【創作羞恥小説】泌尿器科へ行こう

創作羞恥CFNM

失敗した。
人生で初めて、ちゃんと付き合えた彼女だった。デートを重ねて関係は順調に進み、ついにそういう雰囲気になった。
なのに――勃たなかった。

彼女は「大丈夫だよ」「疲れてたんだよ」と優しく慰めてくれた。責めるようなことはひと言も言わなかった。
それが逆に辛かった。あまりにも情けなくて、男としての自信が音を立てて崩れていくのを感じた。

その日以来、自分で触れても反応が鈍くなった。
やっとの思いで勃たせても、彼女が触れた瞬間に萎えてしまう。
まるで身体が、彼女を拒絶しているかのように。

彼女にだって申し訳ない。
きっと彼女も、自分のせいじゃないかと悩んでいる。そんなことはないのに。
悪いのは俺の身体だ。

……このままじゃダメだ。
彼女を、そして自分を傷つけ続けるだけだ。

意を決して、俺は泌尿器科を受診する決意をした。
恥ずかしい。とても恥ずかしい。けれど、それでも――このままでは終われない。


せっかく泌尿器科に行くのだから、ついでに気になっていることも聞いてしまおう。
悩みはいくつかある。

まず、最近どうにも頻尿気味だ。
日中もトイレの回数が増えた気がするし、夜中も尿意で何度か目が覚めてしまう。地味だが確実に生活の質が下がっている。

そして……包茎。
一応、手で剥けるし、問題ないはずだとは思っている。でも、どうせ診察で見せることになるなら、この機会にちゃんと聞いておくのもアリかもしれない。
彼女には「ちょっと皮多めかもね」なんて笑われたが、あれは冗談だったのか、本気だったのか。

……というか、今さらながら、誰と比較しての話だったのだろう。
いや、彼女が経験済みなのは知っている。知ってはいるが、あまり深く考えすぎると、嫉妬の炎で心が焼け焦げてしまいそうになる。危険だ。闇落ちする前に話を戻そう。

モヤモヤを振り払うように、スマホで近所の泌尿器科を検索した。
「そもそも、EDも泌尿器科でいいんだよな? 下半身の問題=泌尿器科、っていう安直な判断だけど……」
そんなことを考えながら調べてみると、自転車で20分ほどの場所に、評判の良さそうなクリニックを見つけた。

「ふんふん、色々あるんだな……」
診察案内には、男性の症状として頻尿、残尿感、陰嚢や陰茎の違和感などが並び、しっかり「ED治療」の文字もあった。
どうやらEDは自費診療になるらしいが、ちょうどバイト代が出たばかりで、金銭的には余裕がある。

「よし、行ってみるか。」

その日のうちにWEB予約を済ませ、一週間後の診察が決まった。


ついに当日になった。
予約は昼前。それなのに、やけに早く目が覚めてしまった。
朝から落ち着かず、そわそわしっぱなしだ。

とりあえずシャワーを浴び、念入りに体を洗う。
そして、陰毛もきちんと整えた。わざわざネットで購入した“陰毛用のヒートカッター”を使って、診察時に見えやすいように形を整えるあたり、自分でも気合いが入っていると感じる。

パンツ越しに、元気のない我が息子を見下ろして、思わず小さくつぶやいた。

「必ずお前を一人前にしてやるからな。」

どこかで「僕もがんばるよ」と返されたような気がして、そんな自分に少しだけ笑ってしまった。

ついに家を出る時間になった。
「30分前には着いていたほうがいいよな。」
そんな気持ちから、予約の一時間前には家を出た。

病院に到着してみると、想像以上に綺麗なクリニックだった。
白を基調としたガラス張りの建物で、院内も清潔感にあふれている。

自動ドアが開く。
中に入って受付を見た瞬間、思わず息を呑んだ。

若くて可愛らしい女性たちが、笑顔で受付や案内をしている。
看護師と思しき制服姿の女性も、みな美人ばかりだ。

(泌尿器科の看護師さんって……こんなに美人だらけなのか。)

