【創作羞恥小説】ヌードモデル

大学生

「あなたは風景はそれなりに撮影できるのに、人物になるととんとダメね。」

私が撮った写真を見ながら、先生がそう言った。
それは自分でもよくわかっている弱点だった。

子どもの頃から風景画ばかり描いてきた私は、人を描いたことがほとんどなかった。
中学生のとき、たまたま訪れた写真展で、先生の作品に心を奪われた。
その場にいた先生に直接「高校を卒業したら弟子にしてほしい」と頼み込んだ。

先生はこう答えてくれた。

「大学は必ず出なさい。大学に入ったら、バイトとして雇ってあげるわ。」

その約束は守られた。
今、私は大学に通いながら、先生のもとでバイトをしている。
時間のあるときには、こうしていろいろと教えてもらっている。

先生も忙しい中、付き合ってくれることに感謝している。
だから、せめて少しでも上達したい。そう思って写真を見せていた。

「私、ずっと風景画しか描いてなかったので、人物の撮り方がよくわからなくて…。」

先生は苦い顔をしながら、女性が映った写真を眺めている。

「私の撮り方を真似してるところが一番よくないのよ。表面だけなぞって、中身がまるでない。仏作って魂入れずってやつね。これじゃ、そこらへんの子の自撮りの方がまだマシね。」

グサリと突き刺さる言葉だった。
先生のこういう歯に衣着せぬ物言いは、嫌いじゃないが……。

「ここで技術だけ身につけても、写真家として独り立ちするのは難しいわね。」

正論すぎて、何も言えなかった。
それでも、もう少しだけ優しくしてくれてもいいのに…と弱音を吐きそうになる。

「わたし……どうすればいいんでしょうか……。」

思わずこぼれた弱音に、先生は少し考え込んだ。

「そうね……あなたは、被写体の気持ちがわかっていないのよ。」

被写体の気持ち——
確かに、撮ることばかり考えていて、カメラを向けられる側の気持ちまで思いが至ったことはなかった。

「一度、あなたも被写体になるべきだわ。」

そう言って、先生は一枚の紙を差し出してきた。
そこには「モデル募集」の文字。
どうやら先生の知人が開いている教室で、時々モデルを募集しているらしい。

へぇ……と思いながら内容を読み進めていくと、目に飛び込んできたのは——

「ヌードモデルって書いてありますけど!?」

さすがにそれは……とたじろぐ私。
すると先生は部屋を出て、なにかを持ってきた。

それは一枚のヌードデッサンだった。女性の裸体が、美しくも繊細に描かれている。

「私もね、昔は人物の撮影が苦手だったのよ。」

思わず息を呑んだ。
あの先生が——人物の撮影が苦手だった?
信じられなかった。

でもその絵をよく見てみると、描かれている女性は、どことなく先生を若くしたような顔立ちをしていた——

「もしかして、このモデルって…。」

「そうね。若い頃の私よ。スランプに陥っていたとき、友人に描いてもらったの。」

まさか先生がモデルになっていたなんて——
その事実に驚いている私に、先生は遠くを見つめるようにして語り続けた。

「それ以来、何度かモデルをやったの。いろんな人に描いてもらって、それがスランプを抜けるきっかけになったのよ。」

それは、飾り立てた言葉ではなく、心からの真実だとすぐにわかった。

「でも……ヌードか……。」

胸はそれなりにあるけれど、スタイルに自信があるわけではない。
こんな体を、絵のモデルとして晒すなんて——
それも、デッサン慣れした人たちの前でなんて、とても無理な話のように思えた。

