本作品は『羞恥の清拭 -梨沙の場合-』の続編となります。
良ければそちらからお楽しみください。

足を骨折してしまった。
よりにもよって軸足の方をへし折ってしまったのが致命的だった。
無意識のうちにそっちへ体重をかけそうになり、そのたびに冷や汗が出る。
待っていたのは、退屈極まりない入院生活……のはずだった。
俺の病室には思いがけない幸運が舞い降りていた。
隣のベッドに入院してきたのは、同じく足を骨折したという可愛い女の子だった。
一般病棟の相部屋で男女が同室になるのが一般的なのかは分からない。
ただ、そもそも俺はベッドから一歩も動けない身だ。
変な気を起こせるはずもないし、もちろん、そんな大それた気すら起きない。
彼女の名前は梨沙ちゃん。
話しかけてみると偶然にも同い年で、驚くほど趣味が合った。
暇な時間は、お互いに持ち込んだ漫画や本を交換し合ったり、一緒にゲームをしたりして過ごした。
おかげで、退屈極まりないはずの入院生活は、気がつけば鮮やかな彩りに満ちた日々へと変わっていた。
――それでも、やっぱり入院生活には「嫌なこと」がつきまとう。
まずはトイレの問題だ。
大きい方は、車椅子に乗せてもらってトイレまで連れて行ってもらえるからまだいい。
問題は、小さい方だった。
「陽介くん、おしっこしようねー。」
看護師さんが尿瓶を手に、足音も軽く現れる。
もちろんカーテンはきっちり閉めてくれるが、その瞬間、隣のベッドから梨沙ちゃんが慌ててイヤホンを耳に押し込む気配が伝わってくる。
その細やかな気遣いは心から嬉しかった。
同時に、惨めさも込み上げる。
梨沙ちゃんはきっと、大も小も車椅子でトイレに行かせてもらえているのだろう。
やはりそこは男女の身体の構造の差、ということか。
恥ずかしい思いをせず、自分の足でトイレに行けることがどれほど幸せなことだったのか、この時初めて痛感した。
「はーい、じゃあパンツ下ろすよ。ちょっと腰浮かせてね。」
看護師さんは20代半ばといったところだろうか。
彼女は、躊躇なく入院着の裾をバッと捲り上げ、俺のパンツを引き下ろしてくる。
この病院にはベテランのおばちゃん看護師もたくさんいるはずなのに、なぜか俺のトイレの世話をしてくれるのは、揃いも揃って20代半ばくらいの若い女性ばかりだ。
どれだけ回数を重ねても、若い女性に自分のちんちんを晒すのだけは慣れなかった。
「おちんちん、ムキムキするからねー。」
そう言いながら、彼女の指先が俺のモノを遠慮なくつまみ、包皮をすっと根元に向けて引き下げてくる。
「剥いても大丈夫?」と確認されたのは、入院初日の最初の一回きりだ。
俺が仮性包茎だと分かってからは、完全にルーティンワークのように容赦なく剥かれるようになってしまった。
若い女性の手でダイレクトにペニスを固定され、尿瓶に押し当てられながら、溜まっていた尿を排泄していく。
「はーい、いっぱい出たね。綺麗に拭き拭きしましょうね。」
赤ちゃんをあやすかのような言葉遣いに、自尊心がムズムズと痒くなる。
さらに最悪なのは、否応なしに若い女性の指先で触れられているという事実だ。
頭では必死に冷静であろうとするが、身体は正直に反応しカチカチに勃ってしまうことが多々あった。
だが、看護師さんは百戦錬磨のプロだった。
俺のそんな反応など視界に入っていないかのように、全く意に介さず、淡々と濡れたタオルで先端を拭き、包皮を元に戻してパンツを履かせていく。
「はい、お疲れ様でしたー。」
用が済めば、無慈悲にもシャッとカーテンが開けられてしまう。
膨らんだ股間を必死に隠しながら、俺は隣の梨沙ちゃんに、勃起していることがバレていませんようにと、ただただ心の中で祈るしかなかった。
おしっこの介助は1日3回。
朝起きてすぐ、昼過ぎ、そして夕食の前には必ず看護師さんがやってくる。
それ以外の時間でも、寝る前を含めてナースコールを押せばすぐに駆けつけてくれる。
それ自体は本当にありがたい環境なのだが……。
ただ一人、とある看護師さんの対応がどう考えてもおかしかった。
その人はとても優しくて、モデルのように綺麗な美人看護師さんなのだが、彼女が担当の日に限って異変が起きる。
おしっこが終わった後、ちんちんを拭いてくれる時の指先の動きが、どう見ても過剰に触れてきている気がしてならないのだ。
