『苦手克服! 一週間の集中コース!』
そんなスイミングスクールのチラシを手に、僕は深く悩んでいた。
きっかけは、学校の水泳の授業で犯してしまった失態だ。
クロールと平泳ぎなら、ちゃんと泳ぐことができる。
だが、背泳ぎだけはどうしても苦手意識が強く、うまく泳げずにいた。
そして先日、その苦手意識とちょっとしたパニックから、授業中に盛大に溺れかけてしまったのだ。
それ以来、背泳ぎという種目そのものへの恐怖心がつきまとい、まったく泳げなくなってしまった。
母親に相談してみると、二つ返事で受講の許可をもらえた。
「善は急げ」と、その日のうちにスクールへ連絡を入れてアポを取り、さっそく詳しい説明を受けに行くことになったのだ。
母親と一緒に向かったスイミングスクールで、僕たちは小さな個室へと通された。
しばらく緊張しながら待っていると、スクールのジャージに身を包んだ女性が入ってきた。
「こんにちは。本日担当させていただきます、水野です。よろしくお願いしますね。」
そう言って微笑んだのは、セミロングの黒髪をなびかせた、とてもきれいなお姉さんだった。
「こんにちは、小林です。」
隣で母親が挨拶を返す。
それから、現在の僕の状況についての話し合いが始まった。
クロールや平泳ぎは問題なく泳げること。
だが背泳ぎだけはどうしても苦手で、ついに泳げなくなってしまったこと――。
「なるほど。もともと泳げていた背泳ぎが、トラウマで泳げなくなってしまったのね。」
一通り話を聞き終えると、水野さんは僕の目をじっと、真っ直ぐに見つめながら言った。
「陸くん、安心して。私が絶対、また泳げるようにしてあげるからね。」
吸い込まれるような澄んだ瞳と優しい笑顔に、僕はドキッと胸を打たれ、「……よろしくお願いします」と小さな声で返事をするのが精一杯だった。
説明を終えての帰り道、母親がニヤニヤしながら話しかけてきた。
「とってもきれいな先生だったわねー。陸、頑張りなさいよ?」
「……うるさいなぁ。」
素っ気なく返したけれど、心の中では、このコースに通わせてくれた母親に深く感謝していた。
当日のレッスンは、朝一番からだった。
本来は昼からの受講なのだが、初回のみマンツーマンで指導してもらえるらしい。
眠い目を擦りながら、営業開始前の静かなスイミングスクールに到着した。
入り口では、すでにジャージ姿の水野先生が待っていてくれた。
「おはよう。体調は大丈夫? ちゃんと寝れた?」
「はい、昨日は早く寝ました。」
夏休みが始まったばかりで良かったと思う。
まだ生活リズムが学校に通っていた頃の朝型のままだったのが功を奏したみたいだ。
あと一週間もすれば、完全に堕落した夜型生活になっていただろう。
「よかった。さっそく更衣室に案内するね。」
まだ明かりのついていない薄暗い受付の前を通り、更衣室へと移動する。
「本当に営業前なんですね。スタッフの人も誰もいないや。」
「そうね、陸くんはラッキーだったかもね。営業前のマンツーマンはタイミングが合わないとできないからね。」
そうなのか。
誰もいない静かなプールで水野先生と二人きりなんて、なんだかドキドキしてしまう。
先生は男子更衣室の中まで一緒に入ってきて説明してくれた。
「入り口じゃなくて、こっちの扉から出るとプールに行けるからね。私も着替えてくるから、プールで会おうね。」
小さく手を振って、先生は女子更衣室へと消えて行った。
少しだけデートっぽいなとニヤけそうになりつつ、急いで水着に着替えた。
母親が「せっかくだから」と買ってくれたスクールの水着とキャップを身につけ、タオルを持ってプールへと直行する。
まだ先生は来ていなかったので、プールサイドを少し見回してみた。
蒸し暑い空間に、隅々まで掃除の行き届いた綺麗なプール。
奥にはジャグジーまであって、なかなか楽しそうな場所だ。
「陸くん、お待たせ!」
静寂を破る弾んだ声に振り返ると、競泳水着の上から軽めのウインドブレーカーを羽織った水野先生が歩いてくるところだった。
濡れた床を踏みしめる、すらりと伸びた健康的で美しい生脚。