予想外の光景に、少し気圧されるような感覚を覚えた。
羞恥心が、一気に現実味を帯びてのしかかってくる――。

「あ、あの、11時から予約していた松下です。」

受付に声をかけると、マスク越しでも可愛らしい印象を受ける女性が顔を上げた。

「はい、松下啓介様ですね。保険証かマイナンバーカードをお願いします。」

そういえば、今はマイナ保険証も使えるんだったな。
だが、まだそちらの登録はしていなかったため、素直に保険証を取り出して手渡した。

「ありがとうございます。では、こちら問診票の記入をお願いします。一枚目が当院の受付票となっております。二枚目は現在のお悩みについてですが、内容によっては一部、自費診療になるかもしれませんがよろしいでしょうか?」

二枚目のお悩み――EDのことだろう。
自費診療になるのは承知の上だ。覚悟はできている。

「はい、問題ありません。」

「かしこまりました。それでは一枚目と二枚目、両方ご記入ください。それと、お小水の検査もございますが、問診票の記入が先でよろしいですか?」

尿検査か。
頻尿といっても、今すぐ漏れそうなわけじゃないし、先に問診票を済ませることにする。

「はい、問診票からで大丈夫です。」

「承知しました。では、書き終わりましたらお持ちください。その際に検尿カップをお渡しいたします。」

手渡された問診票を持ち、近くの空いている椅子に腰を下ろした。
周囲を見渡しながら、ふと気づいたことがある。

(泌尿器科って、男のための病院だと思ってたけど……女性、意外と多いな。)

感覚的には、患者の半分以上が女性だ。
どこか違和感を覚えたが、そのときは特に深く考えることもなく、すぐにペンを動かし始めた。

――今にして思えば、このときの違和感をもっと重く受け止めておくべきだったのかもしれない。
だが、どのみち逃げ場などなかった。

問診票を書き終え、検尿を済ませたあと、再び待合室の椅子に座って名前が呼ばれるのを待つことにした。

平日とはいえ、思っていた以上に患者の数は多かった。
とはいえ、早めに到着していたので焦ることはない。
自分の悩みは時間がかかるだろうし、順番が来るまではのんびり待つつもりだった。

そう思いながらスマホを手に取り、画面を眺め始める。
ほどなくして、ついに自分の番号が呼ばれた。

「20番の患者様、中待合室でお待ちください。」

案内の声に立ち上がると、受付の奥にあるドアが開き、その先には細長い廊下が続いていた。
廊下の途中にはいくつかの椅子が並べられていて、どうやらここが“中待合室”らしい。
それぞれの診察室に入る前の待機場所、ということだろう。

空いている椅子に腰を下ろし、あらためて周囲の様子をうかがう。
ここでもすぐに診察というわけにはいかず、しばらく待たされることになった。

どうやら、予約患者と当日受付の患者が混在しており、診察の内容によって順番が前後するらしい。
症状が軽く、短時間で済みそうな人は先に通してしまうようだった。

(……長い戦いになりそうだな。)

そんな覚悟を決めてから、さらに20分ほどが経過した頃――
再び自分の番号が呼ばれる。

立ち上がり、ゆっくりと歩いていくと、ちょうど目の前の診察室のドアが開かれた。

中に入ると、そこにはマスクをつけた女性が待っていた。
年齢は30歳前後だろうか。スクラブを着た姿はすっきりしていて、黒髪を後ろでまとめた知的な印象を与える。

顔の下半分は見えなかったが、目元が印象的で、どこか柔らかさもある。

「こちらへどうぞ。」

そう言って、診察室の中央にある椅子を指さしながら促してくれる。

軽く会釈をしてから、その椅子に腰を下ろした。

「看護師の藤本です。よろしくお願いします。」

そう名乗った女性は、黒髪を後ろでまとめた清潔感のある看護師だった。
落ち着いた口調と柔らかい目元に、少しだけ緊張が和らぐ。

「あ、はい、松下です。よろしくお願いします。」

思わず声が上ずってしまい、自分でも少し焦る。

「松下……啓介様ですね。今回が初めてですよね?」

「はい、初めてです。」

丁寧でやさしい対応に、気負っていた気持ちが徐々にほぐれていく。
話しやすくて、どこか安心感のある女性だ。

「えーと、今回は“尿の回数が多い”“残尿感”“尿の漏れ”、そして“ED”についてですね。」

「はい、そうです。」

ここまでは問診票に書いておいた内容だ。

「残尿感は、いつ頃から感じていますか?」

「はい、頻尿気味で……トイレに行ったあとも、なんだか残っているような感じが続くんです。
……それと、ちょっと恥ずかしいんですが、排尿のとき、皮を剥いて出すんですが……少し締め付け感があって。」

