だが、測定結果は自分の記憶にある身長と差異はなかった。
「お次は体重だよ。私は計るの好きなのに、みんな嫌がるんだよね。不思議。」
……そりゃあそうだ、と心の中で毒づく。
みんな現実から目を背けているからこそ、こんなだらしない体型になったんだ。
今の自分にとって、体重計の数値ほど見たくないものはない。
そして、俺の目の前に現れたのは、先ほどの身長計とは打って変わって、いかにも最新鋭といった佇まいのデジタル体重計だった。
「デジタルもかわいいよねぇ。」
これまた嬉しそうに機械をなでる彼女を見ていると、どうやら彼女は「筋肉を育てるための道具」なら、新旧問わず全般的に愛しているマニアなのだろう。
「ちなみにこれ、体組成計って言うんだよ。キミが隠したい秘密、ぜーんぶ暴いちゃうからね?」
クックック、と悪戯っぽく楽しそうに笑う彼女。
いやだなぁ……と思いながら、覚悟を決めて体組成計に足を乗せた。
「じゃあ、両手でこの金属のグリップを握ってね。」
言われた通りにバーを握ると、数秒の間をおいてピピッと短い電子音が鳴る。
数秒もしないうちに、体重や体脂肪率、筋肉量らしき数字が画面に並んだ。
彼女が画面を覗き込み、ふむ、と顎に手をあてる。
「筋肉量は結構あるね。……でも、やっぱり体脂肪がね。」
そこに表示されていた体脂肪率は、驚愕の『26%』。
さらに体重は、最後に計った記憶よりも10キロ以上も増加していた。
「えっとね、これは軽い肥満だね。」
追い打ちをかけるような宣告。それだけでは終わらなかった。
彼女はおむろにメジャーを取り出すと、お腹にくるりと巻きつけた。
「……うん。メタボ予備軍だね。」
聞きたくない現実のワードが、次から次へと容赦なく鼓膜を突き刺す。
もうメンタルはボロボロだった。
そんな俺の手を、彼女の両手がギュッと包み込んだ。
「大丈夫、心配しないで!私と一緒に細マッチョめざそ?」
上目遣いで、キラキラとした瞳が俺を真っ直ぐに見つめていた。
健康的に切り揃えられたショートカットに、吸い込まれそうな大きな目。
――困ったことに、彼女のビジュアルはあまりにもドストライクだった。
「あのね、最初に言っておくけど、細マッチョとゴリマッチョってアプローチの方向性が全然違うのね。細マッチョを目指すならまずは脂肪を落としたい。逆にゴリマッチョなら、むしろ体重の増加も視野に入れたいわけ。」
確かに、体をバルクアップさせるなら、むしろ食べなきゃいけないと聞いたことがある。
ド素人の自分にもわかりやすい説明に、自然と納得がいった。
「でもね、最初に細マッチョを目指して、筋トレの正しいフォームや体の使い方をしっかり覚えてから、あとでゴリマッチョへと方向転換するのは全然アリだから。焦らなくて大丈夫だよ!」
まずは筋肉をつける云々の前に、運動するための正しい「体の土台」を作るべきなのだろう。
彼女の的確なナビゲートに、不安は徐々に消え去っていった。
座学が終わると、今度は姿勢のチェックが入った。
「ちょっと失礼するねー。」
と言いながら、彼女は肩や腰、背中へと躊躇なく手を伸ばしてくる。
結構ペタペタと遠慮なく体に触れてくるタイプらしく、至近距離でのボディタッチに、心臓の鼓動が聞こえないか心配してしまった。
「んー、やっぱり全体的に体がちょっと歪んでるね。よし、まずはストレッチから行こっか!」
そう言って、彼女に誘導されたのはストレッチゾーンだった。
壁一面に大きな鏡が張られており、床には厚手のマットが敷き詰められている。
「じゃあ、私と一緒に長座前屈しよっか」
長座前屈?と思う間もなく、彼女はマットの上にすとんと腰を下ろし、両足を前に伸ばした。
そこから、まるで折りたたみ携帯かというくらい、上半身を太ももへとペタッと綺麗に折り曲げてみせた。
無駄のないしなやかな肢体が描くその柔軟性に、素直に驚いた。
「じゃあ、お兄さんもやってみて。」