不躾だとは思いつつも、その圧倒的な長脚から目が離せなくなってしまう。
やっぱり僕は、学校の野暮ったいスクール水着よりも、身体にフィットした競泳水着の方が断然好きだ。
……いや、朝から何を不純なことを考えているんだ、僕は。
「まずはストレッチからね。私の真似をしてね。」
先生は羽織っていたパーカーのジッパーを滑らせ、ゆっくりと脱ぎ捨てた。
眼前に露わになる、競泳水着姿の水野先生。
全身のラインが余すことなく強調され、すらりと細いウエストに対して、柔らかそうなバストのふくらみがくっきりと浮き彫りになっていた。
だが、そんな眼福すぎる光景を正面からガン見するわけにもいかない。
僕は必死にストレッチの動作を真似しながら、横目でチラチラと目の保養をさせて貰った。
ストレッチを終え、いよいよ水に入るときが来た。
「陸くんは、背泳ぎ以外なら問題なく泳げるのよね?」
「あ、はい。バタフライは未経験ですけど、クロールと平泳ぎなら泳げます。」
そこに関しては、変な謙遜を抜きにして強い自信があった。
体育の授業でも、クロールと平泳ぎならクラスで一番速い自信がある。
だからこそ、唯一背泳ぎで溺れたという事実が、僕の自尊心を深く傷つけているのだ。
「じゃあ、一回泳いでもらおうかな。クロールで向こうまで行って、平泳ぎで戻ってきてもらえる?」
あとで背泳ぎの情けない姿を見せることになるのだから、ここはかっこいいところを見せておこう。
冷たいプールに飛び込み、壁を強く蹴ってクロールで泳ぎ始めた。
今日の調子はすごく良かった。
気持ちよく反対側の壁を蹴り、すぐさま平泳ぎへと切り替える。
息継ぎのためにパッと水面に顔を上げると、向かい側のプールサイドに立つ水野先生が視界に入った。
小さく手を叩きながら応援してくれている。
俄然やる気が出てきた。先生の美しい足元を目標にして、平泳ぎですいすいと泳いでいく。
バシッと壁にタッチしてゴールを迎えた。
「陸くん、すごいね! クロールも平泳ぎもフォームがすごくきれいだったよ!」
そう言いながら、先生もザブッとプールの中に入ってきた。
「じゃあ、一回背泳ぎを泳いでもらおうかな? 私がしっかりフォローするからね。」
覚悟を決め、仕方なく背泳ぎの体勢に入る。
そして、壁を蹴った。
――だが、身体が浮かび上がることはなく、あっけなく溺れかけたところを先生に抱き抱えられて助け出された。
「クロールと平泳ぎがこれだけ泳げるのに、背泳ぎだけ泳げないのも不思議ね。やっぱり完全に苦手意識ができちゃってるのかな?」
水を飲んでしまって「ゲホッ、ゲホッ」と咳き込んでいる僕の背中を、先生は優しくさすってくれた。
僕の呼吸が落ち着いたのを確認すると、先生はプールからザバーッと上がった。
しずくを垂らしながら水から上がる先生。
競泳水着が食い込んだ、キュッと引き締まったお尻のラインに思わず目を奪われてしまったのは、言うまでもなかった。
先生はプールサイドからビート板を持って戻ってきた。
「まずは水に浮かぶ感覚を思い出すところから始めようね。」
ビート板を胸に抱きかかえ、さらに横から先生が両腕で僕の身体を支えてくれる。
これなら絶対に沈むことはない。
「このまま少しずつ歩くから、陸くんはできるだけ身体の力を抜いて、私に身を任せてね。」
大人の女性に抱きかかえられながら水面を移動する感覚は、どこかむず痒くて照れくさい。
天井を仰ごうとするたび、真上にある水野先生の愛らしい素顔が視界に飛び込んできた。
僕の視線に気づいた先生は、目線を合わせて「ふふっ」と優しく微笑みかけてくる。
僕は急に胸が熱くなり、恥ずかしさからサッと視線を泳がせてしまった。
それでも、ビート板の確かな浮力と先生の手厚いサポートのおかげで、あれほど恐怖だった背泳ぎへの嫌な緊張感が徐々にほぐれていくのを感じていた。
だんだんと心にゆとりが生まれ、僕はすっと目蓋を閉じた。 水面が心地よくゆれる感覚。
僕を優しく包み込む先生の腕のぬくもり。
そして――左腕の側面に伝わる、驚くほど柔らかく温かい感触。
……ん? 暖かくて柔らかい感触……?
