それに気づいたのは、アパートの2階のベランダで洗濯物を干していた時だった。
道を挟んだ先に、二階建ての一軒家がある。
その二階にある部屋のカーテンが、窓も開いていないのに不自然に揺れたのだ。
初めは気のせいかと思ったが、私がベランダに出ていると、その揺れる場面に度々出くわすようになった。
不思議なことに、平日に干している時は何も起こらない。
決まって土日などの休日に起こる気がする。
変だなとは思ったが、夫にわざわざ相談するほどのことでもないかと思い、そのまま日々を過ごしていた。
ある平日の夕方。
買い物に向かおうと自転車に跨がり、アパートの敷地から出たところで、ちょうど向かいの家の子に鉢合わせた。
中学生か、高校生くらいだろうか。どうやら下校時間だったようだ。
「こんにちは。学校終わったの?」
そう話しかけると、彼は急に焦り出し、しどろもどろになって返事をした。
「あ、え、あっと、こんにちは。今、終わりました!」
言うが早いか、彼は慌てて家の中へと入っていった。
その素っ気ない対応に、私は少しだけショックを受けてしまった。
「……あれ? 私、もしかして嫌われているのかな?」
ご近所付き合いは比較的良好だったはずなのに。
唖然としてその場に立ち尽くしたが、気を取り直して自転車を漕ぎ出そうとした時、ふと彼の家を見上げた。
――すると、例の部屋のカーテンが、また微かに揺れたのだ。
それを見た瞬間、確信に変わった。
彼が、私のことを見つめていた犯人だ。
さっきの慌てた対応は嫌悪などではなく、むしろ私への強い興味の裏返しなのだと。
その時、背中をぞわりと何かが這い上がるような感覚が走った。
少し前に引っ越してきたこの土地。
郊外で自然も多く、田舎育ちの私にはすごく住みやすい場所だった。
けれど同時に、数年間都会に住んだことで覚えてしまったあの「刺激」に対して、心のどこかで物足りなさも感じていた。
目の前の静かな家が、退屈な私に新しい刺激をもたらしてくれるかもしれない――。
そんな予感が胸をよぎっていた。
それから一ヶ月の間、私はあまり大きな行動を起こさなかった。
とにかく、私が彼の視線に気づいていないと思わせるために。
あえてベランダで洗濯物を干しながら、無防備にボーッとする時間を作ったこと以外は何も。
これで私のことを「警戒心のない無防備なお姉さん」だと思ってくれればいい。
……お姉さんだからね?
彼くらいの年齢から見れば、25歳はまだ十分にお姉さんだと思いたい。
そんな冗談はさておき、ついに私は少しだけ行動を起こすことにした。
ピンチハンガーの両端に大きめのタオルを挟み、その間に下着を干していく。
それも、なるべくデザインの可愛いものを選んで。
「両端をタオルで隠しているから、外からは見えていないはず」と思い込んでいる、浅はかな女を演じるのだ。
そのまま残りの洗濯物を干し終えると、空になったカゴを抱えながら居間へ戻った。
そして、すぐにスマホを開いた。
実は彼が学校へ行って不在の時間を狙い、ベランダに小さなカメラを仕込んでおいたのだ。
ちょうど、彼が覗いているであろうあの窓が、画角の正面に収まるように。
何度もテストを重ね、完璧と言える配置にセットしてあった。
――私の部屋を覗く時、私もまた、そちらを覗いているのだ。
画面を凝視していると、予想通りにカーテンが揺れた。
私がベランダにいないことを確認した彼は、じりじりと窓に顔を近づけてくる。
画面に映ったのは、やはりあの男の子だった。
そして、普段は干されていない「獲物」を目にして、驚きに目を見開く表情まで克明に映し出されていた。
(ああ、私の下着が、あの子に見られてる……)
その状況に肌が粟立つようなゾクゾク感を覚えていると、画面の彼の様子がおかしくなった。
どうも、身体が小刻みに上下に揺れているように見える。
(もしかして……私の下着で、オナニーしてるの?)