言われるがまま、俺も同じように足を伸ばして座り、上体を前に倒してみる。
――が、指先はつま先に届くどころか、スネのあたりで完全にストップしてしまった。
「うわぁ……体、カッチカチだねぇ!」
呆れられたか――と一瞬肩を落とした。
しかし、鏡越しに見えた彼女の顔は、落胆するどころか、むしろ爛々とした喜びに満ち溢れていた。
その表情はさながら、「新しいモルモット」を手に入れた科学者のようだった。
「ふふ、やりがいあるなぁ!ちょっと後ろから押してみるね。痛かったらすぐ言って?」
「あ、はい、お願いします。」
答えを聞くやいなや、彼女が背後に回り込んだ。
てっきり、両手でグイグイと背中を押されるものとばかり思っていた。
しかし、次の瞬間、背中に加わったのは想像とは全く違う「質量」だった。
彼女は、自分の上半身の体重をすべて俺に預けるように、後ろからギュッと密着して押し込んできたのだ。
「っ……!?」
背中に、もの凄く柔らかくて、弾力のある温かな感触がダイレクトに押しつけられる。
細身のトレーニングウェア越しでもはっきりとわかる――彼女は、なかなかのモノをお持ちのようだった。
背後から容赦なく迫る凶悪な柔らかさと、鼻腔をくすぐる女性特有の甘く良い匂い。
限界を迎えた自分の体は、ストレッチの効果で柔らかくなるどころか、逆に元々は柔らかかったはずの「別の部分」が、カチカチに硬くなってしまっていた。
はっきり言って、これは大ピンチどころの騒ぎではない。
彼女はプロとして真摯にレッスンをしているだけで、決していやらしい意図があるわけではない。100%、自分の体の反応だけが落ち度だった。
だが言い訳を許してもらえるなら、ろくに女性経験のない男に対して、あの距離での密着はあまりにも酷すぎる。
「はーい、じゃあ次は仰向けになろっか!股関節の可動域をチェックするよー」
仰向けになる……?
それは、本当に、絶対にマズい。
もし今その姿勢になってしまったら、限界までカチカチに硬くなってしまったモノが、ハーフパンツの薄い生地を突き破らんばかりに露わになってしまう。
「あの、ちょっと……」
俺が躊躇していると、彼女は「どうしたの?」と俺の肩を後ろからグイッと引っ張った。
不意を突かれた俺はバランスを崩し、そのまま勢いよく後ろへと倒れ込んでしまった。
視界がぐわんと回り、気づけば仰向けの体勢になっていた。
目の前には、彼女の驚いたような顔、そしてさっきまで背中に押し当てられていた豊かな胸が、至近距離で迫っている。
「どうしたの?ストレッチ、続けるよ?」
彼女は不思議そうに小首を傾げると、そのままスッと俺の足元の方へと回り込んだ。
そして、俺の右足を持ち上げると、膝を曲げた状態でぐいっと俺の胸の方へと押し込んできた。
「つ、痛っ……!」
太ももの裏側に、ピリピリとした激しい痛みが走る。
だが、今の俺にとってその痛みなど、意識の数パーセントに過ぎなかった。
それ以上に、ハーフパンツの中で天を衝くようにそそり立っているそれが、彼女の視界に入ってしまわないか、生きた心地がしなかった。
「痛い?大丈夫?」
「あ、はい……大丈夫、です……っ」
彼女はぐいぐいと体重をかけ、俺の足を押し込んでくる。
その拍子に、またしても彼女の胸が、俺の太ももや膝にぐいぐいと押しつけられた。
痛い、そして猛烈に恥ずかしい。
けれど脳の片隅では、この至福の時間を終わらせたくないという、浅ましい本音も囁いていた。
「じゃあ、反対の足も行くねー。」
同じように、左足も容赦なく押し込まれる。
襲い来る激痛と、暴走する羞恥心。
俺の脳みそは、もうとうにキャパシティを超えて破裂寸前だった。
「うん!結構伸びるね。上出来、上出来!」
ひとしきり可動域を確かめると、彼女は満足そうに微笑みながら、俺の足を下ろした。
そして、緊張をほぐすように、俺の太もものあたりを上から手のひらでぐっと押して、逆に伸ばしてくれた。