「あなたのスタイル、別に悪くないと思うけどね。」

先生はさらりと言って、チラシを指差した。

「でも、ほら、その下のほうを見てみて。」

促されるまま視線を下げると、そこには「シニアの部」と書かれていた。
参加者の対象は60歳以上。

「若い人の前ならともかく、おじいちゃんおばあちゃんの前なら、気が楽でしょう?」

なるほど……そうなのかもしれない。
でも、恥ずかしさがゼロになるわけでもなく、なんとも言えない気持ちだった。

「でも先生もやったんですよね……。それなら、私もやってみようかな。」

「そう? じゃあ連絡入れておくわね。三日後だから、ちゃんと予定を空けておくのよ。」

「……三日後?」

急すぎる。けれど、やると決めたなら準備しなくては——
とにかくダイエットか…無理は承知で。

そんなことを考えていると、先生がポーチのようなものを差し出してきた。

「これ、私も使ったことのあるお守り。本当にピンチだと思ったら開けてみて。」

中身が何かはわからないけれど、とにかく受け取った。

「モデル代も出るし、楽しんできなさい。」

先生は、そう言って微笑んだ。


当日、スマホ片手にアトリエの前までたどり着いた。

「ここで、間違いないか……。」

建物は年季が入っていて、どこか懐かしさを感じさせる味のある佇まいだった。
不安と緊張が入り混じる中、私はそっと扉を開けた。

「失礼します……。」

中に入ると、先生と同じくらいの年齢の男性が出迎えてくれた。

「いらっしゃい、待っていたよ。久瀬君、だったよね。」

優しげな笑顔でそう言ったこの人が、先生の友人で、かつて先生を描いた人なのだろう。

「はい、久瀬奏音です。今日はよろしくお願いします。」

軽く頭を下げると、相手も丁寧に頭を下げ返してくれた。

「山田健吾です。……いきなりだけど、久瀬君に謝らないといけないことがあってね。」

え? 謝る? まさか中止……?
緊張しながらも一瞬だけ肩の力が抜けた。

「まずは入って、こちらの椅子に座ってください。お茶を持ってくるよ。」

案内された先には、かわいらしい丸テーブルと椅子があった。
テーブルの上には、一冊の画集が置かれている。

軽く手に取って中を開くと、見たことのある絵がいくつか並んでいた。
——それらは美術の教科書や、過去に見た展覧会で目にしたことのある作品だった。

(……山田健吾さんって、すごく有名な画家じゃない!)
まさかそんな人が、先生の友人だったなんて。

気を遣わせないために、あえて名前を出さなかったのだろう。
だけど、今さら知ってしまったせいで、逆にものすごく緊張してしまった。

「その画集は私からのプレゼントです。よかったら持って帰ってください。」

そう言いながら、山田先生が紅茶とクッキーを運んできてくれた。
香り高い紅茶が、少しだけ心を落ち着かせてくれる。

「それで……謝りたいことって、何でしょうか?」

カップを両手で包み込みながら尋ねた。

「久瀬君は、シニアの部に申し込んでくれたよね?」

——イヤな予感がした。
もしかしたら中止の方が良かったと思うような予感が……。

「学生の部に出てくれませんか?」

がくせい……。

「いやいや! 私だって一応学生ですよ!無理ですって!」

さすがに同年代の前で裸を晒すのは厳しい。
ましてや知り合いでもいた日にはもう……。

「そうだよね。仕方ないか……。せっかく集まってもらっているけど、中止にするしかないかな。」

山田先生はそう言って、アトリエの奥にかかっていたカーテンを静かに開けた。

「ここはね、マジックミラーなんだ。もちろんみんな知っているよ。モデルさんのプライバシーを守るためのだね。」

ミラー越しにそっと覗いてみると、10人ほどの若者たちが、静かにキャンバスを前に座っていた。
男女比はほぼ半々。私よりも若そうな人たちばかりだ。

彼らは今か今かと、始まるのを待っている様子だった。

(こんな姿を見せられたら、断りづらいじゃない……。)

