日曜日の夕方、忘れ物を取りに職場へ戻ってきた。
「……あった。こんな重要な書類、先に言ってくれればよかったのに。」
小さくぼやきながら、書類をカバンにしまい込む。ふと窓の外を見ると、空はすっかり夕焼け色に染まり、オフィスの床にも赤い光が差し込んでいた。
「……早く帰ろう。」
そう呟いたところで、ふと足が止まる。社内には誰もいない。
――このオフィスで、下半身を出したらどうなるんだろう……。
馬鹿げている。けれど、昔からそういう癖があった。誰もいない空間にいると、ふとした背徳感が心をくすぐる。
僕はそっとベルトを外し、スラックスを膝まで下ろした。人気のない職場で、下着姿になるという非日常に、背筋がぞくりとする。
だが、それだけでは終わらなかった。
入口のドアがしっかり閉まっていることを確かめると、パンツのゴムにも指をかけて、一気に下ろした。
小さな陰茎が冷たい空気に触れ、妙な安心感すら覚える。
「職場でおちんちん出すやつなんて、いるわけないよな……。」
誰もいないことに気を良くしたのか、ゆっくりとフロア内を歩き出した。
やがて、少し離れたデスクで足を止める。
「……朱里さんの席か。」
何を思ったのか、そっと身をかがめ、そのデスクにちんちんを乗せてしまった。
言いようのない満足感、そして押し寄せる罪悪感。
我に返った僕は慌てて下着とズボンを履き、足早にオフィスをあとにした。
次の日、自分のデスクの引き出しに一通の封筒が入っていた。
「就業後、屋上で待っています。」
そう書かれたメモ用紙には、丸みのある丁寧な女性の文字が並んでいた。
まさか、ラブレター?
そんな都合のいい想像が頭をよぎる。
業務中もどこか落ち着かず、何度もポケットの中の手紙を確認してしまった。
そして終業時刻。社内の人間が帰路につくなか、ひとり屋上への階段を上っていく。
まだ夕日が残る時間帯だった。ビルの屋上には誰もおらず、風だけが静かに吹いていた。
いや、いた。
そこに立っていたのは、同じ部署の朱里さんだった。
穏やかな顔立ちに、ベージュのカーディガン。
普段と変わらぬ優しげな雰囲気をまといながら、彼女はこちらを振り向いた。
「直人君?」
朱里さんは穏やかな声でそう呼びかけてきた。
やはり美人だ。まさに“高嶺の花”という表現がぴったりな人だ。
朱里さんは職場の先輩だが、「先輩呼びが嫌い」という理由で、後輩達からは“さん”付けで呼ばれている。
そんな朱里さんが、僕にラブレターなんて出すはずがない。
――まさか、昨日のことか?
嫌な予感が胸の奥に渦巻く。恐る恐る口を開いた。
「はい、遅くなりすいません……。」
朱里さんはニコニコと微笑んだまま、静かに問いかけてきた。
「なんで呼び出されたのか、わかる?」
その言い回し。
間違いない。これは“あの件”だ。
けれど、証拠なんてあるわけがない。しらを切ってやり過ごそう。
「……よくわかりません。」
「ふーん、そう。」
朱里さんは鞄からスマホを取り出した。
そして画面を僕の目の前に突きつけ、動画を再生する。
そこには――
朱里さんのデスクに、自分のちんちんをそっと乗せている“僕”の姿が、はっきりと映っていた。
「これは、どういうことかな? 説明できる?」
……終わった。
「昨日ね、私も忘れ物があってちょっと会社に寄ったのよ。そこで直人君がいて、声をかけようと思ったらね。フフッ。」
朱里さんはまるで猫のように楽しそうに笑った。声は優しいのに、内側には鋭い爪が隠れている。
「君は、いつもこんなことやってたのかな?」
もう逃げ場はなかった。
「……いえ、初めてです。魔が差しただけなんです……。」
「そう。じゃあ、私のデスクに“かわいいの”乗っけたのも、魔が差したのかな?」
「……はい……。」
恥ずかしさで顔が熱くなる。まさか“好意があったから”なんて言えるはずもない。
「朱里さんのデスクだって、知らなかったんです!」
「同じ部署で、私のデスク知らないなんて……悲しいなあ。」
朱里さんは肩をすくめながら、芝居がかった口調でそう言った。
もう、言い逃れもできなかった。
どんな言葉も、朱里さんの視線の前では無力だった。
もう、最後の手段しか残っていない。
僕は膝をつき、頭を深く下げた。
「すいませんでした! 何でもしますから、黙っていてください!」
肩をぽんぽんと叩かれた。
恐る恐る顔を上げると、目の前には朱里さんがしゃがみ込んでいた。
「私の言うことを聞いてくれたら、黙っていてもいいよ?」