恥ずかしながら、彼女の手にかかると俺のモノは確実に、100%勃起させられてしまう。
なんなら、ガチガチに勃起するまで拭き取り作業が終わらないのではないか、とさえ思えるほどだった。
1日最低3回の強制的な勃起。
自力で歩いてトイレで処理することもできない上に、すぐ隣のベッドには梨沙ちゃんが寝ている。
出したくても出せない、まさに拷問のような生殺しの日々が続いていた。
そしてその歪みは、少しずつ日常の思考にも悪影響を及ぼし始めていた。
「陽介くん、おはよ!」
いつも通り笑顔で俺に話しかけてくれる梨沙ちゃん。
なのに、俺の視線は彼女のみずみずしい唇や、胸の膨らみにどうしても向いてしまう。
彼女が着ているパジャマの、ボタンとボタンのわずかな隙間すら、今の俺には刺激が強すぎて狂いそうだった。
梨沙ちゃんはきっと、俺のことを純粋に信頼してくれている。
だからこそ、男の俺に対しても気さくに、無防備に話しかけてくれるのだろう。
彼女にこの邪な気持ちを気づかれないよう、俺は必死に自分を取り繕っていた。
だが、それももう限界が近づいていた。
そんな中で迎えた、夜の「清拭」の時間。
身体を温かいタオルで拭いてもらう処置のことだが、この言葉は入院して初めて知った。
清拭の順番はいつも決まって、梨沙ちゃんが先で、俺が後。
俺の排泄音を聞かないように配慮してくれる梨沙ちゃんを尊重して、俺もこの時間だけは必ずイヤホンを耳に押し込み、大音量で音楽を流して仕切りの向こうの音を遮断するようにしていた。
それがお互いのための、暗黙のルールだった。
――だが、今日に限って最悪なことに、ワイヤレスイヤホンの充電が切れていた。
ちゃんと充電していたはずなのに、なぜか線が外れていた。
「嘘だろ……」
心のなかで絶望しながら、仕方なく両手で耳を強く塞ぎ、目を閉じた。
なんならこのまま無理矢理にでも眠ってしまおうと必死になった。
女の子にとって、自分の身体を拭かれている生々しい音なんて、隣の男に絶対に聞かれたくないはずだから。
しかし、今の俺の身体は限界をとっくに超えていた。
昼間の美人看護師のせいで、パンツのなかのモノは今も掛け布団を押し上げるほどに勃起している。
神経が異常なほど過敏になっているせいか、どれだけ強く耳を塞いでも、すぐ隣のベッドからかすかな衣擦れの音と吐息が聞こえてきてしまった。
「……おっぱい……」
ビクッと、身体が跳ねるように反応してしまった。
両手でしっかりと塞いでいたはずの耳の隙間から、その単語が滑り込んできたのだ。
(今……おっぱいって言ったか……?)
抗えなかった。
俺は呪縛に囚われたかのように、そっと耳から手を離してしまった。
もう、これ以上自分の好奇心と本能に耐えることなんて、できっこなかった。
「梨沙ちゃん、おっぱい綺麗よね。Cカップだっけ? まだまだ大きくなりそうね。」
はっきりと、鼓膜に届いた。
おそらく看護師さんも声を潜めているのだろう。
だが、二人のベッドを隔てているのは、天井から吊り下げられた薄い布切れ一枚だけだ。
あらゆる感覚が極限まで研ぎ澄まされている今の俺にとって、そんなカーテンなど何の障壁にもなっていなかった。
(梨沙ちゃんは……Cカップなのか……)
Cカップってどれくらいだ?
検索したいが、今ここでわずかでも音を立てるわけにはいかない。
枕元のテーブルに置いてあるスマホに手を伸ばすことすら、致命的なリスクだった。
とにかく今は、気配を消して「完全に眠っている」と思わせなければならない。
「梨沙ちゃんの乳首、ピンク色で本当に可愛い。でも……」
追撃のような言葉に、再び身体がドクンと跳ねる。
(梨沙ちゃんの乳首……ピンク色……っ!)
脳細胞が強制的にフル稼働を始め、梨沙ちゃんの全裸のイメージを勝手に、鮮明に創り上げていく。
はだけたパジャマ、そこからのぞく白い肌、そして看護師さんの指先に触れられているであろう、その先端――。
熱く脈打つ股間に今すぐ手を伸ばしてしまいたかった。
だが、絶対にダメだ。梨沙ちゃんの清拭が終われば、次は俺の番がやってくるのだから。
だが、その狂いそうな自制心をあざ笑うかのように、カーテンの向こうから「看護師さんではない声」が漏れ聞こえてきた。
「……んっ……んぁっ……」
!?
嘘だろ。
梨沙ちゃん、もしかして……エロい声を出しているのか……?