将来を目指して学ぶ若者たちの熱意を、無下にはしたくなかった。
だけど、やっぱり裸になるのは怖い。

そのとき、ふと先生にもらったポーチのことを思い出した。

カバンの中を探って取り出すと、山田先生がそれを見て懐かしそうに微笑んだ。

「おお、それ……懐かしいね。僕が彼女にあげたポーチだよ。」

「えっ、そうなんですか?」

確かに年季は入っていると思っていたが、まさかそんな由来があったとは。

恐る恐るファスナーを開けると、中には仮面舞踏会で使われるような、蝶の形をした美しいマスクが入っていた。

「本当に懐かしいね。彼女がモデルをするとき、それを着けるときがあってね。」

優しく懐かしむように語るその表情に、先生との長い付き合いがにじんでいた。

仮面をそっと顔に当ててみる。
自分の表情がほんの少しだけ隠れたその瞬間、どこか心にスッと芯が通ったような気がした。

「……この仮面をつけていても良いなら、ヌードモデル、お受けします。」

そう言うと、山田先生の顔がぱっと明るくなった。

「そうか……ありがとう。きっと大変だろうけど、頑張ってほしい。」

先生がギュッと手を握ってきた。
その手はとても温かかった。


モデルをやると決めたら、不思議と覚悟が決まり、緊張よりも準備の方が先に頭を占めはじめた。

案内された更衣室には、服を入れる籠と大きな全身鏡が置かれていた。
山田先生から手渡されたバスローブを抱えたまま、私はドアを閉める。

「準備ができたら呼んでください。」

そう言われた言葉が背中越しに残る中、ゆっくりと着替えを始めた。

制服のように慣れた動作で服を一枚ずつ脱ぎ、下着姿になる。
鏡に映った自分の姿を見て、少しだけ顔をしかめた。

「うーん……下着じゃダメかな……ダメだよね……。」

呟きながら、意を決してブラジャーのホックを外す。
肩から滑り落ちた布が床に落ち、Eカップの胸が露わになった。

唯一自信のある部位だった。
乳首の色も、きっと悪くないはずだと、心の中で言い聞かせる。

「はぁ……名前も知らない人たちに見せるのか。」

ふと現実に引き戻され、再びため息がこぼれる。
でも、ここで逃げたら、きっとずっと後悔する。

人物撮影の苦手意識を克服するきっかけになるなら、それだけでも意味がある。

そして、最後の砦であるパンツが下ろされた。

「……やっぱり、毛は剃っておくべきだったかな……。」

鏡に映った陰毛。
この三日間でいろいろなヌードモデルさんを検索したが、毛が生えている人もいればツルツルの人もいた。

「ツルツルだと……全部見えちゃうし、毛があった方がむしろ安心かもね。」

そうやって自分を納得させていく。
そうしないと、心のバランスが崩れてしまいそうだった。

ふと、身体を反転させて鏡にお尻を向け、手を使ってワレメを開いてみる。
肛門まわりはしっかり処理されていた。
何となくだけど、男の子をがっかりさせたくない気持ちもあった。

「お年寄りのはずだったけど、自分より年下の男の子もいるからね。しっかり処理して正解。」

全裸のまま、姿勢を正して鏡を見た。

「うん、キレイキレイ。……上出来でしょ。あとは仮面を着けて完成だね。」

仮面を手に取り、顔に当てて装着する。
そして再び鏡に映った姿を確認する。

「……うん、すごく変態チック。」

全裸に仮面——
思わず吹き出しそうになる格好だった。

いっそ、靴下でも履いて行ってやろうかなと思ったりもした。

「……私で性癖壊れたら良くないし、やめとこ。」

バスローブを羽織り、いざ出陣だ。


画室に入ると拍手で迎えられた。
みんなの目が、どこかキラキラと輝いて見える。
ぺこぺこと軽く頭を下げながら、一歩一歩中へ進んでいく。

「今回のモデルさんだ。真面目に、しっかり描かせていただくように。」

山田先生の言葉に、画学生たちが一斉に「はーい」と元気よく返事をする。

(この人たちに、今から裸を見せるのか……。)