窓に張り付くようにして洗濯物を凝視し、情けないほど恍惚とした表情で身を震わせている。
そんな彼を見ていると、私の手も、自然とスカートを捲り上げてパンツの中へと伸びていた。
最近は夫も仕事が忙しく、夜の営みはすっかりご無沙汰だった。
割れ目に指が触れた瞬間、驚くほどに熱く、そしてひどく濡れているのが分かった。
私の下着を見ながら自慰に耽る彼を見て、私もまた、彼を見ながら自慰に耽る。
前戯なんてどうでもよかった。
ただただ、疼くその穴に指を突っ込んでいた。
1本では物足りず、2本の指で膣内を激しく掻き回す。
クチュクチュと淫らな音が部屋に響いた。
スマホの画面を見ると、彼もいよいよ限界が近いのか、息の荒そうな顔をしている。
「い、いっしょに……っ」
その呟きと同時に、ビクンと身体が跳ね、脳裏が真っ白になるほどの快感が駆け抜けていった。
強烈な余韻に浸りながら、ゆるゆるとクリトリスと膣内を撫で回す。
ふとスマホに目を落とすと、画面の向こうの彼もまた、魂が抜けたような惚けた顔をしていた。
どうやら、彼も今、私と同じタイミングで絶頂を迎えたようだった。
翌日も同じように下着を干してみたが、あの時ほどの興奮は湧き上がってこなかった。
何度か繰り返し、そのたびにスマホの画面で彼を見ながら自慰をしてみるものの、やはりどこか物足りない。
人間、一度強い刺激を味わってしまうと、それ以下では満足できなくなるものらしい。
私は、次のステップへ進むしかないと確信していた。
土曜日のよく晴れた昼下がり。
彼が自分の部屋にいることをカメラで確認し、私は寝室へと移動した。
今、ベランダへ続く窓は、換気のために網戸一枚の状態にしてある。
そして、その手前には薄いレースのカーテンだけを閉めておいた。
網戸とレースのカーテン。
逆光でもない限り、向かいの彼の部屋からはこちらのシルエットが丸見えのはずだ。
だが私は、そんなことにも気づかず「カーテンを閉めているからプライバシーは守られている」と思い込んでいる、愚かな女。
その設定を徹底する。
私はクローゼットを開け、彼を監視するためのスマホをセットした。
そして、彼からしっかりと死角なく見える位置まで一歩下がると、今着ていたシャツのボタンを外し、床へ脱ぎ捨てた。
チラリとスマホの画面に目をやると、案の定、身を乗り出してこちらを凝視している彼の姿が映っていた。
無理もない。
散々あの子がオカズにしてきた下着を、私が今、直接身に纏っている姿がそこにあるのだから。
何度も夢に見、妄想したであろうその姿。
それがまさか、生で見られるとは思ってもみなかっただろう。
スカートのホックを外し、ストンと床に落とす。
これで私は、上下の下着だけを身に纏った姿になった。
普段の私は比較的ゆったりとした服を好むので、彼が私のボディラインをしっかりと目にするのはこれが初めてのはずだ。
さすがに「見られている」という強烈な意識のせいで、心臓の鼓動がうるさいほどに鳴り響いている。
私はそのまま、部屋の奥にある姿見の前へと移動した。
鏡の前で軽くポーズを取ってみたり、お腹の肉を少しつまんでみたりする。
さらに、腕を上げてワキのラインをチェックする仕草までしてみせた。