ニコニコと穏やかに微笑む朱里さん。
いつも思うが、この人は何をしていても楽しそうに見える。
それにしても、しゃがみこんだせいでスカートの奥、太ももの間から白い布がちらりと見えたのは……自分の心にそっとしまっておく。
「本当ですか!?ありがとうございます!」
思わず声が上ずってしまう。
朱里さんはふわりと立ち上がった。
「私ね、ここの管理任されてるんだ。お花とか、綺麗でしょ?」
屋上を見渡すと、色とりどりの花が整然と植えられている。
昼休みには社員が弁当を広げているのも見かける、ちょっとした癒しのスポットだ。
その朱里さんが、屋上のドアに歩み寄り――「ガチャリ」と鍵をかけた。
「これでもう、誰も来ないね。」
ゆっくりとこちらに振り返るその笑顔は、どこかいつもより鋭く見えた。
スマホのカメラがこちらに向けられた。
「じゃ、脱いでもらおうかな。まずはズボンからね。」
「……は?」
思わず間の抜けた声が出る。何を言っているのか理解が追いつかなかった。
「直人君ってさ、露出狂なんでしょ?お姉さんが見てあげるわ。ご自慢のヤツをね。」
そうか、これが“罰”なのか。
もう逆らうことなんてできない。
観念して、ベルトに手をかける。カチャリという金属音がやけに響いた。
スラックスをゆっくりと下ろしていく。
「はい、よくできました。かわいいパンツだねぇ。」
朱里さんはにこやかに笑いながら、スマホをしっかり構えていた。
カメラから聞こえるシャッター音が、羞恥心を一層あおってくる。
いったいこの写真をどうするつもりなのか……そう考えていると、朱里さんがぽつりと言った。
「ちなみにだけど、そこから動かないほうがいいよ。そこ、ちょうど監視カメラの死角だからね。」
彼女は屋上の隅に取り付けられた監視カメラの方向を指さす。
「私に変なことしたら、ぜーんぶ映っちゃうからね。」
いたずらっぽく笑いながらそう付け加えた。
けれど、残念ながら――いや、当然ながら――朱里さんを襲うような度胸なんて、最初から僕にはなかった。
「……わかりました。」
そう言うしかなかった。
「じゃ、次は上だね。シャツもインナーも全部脱いじゃって。」
命令されるまま、僕はゆっくりとシャツのボタンを外していった。インナーも脱ぎ、上半身があらわになる。
「うんうん、まさに中肉中背ってやつだね。もうちょっと鍛えてもいいかもね。」
まるで健康診断のように冷静に評価されている。服を脱がされるより、その言い方の方がよほど恥ずかしい。
「乳首がたっちゃってるねー。さっさと下も脱いじゃいますか。」
朱里さんは笑いながら近づいてきて、僕の前でしゃがみ込んだ。
「直人君のご自慢のもの、見せてね。」
スマホのレンズがじっとこちらを向いている。もう逃げられない。僕は意を決して、下着に手をかけ、一気に下ろした。
沈黙の時間が流れた。そして──
「直人君、おちんちんないよ?」
彼女の言葉に思わず自分の股間を見下ろす。確かにそこには、縮こまって体毛にうずもれたものが、情けないほど存在感を消していた。
「いや、その……!」
慌てて手で隠そうとした瞬間、朱里さんの手が素早く伸びた。
「……あったあった。小さいねぇ。」
彼女の指が毛をかき分けながら、それをつまみ出す。皮の被さったそれを眺めながら、朱里さんは首をかしげた。
「どうして昨日、こんなの出してたのかな〜?」
彼女はまるで玩具をいじるように、それに話しかける。
羞恥で声が出なかった。
「あらあら、ご主人様に見られて緊張してるのかな〜?」
笑いながら、わざとらしく優しい声をかけてくる朱里さん。スマホのシャッター音がまた響いた。
「でもこのままじゃ、つまらないよね。」
そう言って、彼女はふと顔を上げた。
「……大きくして☆」
目を丸くしてしまった。冗談のような言葉。でもその表情は、本気だった。
「仕方ない、少しだけ協力してあげますか。」
朱里さんはそう言って、ゆっくりとシャツのボタンを外しはじめた。
思わず息をのむ。
「これで……大きくなる?」
少し照れたように笑いながら、ブラジャーの見えるところまでシャツを開いた彼女。
…しかし朱里さんは気付いていなかった。
朱里さんの控えめなお胸のおかげで隙間からピンク色のそれが顔を出している事を。
朱里さんの…乳首…。
その瞬間、理性の糸がぷつりと切れた。
「うわ、急に大きくなってきた。」
朱里さんが素直に驚く声を上げた。
「こんなものかな?小さいなりに頑張ってるね。」