「なるほどですね。包茎の具合が強い場合は、尿の出口がすぼまってしまって、排尿時に先がぷくーっと膨らんでしまうこともあるのですが……そういうことはありますか?」

「あ、それはないです。一応、剥けますので。」

ここで、ふと考える。
この流れ――診察の話に入った今が、言い出すチャンスかもしれない。

「あの……もしよければ、包茎の具合も念のために診てもらえますか?」

「はい、わかりました。あの、直接拝見させていただく形になるのですが……
本日の担当は女性の医師ですけれども大丈夫ですか?」

「……えっ?」

思わず間抜けな声が出てしまう。
女性……たしかに、待合室には女性の患者も多かった。
もしかしたら、この病院は――いや、考えている時間はもうない。

「大丈夫です。」

覚悟を決めて、しっかりと返した。

「ありがとうございます。ではこのあと、残尿感があるということなので、まずは膀胱の中をエコーで確認させていただきます。すぐ呼ばれると思いますので、一度中待合室でお待ちくださいね。」

そう言って、藤本看護師は柔らかな笑顔を浮かべて見送ってくれた。

まずは……最初の壁を突破した。

エコー検査も、やはり美人の看護師だった。
ただ、診察台の上に横になり、ズボンを腰あたりまで下げるだけの簡単な検査だったため、思ったほどの羞恥は感じなかった。
必要最低限の露出と、看護師の淡々とした対応もあって、検査自体はすんなりと終わった。

だが――
そのあと、ついに“本番”がやってきた。

「20番の患者さん、診察室へどうぞ。」

一度深呼吸をしてから立ち上がり、診察室のドアをノックし、中へ入った。

そこにいたのは、白衣をまとった女性医師だった。

茶色の髪を後ろでまとめたセミロング、やや派手な印象のメイクとネイル――
ぱっと見では少しけばい印象を受けるものの、瞳には落ち着きがあり、仕事に対する真剣さがにじんでいた。

「浅野です。よろしくお願いします。」

マスク越しでも分かる笑顔で、自然に挨拶してくれる。

(ああ……この人が“浅野”先生。だから浅野泌尿器科なんだな。)

当たり前のことに、今さら妙に納得してしまう。

「えーと、症状はいくつかあるようですが……まずは先に、診察させてもらってもいいですか?」

いきなり来たか。
けれど、ここまで来たからには逃げるわけにはいかない。

「はい、わかりました。」

「では、こちらのベッドに腰掛けてください。紙を敷いておきますね。
ズボンと下着を下ろして、見せていただけますか?」

促されるまま診察台のそばに立ち、敷かれた紙を見つめながら小さく息をのむ。
そして、震える手でゆっくりとズボンとパンツに指をかけ、腰まで下ろす。

下着のゴムが太ももに触れた瞬間、緊張が肌に染み込んでくるようだった。

浅野先生は変わらぬ表情で静かに待っている。
一度深呼吸をしてから、紙が敷かれた診察台に腰を下ろした。

促されるまま診察台のそばに立ち、敷かれた紙の上に目をやる。
深く息をつき、震える手でズボンとパンツを静かに下ろす。
太ももあたりで止めるようにしながら、再び浅野先生の顔を見た。