彼からすれば、一体何をしているのか理解できないかもしれない。
けれど、その「無防備な日常のひとコマ」こそが、何よりの毒になる。
一通り自分の体を確認し終えると、私は再びクローゼットへと戻り、一着の喪服を取り出した。
それをわざとゆっくりと肌に滑らせるようにして着ていく。
こうすることで、彼に「急な用事で喪服をフィッティングしているだけ」だと思わせるのだ。
またスマホの画面に目を落とした。
すると彼は、窓際で完全に立ち上がっており、その右手が激しく上下に動いているのが見えた。
肝心のおちんちん自体は見えなかったが、疑いようもなく、彼は今ここで私を見ながら猛烈にオナニーをしていた。
結局、彼の行為が終わるまで、私は数着の服を着替えて付き合ってあげた。
彼には決して見えていないだろうが、私の下着は、その時にはもうぐっしょりと濡れそぼっていた。
その後、何事もなかったかのように部屋を移動し、録画しておいた彼の動画を再生した。
それを貪るように見つめながらの自慰は、久しぶりに心の底から満足のいくものだった。
だが、果てる直前、画面の中の彼の表情に変化が見えたような気がした。
流石に何度も服のフィッティングをしていると怪しまれるので、それからは下着を干す程度に留めておいた。
数日後のこと、珍しく彼の部屋の窓が開け放たれていた。
何をしているのだろうと思って仕込みカメラを起動してみると、どうやら彼は机に向かって勉強をしているようだった。
(えらいえらい。将来のために、今のうちに勉強はしておいたほうがいいからね。)
勝手に覗き見している分際で、頭の中で上から目線の言葉をかける。
買い物へ行くために家を出ると、ちょうど隣の家の奥さんが打ち水をしていた。
「あらこんにちは。今日も暑いわねえ。」
「こんにちは。本当にそうですね、もうすっかり夏ですね。」
自然な流れで雑談が始まった。
この奥さんは引っ越してきた時からよくしてくれて、この町のルールなどをあれこれと教えてくれた恩人だ。
彼女のおかげでこの土地に早く溶け込めたと言っても過言ではない。
しばらく話しているうちに、ふと、向かいの彼の部屋の窓が開いていることを思い出した。
――これは、使える。
心の中で、ふっと悪い笑みが浮かぶ。
「実は、夫が夏休みに入ったら海かプールに連れていってくれるって約束しているんですよ。」
「あら、羨ましいわね。うちは旦那が泳げなくて、温泉以外の水はNGなのよ。」
あはは、と笑い合う。
「そういえば、水着は大丈夫? おばちゃんね、前にパートのみんなと水着着用のアミューズメント温泉に行こうとしたら、昔の水着が縮んじゃってて着られたものじゃなかったわよ。」
ナイスアシスト、と心の中で快哉を叫んだ。
これで、自然に次の予告を口にできる。
「そうなんですか? 私も昔買ったものしか持っていないから怖いですね。一度、試しに着てみようかしら。」
「そうね、早く確認したほうがいいわよ。もし着られなかったら、旦那さんに新しいのをおねだりしちゃいなさいよ。」
「そうします。うちの夫は日曜日が休みだから、土曜日に昔の水着を引っ張り出して確かめてみますね。教えてくれてありがとうございます。」
……ねえ、聞いていたかしら、君?