見たい。カーテンの隙間から、その光景を覗き見たい。
しかし、俺の身体は動かない。いや、正確には動けない。
無理に手を伸ばそうものなら、バランスを崩してベッドから転落してしまうだろう。
それは怪我の悪化だけでなく、梨沙ちゃんからの信頼を完全に失い、この病院での入院生活が灰色になってしまう。
絶対に、聞いていることすらバレてはならない。
俺は呼吸を止め、シーツを涙が出るほど強く握りしめながら、隣から響く甘い吐息に耳を澄ませ続けるしかなかった。
「梨沙ちゃん、ちょっとワキ毛が伸びてきちゃってるね。シェーバーあるから、剃ってあげようか。」
看護師さんのその言葉に、俺の脳内に再び激震が走った。
(梨沙ちゃん、ワキ毛……生えてるんだ……)
考えてみれば当たり前だ。
男より女の子の方が成長が早いって言うし、同い年の俺だって普通に生えているんだから、彼女に生えていたって何一つおかしくない。
それでも、勝手に「女の子=ツルツル」という幻想を抱いていた俺は、密かに小さなダメージを受けていた。
気がつけば、脳内で全裸に剥かれた梨沙ちゃんの脇の下に、うっすらとしたワキ毛が描き足されていた。
ジジジ……と、電気シェーバーの微振動が響き渡る。
今、あの可愛い梨沙ちゃんのワキ毛が剃られている。
きっと今頃、羞恥に頬を真っ赤に染めているのだろう。
今更ながら、なんで足を折っちまったんだと後悔が押し寄せる。
足さえ折れなければ、その甘美な光景を拝めたかもしれないのに……。
同時に、足を折らなければこんな状況に立ち会うこともなかっただろう。
人生とは、本当にままならないものだ。
悶々と哲学的思考に逃げ込もうとした瞬間、さらなる追い打ちがかかる。
「膝を立てて、足を大きく開いてね。」
……まさか、下まで拭かれるのか?
いや、俺だっていつも容赦なく剥かれて拭かれているんだ、女の子だって同じ処置をされるのは当然だ。
恥ずかしそうに、ベッドの上で股を左右に割らされている梨沙ちゃんを想像する。
あそこは、一体どんな風になっているんだろう。生えているのか、それとも――。
「梨沙ちゃんはここの毛が薄くて羨ましいな。私なんて……」
俺の思考を読んだかのような看護師さんの呟き。
梨沙ちゃんのあそこの毛は薄いんだ。
想像のなかの梨沙ちゃんの股間に、産毛のような愛らしいアンダーヘアがうっすらと生い茂っていく。
「小陰唇も小さくて綺麗だし、中もピンクで初々しいわ。本当に羨ましい。」
……ピンク色。
見たい。どうしても見たい。
もし今、悪魔が現れて「お前の魂と引き換えに骨折を治してやる」と言われたら、俺は迷うこともなく二つ返事で契約書に血判を押していただろう。
「ひゃっ!」
突如、カーテンの向こうから短い悲鳴が上がった。
梨沙ちゃんの声だ。びくりと心臓が跳ね、まるで自分の変態的な妄想を咎められたような錯覚に陥る。
やっぱり、これ以上聞くのは男として最低だ。
今度こそ、ゆっくりと音を立てないように耳を塞ごうとした。
「……ふっ、ぅ……」
だが、耳に向かいかけた両手は、バッとシーツへ引き戻された。
まただ。梨沙ちゃんから、明らかに色っぽい吐息が漏れた。
こんな声を聴き逃すなんて、男として、いやオスとして絶対にあり得ない。
俺は固く目を閉じ、全神経を耳だけに集中させた。
「梨沙ちゃん、ちょっとヌルヌルしたのが出てきちゃったね。……気持ちいい?」
!?
やっぱり、梨沙ちゃんは感じている。
あの清純そうな梨沙ちゃんが、ただ身体を拭かれているだけなのに、身体を反応させて愛液を溢れさせているのだ。
「んんっ! いや、ぁ……っ!」
梨沙ちゃんの、掠れた喘ぎ声がすぐそこで響く。
スマホが手元にあれば、迷わずボイスレコーダーを起動して録音していたのに。
――そんな最低で、最悪な思考に頭の中が完全に支配されていく。
「乳首もクリトリスもパンパンね。……そろそろ、イッちゃう?」
まさか、本当にイクのか?
あの梨沙ちゃんが、病院のベッドで絶頂を迎えるっていうのか?