先生はマスク越しに微笑みながら、何も言わずに頷いた。
この状況でも、表情を変えずにいてくれるのがありがたく、同時にどうしようもなく恥ずかしい。

そのまま診察台に腰を下ろすと、敷紙のひんやりした感触が肌に伝わった。

「では、診察に入ります。手は横に置いてくださいね。」

気づけば、自分の両手は股間を庇うように置かれていた。
言われたとおり、そっと横にずらす。

その瞬間、縮こまった性器が女医の視線の中にさらされる。

「では、ちょっとめくりますね。」

そう言って浅野先生は静かに膝を折り、目の前でしゃがみ込む。
その動作ひとつで、心臓がバクバクと高鳴る。

白衣の袖口からのぞく指先が、何のためらいもなく性器に触れ、包皮をつまむと、
するり――と、皮を剥いた。

小さく縮んだ亀頭が、恥ずかしげに顔を出す。
女医の顔と視線の高さが、そこに真っ直ぐ向いているのを意識するだけで、頭がくらくらした。

「おしっこをするとき、包皮が締め付けられる感じがあるんですね?」

先生は確認するように、包皮を何度かつるり、つるりとめくったり戻したりした。
その手つきはあくまで冷静で、診察の一環でしかない。

だが、自分の感覚はそうもいかない。
今まさに、目の前の美人女医の手で、性器が触れられ、観察されているのだ。

それでも、情けないことに、反応はまったくなかった。

「なるほど。わかりました。もうズボンは戻していただいて大丈夫ですよ。」

その言葉に、ほっとしつつも急いで下着とズボンを引き上げる。
羞恥と緊張が、じわじわと体温のように残っていた。

ズボンを戻したあと、浅野先生の手の合図に従い、隣にある椅子へと移動した。
椅子に腰を下ろすと、先生はパソコンに何か入力しながら、こちらを見ずに口を開いた。

「まず、包茎の程度ですが――全く問題ありません。仮性包茎といって、日本人に最も多いタイプです。皮もつるんと剥けましたし、特に手術の必要はないでしょう。」

よかった。
心の底から、そう思った。
どこかで手術を勧められるかもと構えていた自分にとって、その言葉は安心感につながった。

だが――

「少し陰茎のサイズが小さいため、包皮が余っているように感じやすいのかもしれませんね。」

一瞬、言葉の意味をうまく飲み込めなかった。
けれど、すぐに理解した。

(小さい……って、僕のが?)

「……あの、僕の、それ……サイズが小さいんですか?」

気づけば、声が出ていた。
質問というよりも、確認せずにはいられなかった。

浅野先生は、一瞬だけ目を見開いたように見えたが、すぐに表情を引き締めて言った。

「はい、平均よりも少し小さめですね。ですが、病的というほどではありませんし、治療が必要なサイズではありません。」

ああ――病気ではない。ただ小さいだけ。
それが一番刺さる。

「性交渉に支障のあるサイズではありませんので、あまり気にしないようにしてください。
陰茎の大きさも、個人差の一つですから。」

そう言われても、簡単に割り切れるものではなかった。
先生の声は優しく、内容も的確で、何ひとつ間違っていない。
それでも、“小さい”という言葉だけが頭の中で繰り返される。

沈黙してしまった僕を見て、先生はわずかに息を吐いた。

「……では、サイズを測りましょうか。実際に数値を知っておくのも、参考になるかもしれません。」

それ以上何も言えず、頷くしかなかった。

「さっきと同じように、紙を敷いた上に座って、ズボンと下着を下ろしてくださいね。」

再び診察台へ戻り、手早くズボンとパンツを下ろす。
浅野先生は机の引き出しから、計測用のノギス――恐らく電気ノギスだろう――を取り出していた。

「もう一度、めくりますね。」

さっきと同じ言葉。
「剥きます」ではなく「めくります」。
その柔らかい響きが、なぜか耳に残る。

包皮が、再びつるんと剥かれた。
先生の手は冷静で、動きに無駄がない。

「では、計ります。」

ノギスの先端が開き、冷たい金属が肌に触れる。
デジタルの画面が、小刻みに数字を刻んでいく。

「……5センチですね。確かに平均よりは少し小さいですが、統計的には範囲内です。全く問題ありません。」

(……下振れってやつか……)

なんとも言えない気持ちになったが、それでも先生の声色は変わらず優しかった。

「ありがとうございます。」

さっきよりは、少しだけまっすぐにお礼が言えた。

「男性は、少し大きさを気にしすぎですね。」

そう言いながら、剥かれた包皮を、先生の指がつるんと戻した。

その瞬間――
ひゅん、とした感覚が股間を駆け抜ける。
冷たいというよりは、くすぐったさのような、でもそれとは違う。

言葉では説明できない、奥のほうからにじむような刺激だった。

(……今の、なんだ……)