がっかりされないといいな、という不安が頭をよぎる。

深呼吸をひとつ。
そして、意を決してバスローブの紐をほどいた。

すっと布が肩を滑り、床に落ちると同時に、肌に空気が触れた。
風が通り抜けたわけではないのに、まるで風が吹き抜けたかのような感覚だった。

目線を感じる。
みんなの視線が、バストと陰毛に集まっていることが、はっきりとわかった。

「ほらほら、そんなにじっくり見ないで。描き始めなさい。」

山田先生が手を叩きながら、軽く一喝する。

場の空気がほどよくほぐれ、学生たちは一斉に鉛筆や木炭を取り出し、カンバスに向かい始めた。

「最初の1時間は、そのまま立っていてくれればいいからね。20分おきに5分休憩も入れるから。」

そう告げられ、ポーズを取る。
それはそれで、まるで品評されているかのように気恥ずかしい。

とりあえず周囲を仮面の中から目だけでそっと見渡してみた。

——意外にも、男子より女子のほうが視線を外しがちで、少し恥ずかしそうにしているようにも見えた。

(もしかして、自分自身を重ねてしまっているのかな。)

そう思った瞬間、ふと冷静な視点が芽生えた。
自分も「描く側」だったら、きっとそうなっていただろう。

(……なんだろう。ちょっと余裕が出てきたかも。)

仮面の下で、そっと口元に微笑みが浮かんだ。

三十分も経てば、裸でいることにもだいぶ慣れてきた。
最初は自分の呼吸音さえ気になっていたのに、今では視線を受ける感覚も自然に受け止められる。

もう一度そっと周囲を見渡してみる。
女の子たちはすっかり集中して、まっすぐこちらを見つめ、真剣な眼差しで描いている。

一方、男の子たちはというと——
余裕が出てきた分、描くよりも眺める時間が少しずつ増えてきたようだった。

ペンを持つ手が止まり、ぼんやりとこちらを見つめる。
そして、ハッとしたようにまた描き始める——
その繰り返しが、どこか微笑ましかった。

(もしかして……自分と同年代くらいの女性の裸を見るの、初めてなのかもしれないな。)

心の中で少しだけおどけてみせる。

(自慢のおっぱいは、好きに見ていいよ。でも……お腹は見ないでね。)

そんなくだらないことを考えているうちに、最初の一時間はあっという間に過ぎていった。

「はい、一時間終了。三十分の休憩に入ってもらうよ。」

山田先生の声が響く。
私は手渡されたバスローブを着こみ、裸を仕舞い込んだ。

男の子達から少しガッカリしたような声が聞こえた気がした。

(あとでまた見せてあげるから、おとなしく待っていなさい。)

そんなふうに思いながら、軽やかに控室へと引き上げた。

控室に戻ると、山田先生がにこやかに言った。

「思っていたより堂々としているね。次はもう少し過激なポーズでも良いかな?」

予定では、あと二部ある。
あの子たちの様子を見ていると、もう少しくらい見せてもいいかもしれない。
むしろ、少し挑戦してみたい気さえしてきた。

「わかりました。それと……一つわがままを言ってもいいですか?」

山田先生の顔をじっと見て聞いてみた。

「私が出来ることなら遠慮なく言ってくれ。無理を通してもらったわけだからね。」

胸の前で両手をギュッと握りながらお願いしてみた。

「本当に無理だったら全然大丈夫です。あの、出来れば先生と同じように、山田先生に私を描いていただけませんか?」

無理は承知だ。だけど、なぜか——今の自分を、すべて見てほしかった。
若い頃の先生が、モデルとして描かれたように。

静かに私を見つめ返した山田先生が、ふっと優しく微笑んだ。

「……私の絵で良ければ。」

その一言に、肩の力がすっと抜けた。
緊張のなかに、確かな嬉しさが混じっていた。


時間になり、再び画室へと向かう。

ドアを開けた瞬間、また拍手が起こった。
少し照れくさくも、心のどこかでその歓迎が嬉しい。
ぺこりと頭を下げながら、静かに中へ入っていく。

脱ぐことへの抵抗は、もはやほとんどなくなっていた。
不思議なものだ。最初あれほど躊躇していたのに。

(……もしかして、年下相手でよかったのかも。)

この年代なら、たとえ2〜3歳の差でも、“お姉さん”として見てもらえる。
そう思うと、気持ちがぐっと楽になるのだった。

「では、次のポーズをお願いします。」

山田先生の声に、姿勢を正す。

指示されたのは——
おねえさん座り(横座り)で、左手で両方の胸を持ち上げ、右手で髪をかきあげるというもの。

(そんなに過激かな? 股間は見えにくいし……)