土曜日の予定は、ちゃんと空けておくのよ。
私は急いで実家に連絡を入れ、昔置いていった私の水着を速達で送ってもらうよう頼んだ。
翌日、実家から段ボール箱が届いた。
中を開けると、目当ての水着が入っていた。
「おいおい……水着を緩衝材代わりに使わないでよ。」
ありがたいことに、水着の隙間を埋めるように他の食材やらの仕送りもたくさん詰まっていた。
だが、ついでに実家に残したままにしていた古い下着まで入っている。
どうやら捨てるに捨てられなかったものを、いい機会だからとまとめて送ってきたらしい。
「なんか……ブラジャーやパンツに埋もれていたニンジンとジャガイモを調理するのは、ちょっと嫌だな……」
まあ、ありがたく今夜の予定であるカレーの具にさせてもらおう。
もちろん、夫には内緒で。
送られてきた水着は、前職を退職する時に同僚と行った旅行のために買った比較的新しいものから、「よくこんなの取っておいたな」と思うような古いものまで何着かあった。
(私の水着ファッションショー、楽しみにしていなさいね。)
日が落ちても、スマホの画面の中で真面目に机に向かっている彼に向かって、私はそっと呟いた。
土曜日は、朝から家中の換気をしていた。
不自然に思われないよう、開けられる窓は全て開け放っておく。
もちろん、向かいの彼もカメラで確認済みだ。
彼は朝からずっと、自分の部屋に籠っているようだった。
(よしよし、ちゃんと待機していて、えらいぞ。)
さすがに全ての水着を着るのは大変なので、私は数着を厳選してカゴに入れた水着を持って寝室へ向かった。
そして、ベランダへのサッシの内側にある薄いレースのカーテンを、シャッと音を立てて閉める。
薄いカーテン一枚でプライバシーが守られたと信じ込んでいる、愚かで無防備な人妻。
あの子の中での私は、まだその配役を完璧に演じている。
今回は、部屋の姿見の前にスマホをセットし、彼の動向をリアルタイムで見守れるようにした。
準備を整え、私は彼に気づかれないよう、そっと深く息を吐いた。
これから、あの子に私の全てを見せることになる。
その事実だけで、私の股間はすでにじんわりと熱く湿っていた。
まずはシャツを脱ぎ捨て、ズボンを下ろす。
久しぶりにあの子に見せる下着姿。
きっとこの一ヶ月、何度もあの日を思い出し、妄想の中で私を弄んで自慰行為に耽っていたであろう、その姿。
ある意味、これは前回の復習だ。
だが今日の目的は、あくまで水着の試着。
チラリとスマホを確認すると、案の定、身を乗り出してこちらを凝視している彼がいた。
だが、まだその右手は動いていないようだ。
(へえ……。もしかして、私のオールヌードを見るまで我慢しているのかしら。)
若いのだから、遠慮なんてせずに何回でも出してしまえばいいのに。
そんな無茶な注文を、心の中で彼にぶつける。
あまり彼を焦らすのも面白い……いや、よくないわね。
私はおっぱいを見せる……と見せかけて、先にパンツをスルリと下ろした。
画面の中の彼は、一瞬、驚いたような顔をした。
彼くらいの年齢ならば、まだ下半身よりはおっぱいの方に興味があるお年頃だろう。
しかも、この絶妙な距離と、網戸とレースのカーテンという、僅かながらも確実な壁がある。
私の1番恥ずかしいところまでは、はっきりとは見えないはずだ。
だからこそ、ここからブラジャーを外せば、はっきりと見えるであろうおっぱいは、今日のメインディッシュに据えておくつもりだった。
だが、ブラジャーを外す前に、私自身、やるべきことを思い出した。
それは、見せる機会が少なくなって、ここ最近はやや放置気味だった陰毛だ。
(これ、流石に少し処理しないとダメね……)
そう思いながら、私は指先で毛をつまみ、茂り具合を確認していた。
ふとスマホを確認すると、画面の中の彼は、もう一心不乱におちんちんをシコシコと扱いていた。
どうやらおっぱいを待つまでもなく、陰毛の処理を確認するだけの仕草でも、彼には十分すぎるほど刺激が強かったようだ。
初めて目の当たりにするであろう、大人の女性の恥ずかしい毛。
いくら遠目とはいえ、しっかり茂って黒々としているそれは、少年の目にどう映っていたのだろうか。
(待っててあげるから……早く、イッちゃいなさい。)
彼の最初の絶頂の供は、私の陰毛だった。
彼が果てる直前、私は体を捻り、正面から私の「全て」を見せてあげた。
その瞬間、画面に映った彼の顔は、この世の何よりも鬼気迫るものがあった。
彼の身体が激しく震え、肩で大きく息をしているのが画面越しに伝わってくる。
どうやら、無事に射精できたようだ。
その瞬間、私の秘部から太ももにかけて、ツーッと熱い雫が流れ落ちていくのを感じた。
それが溢れ出た愛液なのか、それともただの汗だったのかは分からない。
けれど、今までにないほどの強烈な興奮が私を支配していた。
スマホの中の彼は、慌ててティッシュを引き抜き、射精後の処理をしている。
だが、私は彼をここで休ませるつもりなんて毛頭なかった。
(――もう一度、射精させてあげる。)
私は彼に背中を向けるようにして、ブラジャーのホックを外した。
あの子の目には、私の無防備な背中から、遮るもののないお尻のラインがはっきりと映り込んだはずだ。
ちらりとスマホの画面を確認すると、案の定、彼はまたしても窓際に身を乗り出し、狂ったように手を動かし始めていた。
(若いって、本当にすごいのね……)
射精ばかりだというのに、もう勃起させて次の射精の準備に入っているのだから。
私はそのまま床にしゃがみ込み、カゴの中の水着を物色しているフリをした。
無防備に晒された、私の背中とお尻。
あの子は今、妄想の中でその背中にぶっかけるようにして、激しく腰を振っているのだろう。
画面の中で、再びビクビクと彼の身体が痙攣するように震えた。
本日、2度目の絶頂。
でも、私はまだ彼を解放してあげる気はなかった。
(本当に見たかったのは、これでしょう?)