普段、無邪気な笑顔で俺とゲームをしている彼女の顔がフラッシュバックする。
それと同時に、妄想の中の梨沙ちゃんが快楽におぼれているような表情を浮かべている。
清純な梨沙ちゃんと、淫乱な梨沙ちゃん。一体どっちが本当の彼女なんだ。
そして……。
「イクっ……!!」
梨沙ちゃんの、限界を迎えた絶頂の声がハッキリと聞こえてしまった。
俺の頭の中で、二人の梨沙ちゃんが激しく混ざり合い、脳味噌が狂ってしまいそうだった。
パンツのなかで、痛いほどに勃起している俺の息子が、なぜ触ってくれないんだ?と怒りの文句を言っているように感じてしまった。
心臓の鼓動が、うるさいほどに鳴り響いて止まらない。
あの、清純そのものだった梨沙ちゃんが、すぐ隣のベッドで絶頂してしまったのだ。
俺は掛け布団を頭まですっぽりと被り、強く目を瞑った。
だが、脳に焼き付いた興奮のせいで眠ることなんて到底できない。
今すぐにでも意識を失ってしまえば、今起きた淫らな出来事を「ただの夢」だと思い込めるかもしれない。
しかし、激しく波打つ胸の音と、どうしても収まろうとしない強烈な勃起が、俺を現実へと引き戻す。
「陽介くん。お身体を拭きましょうねー。」
……来てしまった。 最悪のタイミングだった。
今だけは、どうしても来てほしくなかった。
今この状態で身体を見られたら、隣での梨沙ちゃんとのやり取りをすべて盗み聞きしていたことが、一発でバレてしまう。
シャッ、とカーテンが開けられる冷たい音が響いた。
「あら、陽介くん寝ちゃってるの?」
さらにシャッと音がして、ベッドの周りのカーテンが完全に閉められた気配がする。
トントン、と肩を優しく揺らされ、頭まで被っていた掛け布団をそっとめくられた。
抵抗する間もなく、俺の耳元に低く囁かれた。
「陽介くん。……起きているよね?」
(――バレてる)
「大丈夫よ。梨沙ちゃん、いつも陽介くんが清拭するときはイヤホンを着けて音楽を聴いているから。こっちの音は聞こえてないわ。」
その言葉に、俺はそっと目を開けた。
目に映ったのは、美人だけどどこか怪しいあの看護師だった。
「やっと起きたわね。じゃあ、寝る前にササッと身体を拭いちゃいましょ?」
今度は、カーテンの向こうまでよく通る、比較的大きな声を出す。
「さあ、眠いかもしれないけど、入院着を脱がすよ。」
前開きの入院着は、手慣れた動作であっさり脱がされてしまった。
「あらあら、おっきくなっちゃってるのね。夜なのに朝立ちかなー?」
クスクスと楽しそうに笑う彼女。
傍から見れば、ちょっとした下ネタ混じりの冗談で患者の緊張を和ませようとする、気さくで優しいお姉さんだ。
実際、いい人だとは思う。思うのだが……。
今の俺には、彼女の内側に「別の顔」が隠されているように思えて仕方がなかった。
「じゃあ、パンツも脱いじゃおうね。恥ずかしいねー。」
まるで幼い子供をあやすような口調で、パンツのゴムに指をかけ、引きずり下ろしていく。
これまで布地に押し込められ、限界まで張り詰めていた俺のペニスが、ピンッと音を立てるような勢いで外気に飛び出した。
すると、彼女は俺の太ももにそっと手を置き、再び耳元へと顔を寄せて囁いた。
「……梨沙ちゃんが拭かれてるの聞いて興奮しちゃった? ――すっごく可愛い顔で、イッちゃったのよ。」
その囁きに、俺の脳みそが痺れてしまったのは言うまでもない。
正直なところ、この看護師さんがなぜ俺にそんなことを伝えてくるのか、その真意は全く分からなかった。
だが、一つだけ確信していることがある。
――彼女は、この状況を心底楽しんでいる。
過酷な医療現場のストレス発散なのか、あるいは単なる悪趣味な性癖なのか。
その矛先は、動けない俺と梨沙ちゃんの二人に、確実に向けられていた。
「それじゃあ、拭いていこうか。」
そう言うと、彼女は温かいタオルで俺の顔を丁寧に拭ってくれる。
これに関しては単純に気持ちが良く、素直に身を委ねることができた。
タオルは首筋、肩、そして胸へと滑り落ちていく。
「はーい、じゃあ両手を上げて、バンザイしてねー。」
男の俺でも、ワキを拭かれるのはなんとなく気恥ずかしさがある。
俺が身を硬くしたその瞬間、またしても俺の耳元へ唇を寄せて囁いてきた。
「梨沙ちゃんのワキね、いつも少しだけ汗の匂いがするの。それを指摘するとね、自分が臭いんじゃないかって、後でこっそり自分でクンクン嗅いだりしてるのよ? ほんとかわいいわ。」
妙に嬉しそうに語る看護師さん。
(梨沙ちゃんの、ワキの匂い……)
べ、別に嗅ぎたいわけじゃないけど……気にならないと言ったら嘘になる。
ベッドそのものは少し離れているので梨沙ちゃんの匂いを直接嗅いだことはない。
なのに、そんな具体的な「情報」を吹き込まれたせいで、とにかく猛烈に嗅ぎたくなってしまった。
そんな話を囁かれ続けて、俺の下半身が大人しくなるはずがなかった。
タオルはお腹まで拭いて貰い、ついにその手はビンビンに反り返っている俺のソレへと至った。
(やっとだ……やっと拭いてもらえる、触ってもらえる!)