指示を受けたときは、そこまで抵抗を感じなかった。
けれど、実際にやってみると、想像以上に恥ずかしかった。

左手でバストを支えるその仕草は、まるでバストの存在を“アピール”しているかのようだった。
手のひらに柔らかな重みが乗り、形と存在感がはっきりと浮き上がってしまう。

そして、もう一つ気になったのは右手。
髪をかきあげた瞬間、今まで自然に隠れていた腋が露わになった。

医療脱毛——行きたいと思いながら、ついカメラや機材にお金を回してしまう日々。
自分自身のケアはいつも後回しだった。

昨夜と今朝、しっかり剃ってツルツルであることは確認した。
でも、油断はできない。

陰毛と腋毛。
この二大勢力は、気を抜くとすぐに黒々と自己主張を始める。

(お願い……今日だけは生えないで……)

祈るような気持ちで、そっとポーズを取った。

そんなことを考えているうちに、二十分はあっという間に過ぎていた。

(右手がちょっとだるいくらいで、案外楽かも。)

余裕が生まれ、少し手持ち無沙汰になった時、自分のバストを寄せている左手の上に乗っていた右の乳房が少し気になってきた。

(そういえば最近、自分の胸なんてあまり触ってなかったな……)

特に深い意味はなく、フニフニと軽く揉んでいた。

でも、次の瞬間、ふと違和感に気づいた。

……静かだった。

目線だけで周囲を探ると、学生たちの手が少し止まっていた。
その全員の視線が、こちらへ集中しているような気がした。

「モデルさん、あまり手を動かさないでね。」

山田先生が、少しだけ苦笑まじりに声をかけてくる。

「あ、ああ!すいません!」

声が裏返りそうになる。
恥ずかしさが一気に込み上げた。

(これじゃ……みんなの前で自分の胸を揉んでる変態じゃない……)

俯きそうになる。
だけど、モデルという立場上、顔の向きは自由にできない。
前を向いてポーズを維持しなければならなかった。

(仮面があって……よかった……)

せめて目元を隠せているだけでも、救いだった。
けれど、きっと仮面から露出している耳は真っ赤になっているに違いない。

先ほどよりも、明らかに視線が胸元へ集まっている気がした。
——きっと、私自身が自分の胸を揉んでしまったせいだ。

遠慮なく見ても良い存在になってしまった気がした。

そう思った瞬間、胸の奥がひくりと震えた。
遠慮のない視線が肌に刺さるたび、先端がじわじわと熱を持ち始める。

(まずい……今は、立たないで……!)

心の中で必死に願ったけれど、その祈りは届かなかった。
両方の乳首が、意思を持ったみたいに自己主張するように起き上がってしまう。

——きっと、この場にいる全員に見られた。
平坦な状態から、ゆっくりと変化していく、その過程すべてを。

(……これは、さすがに恥ずかしい……。)

なんだか今まで私が大事に隠してきたものが少しずつ世の中に晒されている、そんな気分だった。

それなのに——
胸の奥では、別の感情が芽生え始めていた。

(……もっと、見てもらいたい……?)

恥ずかしさと一緒に、そんな気持ちが湧いてくる自分に戸惑う。
でも、嫌ではなかった。

(……被写体の気持ちって、こんな感じなのかな。)