先生は何も言わず、あくまで診察の一環として手を引いた。
その冷静さと、何気ない一動作が、妙に記憶に残ってしまった。

「せっかくズボンを脱いでいただいてますし、少し睾丸も触診しておきましょう。」

浅野先生がそう言いながら、再び目の前にしゃがみ込んだ。
真顔で、何のためらいもなく。

「失礼します。」

やわらかな声とともに、先生の手が、そっと睾丸に触れる。
冷たくはないが、しっかりとした圧があり、明らかに“診られている”という感覚が伝わってくる。

気持ちよさがまったくないとは言えない。
それでも、男の最も繊細な部位を女性に触れられるという状況に、緊張の方が勝っていた。

「……はい、睾丸は大きめですね。ただ、肥大しているというわけでもなさそうですし、問題はなさそうです。」

そう言いながら――
なぜか浅野先生は、包皮に指を添えると、再び“つるん”と剥いた。
そのまま、もう一度。そしてもう一度。

合計三度、何の前触れもなく、剥いて、戻して、また剥いた。

それだけの動作。
なのに、そのたびに、下腹部の奥からじわじわと血が集まるような感覚が走る。
脳では拒絶しようとしているのに、身体のほうが勝手に反応していく。

「……なるほど。」

短くそう呟くと、浅野先生はすっと立ち上がった。

「では、もう一度ズボンを履いていただいて、椅子の方へどうぞ。」

あわてて下着とズボンを引き上げ、先生の前の椅子へと戻る。
座ったとき、自分でもわかるほど、心臓の鼓動がまだ早かった。

「今、実際に触れてわかりましたが――EDの原因は、ほとんど心理的なものだと思います。」

静かな声だった。
責めるでもなく、ただ、優しく、はっきりと告げられる。

「何かしらのきっかけがあれば、勃起反応は出るはずです。薬を使えば確かに反応は出ますが、無理に使う必要はありません。むしろ“自分は大丈夫”だと実感することの方が、ずっと効果的ですから。」

……そうなのか。
心の奥に、少しだけ光が差したような気がした。

けれど、それでも頭の中には残る。

――どうすれば、“そのきっかけ”を見つけられるのか。

それが、まだわからなかった。

「先ほど問診を担当した看護師の藤本を、覚えていますか?」

浅野先生がふとそう尋ねてきた。
もちろん、覚えていないはずがない。
黒髪をすっきりまとめた、落ち着いた雰囲気の美人看護師だった。

「この件に関しては、彼女のほうが力になれるかもしれません。」

一瞬、意味が飲み込めなかった。
けれど、先生の口調はあくまで真剣で、冗談ではないとすぐにわかる。

藤本さんか――
実を言えば、浅野先生よりも好みのタイプだった。
さっぱりとしていて、清潔感があり、それでいて親しみやすい笑顔。
もちろん、浅野先生も十分に魅力的ではある。だが……

「では、個室を用意いたします。彼女と、少し対話してみてください。」

そう言って、浅野先生は電話を取り、どこかへ内線をかけた。
手早く要件を伝えると、すぐに診察室の扉がノックされる。

「失礼します。……ちょうど第2診察室が空いています。そちらへご案内しますね。」

入ってきたのは、まさしく藤本さんだった。
マスク越しでも凛とした目元が印象的で、制服のスクラブがよく似合っている。

「……ありがとうございます。」

一礼し、席を立つ。
一歩一歩、藤本さんの後についていく足取りに、自然と力がこもっていた。

――この対話がうまくいけば。
勃起できるかもしれない。
そして、彼女とも……また一歩、前に進めるかもしれない。

浅野先生にお礼を言い、第2診察室の扉をくぐった。


「検査はどうでしたか? 頻尿に関しては、お薬を出しますので、経過観察ですね。」

第2診察室に入ると、藤本さんは手元の紙を見ながら、いつも通りの落ち着いた声で話し始めた。
その声に、少し緊張していた自分の肩がふっと軽くなる。

「包茎は……見てもらえましたか?」

恥ずかしさはあったが、素直に話すことにした。
仮性包茎で問題はないこと。
ただ、サイズが小さいために、包皮が余って見えるらしいこと。

「なるほど。浅野先生って、真面目なので……つい、正直に話してしまうところがあるんですよね。」

藤本さんはそう言って、少しだけ笑った。
口元はマスクで隠れていても、目元がふわっと緩んでいるのがわかる。

再び紙に目を落としながら、声のトーンを少し下げた。

「……EDの方は、いかがでしたか?正直、なんで私が呼ばれたのか、よくわかってないんですけど……」

眉を寄せて困ったように笑うその顔は、どこか申し訳なさそうで、それでも優しかった。

(……やっぱり浅野先生、何も言わずに呼んだのか)