――その、瞬間だった。
彼女の手が、一瞬だけピタッと止まった。
「あ……」
小さく漏れた声が、どういった感情なのか計りかねる。
自分の失態に、なんと言い訳すればいいのか。
頭の中で必死に言葉を探していた。
「あはは、たまに勃っちゃうお客さんもいるから大丈夫だよ。気にしないで。」
彼女は少し気まずそうに、そう言ってきた。
「私ね、こういう風に結構密着しながらレッスンするスタイルだから……。もし、そういうのが嫌だったら、他のトレーナーさんに代わることもできるよ?」
代わるなんて、とんでもない。
そんなことを言われてしまったら、代われるわけがないじゃないか。
「いえ!!大丈夫です!!よろしくお願いします!!」
少し鼻息荒く答えてしまったことを、ほんの少しだけ後悔した。
幸いなことに、あの必死すぎる鼻息は彼女の目には「筋肉への熱い情熱」と映ってくれたようだった。
「ありがとう!私と一緒に頑張ろうね!」
またしても両手をギュッと力強く握られる。
ここまできたら、もう引き下がるわけにはいかない。男を見せるしかないのだ。
幸い、下半身の暴走はどうにか落ち着きを取り戻してくれていた。
「それじゃあ、次はお兄さんの筋力と体幹のバランスを見たいから、『プランク』をやろうか。」
プランク。
うつ伏せの状態で体を直線に保つ、あの地味にきつい体幹トレーニングだ。
今の運動不足の自分に、一体どれだけ耐えられるだろうか。
「まずはうつ伏せになって、体をまっすぐ伸ばしてね。」
言われるがままにうつ伏せになり、前腕とつま先だけで体を支えて持ち上げる。
「うんうん、いいよー。じゃあ、もう少しだけお尻を上げようか。」
ほんの数センチ持ち上げただけなのに、早くも全身の筋肉がプルプルと悲鳴を上げ始めた。
これは想像以上にヤバい。
「よし、じゃあ一回下ろして。次は、私と一緒にやろっか!」
そう言うと、彼女は俺の真ん前、1メートルほど離れた位置に同じくうつ伏せになった。
至近距離に彼女の端正な顔がきて、それだけで心臓が跳ねる。
「私と勝負ね!私に勝てたら本当にすごいよ。――はい、スタート!」
勝負と言われてしまっては、引くわけにはいかない。
男のプライドにかけても、彼女より1秒でも長く耐えたい。
耐えたいのだが…。
彼女が体をぐっと持ち上げる。
それはつまり、可愛い顔の下に谷間が見えてしまうわけで……。
身軽な運動用の服が、彼女の大きなものを全力でアピールしてくれている。
もう目が離せなかった。
今自分がきつい体勢をとっていることなんて、目の前の谷間に比べたら些細なものだった。
「……あのさ、そんなにじっくり見られたら、さすがの私だって恥ずかしいよ。」
完璧なプランクを維持したまま、彼女が少し困ったような表情で呟いた。
「あ!ああ!すいませんっ……!」
我に返った拍子に、さっきまでどうにか保っていた集中力が霧散し、マットの上へぐしゃりと無様に潰れてしまった。
途端に、全身へ強烈な筋肉痛の予兆が走り抜ける。
明日は筋肉痛を覚悟しなきゃダメだな……。
彼女はといえば、全く息を切らす風でもなく、綺麗な直線を保ったままニッコリと笑った。
「私の勝ちだね!いやいや、でもお兄さんも初めてにしては頑張ったと思うよ」
改めて見てみると、ピシッと真っ直ぐに完璧なプランクを決めていた。
やはり秘めたる筋肉は彼女の方が圧倒的に上なのだろう。
少し、彼女に勝ちたいという欲求が出てきていた。
お互いに汗を拭き、軽く水分を補給する。
「トレーニング中の水分補給は本当に大事だからね!」と、彼女から口酸っぱく言われた。
「ストレッチと体幹チェックはこれくらいにして、少しマシンも使ってみようか!」
彼女に連れられ、ストレッチゾーンからマシンが並ぶエリアへと進む。
「本当なら最初と最後に有酸素運動を入れるんだけど、今日は体験だからナシね。」