先生は僕をしっかり支えようとするあまり、僕の左腕に自分の胸をぴったりと押し付けていたのだ。
今までは背泳ぎの恐怖でそれどころではなかったが、心が落ち着いて目を閉じたことで、その甘美な感触をもろに味わってしまった。
(ま、まずい……!?)
心の中で焦りの悲鳴を上げるが、思春期の身体はどこまでも正直だった。
血流が一気に下半身へと集まっていくのがわかる。
(頼むから鎮まってくれ! 今だけは本当にダメだ……!)
必死の祈りも虚しく、競泳水着越しにもはっきりと分かるほど、下半身が熱く硬く主張を始めてしまった。
カッと目を開け、自分の下半身へ視線を落とすが、水着をくっきりと押し上げる肉塊はどう見ても隠し通せるレベルではない。
パニックに陥った僕は、反射的にビート板を手放し、水中でバタバタと暴れ出してしまった。
「陸くん!? 大丈夫、先生がしっかり抱えてるから!」
パニックになった僕を見て焦った先生は、さらに力を込めて僕の身体をぎゅっと胸元へ抱き寄せてくれた。
その結果、さらに強く押し付けられた豊満な胸の感触に、僕の理性は完全に崩壊した。
まるで本当に溺れているかのようにプールで暴れ回る僕を、先生は急いでコースロープの端へと連れて行ってくれた。
壁を掴み、足がプールの底について、ようやく一息つくことができた。
水を飲んでゲホゲホと咳き込む僕の背中を、先生は「大丈夫? 落ち着いて」と何度も優しくさすってくれた。
「陸くん、ごめんね……。ここまで背泳ぎに恐怖心があると思っていなかったわ。もう少し簡単なステップから始めるべきだったね。」
申し訳なさそうに謝ってくる先生を見て、僕は居たたまれない気持ちでいっぱいになった。
先生の指導は何も間違っていない。
ただ、僕が変な気を起こして勝手に暴走しただけなのだ。
「い、いえ……僕が悪いんです。さっきので、背泳ぎ自体の恐怖心はなくなっていました。ただ……」
そこで口をつぐんでしまった。
まさか、「先生のおっぱいに動揺して興奮してしまいました」なんて口が裂けても言えるわけがない。
「ただ……何かあったの?」
心配そうに覗き込んでくる先生の綺麗な瞳。
「……ごめんなさい。」
僕が俯いてそれ以上何も言えずにいると、先生は察したようにそれ以上理由を追及するのをやめてくれた。
「そっか。じゃあさ、もう一度さっきのやってみようか! 今度は歩かないで、その場で浮かぶ練習だけにしよう。」
明るく励ましてくれる先生の笑顔に、ドキッとしてしまう。
だが、僕の下半身は依然として猛り立ったままだった。
ピンチはまだ続いていたのだ。
先生は飛んで行ってしまったビート板を回収し、僕の手へと渡してくれた。
「もう一回ビート板を抱えて、さっきのポーズを取ってみようか。」
先生は優しく両手を広げて待ってくれている。
だが、今の僕にはその申し出に応じることができなかった。
身体を水平に浮かばせれば、水面下に隠れている僕の勃起が浮き彫りになり、先生に完全にバレてしまう。
一生懸命教えてくれている先生の純粋な好意を、こんな不純な理由で踏みにじりたくはなかったのだ。
「どうしたの? やっぱり怖くなっちゃった?」
優しく、けれど心配そうに問いかけてくる。
(仕方ない、覚悟を決めてやるしかないか……!)
