風呂上がり、脱衣所の全身鏡に映った自分の裸を見て、ふと思うことがある。
「なんか……陰毛の生えてる範囲、広くないか?」
全体的に体毛は薄い方だ。
それなのに、なぜか陰毛だけは薄いなりに広範囲へ散らばっている気がする。
腕組みをして首をひねっていると、ガラガラッと乱暴に脱衣所の扉が開けられた。
「あんた、いい加減出なさいよ。私が入れないでしょ。」
入ってきたのは姉ちゃんだった。
遠慮もへったくれもないが、幼い頃からのことなので今更気にするほどでもない。
姉ちゃんは、鏡の前で自分の身体を検分しながらため息をつく僕に、呆れたような視線を向けてくる。
「何してんの? 鏡をじっと見たって、その小さいちんちんは大きくならないよ?」
地味に傷つくセリフだが、これまたいつものことなのでスルーする。
ただ、男として少しだけ「女性の意見」を聞いてみたかったのも事実だった。
……姉ちゃんを女性カウントするのは、なんだか嫌な気もするけれど。
「そんなんじゃないわ。……ねぇ、ちょっと女性目線で聞きたいんだけどさ。ぶっちゃけ、僕の陰毛って濃いと思う?」
僕が姉ちゃんの方へ身体を向けると、彼女は眉をひそめてじっくりと観察し、口を開いた。
「そうねぇ……。濃いっていうか、範囲が広くない?他が薄いから余計に目立つし、正直ちょっと嫌かも。」
「やっぱりか……」
自分の推測が当たっていたことにショックを受ける僕を見て、姉ちゃんは軽快に言った。
「なに?気になるなら剃っちゃえば?」
「でもさ、剃ると毛が濃くなるって言うじゃん」
それが本当なのか迷信なのかは分からないけれど、これ以上範囲が広くなったり濃くなったりするのは勘弁願いたい。
「ふーん……。じゃあ、抜いちゃえば?」
言われて下半身に視線を落とすが、毛抜きで一本ずつ抜くには流石に量が多すぎる気がする。
正直、面倒くさい。
そんな僕の様子を察したのか、姉ちゃんは「仕方ないなぁ」といった表情を浮かべた。
「じゃあさ、ブラジリアンワックスとかどう?お姉ちゃんもたまにお店でやってもらってるよ。」
「ブラジリアンワックス?」
あの、一気にベリッと剥がして痛そうなやつか。
「あれって、めちゃくちゃ痛いんじゃないの?」
「最初は痛いって聞いてたけど、お姉ちゃんは全然平気だったよ。血が繋がってるんだから、あんたも痛みに強いんじゃない?」
そうなのか。少し気になるな。
「お姉ちゃんの友達がサロンやってるのよ。紹介してあげようか?」
知り合いの店なら、少し安心かも……。
「でもさ、本当に綺麗に抜けるわけ?」
「そこは保証するよ。お姉ちゃんも先週行ったばかりだしね。」
そう言うと、姉ちゃんは履いていたスウェットのウエスト部分をガバッと前に下ろした。
そこには、見事なまでに毛がなくツルッとした股間が露わになっていた。
「……あのさ。サンプル見せてくれるのはありがたいけど、女としてどうなの?」
「あんただってちんちん出しっぱなしなんだから一緒でしょ。」
いくら脱衣所とはいえ、年頃の姉弟が性器を見せ合っている状況はおかしいと思う。
けれど、子供の頃以来ひさしぶりに見た姉ちゃんのそこは、あまりにもツルツルでしっかりワレメが見えていて、純粋に「キレイだ」と感心してしまった。
「言っとくけど、ここ見て勃起してたら殴ってたからね。」
「するわけないだろ。」
幸いなことに、僕の股間はピクリとも反応しなかった。
姉ちゃんは満足したようにスウェットを元に戻す。
「で、行くの?行くなら友達に連絡しておくけど。」
「……お願いします。」
当日、指定された住所へと向かうと、そこはとあるマンションの一室だった。
普通の住人も暮らしているが、商業利用も可能な物件のようだ。
(少し緊張するな……)
事前に受け取ったメッセージには、『他のお客様と顔を合わせないよう、お時間ぴったりにお越しください』と書かれていた。
一分前に指定の部屋番号の前に到着する。
ドアの横には『お時間になりましたらチャイムをお押しください』と小さなプレートが出ていた。
二度、三度と深呼吸をし、スマホで時間を確認する。
ちょうど指定の時刻になったのを見計らい、インターホンを押した。
すると、すぐにガチャッと鍵が開き、ドアの隙間から一人の女性が顔を出した。
その顔を見た瞬間、僕は思わず息を呑んでしまった。
黒いマスクをつけ、シックな黒い服に身を包んだ女性。