期待に胸を躍らせ、ごくりと唾を飲み込んだ次の瞬間、彼女の手は俺の股間をあっさりと通り越し、太ももの清拭へと入った。
(……どうして……?)
思わずすがるような目で看護師さんの顔を見上げると、彼女は少し意地悪な笑みを浮かべた。
「そこは、最後のお楽しみよ。」
鼓膜を震わせる低い囁きと、耳に触れる熱い吐息に、全身がゾクゾクと粟立つ。
最後とは言うが、これまでのパターンを考えれば、また勃起させるだけさせて未処理のまま放置される可能性だって十分にある。
もしそんなことをされたら、今度こそ俺の限界を超えてしてしまう。
梨沙ちゃんのすぐ横で、羞恥も外聞も捨てて自慰行為に耽るしかなくなってしまう。
絶望に顔を歪める哀れな俺を一瞥し、彼女は何事もなかったかのように足を拭き始める。
もちろん、看護師さんは医療従事者として正しい手順で行っているだけなのだ。
間違っても文句なんて言えるはずがなかった。
それからの彼女は、黙々と両足を拭いてくれた。
あんな言動なのに、おそらく今まで拭いてくれた看護師さんの中で1番丁寧に拭いてくれる。
だからこそ、俺は余計に何も言い返せなくなってしまう。
「はーい、じゃあお尻を拭くから、折れてない方の足を胸の方に抱えて開いてねー。」
お尻を拭く際、必ずこの無防備で屈辱的なポーズを要求される。
「足が折れて動けないからこの格好になるんだよ。」と言われているが、あまり納得はしていない。
それと同時に、もしかすると梨沙ちゃんもこの恥ずかしいポーズを……と考えてしまう。
そんな俺の混乱を余所に、温かいタオルが肛門から蟻の戸渡り、そして睾丸の裏側までをじっくりと拭い上げていく。
「陽介くんはお尻までツルツルねー。毛が生えていないの、羨ましいわ。私って少し濃いめだから嫉妬しちゃう。」
美人看護師からの、あまりにも唐突で生々しいプライベートの告白。
呆然とする俺の隙を突くように、彼女はまたしても俺の耳元へと顔を寄せてきた。
「……ちなみに、梨沙ちゃんもお尻の周り、ツルツルよ?」
「……!」
もう、頭がおかしくなりそうだった。
目の前にいる美人看護師の、少し毛深いという大人の肛門周りのイメージ。
そして、すぐ隣にいる梨沙ちゃんの、産毛すら生えていないというツルツルで未熟なお尻の割れ目。
二つのあまりにも刺激的なビジョンが脳内で激しくシャッフルされ、ぐるぐると渦巻いて離れない。
まだ、肝心のモノには直接触れられてさえいない。
それなのに、視覚、聴覚、そして脳内を埋め尽くすドロドロの妄想の波に呑み込まれ、俺の射精はもう、目と鼻の先にまで迫っていた。
(……やっと、ちんちんを拭いてもらえる……!)
極限まで焦らされ、絶頂の淵に立たされた俺がそう確信した瞬間、美人看護師の唇が、またしても俺の耳元へと滑り込んできた。
「ねえ、陽介くん。梨沙ちゃんね、いつも陽介くんの清拭タイムは、イヤホンで音楽を聴いてるってさっき言ったよね?」
それが……それが一体なんだというのか……。
浅い呼吸を繰り返す俺の耳に、彼女は一呼吸置いて次の言葉を続けた。
「……今日の梨沙ちゃんね、イヤホンの充電ができてないの。だから、ここで大きい声を出すと全部聞こえちゃうんだよ?」
「っ……!?」
あまりの衝撃に、声すら出なかった。
なぜ、なぜ看護師さんが、梨沙ちゃんのイヤホンの充電が切れていることまで知っているんだ?