悲壮な覚悟を固めたその瞬間、奇跡的に下半身の血液が引いていき、熱が冷めていくのがわかった。
助かった……と心底安堵し、僕はビート板を胸に抱いた。
そして、水野先生の腕の中へと身体を預ける。
今度はさっきと反対の右側から、先生がそっと身体を支えてくれた。
……だが、やっぱり右腕には、先生の柔らかい胸がむにゅりと押し付けられている。
(浮くことだけを考えろ! 右腕の感触は気のせいだ! 何もない!)
必死に自分へ言い聞かせようとすればするほど、右腕の神経が過敏に研ぎ澄まされていく。
そして――。
「あ……」
先生の唇から、小さく吐息のような声が漏れた。
バレてしまった。
小さく、けれどしっかりと自己主張してしまった僕のそれが、先生の視界に入ってしまった。
僕は慌てて先生の手を振り払い、プールの中で立ち上がった。
「ごめんなさい……っ」
顔を真っ赤にして、小さく謝ることしかできなかった。
先生は一瞬戸惑いの表情を浮かべたものの、すぐに気遣うような笑顔を作って話しかけてきた。
「もしかして……さっき溺れそうになったのって、そのせい?」
僕はこくりと頷いた。
「そっか……ごめんね。私がくっつきすぎちゃったからよね。」
先生が申し訳なさそうに頭を下げる。
どうやら先生は、自分の身体が密着しすぎたせいで僕がパニックを起こしたと思っているようだった。
「違うよ! 先生のせいじゃないよ! 僕が……僕が真面目に練習しなかったから……っ」
情けなさと申し訳なさで、目頭が熱くなり、涙が溢れそうになった。
もう、このスイミングスクールは辞めよう。
背泳ぎなんて、一生泳げなくてもいいじゃないか。
先生にこんな迷惑をかけた僕は、消えてしまえばいいんだ――。
下を向いて打ちひしがれる僕の頭を、先生の手がそっと優しく撫でてくれた。
「大丈夫だよ。陸くんくらいの年齢の男の子なら、当たり前のことなんだから。」
その包み込むような優しさに触れ、我慢していた涙がぽろぽろとこぼれ落ちてしまった。
「ほら、泣かないの。男の子でしょ?」
先生は僕の身体をギュッと優しく抱きしめてくれた。
僕の涙は、先生の水着の中にすっと吸い込まれていった。
しばらくして、先生はそっと僕の身体を離してくれた。
「どう? 少し落ち着いた?」
その優しい微笑みに、「……はい!」と返事をした。
だが、相変わらず下半身だけは全く落ち着いていなかった。
「それで……下の方はどう?」
先生が少しだけ頬を染めながら、遠慮がちに聞いてきた。
「すいません……大きくなったままです……」
考えてみれば当たり前だ。
さっきまで先生の胸に顔を押し付けられていたのだから。
「そう……困ったわね。そのままじゃ練習に集中できないよね。」
先生は少しの間思案するように顎に手を当てていたが、やがて僕の目を真っ直ぐに見つめながら言った。
「あのね、陸くん。自分で小さくすることってできるかな?」
その問いかけに、ドキンと心臓が跳ね上がった。
もちろん、やり方は知っている。
ここ数日はバタバタしていてしていなかったが、普段なら自室で毎日のように行っている『アレ』のことだ。
けれど、自分がオナニーをしているなんて先生に知られるのが恥ずかしくてたまらず、僕は咄嗟に首を横に振ってしまった。
「そうなんだ……。もしかして、まだ学校でも性教育とかちゃんと受けてないのかな?」
どうやら先生の中で、僕はまだ何も知らない無垢な少年として処理されたらしい。
本当は授業でも習ったし、友達同士でエッチな知識もたくさん話している。
けれど、今さら「知ってます」と訂正する勇気は出なかった。
「うーん……よし、分かった! じゃあまずは、私が陸くんに正しい性教育をしてあげるね。それから背泳ぎの練習を再開しよう!」
なんだか思わぬ方向へ話が進み始めていた。
けれど、僕の股間のそれは隠しきれない歓喜を上げるように、小さいながらもはち切れんばかりに硬く熱くなっていたのだった。
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