「僕もよくわかってないんですが、EDの原因は心理的なものらしくて。薬を使うより、まず“藤本さんと話してみて”って……」

そう伝えると、藤本さんはほんの一瞬だけ黙り、何かを考えるように視線を落とした。

「……なるほど。浅野先生の意図、少しわかった気がします。」

再び視線を上げ、今度はまっすぐこちらを見て言った。

「では、私も――確認してみたいと思います。」

……確認? 何を?
そう思った次の瞬間、診察台の上に、さっきと同じように紙が敷かれる。

「では、ズボンとパンツを脱いで、こちらにおかけください。」

藤本さんは、いつも通りの口調でそう言うと、マスク越しに微笑んだ。
その表情には、医療者としての落ち着きと、どこか不思議な安心感があった。

(……仕方ないか)

反抗する理由も、意味もなかった。
指示に従って、静かにズボンとパンツを脱ぎ、紙が敷かれた診察台に座る。

目の前には、黒髪をまとめた藤本さん。
その姿に、正直――少し妙な期待感があった。

「……よろしくお願いします。」

そう小さく呟いた声が、思ったよりも高く響いて聞こえた。

「では早速、包茎の方を見させていただきますね。」

そう言いながら、つるんと包皮を剥いた。そして、すぐに戻した。

「はー、立派な包茎ですね。」

その言葉に、少しぴくっと反応した。
剥いては戻し、剥いては戻す。

「なるほど、なるほど。」

何が「なるほど」なのだろうか。

「確かに小さいおちんちんですね。浅野先生が指摘しちゃうのは仕方ないです。」

また小さいと言われ、ショックを受ける――そう思ったのに、少しずつ血液が集まっていくような感覚に襲われた。

「昨日、小学生の男の子が亀頭包皮炎で来院したのですが、その子の方が大きかったですね。」

なんだろう、この感覚……。
ひどいことを言われているはずなのに、興奮している……。

「女性の前で皮をかぶったちんちんを出すなんて、恥ずかしくないのですか?」

これは、もしかして……言葉責め。

「短小包茎にED。三重苦ですね。」

僕の目を見てそう言った瞬間、今までにないほどの感覚が走り――ずっと反応しなかったそれは、みるみるうちに怒張していた。

まったく動かなかったものが、藤本さんの言葉で息を吹き返したようだった。

「松下さん、ドMなんですね。」

少し馬鹿にするような目つきで、彼女は僕を見下ろしていた。

藤本さんは僕の怒張した性器を、まるで観察対象のように見つめていた。
冷静で、淡々としていて、そこに“色っぽさ”というものは一切なかった。
なのに、その無感情な視線が、逆に体の奥を震わせた。