そもそも、俺のイヤホンの充電ケーブルがいつの間にか不自然に外れていたのって……。
最初から、いちいち声色を変えていたのも、梨沙ちゃんに聞かれている前提で喋っていたからなのか。
聞かれてもいい話は大き目の声で、そして聞かれたくない話は囁き声で……。
看護師さんの、あまりにも用意周到な悪意に気付かされてしまった。
唖然として言葉を失っている俺を、彼女はいつも通りの、あの聖母のように優しい笑顔で見下ろしていた。
仕事熱心で、気さくで、誰からも好かれる彼女のその笑顔が、今はただただ恐ろしかった。
「さ、 陽介くん、おちんちんを拭きましょうね。」
先ほどよりもトーンの上がった声。
仕切りの向こうの梨沙ちゃんに、確実に、でも不自然ではない声量で宣言した。
もはや、どうすることもできなかった。
「陽介くんのおちんちんはまだ剥けていない包茎さんだから、しっかり剥かないとね。」
声高に俺の最も恥ずかしい秘密が容赦なく開示されていく。
これはきっと、梨沙ちゃんの清拭を盗み聞きしてしまったことへの罰なのだろう。
そう自分に言い聞かせる間もなく、看護師さんの手によって、俺のソレはつるんと無防備に剥き出しにされてしまった。
「あらあら、ちょっと汚れちゃっているわね。亀さん、キレイにしてあげるからね。」
温かい濡れタオルが、過敏極まりない亀頭を直接包み込む。
いつ暴発してもおかしくない限界の状態。
なのに、彼女は絶妙な力加減とストロークで、決して俺をイカせないようにコントロールしている。
射精したがっているペニスをタオルに擦りつけるようにして俺が悶えると、彼女はそれすらも完全に予期していたかのような動きで俺を翻弄した。
「もー、陽介くん暴れないの。そんなにおちんちんピクピクさせちゃ、上手く洗えないでしょ?」
その注意に、自分がベッドをギシギシと軋ませ、無様に腰を振っていたことに気がついた。
すぐ横で、梨沙ちゃんがじっと息を潜めて聞いているというのに……。
あまりの恥ずかしさと絶望に、目眩を起こしそうになる。
射精したいのに、看護師さんと隣で聞いているであろう梨沙ちゃんがそれを許してくれない。
ちょん、ちょん、と焦らすように亀頭にタオルを当てていた看護師さんが、ふと何かを思い出したような仕草をした。
そして、再び俺の耳元へと唇を近づける。
「陽介くん。……良い物、あげるね。」
そう囁いた彼女の顔を見ると、ポケットから何やら小さく折り畳まれた布のようなものを引き抜いた。
それがそっと、俺の手に握らされる。
一体何だろうと思いながら指先で広げると、それはどう見ても女の子の下着だった。
「……これは……?」
困惑する俺の耳元で、彼女はニヤリと唇を歪めて囁いた。
「それはね、さっきまで一日中、梨沙ちゃんが穿いていたパンツだよ。」
ドクン、と心臓が跳ね、指先が震え出した。
梨沙ちゃんのパンツ? 一体なぜそれを、看護師さんが?
そんな俺の当然の疑問を先回りするように囁きが続く。
「梨沙ちゃんね、入院中は使い捨てのショーツを穿いているの。いつもは病院で処分しているんだけど……陽介くんが欲しいなら、毎日あげてもいいよ?」
悪魔のような契約を持ちかけられたような気がした。
その対価は、梨沙ちゃんに対する計り知れない罪悪感。
だが、正直な話をすれば――猛烈に欲しかった。そして、嗅いでみたかった。
そに下着からは、話を聞いてからずっと嗅いでみたかった梨沙ちゃんの匂いがするのだろう……。
俺が声も出せずに固まっていると、悪魔の指先がついに、俺のモノを根元からギュッと強く握り締めた。
それだけの刺激で、脳が焼き切れそうになる。
せっかく拭いてもらったばかりだというのに、先端からは我慢汁が溢れ、そこをトロトロに濡らしていく。
看護師さんの手が、ゆっくりと、しかし確実な上下運動を始めた。
ペニスは今か今かと解放の瞬間を待っている。
睾丸がキュッと引き締まり、精液を放出する準備が完全に整ったようだ。
「陽介くんって、梨沙ちゃんのことが好きだよね?」
快楽に脳のキャパシティを奪われ、彼女の顔がすぐ目の前にあることすら気づかなかった。
梨沙ちゃんへの密かな恋心は、とっくにこの看護師さんに見透かされていたのだ。
「もし、これで私の手でぴゅっぴゅしちゃったら……それって、浮気なんじゃないかな? いいのかな、梨沙ちゃんを裏切っちゃって。」
ここまで俺を追い詰めておきながら、この悪魔はまだ底意地の悪い奥の手を隠し持っていた。
手元にある梨沙ちゃんのパンツ。
そして、別の女性の手によって絶頂へと導かれているこの現状。