部屋の隅に置かれた2台のスピンバイクに目が留まる。
本入会したら、これに2人並んで走ったりするのだろうか。
そんな甘い妄想が頭をよぎるが、もちろん今日はお預けだ。
「お兄さん、この中で使ったことあるマシンはある?」
ネットの筋トレ動画などで見たことはあるが、触ったことすらない。
「いや……ジム自体が、完全に初めてなので……」
自分の運動経験のなさに、少しだけ情けなさを感じてしまう。
だが、彼女の反応は俺の予想とは真逆だった。
「本当に!?……じゃあ、私色に染められるチャンスってことかな?」
一瞬、なんだか少し不穏なワードが聞こえた気がした。
「ああ、ごめんね。中途半端にやったことある人だと、結構間違ったフォームでやってたりするのよ。いっそ、無垢な方が調教しがいがあるわ。」
やっぱり、めちゃくちゃ不穏だった。
少しジトッとした目で見ている俺を尻目に、彼女は一つの機械を準備する。
「まずは『レッグプレス』で行ってみようか!」
パンパン、と彼女が座面を叩く。
足を乗せて重りを押し出すマシンだ。
ちょっとやってみたかった種目でもあり、俺は少しテンションを戻してシートに深く腰掛けた。
「位置を合わせるからちょっと待ってねー。」
彼女はテキパキと椅子の位置や角度を調整し、何やら手元のタブレットにメモをとり始めた。
「もしお兄さんが入会してくれた時のためね。お兄さんの情報は、全部私がもらうわ。」
キシシ、と小悪魔のように悪戯っぽく笑う。
その表情も、猛烈に可愛く見えていた。
「まずはこの重さから行ってみようか。足はピンと伸ばしきらないようにね。膝が反対側に曲がっちゃうらしいよ。」
さらりと恐ろしい脅し文句を口にされ、恐る恐るフットプレートを押し上げた。
だが、最初に設定された重りは、予想よりも遥かに軽かった。
「やっぱりお兄さん、基礎的な筋力は結構あるね。これは筋肉の才能あるかも!」
おそらくお世辞なのだろう。
だが、そのお世辞すら、今の自分には嬉しかった。
そこから、彼女は少しずつ重りを足していき、限界ギリギリの重量に設定された。
「じゃあ、この重さで10回やってみよう。勢いをつけずに、ゆーっくりね!」
筋肉を効率よく刺激するには、ゆっくり動かすのが鉄則らしい。
足に思い切り力を込め、ゆっくりとプレートを押し上げる。
1回、2回……。
ギリギリの重量なだけあって、回数を重ねるごとに太ももが爆発しそうに熱くなっていく。
これが乳酸が溜まるというヤツなのだろうか。
「ほらほら!途中で休んじゃダメだよ!」
彼女は俺の斜め前方から、フォームと足の動きをじっくりとのぞき込むようにして檄を飛ばしてくる。その声に応えようと、必死に足を伸ばした。
――その時、気づいてしまった。
のぞき込むために少し前傾姿勢になっている。
つまり、豊かな谷間がはっきりと露出してしまっている。
もう、目は釘付けになってしまった。
「……9、10!はい、お疲れ様!よく頑張ったね!」
彼女の終了の合図が響く。
だが、俺の足は止まらなかった。
そのまま、11回、12回――と、勝手に回数を重ねていく。
もはや、限界を迎えつつある足の痛みなどどうでもよかった。
もう、目に映る谷間のことしか考えていなかった。
「ちょ、ちょちょっと!無理はダメだってば!」
慌てた彼女が、俺の太ももをペシペシと叩いた。
その肌への感触で、ハッと我に返った。
と同時に、限界をとうに超えていた両足の激痛が一気に襲いかかってくる。
勢いよく足を離さないという注意を思い出し、プルプルと生まれたての子鹿のように激しく震える足で、どうにかゆっくりと重りを元に戻した。
「もう!私の指示はちゃんと聞いてよね!」
案の定、普通に怒られてしまった。
怪我に直結するから、当然の怒りだ。
「限界を超えてやってもらう時もあるけど、私の指示は聞いてね?」
(超えることもあるのか……)という恐怖を感じつつも、小さく頷いた。