見る側ではなく、見られる側。
評価され、視線を受け止め、反応してしまう身体。

今まで考えたこともなかった感覚に包まれながら、
私はただ、その不思議な気分に身を委ねていた。


一時間が経ち、二回目のポージングが終わった。
バスローブを受け取り、拍手に送られながら画室を後にする。

控え室へ戻ると、山田先生が声をかけてきた。

「さっきはすまなかったね。普段なら注意したりしないのだけど、さすがに皆の手が止まってしまってはね。」

少し申し訳なさそうな表情だった。

「いえいえ、そんな……。無意識に手を動かしていた私が悪いんです。お恥ずかしい……。」

本当に、意識していたわけではなかった。
それだけに、今思い返しても顔が熱くなる。

「でも、リラックスしてモデルができるようになった証拠だね。」

そう言われると、確かにそうかもしれない。
最初の緊張に比べれば、裸で立つこと自体がずいぶん自然になっていた。

「それでね。最後のポーズは、君に任せようと思う。君が思うままのポーズで構わない。お願いするよ。」

正直、最後まで指示をもらうものだと思っていた。
けれど、これは——
今の自分にとって、ひとつの答えを試す機会なのかもしれない。

「……わかりました。少し、考えさせてください。」

「休憩後に聞かせてくれればいい。何も浮かばなければ、私が指示するから心配しなくていいよ。」

そう言って、温かい紅茶を差し出してくれた。

控え室に戻り、椅子に腰を下ろす。
紅茶を一口含みながら、今の自分に必要なポーズを考える。

「……美味しい。」

体の力が抜けるにつれて、考えも少しずつ整理されていった。


休憩が終わり、山田先生に自分の考えたポーズを伝えた。

「君がいいなら、構わないよ。」

その一言に背中を押され、最後の一時間のために画室へ向かう。

バスローブを脱ぎ、用意してもらった背もたれ付きの丸椅子に浅く腰掛けた。
左足はだらりと床へ下ろし、右足は椅子の上に立てる。

そして、両手を頭の後ろで組んだ。

——これで、私を隠すものは何もなくなった。

正面にいる山田先生と、生徒たちの視線を受け止める。
もしかしたら、この場所で初めて“本物”を見る人もいるのだろう。

ざわり、と小さなざわめきが広がった。

(……さすがに、これは恥ずかしいな。)

こんな明るい空間で、自分の身体のすべてを晒したことなんて、今までなかった。
それでも——

見せると決めた以上は、
中途半端に隠したくはなかった。

(私の全てを描きなさい。)

視線をまっすぐ前に据え、私はそう心の中で言い切った。
自分のすべてを差し出す覚悟とともに。

モデル台は、床よりも一段高くなっていた。
その分、椅子に腰掛けた私は自然と教室全体を見下ろす形になる。

正面、中央。
そこに座っていたのは、一人の男の子と、一人の女の子。
二人とも、妙にぎこちない手つきで鉛筆を持ち、視線の行き場に困っている様子だった。

下ばかり見るわけにも行かない。
だが、目線をまっすぐに向けたら私の大事なところが、そして もう少し上に上げるとバストと全開にしているワキが目に入ってしまう。

相手が戸惑うのを見ると、なぜかこちらの方が落ち着いてしまう。

(ふふ……遠慮せず見て良いのに。)

皮肉ではなく、自然にそう思えた。

しかし、しばらくするとその二人も慣れたのが、遠慮無く私の大事なところを凝視しはじめた。

もしかすると、男の子はまわりの女の子もこんな形なのかなと想像しているかもしれない。
女の子は自分との違いを比較しているのかもしれない。

——その視線を、私は股間で受け止めていた。

そんな遠慮のなくなった視線を股間に一身に受けてしまった結果、良くないことが起きてしまった。

その部分が熱くなってきたのだ。

普段の私のそこはぴったりと閉じている。
しかし、熱を帯びた合わせ目が緩やかに開離し、今まで隠されていた場所がアトリエの冷えた空気に触れる。

冷たい感触が、一番奥にじわりと届く。

その温度差に、私は自分自身が『完全に開いてしまった』ことを突きつけられた。

それは、本人だけが気づいているわけではなかった。

真正面にいる二人の筆が再び止まり、固まっている。

目の前で花びらが開くように、私のあそこが開いていく様を見てしまったのだ。

穴があったら入りたい。
まさに、今の心境はそれだった。

だけど——

それでも、この身体は今、
すべての視線を受け止めることを選んだ。

そして、私は。
“描かれる”ために、ここにいる。


仮面の中からもう一度、ぐるりと描いている人たちを見渡した。

みんな、真剣だった。
その目は、私の全てを逃さずに焼きつけて、キャンバスに叩きつけているようだった。

その熱量は、やっぱり私の身体にも伝わってくる。

乳首はいつも以上に主張しているし、股間も重たくなるくらい濡れているのがわかる。
でも誰もそれをおかしな目で見てはいない。
ただ音もなく、鉛筆が走る音だけが、静かに私を刻んでいく。