心の中でそう呟くと、私は一着の水着を手にして立ち上がった。
彼の目には今、ずっと焦がれ続けたであろう、私の生のおっぱいが映っているはずだ。
彼は窓ガラスに張り付くようにして身体を乗り出し、射精したばかりのおちんちんを必死になって扱いている。
私はゆっくりと、まずは下の水着を穿いた。
そして、姿見の鏡におっぱいを写して確認しているような仕草を見せる。
下から露出したままの胸を持ち上げ、その柔らかさを誇示するように、フニフニと自分の手で揉み解した。
(これで、私のおっぱいの柔らかさが伝わるよね?)
意識しすぎて、私の乳首はすでに痛いほどにガチガチに勃起していた。
私はその先端を、指先でそっとつまんでみる。
「っ……あ!」
不意に、身体がビクンと跳ね上がった。
ただ自分の乳首をつまんだだけなのに、脳裏を電流が走り、信じられないことに私自身が軽く絶頂を迎えてしまったのだ。
私は鏡の中で、少し照れくさそうな表情を作ってみせる。
あの子にどこまで伝わっているかは分からない。
けれど、「ちょっと自分の胸に触ったら、思いのほか過敏に反応してしまった可愛い女」――そんな新たな役割を、私は快感に震えながら演じ続けていた。
彼は必死に股間を扱き続けているようだが、流石に3度目の射精にはまだ至らないようだ。
私は水着の上も身に着け、前職の同僚と旅行へ行った時の水着姿になった。
姿見の前で軽くポーズを取って鏡を眺めてみる。
どうにか当時のままの体型は維持できているようで、一安心だ。
(でも、せっかくだから新しい水着は買ってもらおうかな。)
そんな調子のいいことを考えていると、画面の中の彼の動きが少しずつゆっくりになっていることに気がついた。
どうやらあの子は、次の、そしておそらく最後になるであろう一回を、私のおっぱいを見て果てたいと考えているらしい。
私はまた彼に背中を向けるようにして、今着たばかりの水着を脱いだ。
やはり、彼の手は動かなかった。もう、私の裸の背中やお尻だけでは物足りなくなっているのだ。
贅沢な子ね、と心の中で苦笑する。
そして、持って上がってきたカゴの中から、例の「あれ」を取り出した。
紺色のワンピース。
なぜ今まで実家に大切に保管されていたのか自分でも分からない、学生時代の遺物。
――そう、スクール水着である。
母親から送られてきた中で一番驚いたこの水着を、私は今、向かいの彼のために着ようとしている。
どうにか足を通してみるものの、やはりお尻のあたりが猛烈にきつい。
身長自体は当時とそこまで変わっていないはずなのに、肉体そのものが完全に「大人の女」へと成熟してしまった結果だろう。
決して太ったわけではない、と自分に言い聞かせる。
頑張ってきつい布地を引き上げ、肩紐を通し、どうにか無理やり身体を押し込むことができた。
鏡に映ったその姿はあまりにもパツパツで、爪楊枝で突ついたらパチンとはじけて飛んでいってしまいそうだった。
10年以上ぶりに身に纏ったスク水。
「バカみたいな格好だなあ」と思いつつも、悪ノリのついでに、ドレッサーにあったヘアゴムで髪を当時のように高く結い上げてみた。
そこに映っているのは、どう考えてもどうかしている25歳の女でしかなかった。
自嘲気味に苦笑しつつ、ふと思い出したようにスマホの画面に目を落とした。
――するとそこには、先ほどまでの停滞が嘘のように、一心不乱に股間をシコシコと激しく扱き狂っている彼の姿があった。
(おいおい……。スク水フェチだったの? それとも、もしかして私が、あの子の性癖を完全に壊しちゃったのかしら?)