「すごく集中してたみたいだけど……もしかして、筋トレ好きになってくれた?」
さっきの怒り顔から一転、嬉しそうに目を輝かせて聞いてくる。
そのまぶしい笑顔に、自分のよこしまな心が浄化されていくようだった。
(まさか、おっぱいを見てましたなんて言えるわけがない……)
気まずさのあまり、つい視線が胸に落ちてしまった。
「……もしかして、おっぱい見てた?」
笑顔が消え、ジトッとした視線が突き刺さる。
これはまずい……。
「……すいません、釘付けでした……」
さすがに彼女に嫌われたかと、少し落胆してしまう。
だが、彼女の口から出たのは、思いもよらない言葉だった。
「まあ、私のおっぱいで集中できるなら、それでもいいか。でも、絶対に私の言うことは聞いてね。」
なんか、許してもらえたようだ。
その寛容さに、ますます惹かれていく自分がいた。
もう、入会の意思は完全に固まっていた。
……条件はただ一つ、目の前の彼女を「専属トレーナー」として指名できるのであれば、だが。
そんなやりとりをしていると、彼女のスマホのアラームが鳴り響いた。
「あ、いけない!もう時間になっちゃった。」
時計を見れば、かれこれ1時間近くが経過していた。
「今日は最初に説明とか身体測定があったから、時間食っちゃったね。本会員になってくれたら、次回からはもっとみっちり、しっかり指導できるからね?」
悪戯っぽく微笑む彼女。
もう1ミリの迷いもなく決まっていた。
「よし、最後に写真撮ろっか。鍛える前と鍛えた後で、比較出来ると楽しいよ。」
彼女はそう言いながら、大きな鏡のあるストレッチゾーンへと移動した。
「カメラ取ってくるから服脱いでね。裸の方がよくわかるからね。」
「え?裸?」
「うん、みんな裸で撮ってるよ。もちろん、私とお兄さんしか見られないようにするから恥ずかしがらないでね。」
言い残して、彼女は別の部屋へと移動していった。
「裸って……」
俺は戸惑いながらも、とりあえず上のTシャツを脱いだ。
やはり下も脱ぐのだろうか……。
「裸」と言っていたし、みんなそうしているなら、ここで脱いでいないと逆に彼女から何か言われてしまうのかもしれない。
……仕方ない、覚悟を決めよう。
自分を奮い立たせるように、鏡の前でハーフパンツと一緒に下のパンツに指をかける。
そして、「よし!」と気合いを入れつつ一気に下ろした。
鏡の前に、小さくて皮の被っているそれが現れる。
ただでさえだらしないお腹なのに、この情けない部分まで彼女に見せるのかと思うと、あまりにも惨めだった。
その時、彼女がカメラを持って戻ってきた。
「服脱いでくれたー?……って!なんでおちんちん出してるの!?」
部屋に入ってきた彼女は、目を見開いて完全に固まっていた。
「え?え?だって裸って言ったから……」
俺の答えを聞いた瞬間、彼女は崩れるように笑い出した。
「あはは!ごめんごめん、私の言い方が悪かったね。シャツだけ脱いでくれたら良かったんだよ!」
……やっぱりそうだったのか。
あまりの恥ずかしさに頭が真っ白になり、前を隠すのすら忘れて俺は唖然と立ち尽くしていた。
「ふふ、お兄さんのかわいいおちんちん見ちゃった。」
彼女は楽しそうにクスクス笑いながら、不意にカメラを向けて一枚写真を撮った。
「ちょちょちょ!写真はダメでしょ!?」
慌てて手で前を隠したが、時既に遅し。
「お兄さんが写真撮られるために出していたんでしょ?」
彼女はいたずらっぽく笑いながら、俺の目の前まで歩み寄ってきた。
そして、前を隠している俺の両手をそっと優しく外した。
「お兄さんのおちんちん小さいけど、上手くダイエット成功したらもうちょっと大きく見えるよ?」
至近距離でパシャリとまた一枚撮られる。
やっぱり、彼女から見ても小さいのか……と、俺は少し肩を落としてしまった。
しかし、そんなご主人様の落ち込みを余所に、俺の股間はぐんぐんと熱を帯び、大きくなっていってしまった。