(……やっぱり、被写体を気持ちよくさせるのも、大事なんだな。)

今まで私が撮ってきた写真は、「私が撮りたい」っていう気持ちばかりが先にあって、
相手の気持ちなんて考えていなかったんじゃないか。

そんなことをぼんやり考えていたら、いつの間にか、最後の20分が来ていた。

もう、私がさらすものなんてない。
全部、見せたはずだった。

いや、まださらけ出していない部分がある。
先生からもらったお守りの仮面。
それを、まだ外していなかったことに気づいた。

今の状態で顔を見せるなんて、胸や性器を見せるより、ずっと恥ずかしい。
でも、ここまで私を見つめてくれたみんなに応えないのは、違うと思った。

「あと10分です。」

山田先生の声に合わせて、私はゆっくりと、仮面を外した。

少し、ざわっとした。

「かわいい」「きれい」
そんな小さな声が聞こえてきて、胸の奥が少しだけ軽くなった。
仮面を外したことで、がっかりさせずに済んだらしい。

ここから、最後の10分。
もう隠すものはない。
私のすべてを、描き切ってもらうだけだ。

そう思って、ゆっくりと全員を見渡した。

不思議と、心の中が満たされていくのがわかった。

(……気持ちいい。)

今まで以上に股間が濡れていることは気付いていた。
描き手たちの視線が、私の中心の一点に集中した気がした。
隠れていたはずのそこが、真っ赤に充血して、真珠のように光りながら顔を出してしまっている。 ……それを、彼らは一筆も漏らさずキャンバスに刻もうとしている。

(……受けて立つわ。)

どこかで、自分が一線を越えていることもわかっていた。
けれど、それを止めたいとは思えなかった。

私はもうおかしくなっていたのかもしれない。
頭の後ろに回していた右手を下ろし、大切な部分に当てた。

(遠慮なく……見なさい。)

空気が張りつめる。
指先が湿った粘膜を捉え、左右へ思い切り――「クパッ」と、自身の深淵を抉り開く。

これほどの醜態を晒しているというのに、彼らの手は、誰一人として止まらなかった。
それどころか、より激しく、より深く、私を暴き立てるように鉛筆が走る。
私の震えを、熱を、湿り気を、彼らはその鋭い視線で受け止め、白い紙の上へと刻み込んでいく。

(これは……キャンバスを通した、性交渉なんだ……)

肌に直接触れられているわけではない。
なのに、彼らの視線が、描写が、私の奥深くまで侵入し、かき乱していく感覚に、背筋が痺れるような快楽が走った。

「——ここまで!」

山田先生の凛とした声が、張り詰めた空気を切り裂いた。

「びくんっ!」

張り詰めていた緊張が切れた瞬間、身体が思わず跳ねてしまった。


差し出されたバスローブを優雅に受け取り、乱れた吐息を押し殺して羽織る。
床に置いた仮面を指先でそっと拾い上げ、再び顔に当てて、静かに一同を、そして山田先生を見渡した。

「ありがとうございました。お疲れ様でした」

凛とした声で、一分の隙もない完璧な挨拶を残す。そのまま背筋を伸ばし、モデルとしての品位を保ったまま、ゆったりとした足取りで画室を後にした。

パタン、と。 丁寧に、そして静かに控室のドアを閉め、鍵をかけた。

「…………やってしまったあああああああああああああ!!!」

数秒の静寂の後、私は頭を抱えてのたうち回った。
仮面を放り出し、シーツの敷かれたソファーに顔をうずめて足をバタつかせる。

(なにあれ! なんで自分で開いちゃったの私!? バカバカバカ! 完全に露出狂じゃん!)