マスク越しでもはっきりと分かるほどの美形だ。
顔を覆うマスクが標準サイズのはずなのに大きく見える――それほどまでに小顔なのだろう。
そもそも、弟の僕が言うのも何だが、姉ちゃん自身がかなりの美形だ。
その友人となれば、このレベルの美人が現れても不思議ではないのかもしれない。
(……この人に、僕の下半身を見られるのか)
そう思うと、途端に身体が強張ってしまった。
「こんにちは。お名前を伺ってもよろしいですか?」
目元を和ませ、ニコッと笑顔で話しかけてくる。
「あ、すいません!ええと、榎坂直哉です。姉の紹介で来ました。」
少し声がうわずってしまった僕に、彼女は優しく頷いた。
「はい、美緒ちゃんからのご紹介ですね。伺っておりますよ。どうぞ、中へお入りください。」
通された室内は少し照明が落とされ、落ち着いた雰囲気のインテリアで統一されていた。
まずはソファへ促され、カウンセリングから始まった。
「改めまして、本日担当させていただきます、槙原紗都香です。よろしくお願いします。」
そう言って名刺を手渡された。
(紗都香さんか。)
僕のすぐ近くに屈むと、ふわりと上品で良い香りが漂い、それだけで眩暈がしそうだった。
渡されたタブレットに、緊張しながら個人情報を入力していく。
意外としっかりしたシステムなんだなと思いつつ入力を終え、タブレットを返した。
「本日はVIOコースと伺っております。どのようなデザインになさいますか?」
そう言って、彼女はメニュー表のようなファイルを開いた。
そこには、様々な形に整えられたアンダーヘアの症例写真が並んでいる。
「こちらは男性ですね。そして……」
紗都香さんは手際よくページをめくった。
「こちらが女性の写真になります。モニターを受けていただいた方のお写真ですね。」
思わずドッキリとしてしまった。
まさか女性の施術写真まで見せられるとは思ってもみなかったからだ。
「ふふ。本来は男性のお客様にはお見せしないのですが……美緒ちゃんの弟さんですからね。特別ですよ?」
逆三角形に整えられたものから、ツルツルでワレメがはっきりと見えているもの、さらにはハート型にカットされたものまであった。
けれど、ここに来るまでに僕の決意は固まっていた。
あの日、脱衣所で姉ちゃんに見せてもらったツルツルの股間。
僕も一度、あんな風に完全に毛のない状態にしてみたいと思ってしまったのだ。
「あの、できれば全部抜いていただきたいのですが……」
「あら、もうお決めになっていたのですね。かしこまりました。では、すべて処理させていただきます。」
そう言うと、彼女は今度は別のタブレットを取り出した。
「ふふ、良いものを見せてあげますよ。」
紗都香さんがタブレットを操作し、画面を僕の方へと向けた。
そこに映し出されていたのは、一人の女性の下半身の写真だった。
比較的に毛は薄めだが、少し広範囲に広がっているように見える。
「あの……これは?」
「はい。こちらは美緒ちゃんのアンダーヘアです。施術する前に撮影させてもらったものですよ。」
姉ちゃんの……陰毛……。
そういえば、最後にお風呂に一緒に入った子どもの頃も、下は生えていなかったはずだ。
ということは、これが初めて見る姉ちゃんの無修正のアンダーヘアということになる。
「それでね……」
紗都香さんが画面を横にスワイプした。
そこに現れたのは、見事にツルツルに処理された、ワレメがはっきりと映し出された写真だった。
「可愛らしいでしょ?これが美緒ちゃんの大切なところですよ。」
正直、実の姉のそんな写真を見せつけられても反応に困るのだが、図らずも初めて女性器の細部をまざまざと見てしまった。
ただ、そこで一抹の不安が頭をよぎる。
「あの……もしかして姉もモニターを受けていて、この写真っていろんな人に見られているんですか?」
身内として、なんとなくそれはすごく嫌だった。
しかし、その瞬間――紗都香さんの瞳がキッと釣り上がり、鋭い視線が僕を射抜いた。
「そんなこと、するわけないでしょう!!これは私だけのものよ!あなたが弟さんだから、特別に見せてあげただけ!」
急変した彼女の激しい剣幕に、僕は思わず気圧されて固まってしまう。
すると彼女は、コホンとひとつ咳払いをした。
「……失礼いたしました。今のことは忘れてください。」
(……この人、もしかしてちょっと危ない人なんじゃ……?)