可愛い女性に間近で見つめられるだけで、ここまで興奮するなんて知らなかった。
「あはは、ダイエットする前に大きくなっちゃったね。」
彼女は面白がるように、パシャパシャと何度もシャッターを切り続ける。
入会前だというのに、なんだかとんでもない個人情報を握られてしまった気がした。
「よし、じゃあ全身撮っちゃおうか。鏡の前に立ってね。」
彼女はそう言いながらカメラを構えた。
……もう、今さら隠したところですべては見られてしまっている。
俺は半ば開き直り、撮影してもらう覚悟を決めた。
治まる気配もなく猛り狂っているそれを、むしろ見せつけるようにして、鏡の前で真っ直ぐに直立した。
彼女は楽しそうにパシャパシャとシャッターを切る。
だが、ファインダーを覗く彼女の顔が、ふと少しだけ曇った。
「うーん……お兄さんのそれ皮被ってるけど、剥ける?」
なんともストレートで容赦のない質問だった。
「絶対、剥けた方がかっこいいと思うんだよね。」
可愛い顔をして淡々と言い放つその言葉に、俺の男としてのプライドが少し躍起になった。
「剥けますよ!」
そう言いながら、俺は右手ですっと包皮を剥き上げた。
つるんと表に顔を出す亀頭。
「うんうん!大きくなっている時はそっちの方が断然かっこいいよ!」
彼女の弾んだ声とともに、またしてもパシャパシャと小気味よい撮影音が響く。
俺の興奮は、もうとっくに最高潮を迎えようとしていた。
「じゃあ、右手離して、両腕でグッとポーズ取ろうか!」
彼女が目の前で、筋肉を見せつけるようなダブルバイセップスのポーズを取ってみせる。
まだ何一つ鍛えられていない貧相な裸体でそんなポーズを取るなんて恥ずかしさの極みだったが、今の俺に拒否権はなかった。
両腕を上げ、力を込めてグッとポーズを取る。
「いいねいいね!将来性しかないよ!」
カメラがまた何回も音を響かせる。
だが、俺からしたらもう気が気ではなかった。
頼むから早く撮影を終わらせてくれ。じゃないと、これ以上は本当に……。
「あ。」
不意に、彼女の口から小さく声が漏れた。
右手という支えをなくした包皮は、勃起しているにもかかわらずくるっと亀頭を隠してしまった。
「…………っ!」
これはもう、恥ずかしさの極致だった。
「ふふ、お兄さん大人なのに、自分で剥かないと包茎に戻っちゃうんだね。」
クスクスと笑う彼女の声を浴びながら、俺はダブルバイセップスのポーズを取ったまま、羞恥のあまり指一本動かすことが出来なくなっていた。
「じゃあ、お尻も撮っておこうか。後ろ向いてね。」
その声にハッと意識を取り戻し、俺は慌てて後ろを向いた。
鏡に映ったのは、包皮を被ったまま怒張しているそれだった。
「お尻もかわいいね。頑張ってかっこいいお尻にしよっか!」
かっこいいお尻というのが具体的にどういうものかは分からなかったが、とにかく頑張ろうと心の中で固く決意していた。
カメラの画面で撮った写真を確認していた彼女が、また少し困ったような顔をして首を傾げた。
「うーん……やっぱり、勃起した姿をジムの資料として残すのは、コンプライアンス的に問題ある気がするなぁ。」
そりゃそうだろ、と心の中で激しく突っ込む。
そんなの撮影する前から分かっていただろうに。
「これは個人的に楽しむとして……やっぱり、普通の資料には小さい状態の写真の方が良いよね。」
ブツブツと、またしても聞き捨てならない不穏なことを呟いている。
個人的に楽しむって、一体どういう意味だ……。
「うん!お兄さん、これ小さくしてくれる?」
満面の笑顔で、とんでもない要求を突きつけてきた。
今更ながら、この子はかなり頭のネジが飛んでいるのかもしれない。
小さくしろって、つまり……ここで「抜け」ってことだよな?
いや、ダメだろ。ここはパーソナルジムで、風俗店じゃない。
(いや、でも……これはチャンスなのか……?)