後悔と恥ずかしさで脳内がパニック状態になっていると。

トントン、と遠慮がちなノックの音がした。

「……久瀬くん。……まあ、その。……落ち着いたら出てきてください。」

ドアのすぐ外から、山田先生の苦笑まじりの、けれど慈愛に満ちた声が聞こえてきた。

「ひぅっ……!?」

聞こえてた……。
私はそのまま、冷たい床の上に真っ白な灰となって崩れ落ちた。


「……やってしまったあああああああああああああ!!!」

控室から漏れ聞こえる絶叫と、山田先生の苦笑まじりの声。 それらが遠ざかるのを確認するようにして、一人の女子学生が、モデル台の上の椅子へと歩み寄った。

片付けを任された彼女の視線が、ふと、先ほどまでモデルさんが座っていた座面で止まる。

「……あ。」

そこには、彼女がどれほど必死に冷静さを装って立ち去ろうとも、隠しきれなかった「証拠」が残っていた。
黒い木製の座面に、ぽつり、ぽつりと。
光を反射して怪しく光る、透明で粘り気のある飛沫。

彼女は周囲を一度見渡し、誰も見ていないことを確認すると、慌てて自分のハンカチを取り出した。

(すごいものを見ちゃった気がする……)

震える手で、その熱の名残を吸い取っていく。
ついさっきまで、ここにあの綺麗なお姉さんが全裸で座っていた。
そして、自分の指で、誰に頼まれるでもなく秘部を抉り開いていた。
みんな気付いていたかわからないけど、最後の瞬間、身体を「びくんっ」と跳ねさせたあの反応……。

(もしかして……本当に、イっちゃってたの……?)

ハンカチに染み込んだ湿り気が、自分の手のひらにも伝わってくる。
もし、自分が同じように大勢の視線に晒されたら。
あの場所を「描け」と見せつけられたら。
一瞬だけ、自分の姿をその椅子に座っていた彼女に重ねてしまい、慌てて頭をブンブンと振った。

「……絶対無理。……絶対、無理だわ……」

独り言をつぶやく彼女の頬は、夕闇の迫る画室で赤く染まっている。
拭き取ったばかりのハンカチを握りしめる彼女の手もまた、無意識のうちに下腹部の方へと伸びていた。
その場所が、今までにないほどじんわりと熱を帯び始めていることに、彼女自身まだ気づいていなかった。


エピローグ

先生は、大笑いしていた。

「あんた、なかなか度胸ある子だったんだね。さすが初めて来た写真展で私に話しかけて、弟子入り懇願しただけあるわ。」

どうやら、全部——山田先生から聞いていたらしい。

私はソファに突っ伏したまま、顔を上げられなかった。
耳の先まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。

「……仕方ないじゃないですか。その場の勢いってヤツですし……。」

声になっているかもわからないくらい、小さな声で呟く。

「まぁ、そんなに落ち込むな。山田のヤツから、お礼と絵を預かってるぞ。」

その言葉に、思わず顔をガバッと上げて、先生の手元をのぞき込む。

そこには、あのときの私——
最後のポーズを取った、あの瞬間の私が描かれていた。

右手は股間に添えられ、クパッと開かれているその瞬間であった。
にもかかわらず、そこに“エロさ”というものは感じられなかった。

むしろ、身体をさらけ出すという行為自体が、何か神聖な儀式のように感じられた。

「……すごい……。」

添えられたメモには、この絵を私に贈ってくれると書かれていた。

「よかったな。あいつの絵だ、ラフとはいえ展覧会に出したら二十万円くらいは値がつくぞ。」

もちろん、売るつもりなんてない。
山田先生の気持ちが、ただただ嬉しかった。

「……私、いつか独り立ちしたら、この絵、事務所に飾ろうと思います。」

そう言うと、先生は穏やかに微笑んだ。

「そうか、がんばれよ。」

そして、一言付け加えた。

「それと、山田から——ヌードモデル、いつでも歓迎だってさ。」

「もうしばらく……裸はこりごりです……。」

そう言いながらも、小さなスケッチブックを開いて、
久しぶりに、鉛筆を走らせる。

「でも……また、何かをつかみたくなったら——お願いするかもしれません。」

その時の私は、
少しだけ前を向いていた気がする。

END


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