彼の手の動きはどんどん高速になり、3度目の絶頂が目前に迫っているようだった。
「ふぅ……」と私は軽くため息をつき、パツパツに張ったスク水の肩紐を、指先でそっと外した。
ポロン、と弾けるように飛び出す、当時よりも大分ボリュームを増した、大人の質感のおっぱい。
その瞬間、画面の中の彼の目が見開かれ、身体を大きく激しく痙攣させた。
どうやらあの子は、私のこの身体のせいで、短時間のうちに3度も絶頂を迎えさせられたようだった。
「これ以上は、さすがに身体に毒よね……」
そう静かに呟き、私は水着とスマホを抱え、寝室を後にした。
胸の奥まで、言葉にできないほどの大満足感で満たされていた。
だが不思議なことに、前回とは違って自分自身で自慰をする気にはなれず、私はそのまま何食わぬ顔で日常の家事へと戻っていった。
ただひとつだけ。
彼が最後に果てた瞬間、画面の向こうで見せた、なぜか「勝ち誇ったような不敵な表情」が、いつまでも妙に胸に引っかかっていた。
それからしばらくの間、私はおとなしくしていた。
というのも、旦那の仕事が急に忙しくなり、そのサポートに奔走していたからだ。
専業主婦の身とはいえ、生活のリズムが変わればやることはいくらでもあった。
そしてある日のこと、旦那が早出をするというので、いつもよりさらに早く起きてお弁当を作った。
しっかりと旦那を見送ることができた。
私は極力、旦那が外で働いている時間帯は、自分も家事で動き続けることにしているのだ。
だが、連日の疲れと寝不足がたたり、さすがに頭がフラフラとしてしまった。
旦那には申し訳ないけれど、今日だけは少しだけお昼寝をさせてもらおう。
例の2階の寝室に布団を敷き、タオルケットにくるまると、すぐに意識をシャットダウンした。
平日の昼下がり、開け放った窓から気持ちのいい風が入ってくる寝室。
ふと気がつくと、あたりは日が沈みかけていた。
慌ててスマホを確認すると、もうすっかり夕方といえる時間だった。
「やってしまった……。さすがに寝過ぎだわ……」
その時、旦那からメッセージが届いていることに気づいた。
今日も帰りは遅くなりそう、とのことだった。
今も必死に頑張って働いている旦那に対して、激しい罪悪感が湧き上がってくる。
私はポチポチと申し訳なさそうに返信した。
『ごめんなさい、あなたが頑張って働いているのに、私、お昼寝してしまいました。晩ご飯はちゃんと用意しておくので、食べたいものがあったら言ってね。』
すると、忙しいはずなのに、すぐに返信が返ってきた。
『疲れているときはゆっくり寝ちゃっていいよ。無理に僕の時間に合わせる必要はないからね。あと、カレーが食べたいな。』
その文面に、思わずクスリと笑ってしまう。
やっぱり、この人と結婚できて良かったな、と心から思った。
温かい気持ちのままメッセージアプリを閉じようとした時、手元が狂って、指が別のアプリに触れてしまった。
それは――あの向かいの少年を監視するための、隠しカメラのアプリだった。
何気なく画面を見てみると、そこには、じっとこちらを凝視している彼の姿が映っていた。
私は息を呑んだ。
今日は平日だ。
夕方とはいえ、まだ学生が下校して自室にいるような時間ではないはず。
動揺して視線を泳がせていると、ふと壁のカレンダーが目に留まった。
今は7月の末。
(そうか……もう、夏休みに突入していたんだ。)
彼との間を遮るものは、網戸一枚しかなかった。さすがに無防備すぎた。
一体いつから、あの子は私が眠っている姿を見ていたのだろう。