よこしまな期待が頭をよぎるが、辛うじて残っていた理性がそれを必死に抑えつける。
……いつもこうやって一歩踏み出せない度胸のなさが、俺のダメなところなんだろう。
「もちろん、私が触るのは色々と問題あるからさ。お兄さんが自分でやってね?――私、ちゃんと見てるから。」
正直な話をすると、一度トイレに駆け込んで、自力でどうにか萎えさせてから戻ってこようと考えていた。
だが、この子は事もあろうに「見てるから」と言い出した。
あまりの非現実的なシチュエーションに、頭がクラクラとしてくる。
だが、持ち主の戸惑いを余所に、股間のそれは萎えるどころか、さらなる展開を期待するように先端からトロンとよだれを垂らしていた。
「えっと、マットを汚されちゃうと後のお掃除が困るから……私がちゃんと受け止めてあげるね。」
彼女は部屋の隅から持ってきたトイレットペーパーを、手慣れた様子で手のひらにクルクルと巻きつけていく。
白いペーパーを纏った彼女の手。
どうやら、受け止める準備は万端のようだった。
可愛い女性トレーナーの目の前で、下半身を丸出しにしたまま自慰を強要される。
もう、どこにも逃げ道はなかった……。
彼女は両手にトイレットペーパーを厳重に巻きつけ、「いつでも来い!」と言いたげな顔で待機している。
もう、こうなったら完全に開き直ってやってやるしかない。
覚悟を決めた俺は、そっと右手でそれを握り、ゆっくりと上下に動かし始めた。
あらかじめ先端から溢れていた潤滑液が、亀頭と包皮の間にじっとりと馴染んでいく。
「んふ。」
その時、目の前から小さく鼻で笑う声が漏れた。
ビクッとして彼女の顔を見ると、彼女は口元を手で押さえ、必死に笑いを噛み殺していた。
「あ、ごめんごめん!……皮の中から亀頭がヒョコヒョコ出たり入ったりしてるのが、なんか可愛くてさ。」
笑いを堪えるあまり目元を緩ませた、とびきりの笑顔でこちらを見上げてくる。
その無防備で、どこかサディスティックな表情を見た瞬間、背筋にぞくりとした甘美な衝撃が走った。
もう、手は止まらなかった。
羞恥心は一瞬で極上の快感へと姿を変え、彼女の目の前で果てるために、右手が狂ったような速度で動き出す。
「おおおお、速いね!おちんちん大丈夫!?壊れちゃわない!?」
そんな無邪気で容赦のない言葉さえも、今の俺には最高のスパイスだった。
脳内が真っ白に染まり、その瞬間が目の前に迫る。
「も、もう出る……っ!」
「うん、いいよ!私の手の中にいっぱい出してね!」
好奇心に瞳を輝かせる彼女に向かって、俺は今出せる全てのモノを吐き出した。
「う、くぅ……っ!!」
うめき声を上げながら、彼女の手のひらに巻かれたトイレットペーパーの壁に向かって、ビュビュッと勢いよく精液をぶちまける。
しかし、それでも右手は止まらなかった。
射精の最中であるにもかかわらず、脳が、身体が、目の前のドストライクの女の子に狂わされ、二度目の激しい射精感が一気に込み上げてきた。
「え?え?まだ続けるの!?」
一回出したら終わりだと思っていたのだろう、彼女の目が丸くなる。
だが、目の前に射精を完全に許可してくれた、自分の理想そのものの女の子がいるんだ。
ここで止まれるわけがなかった。
「もう一度、出ます……っ!!」
「お、おお……っ!どうぞ、出してください!」
明らかに戸惑う彼女の声に応えるように、すぐさま二度目の射精が引き起こされた。
ビュビュビュッ!と、一度出した直後だというのに、先ほどと同等か、あるいはそれ以上の質量がペーパーへと吸い込まれていく。
「うわぁ……すご……」
彼女はぽつりとそう呟きながら、大量の質量を受け止めた手元のペーパーをじっと眺めていた。
なんだか少し引かれているような気もしたが、絶頂の余韻の中にいる今の俺には、もうどうでもよかった。
人生で一番と言ってもいいくらいに気持ちよく、心の底から満足のいく射精だった。
二度も吐き出したおかげで、どうにか小さくなってくれたようだった。
「お疲れ様。」
彼女は精液にまみれたペーパーを中身がこぼれないように手際よく丸めると、ゴミ箱へポイッと捨てた。
そして、新しいペーパーをちぎると、小さくなったそれを優しく丁寧に拭いてくれた。
「いやいや、びっくり。大迫力だったねー。」
どうやら彼女も、満足してくれたらしい。
しかし、身体の熱が冷めて冷静さが戻ってくるにつれて、今自分が仕出かしたことへの急激な羞恥心がドッと押し寄せてきた。