頭の中では「梨沙ちゃんを裏切っちゃダメだ!」と激しい警笛が鳴り響いている。
だが、本能に支配された身体は、目の前の圧倒的な快楽を求めてしまっていた。
おそらく彼女は、これまでにもこうして動けない入院患者を玩具にしてきたのだろう。
その百戦錬磨の手コキテクニックに、童貞の俺が耐えられるわけがなかった。
必死に堪えようとする俺をあざ笑うように、彼女の手のスピードが跳ね上がる。
「……っ!」
声だけは、声だけは出すまいと、奥歯を強く噛み締めた。
制御不能の射精感が津波のように押し寄せ、俺は目をギュッと瞑った。
瞼の裏に浮かんだのは、冷ややかな軽蔑の目で俺を見下ろす梨沙ちゃんの顔だった。
「……あっ」
掠れた吐息とともに、入院してからずっと溜まりに溜まっていた精液が、ドクドクと、凄まじい罪悪感とともに溢れ出した。
せっかく綺麗に拭いてもらったばかりの俺の身体を、白くドロドロに染め上げるほど、大量の精液が吐き出されていく。
「キャ! 大変! 陽介くん、射精しちゃった!」
その瞬間、看護師さんが慌てたように悲鳴を上げた。
仕切りの向こうの、梨沙ちゃんの耳に確実に届くように。
驚愕して看護師さんの顔を見上げると、彼女は一切慌ててなどいなかった。
ただただ楽しそうに、愉悦のままに口角を吊り上げている。
彼女は白衣をまとった看護師でありながら、完璧な「女優」でもあったようだ。
入院してから1週間以上。
排尿のたびに何度も何度も無理やり勃起させられ、散々我慢を強いられ続けてきた待望の射精。
気持ち良くないはずがなかった。
脳が真っ白になるほどの快楽が、全身の神経を駆け抜けていった。
――だがそれと同時に、酷い罪悪感に苛まれて。
今すぐにでも現実逃避したかったが、右手のなかに握りしめられている梨沙ちゃんのパンツが、いや応なしに俺を現実に引き戻す。
明日から、一体どんな顔をして梨沙ちゃんと話せばいいのだろう……。
そんな絶望している俺を余所に、看護師さんは手際よく、流れるような動作で俺の身体を拭いていく。
あの悪質な悪戯さえしなければ、きっと彼女は本当に優秀で頼れる看護師なのだろう。
飛び散った精液を綺麗に拭い去り、ドロドロに汚れてしまった俺のモノを手際よく清拭していく。
久しぶりの激しい射精によって、限界を超えて敏感になっていたそこは、もはや快感よりもくすぐったさの方が上回っていた。
「よし、 亀さん綺麗になったね。あとは皮を被せて、かわいい包茎ちんちんの完成ー。」
……まだ看護師さんによる辱めは続いていたようだ。
「陽介くん、おちんちん小さいのに、あんなにいっぱい射精しちゃうんだからビックリしちゃったよ。」
もう、お願いだから黙ってほしかった。
俺のちんちんの恥ずかしい個人情報は、全て梨沙ちゃんの元に提供されてしまった。
すべての拭き取りを終えると、看護師さんは何事もなかったかのように満面の笑顔を浮かべ、「おやすみー!」と言い残して、足早に病室を出ていってしまった。
嵐が去ったあとに残されたのは、疲れ果てた俺と、未だに右手の中に収まっている梨沙ちゃんのパンツだけ。
深く、深く、胸の奥に溜まっていた熱を吐き出すように大きなため息をつくと、急激に意識がまどろみ始めた。
溜めに溜め込んだものを一気に放出したせいだろうか、凄まじい疲労感が一気に押し寄せてくる。
(……明日、ちゃんと梨沙ちゃんに謝ろう)
そんな考えを最後に、俺の意識は病室の天井へと吸い込まれるように消えていった。
エピローグ
翌日、目が覚めると視界のまわりがやけに明るかった。
いつもならベッドを四方から遮っているはずのカーテンが、すっかり開け放たれている。
そんなことにすら気づかないほど、まさに泥のように深く眠りこけていたらしい。
ガバッと身体を起こすと、すでに起きていた梨沙ちゃんと目が合った。
お互い、猛烈に気まずい沈黙が病室に流れた。
そして――。
「……陽介くん、おはよう。」
それはいつもの元気なトーンではなく、どこか戸惑い、少しだけ恥ずかしがっているように聞こえた。
「あ、ああっ……おはよう!」
変な空気が二人を包み込む。
だが、男として、ここで逃げるわけにはいかなかった。
昨日、彼女の清拭の音をすべて盗み聞きしてしまったこと。
どんな事情があったにせよ、まずはその非を誠心誠意、謝ることからしか始まらない気がした。
俺は心の中で軽く気合いを入れ、ベッド越しに梨沙ちゃんとまっすぐ向き合った。
そして、深く頭を下げた。