私が目を覚まし、スマホをいじり始めてもなお、画面の中の彼の視線はこちらにロックオンされたままだった。
さすがに少しまずい気がしてくる。
だが、そんな理性の心配とは裏腹に、私のお腹の底には、どろりとした熱い何かが生まれつつあった。
前回の水着のフィッティングから、今の今まで、私はずっとご無沙汰だったのだから。
私は無意識のうちに、タオルケットの中に右手をつっこんでいた。
彼が見つめているその目の前で、自分の大事なところに指を触れる。
今までにないほど熱く、熟れきっているそこ。
もう、止められるわけがなかった。
開け放たれた窓。そこにあるのは、たった一枚の網戸。
そして、夕風にたなびき、私を隠すことを完全に忘れたレースのカーテン。
私は彼にこれ以上ないほど見せつけるように、その場所で、激しく手を動かし始めた。
タオルケット越しに、クチュクチュと淫らな水音が部屋に響く。
身体はタオルケットで隠されてはいるが、あの子には私が今、何をしているのか完全に理解しているはずだ。
スマホの画面で確認すると、彼は驚愕の表情を浮かべていた。
それはそうだろう。
もしかすると、女性が本当に自慰行為をするなんて、夢にも思っていなかったのかもしれない。
だが、そんな少年のピュアな動揺すら、今の私にとっては極上の興奮の糧にしかならなかった。
(あなたも……早くオナニーしなさい……)
そんな私の気持ちが通じたのか、画面の向こうの彼は、いそいそと準備を始めて右手を動かし始めた。
その姿を見て、私の口角が自然と緩んでいく。
私はそっと、穿いていたスウェットとパンツを足元へ脱ぎ捨てた。
大きく足を開き、タオルケットの中でさらに激しく指を動かす。
スマホの画面であの子の姿を見続ける。
彼からすれば、私はスマホでエッチな動画でも見ながら自慰をしているように見えているのかもしれない。
まさか、その画面に映っているのが自分自身だなんて、思いもしないだろう。
彼のオナニーをする姿をオカズにして、私もオナニーをする。
そのあまりにも倒錯した背徳感に、快感がどこまでも積み上がっていく。
彼の絶頂が近づくと共に、私の限界も近づいていく。
そして――私は、身体を覆っていたタオルケットを思いっきり剥ぎ取ってしまった。
大きく開かれた両足。
私を隠すものは、もう網戸一枚しかない。
女性として絶対に隠さなければいけないその神聖な場所が、夕暮れの光の中に完全に晒されてしまった。
そして、彼に見せつけるように、自らそこをクパッと指で押し開く。
そのあまりに大胆な光景に、彼は手を動かすのも忘れてしまったかのように、完全に凝視したまま固まっていた。
おそらく、生まれて初めて生で目にするであろう、大人の女性の本当の姿。
あ然とする彼を尻目に、私は自分のクリトリスに指を触れた。
優しく愛撫してあげたいのに、昂った身体がそれを許さない。
クリトリスを激しく弄りつつ、もう片方の指を器用に膣内へと突き刺した。
「っ、うふ……!」
喉の奥から声が漏れる。
一度入った指は、もう自制を失って止まってくれない。
クチュクチュという淫らな水音が、開いた窓から吹き込む夕風に乗って流れていく。
「……あ、ああ……んっ!」
恥ずかしい声が漏れてしまう。
もしかしたら、向かいの彼にも届いてしまっているかもしれない。
いや、むしろ聞いて欲しかった。
この、あなたのために鳴らしている淫らな声を……。
快楽に溺れながらスマホに目をやると、彼は我に返ったように必死で手を動かしていた。