「ほら、完全に勃起してます。……先生の前でも反応しなかったのに、私に言葉でいじめられたら元気になるんですね。」

皮肉とも侮蔑ともつかないその言葉が、頭に響いて離れない。
恥ずかしい。悔しい。なのに……もっと聞きたい、もっと見られたい――そんな感情がせり上がってくる。

藤本さんは立ち上がり、少しだけ顔を近づけた。
マスク越しに目が合う。その目は笑っていないのに、責めてくる。

「どうします? このまま帰りますか?……それとも、もう少し自分のことを知ってみますか?」

背筋がぞくりと震えた。
答えようとした瞬間、藤本さんの指先が、包皮の上からそっと触れ――すぐに引いた。

触れたのは一瞬。
けれど、その一瞬で、刺激が全身に跳ね返るように響いた。

「……なるほど、反応は十分です。勃起力も出てますし、もうEDとは言えませんね。」

そんな言葉をさらりと口にしながら、カルテのような用紙にさらさらと何かを書いていく。

一方の僕はというと、股間に残る熱と、羞恥の余韻で身動きひとつ取れずにいた。


カルテへの記入を終えると、藤本さんの表情はふわりと優しいものへと戻っていた。
さっきまでの厳しさや冷たさが嘘のように、柔らかな目元でこちらを見てくる。

「お疲れ様でした。……松下さんは、いじめられた方が興奮するみたいですね。」

くすくすと笑いながら、意地悪く肩をすくめる。

「なるほど。私が“適任”なわけだ。」

“適任”――その言葉の意味がうまくつかめず、思わず首をかしげる。

「……内緒だけどね、私、昔“女王様”やってたの。でも、安定した仕事がしたくて看護師になったのよ。」

さらりと、とんでもないことを告げられた。
悪びれる様子もなく、あっけらかんと話すその様子に、返す言葉が見つからない。

「誰かにしゃべったら……松下さんの情報、ばらまきますからね?」

一拍おいてそう続けた声色は、柔らかいはずなのに、妙に冷たく響いた。
マスク越しの目が笑っていなかった。
本気か冗談か、それを見極める余裕すらなかった。

「……ハ、ハイ……」

冷や汗をかきながら、なんとか声を絞り出す。

藤本さんはまた、くすくすと楽しそうに笑った。

「松下さんって、素直で可愛いですね。……ご褒美をあげようかしら。」

そう言いながら、視線をすっと下ろす。
藤本さんの目が、怒張したそれを見下ろしていた。

まるで、“これから”を告げるような、意味ありげな沈黙が落ちた。

藤本さんは、そっと診察室のドアの鍵をかけた。
続けて、エコー検査などで使うと思われるジェルのボトルを取り出すと、その手にたっぷりと乗せる。

「ここから先は、二人だけの内緒。わかった?」

「はい!」

そう答えた瞬間、たっぷりのジェルに包まれた彼女の手が、僕のそれに触れた。
指先はまるで弱点を探すかのように、慎重に、だが確実に動いていく。

EDになっていた僕の身体。
そのせいで、溜まりに溜まっていた欲求。
そんな部分を、美しい女性に直接触れられて――爆発しそうになるのに、そう時間はかからなかった。

「あれ? もう出ちゃうの?EDが治ったと思ったら、代わりに“早漏”が付いてきたのね。……また三重苦ね♡」

クスクスと笑いながら、彼女の手はさらに加速する。
もう、限界だった。

「あ、あの……お願いがあります……!」

「なに? 言ってみなさい。」

「マスクを……マスクを外してください。素顔が、見たいです……」

思わず飛び出したその願いに、藤本さんは少しきょとんとした表情を見せた。
そして、ゆっくりとマスクに手をかける。

「……いいけど、がっかりしないでね?」

冗談めかした声とともに、マスクが静かに外される。

あらわになった素顔――
それは想像よりも、ずっと美しかった。

藤本さんの手は、まるで長く閉ざされていた扉をそっと開けるように、僕の奥へと触れてきた。
一滴残らず見透かされるような、その感触に、ただ抗うこともできず身を委ねる。

視線が絡み、彼女の指がもう一度優しくなぞったその瞬間――
胸の奥にずっと張り詰めていた何かが、ぷつりと音を立てて弾けた。

熱が走る。
一瞬だけ、時間が止まったような感覚。
そして、全てが、流れ出していった。
彼女の手の透明なジェルは白濁とした色に染まっていった。


エピローグ

「お疲れ様でした。」

藤本さんは、僕の汚れた部分を丁寧に清拭してくれていた。
その手つきは優しく、どこかくすぐったい気分になる。

「これで、彼女とも仲良くなれそうね。」

明るく笑うその声が、診察室の空気を和らげていた。
けれど、僕にはひとつだけ大きな不安があった。

「あの……どうやって彼女に、僕がドMだって伝えればいいんでしょうか。」

「うーん、それはね……さすがに、うちの範疇じゃないかな。忘れてるかもしれないけど、ここ泌尿器科だからね?」

肩をすくめて笑う藤本さん。
どう考えても泌尿器科の域を超えている気がするが、今さら突っ込むのも野暮かもしれない。

「彼女、優しい子だから、言葉責めとかやってくれるかどうか……。」

「ふふっ。私、優しくなかった?」

からかうように問いかけてきたその表情には、確かに天使のような優しさがある。
でも僕は知っている。
その奥に、悪魔のような一面を隠し持っていることを。

「女はね、違う一面を隠しているものよ。」

そう言って藤本さんは、そっと僕の目を見た。

「まだ若いんだから、ゆっくり考えなさい。……どうしてもダメだったら、連絡してきていいわよ。」

そう言って、チャットアプリのIDを教えてくれた。

「もう……藤本さん、付き合ってくれませんか?」

思わず口から出た冗談だった。

すると藤本さんは、いたずらっぽく笑いながら言った。

「ごめんね。私、大きいちんちんが好きなの。松下さんの小さい小さいちんちんじゃ、多分入ってるかどうかもわかんないもの。」

その言葉に、またしても僕の“それ”は反応してしまっていた。

END


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