だが、文字通りすべてを出し切った後では、もう後の祭りだった。
「よし!おちんちんも可愛くなったところで、改めて撮影しちゃおうか!」
(……やっぱり撮影はするんだな。)
今さら拒否する気力もなく、俺は言われるがまま直立不動の姿と、先ほどのダブルバイセップスのポーズを取った情けない姿を、今度もまたデジタルカメラに収められた。
撮影した写真を液晶画面で確認していた彼女が、ふと、また何気なく呟いた。
「……ねぇ。これさ、そもそもおちんちんが出ていちゃダメじゃない?」
なにを今更…と口に出しかけてやめた。
わかっていて出していたのか?と思われたくなかったから。
結局、何事もなかったかのようにハーフパンツを穿き直し、これでようやく無事に撮影は終了した。
「ふー、結構時間かかっちゃったね!でも良い写真撮れたし、面白いものも見せてもらったので大満足!」
彼女は受付の男性に負けないくらいの眩しい笑顔で、そう締めくくった。
笑った時に覗く彼女の歯は、やっぱりホワイトニングでもしているのかな、と思わせるほど真っ白で、美しく輝いていた。
エピローグ
「えっと……入会、してもらえそ?」
少し上目遣いで投げかけられた、彼女の真っ直ぐな質問。
俺はもう、迷うことなく真っ直ぐに答えていた。
「はい、ぜひ入会したいです!」
その返事を聞いた瞬間、彼女の顔がパッと文字通り明るくなった。
「やったぁ!」と声を弾ませ、俺の両手をがっちりと握りしめてくる。
その、思っているよりも華奢な手に、また心が揺さぶられた。
「……じゃあ、担当は私で良いのかな?」
少し不安そうに、心配そうな表情を浮かべて覗き込んでくる。
だが、あの濃厚すぎる時間を過ごした後で、今さら別の人に担当が変わるなんて考えられるわけがなかった。
「はい! よろしくお願いします!」
俺が勢いよく答えると、彼女は嬉しそうに、握った俺の手をブンブンと大きく振った。
やっぱり、めちゃくちゃ可愛い。
……その手の動きに合わせて、彼女の豊かな胸が目の前でボヨンボヨンと激しく揺れていたことは内緒だ。
やがて満足したように手を離すと、彼女はポケットから一枚の名刺を差し出してきた。
「改めまして! 私の名前は鹿森ひなた。これからよろしくね!」
そう言えば、今の今までお互いに名前すら聞いていなかった。
「うちはちょっと特殊なシステムでね。パートナーとしての契約が決まって、初めてお互いの名前を交換するルールなんだよ。」
なるほど。
各部屋にそれぞれトレーナーが隔離されていた理由がようやく腑に落ちたと同時に、やっぱり一筋縄ではいかない変なジムだな、と改めて思い知らされる。
「あっと、俺は久住晴規です。これからよろしくお願いします」
差し出された名刺を受け取り、俺たちはもう一度、今度は正式なパートナーとして固く握手を交わした。
これで、俺たちの特別な契約が完遂したということなのだろう。
「それでね、これからお兄さんのこと、なんて呼ぼうか。 久住さん? 晴規さん? それとも……このまま『お兄さん』が良い?」
久住さんも晴規さんも悪くはない。
だけど、あの怒涛の羞恥レッスンを経て、今さら他人行儀に呼ばれるのも違う気がした。
何より、彼女に呼ばれるなら、あの響きが一番しっくりくる。
「……『お兄さん』で、お願いします。」
少し照れくささを隠しながら答えると、彼女はにっこりと、今日一番の眩しい笑顔を咲かせた。
「わかりました、お兄さん! ――じゃあ私のことは、ひなたちゃんって呼んでね?」
これからひなたちゃんと一緒に、新しい道へと進めることを心の底から喜びに思いつつ……俺は、自分の銀行口座の貯金残高をチラッと思い浮かべて、少しだけ現実に戻るのだった。
END
続編、「続・パーソナルジム -ひなたの嫉妬-」をFANBOX限定で公開しております。
「……これは、ちょっとお仕置きが必要ですね。」
お仕置きって……。
俺、そんなに悪いことを言ったのだろうか。
ただ客層についてほんの少し言葉を返しただけなのに。
だが、今の氷点下まで冷え切ったひなたちゃんに逆らうことだけは、絶対に得策ではない。
本能がそう告げていた。
「ハーフパンツとパンツ、両方とも脱いでください。」

こちらも男性羞恥・CFNM小説となっております。
良ければ是非に。


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