スマホのシャッター音が何度も響く。撮られているという事実に、羞恥と高揚が入り混じる。
「あの、そろそろ……」
「ん〜、まだ“お顔”見てないんだけどなぁ。」
「顔……?」
「そうそう。お顔。」
彼女が指先でそっと、包皮を押し下げた。
「うっ……!」
思わず変な声が漏れてしまい、朱里さんが吹き出した。
「ちょっと、面白い声出さないでよ、もう……」
いたずらっぽく笑いながら、指先で亀頭をつついてくる。
「……かわいい。」
そう呟くと、彼女の手はそのまま、優しく握った。
朱里さんは手を動かし、僕のそれを上下に扱き始めた。
「ちょっ……朱里さん!」
必死に声をかけたが、どうやら朱里さんの耳には届いていないようだった。
目を見開いたまま、無心に手を動かしている。
次第に限界が迫ってきて、僕は堪えきれずに――
「……うぅ!?」
衝動が爆発し、跳ねるように飛び出したそれが、朱里さんの顔にかかってしまった。
その瞬間、手が止まり、朱里さんはハッとした表情で固まった。
「ご、ごめんなさいっ!」
慌てて頭を下げる。
しかし朱里さんは、驚いた様子を見せるでもなく、静かにハンカチを取り出して顔を拭った。
そして、濡れたハンカチをしばらく見つめながらぽつりと言った。
「だめじゃない、顔にかけるなんて。本当に嫌われるよ?」
責めるような口調ではなかった。
むしろ、優しさと少しの呆れが混ざったような声音だった。
不可抗力だった――そう言いたかったけれど、言葉が喉につかえて出てこなかった。
これで終わり――そう思っていた。
「直人君、これで終わりだと思ってるの?」
朱里さんの声が、背中に刺さる。
まるで心の中を覗かれたようで、思わず息をのんだ。
「私だけじゃなくてさ、もっとたくさんの人に見てもらおうよ。」
そう言って朱里さんは、僕を屋上の金網の方へと誘導した。
抵抗する間もなく、彼女に導かれるまま外へと向けられる。
「ほら、周りを見てごらん。たくさんのビルがあるよ。みんな残業してるのかな〜?」
ビルの窓、まばらに灯る明かり。
誰かがこちらを見ていたら――そう考えるだけで背筋が凍った。
警察沙汰になってもおかしくない。
そんな状況なのに、どうしてか下半身は反応してしまっていた。
「うわ、さっきより大きいじゃない。」
朱里さんは呆れたように笑いながら、それにそっと触れた。
「本当、変態さんなんだから。」
言葉とは裏腹に、その手はやさしく動き出す。
皮肉と慈しみが同居したような口調だった。
「もう、私のデスクに変なことしないように――毒は、全部出しちゃいましょうね。」
さっき終わったばかりのはずなのに、また快感が背中を駆け上がってくる。
耳元で囁かれるその声に、頭が真っ白になりそうだった。
「ほーら、悪いものは全部、出しちゃいましょう。」
スピードが上がる。朱里さんの手の動きが容赦なく僕を追い詰める。
「あのビル、女の子が見えるね。もしかして、気づかれちゃってるかも。」
「ねぇ、あっちのビル……スマホ向けてない?大丈夫かな?」
そんなことを囁かれながら、羞恥と快感が一気に限界を超えていく。
そして――僕は、夜の街に向かって吐き出してしまった。
さっきよりも、遥かに多くの“毒”を。
事が終わっても、朱里さんの手はゆっくりと動き続けていた。
すべてを出し切るまで、優しく、しっかりと。
やがて、ようやく手が止まり、朱里さんはにっこりと笑った。
「お疲れさまでした。」
その笑顔は、今日見た中で一番美しかった。
エピローグ
それ以来、職場で露出するなんてことは一切しなくなった。
けれど、定期的に僕のデスクには一通の手紙が届くようになった。
内容はいつも決まっている。
「就業後、屋上で待っています。」
それは、朱里さんからの呼び出しだ。
あるときは花壇の手入れを一緒にし、あるときは屋上の掃除を手伝った。
僕はすっかり朱里さんの“サポート係”になっていた。
「一人だと大変だったのよね。ありがとう。」
そう言って笑ってくれる。
その笑顔が見たくて、僕は今日も屋上へ足を運ぶ。
そして時折、朱里さんは“あの時間”をくれる。
屋上の金網越しに夜の街へと、僕の“毒”を吐き出させてくれるのだ。
「気持ちよかった?」
その一言に、僕は心も体も支配されていく。
きっともう、朱里さんから離れられない。
いつか、もう一歩踏み出せる日が来ることを願いながら――
END


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