一瞬そんな疑念が脳裏をかすめたが、いくらなんでも姉ちゃんの友達だ。
きっと変な人ではないはず……そう自分に言い聞かせることにした。
「では、こちらへどうぞ。」
奥にある、パーテーションで区切られたベッドのあるスペースへと通される。
ついに始まるのだ。
僕の心臓の鼓動は、さっきよりもはるかに大きく打ちはじめていた。
「では下半身だけすべて脱いでいただいて、こちらのタオルを腰に巻いてくださいね。」
そう言いながらタオルを手渡すと、紗都香さんは一度部屋から出て行った。
衝立の向こうには、施術用のベッドと脱いだ服を入れるカゴが置かれている。
周りを見渡すと、間接照明やアロマの香りで心地よい空間が作られていた。
そこにも全身が映る姿見があり、その前でズボンと下着を一気に下ろす。
「下半身って言ってたから、靴下もかな。」
脱ぎ終えると、下半身に何もなくなった自分の姿を鏡に映してみた。
なんとなく、さっき写真で見せられた姉ちゃんのアンダーヘアの生え方に似ている気がする。
もしかすると、姉ちゃんも自分と同じ悩みを抱えてここに来たのかもしれない。
こんなところで「姉弟」を感じるとは思わなかった。
と、ここでひとつの重大な問題が発生する。
「……一応、剥いておくか。」
自分のそこが小さいことくらい、自分が一番よく分かっている。
それでも、男としての些細なプライドにしがみつきたかったのだ。
慎重に包皮を下げて「見栄剥き」の状態にしてから、そっとタオルを股間に巻きつけた。
「あの、脱ぎました。」
声をかけると、ドアが開いて紗都香さんが戻ってきた。
「では、お頭を枕の方に向けて、仰向けで横になってくださいね。」
仰向けとうつぶせ。
指示されるたび、僕はいつも一瞬だけ迷ってしまう。
その時決まって頭に浮かぶのは、昔実家で飼っていた犬の姿だ。
「伏せ」のポーズをする愛犬を思い浮かべ、(うつぶせは「伏せ」だから背中が上、じゃあ仰向けは逆だな)と連想してからベッドに寝そべる。
普通に「仰向け=上を向く」と覚えれば良いだけの話なのだが。
「では、タオルを外しますね。」
ついに、すべてを紗都香さんにさらけ出す時が来た。
相手はプロだ。
笑ったりバカにしたりはしないだろうけれど……どうしても少しだけ不安になってしまう。
サッとタオルが左右に開かれた。
生まれて初めて、家族以外の女性に自分のすべてを見られてしまった瞬間だった。
紗都香さんは、剥き出しになった僕の股間をじっと見つめている。
「そうですね……。美緒ちゃんと同じような生え方ですね。美緒ちゃんはあまり痛がりませんでしたけど、弟くんはどうかな?」
どうやら彼女が観察していたのは、ちんちんそのものではなく、これから処理するアンダーヘアの生え方のようだった。
そりゃそうか、仕事なんだから。
「あの……やっぱり、結構痛いんですかね?」
僕が尋ねると、紗都香さんは目元を緩めて優しく答えてくれた。
「個人差があるとしか言いようがないのですが、比較的男性のお客様の方が痛がる傾向はありますね。でも安心してください。私、こう見えてもお客様からの評価はかなり高いんですよ。」
そう言いながら、彼女は脇の棚から何かを取り出している。
「では、これから消毒をしていきますね。」
手袋をはめた指先が、僕のちんちんをヒョイと摘み上げた。
初めて女性に直接触られ、身体が思わずビクッとなりそうになる。
紗都香さんはそのまま摘み上げた状態で、何やら上下に確認するように観察していた。
「あの、弟くん。これ、皮を戻してもいいですか?陰茎の生え際の毛も抜きますので、被せておいてもらった方がやりやすいのですが……」
……見栄剥きが、完全にバレていた。
穴があったら入りたいとは、まさにこのことだ。
「……はい。なんか、すいません……」
消え入りそうな声で謝ると、紗都香さんは「ふふっ」と可憐に笑った。
「大丈夫ですよ、見慣れていますから。男性のお客様の半分くらいは包茎ですし、お気になさらないでくださいね。」
そのまま、ヌルッと手慣れた手つきで皮を被せ直された。
「ぬふっ!?」
変な声が出てしまった。
「それでは、陰茎の……はぁ。」
……今、あからさまにため息をつかれなかっただろうか?