「梨沙ちゃん、本当にごめん! 俺、昨日……梨沙ちゃんが身体を拭いてもらっているときの音、全部聞いちゃったんだ!」
ワイヤレスイヤホンの充電が切れていたとか、不可抗力だったとか、言い訳ならいくらでも思いついた。
だけど、そんな見苦しい真似はしたくなかった。
ただ誠実に謝りたかった。
これで梨沙ちゃんに本気で気持ち悪がられ、嫌われてしまうなら、それはもう自業自得だ。
痛いほどの静寂のなか、少しだけ間を置いて、梨沙ちゃんのはかない声が聞こえた。
「陽介くん……」
恐る恐る顔を上げると、そこには顔を耳まで真っ赤に染め上げた梨沙ちゃんが、潤んだ瞳でこちらを見つめていた。
それはそうだ。
女の子にとって最も恥ずかしい部分の情報や、あられもない喘ぎ声を聞かれてしまったのだから。
これで本当に終わったな……。
そう絶望しかけた瞬間、梨沙ちゃんの口から予想外の言葉が飛び出した。
「陽介くん、私もごめんなさい……! 私も……陽介くんがあの看護師さんと喋っているの、全部聞いちゃったの!」
やはり、梨沙ちゃんも昨夜の出来事をすべて聞いていたようだ。
つまり、俺の下半身事情や射精してしまったことまで全て……。
けれど、不思議と嫌な気分はしなかった。
むしろ、聞かれたのが梨沙ちゃんで本当に良かったとさえ思っている自分がいた。
好きになった相手には、俺の情けないところも含めて、すべてを知ってもらいたかったから。
張り詰めていた糸が切れ、二人は自然と顔を見合わせ、同時に笑い合った。
きっと、恥ずかしい清拭仲間としてお互い共感出来たのだろう。
もちろん、共通の敵の存在もあるが。
恥ずかしかったけど、結局二人の間にわだかまりなんて出来なかったみたいだ。
ホッと胸をなでおろしたその時、梨沙ちゃんが何かに気づいたように視線を落とした。
「あれ? 陽介くん、手になに持ってるの?」
言われてみれば、俺の右手は何かを固く握りしめたままだった。
指先を視線で追うと、くしゃくしゃになったハンカチのようなものが握り込まれている。
「なんだっけ、これ……」
寝ぼけ眼のまま、無造作にそれを開いた、その瞬間。
「ちょっと! 見ないで!!」
梨沙ちゃんが、これまでにないほどの悲鳴を上げた。
え? え? とパニックになりながら、手の中にある布きれを凝視する。
それは昨日、看護師さんから受け取った梨沙ちゃんのパンツだった。
あわあわとしながら梨沙ちゃんの方を見ると、真っ赤な顔をしながらジト目でこちらを見ていた。
「ち、違うんだ梨沙ちゃん! これは誤解なんだ! 昨日、看護師さんに無理やり握らされて!」
梨沙ちゃんは少し頬を膨らませてから、身を乗り出すようにして手を差し出してきた。
「いいから、早く返して!中をじっくり見たり……その、匂いとか、嗅いだりしてないよね?」
「してない! 断じてしてない!」
そう言われてみたら表面しか見ていなかったし、結局匂いも嗅いでいなかった。
よくよく考えたらそれが正解だとは思うが、少し惜しいなとも思ってしまった。
二人のベッドの間は、動けない人間にとっては絶妙に遠い。
俺はベッドから落ちないよう必死に身を乗り出し、パンツを梨沙ちゃんへと差し出した。
梨沙ちゃんもまた、折れた足を庇いながら健気に手を伸ばしている。
「も、もうちょっと……」
最後にグッと身体を寄せ、指先が伸びきったその瞬間、どうにか布きれを手渡すことができた。
その拍子に、梨沙ちゃんの小さくて柔らかい指先に、ほんの少しだけ肌が触れ合った。
梨沙ちゃんは回収した下着を素早く布団のなかに隠すと、どこか恥ずかしそうに、はにかんだような可愛い笑顔を浮かべて呟いた。
「……ふふ。結構ずっと一緒にいるのに、初めて触っちゃったね。」
その一言をもらった瞬間、胸の奥がじんわりと、温かい熱で満たされていくのが分かった。
梨沙ちゃんは俺のことを嫌うどころか、ちゃんと受け入れてくれている。
顔が急速に熱くなり、心臓の鼓動がドクドクと速くなる。
梨沙ちゃんのことが、どうしようもないくらい好きだという自分の気持ちが、今、確信へと変わった。
カーテンの開いた明るい病室。通じ合った二人の心。
そんな二人の幸せなムードは、やはりあの人がぶちこわしてくれた。
「陽介くん、おしっこの時間だよ!」
END


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この梨沙ちゃん視点もみたいです!!!
ありがとうございます!
書くか悩んでいた部分ではありますので、タイミングが合えば書きたいと思います!