どうやら、停止していた思考がようやく動き出したらしい。
私も、もうイキそうだ。
私は指を、自身の奥深くへと、これ以上ないほど深く突き込んだ。
「……あ、あっ、あ……イッ……くぅ!」
腰がビクンと大きく跳ね上がった。全身が歓喜に震える。
あの子に見せつけるように、私の腰は思いっきり宙へと持ち上がっていた。
そして、一筋の熱い液体を吐き出しながら、ゆっくりと布団に沈み込んでいく。
画面の向こうの彼も、どうやら同時に絶頂を迎えてくれたようだった。
跳ね上がった腰が再び布団についた時、私はある重大な「気持ち悪さ」に気がついた。
「うわ……お布団、べちょべちょ……」
旦那が帰ってくるまでに、どうにかして洗濯して乾かしておかないとダメだな……と、一気に現実に戻って軽く絶望してしまった。
アプリを消そうと画面に目を落とした時、絶頂を迎えて放心しているはずの彼が、不敵な笑みを浮かべているのが見えた。
――そうか、やっと分かった。
あの時、彼が見せていた表情の違和感の正体が。
きっと彼は、私のこの激しい痴態を見て、私を「征服した」と思っているのだ。
なんなら、自分があのお姉さんを手に入れたのだと、勝ち誇っているのだろう。
「……ふふ。」
私は小さく鼻で笑った。
そのまま布団から起き上がると、下半身を丸出しにしたまま、堂々とその寝室を後にした。
エピローグ
その日の夜、私は旦那におねだりをした。
普段滅多に物をねだることのない私が、それなりに金額の張るものを求めたので、彼はひどく驚いていた。
けれども、それと同時にどこか嬉しそうでもあった。
「僕も頑張って稼ぐからさ。これからはもうちょっと、色々欲しがってもいいんだよ。」
そんな言葉も素直に嬉しかったけれど、今の私が欲しいものは、これだけだった。
数日後、それが我が家に届いた。
配達のお兄さんに汗を流して頑張ってもらい、どうにか寝室へと運び込み、設置が完了した。
それは――二人でもゆったりと眠れる、大きなキングサイズのベッドだった。
狭いアパートには不釣り合いだったかもしれない。
その日の夜、私は初めて自分から旦那をベッドへと誘った。
いつもは私からではなく旦那が主導だったので、やはりここでも驚かれてしまった。
それでも旦那は優しく受け入れてくれて、その温もりが心の底から愛おしかった。
私が本当に欲しかったものは、キングサイズのベッドではなく、この愛情だった。
愛し合う前、私は大きなベッドの横の窓際に立ち、旦那の首に手を回して抱きしめた。
窓には相変わらず、薄いレースのカーテンが引かれているだけ。
そして、私はそっと旦那の唇に、深く口づけをした。
(ねえ……見ているんでしょう? 私は、あなたの物にはならないのよ。どれだけ恥ずかしいところを覗られたとしても、あなたが私を手に入れることなんて、絶対にできないの。)
おそらく、暗闇に紛れて窓際から必死にこちらを覗いているであろう彼に向けて、見せつけるような大人の長い深い口づけ。
すでに監視用の隠しカメラは外してしまっているので、彼が本当に今、その窓際に立っているのかは分からない。
けれど、確信はあった。
あの子の視線が、今もこのレースのカーテンを突き破るように注がれているという、確固たる核心が。
長い長い抱擁と口づけが終わると、私は旦那に微笑みかけ、そっと窓際に歩み寄る。
そして、この物語の幕を下ろすように、ゆっくりとカーテンを閉めた。
END


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