やっぱり見栄を張って剥いていたのが気に入らなかったのだろうか。
僕がビクビクしていると、紗都香さんは少し呆れたように口を開いた。
「美緒ちゃんの弟くんだから言いますけど……私、『陰茎』とか『ペニス』っていう言葉の響き、あまり好きじゃないんですよね。」
……急に変なこと言い出した。
「『おちんちん』って呼んでいいですか?あと、手袋も外していいですか?これも好きじゃないんです。中で蒸れちゃって、手が荒れることがあるんですよ。」
こちらの返事も待たずに、彼女はパチン、パチンとゴム手袋を外して捨ててしまった。
(……やっぱり、この人ちょっと変な人だ)と再認識する。
安易に姉ちゃんを信じてここに来るべきではなかったのかもしれない。
「失礼いたしました。では、これから消毒を始めますね。」
「あの、僕が言うのもなんですけど……素手で触って大丈夫なものなんですか?」
正直、ブラジリアンワックスというものがどういう施術なのか完璧には理解していなかった僕が尋ねると、彼女はボソッと呟いた。
「ほんとは、こんな物触りたくもないんですけどね。でも男性客がたくさん来るんだから仕方ないじゃないですか。」
んん……?
なんだか会話が噛み合っていない気がする。
「でも、美緒ちゃんの弟くんなら別ですよ。素手でも全然触れますから。」
そう言いながら、彼女は再び僕のそこを素手で摘み上げた。
やはり主語は大事なのだと思い直す。
「いや、えっと……そっちじゃなくて、ワックスの方が素手でも大丈夫なのかなと……」
紗都香さんはその言葉にハッとしたように目を見開いた。
「し、失礼いたしました!全然大丈夫です!当店のワックスは自然由来の素材だけで作られていますので、手で触れても全く問題ありませんよ!」
もしかして、この人は……。
「あの……もしかして、男性が苦手ですか?」
僕の問いかけに、紗都香さんはフッと小さなため息をついた。
「……内緒にしてくださいね。正直なところ、こんな仕事をしているのに、男の人が苦手なんです。」
やっぱりか。言葉の節々に時折トゲがあったのは、それが理由だったのだ。
「……最初は女性限定サロンって言ってたのに、あのオーナー……いつか……」
何やら恐ろしい独り言をボソボソと呟いているが、聞かなかったことにしよう。
「でも、さっきも言った通り、弟くんなら大丈夫ですからね。では、消毒していきます。」
摘み上げられた僕のそこに、消毒液を含んだと思われるコットンが当てられた。
ヒヤッとした冷たさに身構えたのだが、伝わってきたのは意外な感触だった。
「あれ、温かいんですね。冷たいものだと思っていました。」
「はい、温めてあるんです。お客様からもご好評いただいているんですよ。」
確かに、冷たいものをつきつけられるよりはずっとありがたい。
竿から金玉まで、丁寧に温かいコットンで拭き上げられていく。
「では、これから本格的に施術を始めますね。頭をしっかり枕に乗せておいてください。」
要するに、「施術中はこっちを見るな」ということなのだろう。
僕は素直に頭を深々と枕に埋め、これから襲いかかってくるであろう未知の衝撃に耐える準備をした。
続きはPixivFANBOXにて先行公開しております。

当ブログでは一週間後を目処に本公開致します。
もし支援していただけるのでしたら、PixivFANBOXをよろしくお願い致します。
限定ショート小説や裏話を書いたりもしております。
ご支援の検討をよろしくお願いします。
▼ PixivFANBOXはこちら
https://youyanagi.fanbox.cc/
▼ Xのフォローもよろしくお願いします
https://x.com/tukiichifuzoku

💬 ご意見・ご感想はこちらへ。